10000文字までのショートショート

お題掌編 『モラトリアム・ノアール』

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また、久々の更新になってしまいました。
今回も、エブでお題を貰って書いたSSを載せてみようと思います。(*'‐'*)

今回のお題は、「子供の頃のあの約束」。
いろいろプロットを立ててみたのですが、結局出来上がったのは、優しさのかけらもないダークな物語でした。

以前、可愛い女の子が書けないと嘆いたのですが、今回の主人公の女も、結構ひどいです(笑)
けれど、私が本当に書きたかったのは、もう一人の登場人物の青年の方だったかもしれません。
私なりの歪んだ美学を取り込んでみました。

「いい人」の出てこないビターテイストのSS。皆さんは、どんな感想を持たれるかな。

今回も6千文字以上あるのですが、一気に掲載します。
(長くてすみません>_<)

タイトルは『モラトリアム・ノアール』。
『悪趣味』と同じく、優秀作品(ベスト30)に選んでもらえた作品です。


*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..


―― もう一度  震えるキスをしよう…。

2ノアール小


まるで淀んだ闇の中に、ギラリと光る、カラスの濡れ羽色。

深夜の高架下で彼を見つけた時、私の胸に湧き上がったのは、愉悦と興奮と切なさの混じった、言葉に言い尽くせない感情だった。

間違いない。小学の頃の同級生、高柴 由貴哉だ。
進むべき道を断たれ、惨めな気持ちを抱えた今の私が、ここ数カ月会いたくてたまらなかった男。

最後に姿を見かけたのは高校生の頃だった。もう10年以上になるだろうか。

身長はまた更に伸びていたが、細身のしなやかな身のこなしは昔のままで、光沢のあるジャケットもスリムなジーンズも黒で統一され、彼が彼であることを隠そうともしていない。
見間違うはずもなかった。

27歳になった彼からにじみ出るオーラは、”あの12歳の時”も、そして ”私のものになったはずの”それ以降も、まったく変わることのない「黒」のままだ。

そうだ。
この高慢ちきで鋼鉄のような冷ややかな美しさをもつ男は、私のものだったのだ。
きっちり手の届くところに繋いでおかなかったばかりに所在を見失い、ここ数カ月、どうやって探し出そうか考えあぐねていた。
まったく迂闊だった。


思い返せばこの15年間、私には由貴哉のほかに、夢中になれるものがたくさんあった。

3歳から始めたピアノは数々の国際コンクールで賞を取り、高校を出てすぐに英国王立音楽大学に留学した。
帰国後も、歌劇団の伴奏ピアニストの仕事を得て、順風満帆だった。
由貴哉のような美しさは無かったが、劇団の若い演出家との恋はそこそこ刺激的で、経済的にも何の不足もない日々だった。

野放しにしていても、私は由貴哉の弱みを握っている。その気になれば、彼はいつでも私にひれ伏す。そんな安心感から、いつしか私は由貴哉の綱を手から離してしまったのだ。
互いに転居し、連絡がつかなくなってしまったが、その時はそれほど大きな痛手は感じなかった。

けれど今の私は違った。

1年前酷い腱鞘炎になり、手術の甲斐もなく指が思うように動かせなくなった。
演奏の仕事はなくなり、演出家も私の元を去り、そしてこの陰気で騒がしいだけの街で、幼児向けピアノ教室の教師として日々を送っている。

1人やけ酒をして、終電に見放されたこの深夜、闇夜から羽音もたてずに、この獣は舞い降りたのだ。

「由貴哉。久しぶりじゃない。元気にしてた?」

振り返った黒い瞳がじっと私を見つめる。

さあ、その狼のような目を、子ウサギのように怯えさせ、私に微笑みなさい。
あの12歳の日から、あなたは私のものだったはず。忘れたなんて言わせない。

けれど由貴哉はしばらく私を見た後、白けたようにフッと笑った。
「ああ。なんだ、森下か」

そうして、もう用事は済んだとばかりに、ゆらりと背を向けようとする。眩暈がしそうなほどの苛立ちが私を襲った。 
そんな態度はあり得ない。

「なによそれ! まさかそれでさよならって訳じゃないわよね由貴哉。なに全部終わったみたいな顔してんのよ!」

由貴哉は面倒くさそうに振り返り、ゾッとするほど冷ややかな目で私を見つめた。

「終わったみたいな顔って……。あんたと何か、始まってたっけ」

「何言ってんのよ! まさか忘れたわけじゃないよね。わたし全部覚えてるから。あんな事忘れられるわけないじゃない。あの時の約束、ちゃんと守ってあげたのよ。そんな態度取るんだったら、私……」

「ああ……。約束ね」
由貴哉は笑った。

「あの約束はもういいよ。忘れて。それに、たしか約束の代償はもうあん時あんたに払ったじゃん。あれっぽっちじゃ足りない?」

「あ……あんなの! あんなの代償じゃない!」
怒りと恥ずかしさで、私は全身が震えた。

そんなはずはない。あの時の由貴哉は私の手の中にあった。震える唇も戸惑う吐息も、ちゃんと覚えている。
目の前にいる黒い魔物は一体何なのか。15年の時が、すべて風化させてしまったとでも言うのか。

私は込み上げる怒りに耐えられず、叫びそうになった。



小学生のころから、高柴由貴哉は、とても異質な存在だった。
6年生になって初めて同じクラスになった由貴哉を、私は興味深く観察していた。

占星術師をしている母親と、大きな屋敷に二人暮らしだという事にも興味をそそられたが、クラスで一番背が高く、そして均整の取れたしなやかな体つきは、どこに居ても目をひいた。

彼は決して他の男子と群れない。

けれどそこに、仲間はずれにされているよいうな弱さは微塵も感じさせず、まるで強くなり過ぎた狼がそっと群れから外れ、高台で弱い者たちを見下ろしているような風格を感じた。

着る服はいつも黒。
彼の選ぶ黒は整った顔立ちを余計に際立たせ、更に近づき難くさせていた。

「こわ。またさっき睨まれたよ~。なんか黒ばっか着てるし、家でお母さんと黒魔術でもやってんじゃない?」
「あのでっかいお屋敷で二人暮らしでしょ? 絶対なんか洗脳されちゃって、一緒に水晶とか覗いてるよ」
仲の良かった友人たちは、とにかく由貴哉を不気味がり、同時に陰口で楽しんでもいた。

「そうかなあ。占い師のお母さんって、なんかカッコいいじゃん。いっぺん占ってもらいたいよ、友達価格で」

強がってそんなことを言ってはみたが、内心私も、どこかで由貴哉に怯えていた。
なにかの弾みで目が合った時に全身に走る衝撃は、トキメキなどとは程遠いものだった。
それでも、由貴哉が動くと、それを目で追ってしまう。

誰にも媚びず、安易に笑い掛けず、冷ややかで他を寄せ付けない、孤高な黒い瞳。
教師ですら、由貴哉に話しかけるときはどこか緊張してるように見えた。

毎日、目で追う。ピアノコンクールの事を考えていない時は、いつも由貴哉の事を考えていた。
12歳の私の中で、その存在は日に日に大きくなっていく。
頭の中では、黒く綺麗で獰猛な獣が、絶えず蠢いた。

卒業式を間近に控えた冬の日。
あまり欠席をしたことのない由貴哉が、連絡なしに学校を休んだ。

「家に電話を入れても繋がらないんだ、誰か何か聞いてるか?」 と、担任は訊くが、そんな親しい友人がいるはずもない。
たまたま日直だった私が、彼の家にプリント類を届けることになった。


校区の端の高台にある由貴哉の家は、鉄柵に囲まれ、寒々しい城のように見えた。
この家で由貴哉は母親と二人で暮らしているんだ……。

私はプリントをポストに入れたあと、そのまま帰るのがもったいなくて、しばらく周囲をぐるりと探索してみた。
その家は角地にあり、裏は雑木林に繋がっている。

病気なのだろうか。呼び鈴を押してみようか。
そう思いながら屋敷を見渡していた私の目が、そっと裏口から出て来た由貴哉の姿を捉えた。私は咄嗟に物陰に身をひそめた。

手にはビニールに入れた何かと、スコップのようなものを、隠すように握り締めている。学校で見る彼とは違い、どこか怯えたようなそぶりだ。
彼はそっと裏門を抜け、少し勾配のある道を上り、その向こうの雑木林に向かう。
私は足音を忍ばせ、充分に距離を取りながら彼を追って行った。

枯れ葉の少ない針葉樹の林は、足音を消し、そして太い幹で私をかくしてくれた。
立ち止まり、一心不乱に穴を掘り、その中にビニール袋ごと放り込もうとする作業をじっと見つめた。

彼らしくもない、慌てた動きにビニールが破れ、中から出てきたのは黒ずんだナイフと、赤い液体の付着した服。タオルなのかもしれない。

それはとても現実のものとも思えない不思議な光景で、私は映画の中に吸い込まれるように、一歩、二歩、由貴哉の傍に歩み寄った。
足元で小枝が爆ぜる。ビクリと由貴哉は振り返り、目を見開いて私を見つめた。

―――あの由貴哉が、そんな風に怯えた目で私を見ることが起こるなんて……。

恐怖心はどこかに消し飛び、そのことが私を興奮させた。そしてその時点で私が彼より優位に立ったことを確信した。
理由なんて分からない。直感だった。

「それ、なに? 血?」

私の静かな質問に、由貴哉は固まったまま答えなかった。反論してももう遅いという諦めからか。
肌は紙のように白いのに、唇は燃えるように赤かった。

「誰の血? 怪我でもしたの?」

彼の声が聞きたくて、質問を変えてみる。けれどその唇は薄く開いて震えたまま、何も語らない。昨日までの、まるで私たちを見下ろす王者のような風格は、微塵もなかった。
その代り、怯えるその姿がやけに健気で、可愛らしくも思えた。

彼は今日、一体どんな罪をこしらえたのか。

「森下……」
由貴哉が小さな声で私の名を呼んだ。その時が初めてだった。名前を呼ばれたのは。
一年も同じクラスに居て、初めて彼は私の名を呼んだのだ。 
怯えながら。

「何?」

「誰にも言わないでほしい……。頼む」

「何を? 高柴くんが土の中に変なものを埋めようとした……ってことを?」

「頼む……」

由貴哉は反論も言い訳もせず、ただそう言って項垂れた。誰かの飼いネコでも殺してしまったのだろうか。それとも、犬?
その時はそんなこと、大して気にならなかった。ただその時私を満たしたのは、この少年はもう自分に抵抗できないんだという、愉悦だった。

「いいよ」

「……本当に?」

「本当よ。誰にも言わない」

「約束してくれるか?」

「うん。してあげる。その代り」

「……?」

「キスしてよ」

その時の由貴哉の顔は、今でも忘れられない。驚きと困惑と諦めと。そんなものがすべて混ぜ合わさった、愛おしくなる様な表情。

拒否されたら、すぐに「ばーか、冗談よ」と笑うつもりだった。
けれど彼はゆっくりと私の傍まで歩み寄り、冷え切った唇を私の唇に重ねて来た。

時間も、音も、止まった。

由貴哉の唇はまるで許しを請うように、私の唇にそっと重ねられ、そして戸惑うように震えた。
いったい今自分たちは何をやってるのかも、言い出した私の方が、分からなくなった。

息が苦しくなって、私が体を放すと、由貴哉はやっぱり同じように縋る目で、私を見つめた。

「俺がやったんだ。もうじきニュースになると思う。でも……やらなきゃやられてた。頼む。内緒にしてほしい」

由貴哉は深く私に頭を下げた。

ああ……そうか。 とんでもないことが起きたんだ。私に屈辱的な事を要求されても、応じるほどの。
全身に行きわたるほどの納得と、恐怖と、そして得も言われぬ安堵があった。

「約束する」

私は彼の作業を見届けることもせずに、眩暈にも似た感覚を引きずりながら、家に帰った。


事件が報道されたのは、翌日の早朝だった。高柴由貴哉の自宅近くの側溝で、中年女性の遺体が発見された。

刺し傷は脇腹を一か所のみ。それが致命傷となったらしい。
その女性は由貴哉の母親、高柴美麗の顧客で、過去の占いを信じて大損害を被ったと、以前から憤慨していたらしい。
当日、”高柴美麗の所へ行く。殺してやる” と言って家を出たことを、家族が語っていた。

『でも……やらなきゃ、やられてた』
由貴哉の言葉が鮮明に蘇る。震える唇の感触が、今でも愛おしい。

―――大丈夫。誰にも言わないから。私が秘密を封印する。


高柴美麗の事は数日間、ニュースにも度々取り上げられた。屋敷には警察の捜査も入り、当然学校中がその話題で持ちきりになった。
結局由貴哉は卒業式にも出席することなく、そのまま小学校を去った。

遺体で発見された女と、高柴美麗の当日の接触の証拠も、凶器や血痕の痕跡も見つからず、高柴美麗への疑いや悪い噂も、次第に晴れて行った。
由貴哉は、様々な黒い噂だけ残し、遠い私立の中学校へ行ってしまった。

だけど私からは逃げられない。
彼を守ってやりたいという庇護の気持ちと、自分の手の中に居る、とういう愉悦は、中学生になった私の中に、常に同居した。

彼の家の前で待ち伏せして、ただ目を合わせただけで、「じゃあね」と帰る。
野性味のある精悍な顔つきの彼の表情が、私の前でだけ、従順なウサギになるのが見たかった。
ただそれだけのゲームを、月一くらいの頻度でしばらく続けた。

そして、そのうち、それにも飽きた。

ピアノを弾くことにのめり込み、コンクールで賞を取ることで自分の価値を高めていく興奮のほうが、ほんの少し由貴哉への愉悦に勝ってきたのだ。

大丈夫、あの男は私から逃れられない。私が守り、私がずっと捉えておくのだ。
楽しみの保険。どこかでそんな風に思っていた。

……それなのに。

            ◇

「いいの? 私にそんな態度取って、いいと思ってるの?」
私は目の前に佇む、すっかり大人の男になった由貴哉に凄んだ。けれど何の感触もない。

黒という色は、すべての色を吸い込むことで存在する色なんだと聞いたことがある。
私の怒りも混乱も、目の前の黒づくめの男にすべて吸収されてしまい、代わりに跳ね返ってくるのは、空しい屈辱だけだった。
いったい、15年前交わした約束は何だったのだろう。

「なあ森下。あれからもう15年経ってるんだよ。子供の頃の事なんかで、なんでそんなにムキになってんだよ」

「私はずっと約束を守ってあげたのよ? 言えばあなたの人生はめちゃくちゃになったはずでしょ? 私が誰にも言わなかったら、人殺しの事知られずに生きて来れたんでしょ。恩人のはずよ! それとも、あの時バラシちゃっても良かったって言うの? 子供だから罪に問われないって? 何なら今から警察に行ったっていいのよ。時効なんて無くなったんだから!」

自分でも支離滅裂だという事は分かっていた。もう今更、この男を罪に問う事は難しいだろうと頭の隅では分かっていた。
ただ悔しかったのだ。15年の日々が、この男につけたはずの鎖を風化させてしまったということが。

なぜもっとしっかり、捉えておかなかったのだろう。こんな勝ち誇ったような目で、私を見るなんて許せなかった。
私にだけは怯え、感謝の目を向けてくれなければならないのに。

「ああ、そうだよね」
由貴哉はまた、気だるそうな口調で言った。どこか、嘲笑うような溜息と共に。

「森下にはとても感謝してるよ。おかげであのあと、俺があの中年女を殺したなんてことが噂になったりしなかった。あんたが、凶器を埋めるところを見たなんてしゃべったら、俺も母さんも人生終わってたかもしんないし」

「ほら! 感謝しなさいよ。私は由貴哉の……」

「あんたなら、口止めするのはちょろいと思ったんだ。俺に惚れてたろ」

その言葉は私の脳天を殴りつけた。

「な……」

「秘密にして、約束してって神妙な顔で言えば、あんたはホイホイ言いなりになると思ってた。キスしてって言われた時は正直面食らったけど。まあ仕方ないなって。どう? 俺役者だったろ? 哀れな仔犬みたいに上手くキス出来たろ?」

「由貴哉……。調子に乗るんじゃないわよ! 今からだって私、喋るわよ。警察にでも、週刊誌にでも、何だって喋ってやる。この恩知らず! 私があなたの秘密を守ってあげたのに。あなたを守ってあげたのに!」

「違うね。あんたは俺を守ったんじゃない。俺を自分の所有物にしたつもりだったんだろう。思い出したように自宅を訪ねて来ては、忘れるなよってガン飛ばして。ウザいッたら無かった。抱いてくれなんて言われなくてまだ助かったけど。まあ、品行方正のお嬢様で通してたあんたが、そんな品位を落とすようなへまはしないよな。将来に傷がつく」

「な……何言って……」

「でもさあ。俺も感謝してないわけじゃない。約束を守ってくれた森下に、お礼の気持ちを込めて、本当の事を教えてやるよ」
由貴哉は黒光りするジャケットに手を突っ込んだまま、わたしを見下ろし、言った。

「あの中年女を殺ったのは俺じゃない。俺が心から愛して尊敬していた女性だ。証拠になるものはすべて俺がかき集めて処分した。もし見つかったら全部俺が罪をかぶろうと思ってた。12歳なら罪はそんなに重くはないし。あんたに見つかったあの時も、この面倒な女を黙らせるにはどうしたらいいか、それしか考えてなかったよ。俺の中には常にあの人がいた」

由貴哉はもう笑う事もせず、まっすぐその言葉を私に突き付けた。
「あんたの下僕になったと思った瞬間なんて、これっぽっちもない」

私は痺れる脳で、ただ目の前の黒いケダモノを見つめていた。
たぶんもう、これ以上砕けることもできないほど、心臓には醜いひびが入っていることだろう。

「その人って……。お母さん?」
それだけ言葉にするのが精いっぱいだった。

「母さんは、2年前に亡くなった。もう、あんたが何を訴えても、罪を償うことはできないよ」

由貴哉の顔はその時初めて人間らしい憂いをにじませた。恋しい人を亡くした男の顔だ。

惨めに打ち砕かれた後だというのに、その男の表情は私の胸をえぐった。
どうせなら最後まで憎らし気に嗤っていればいいものを。

彼が着る黒は、敬愛する占星術師である母親への、契りの色だったのかもしれない。
もとより、一瞬だってこの美しく冷徹な男は、自分のものではなかったのだ。

猶予を与えてこの高慢ちきな獣を、自由に泳がせているつもりだった。
でも違った。私の手の中には、最初から何もなかった。

そしてこれからも、何もない。

私は感情をそぎ落とし、ただ目の前の男を見上げた。
大声をあげて泣く代わりに。

由貴哉が、唇の端を少し持ちあげて、私を興味深げに見つめる。
「おまえ、良い表情してる。さっきよりも、15年前よりも、よっぽどいい」

ああ……。どこまで嫌な男なのだろう。

「なあ森下。もう一度キスをしようか。15年間、俺との約束を守ってくれたお礼に」


もう一度キスをしよう。屈辱と涙と自暴自棄の。

黒い魔物は嗤う。 


15年前と同じ冷たい唇。けどあの日とは真逆。

震えているのは 私だった。



- Fin -


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~ Comment ~

NoTitle 

視点の逆転がお見事。やるじゃん(^^) 創作意欲のほうもお元気そうで何よりです。

ところで、次回のアルファポリスの「ホラー・ミステリー」出ます? わたしはユーモアホラーミステリー「風渡涼一退魔行」で参戦しようと思ってます。

まだ第一話書きかけ段階ですので、どこまで戦えるか……。取り急ぎご挨拶まで。

それでは~。

ポール・ブリッツ さんへ 

わ、ポールさん、ごぶさたしています!
読んでくださってありがとうございました(*´▽`*)

やっぱり、気の強い女が主人公の話は、人気が無いみたいです(/_;)
でも、書いてみないと運営の反応って、分からないもんですよね。これも経験><

おお~、次回というと、6月ですね? 
ユーモアホラーミステリーって、どんなんだろう(;・∀・)
また、応援に行かせてもらいますね。

ポールさんも創作のほうが順調で、嬉しいです(*´ω`)
執筆がんばってください!

NoTitle 

こんばんは。

ああ、なんだか、とてもlimeさんらしい話だわーって思いました。
「子供の頃の約束」ってお題で、この話になるのは、私の発想では無理だな……。

女の子、そんなにひどいとは思いませんが、要するに相手との器が違いすぎましたね。本人は、自分の方が何もかも上のつもりでいたのでよけいショックだったのかも。

亡くなったお母さん、息子にこんなことをさせたのを知っていたんでしょうかね。そっちのほうが罪深いと思うなあ。

limeさんらしい作品、堪能させていただきました!

おはようございます(^^) 

SSでもlimeワールド炸裂で何だか嬉しい・楽しいと思いながら読んじゃった私は、なんか読み方が間違ってる? ぞわっとするとか、ちょっと怖かったです、とか言うべきだったのか……でも、作品のさることながら、色んなところに散りばめられたlimeさんの小悪魔ぶり(あ、ちがう、小悪魔はキャラたちのほう? いや、やっぱり作者も?)に満足しました。

何よりも前書きの「私が本当に書きたかったのは、もうひとりの青年のほう」の一言から、なんかにやにやしながら読んでしまった私でした。
夕さんもおっしゃるとおり、子どもの頃の約束でこういうお話に繋がるってのがlimeさんらしいヒネりだなぁと思うのですね。

ずっと以前の約束が、逢わない期間にどう熟成されているのかってことを考えると面白いですね。ある人はすぐに忘れちゃうだろうし、忘れているつもりでもどこかに引っかかってたり、ある人はそれに執着していたり。それによって人生の見え方が変わるってのが面白い。

そう言えば2時間ドラマでも、ずっと前の事件のことがきっかけで、10年後とかに新しい事件が起こるってパターンがよくあるけれど、あれも、周囲からしたら「なんで今更?」なんだけれど、久しぶりに会っちゃったらまざまざと思い出した!ってなことで……

でも、直接は書かれていませんが、この青年と母親の関係、どこかいびつな部分が匂ってくるのですね。彼女が見ている彼は、その大きな背景を隠した氷山の一角的な印象があります。
一方で彼女の方も、少女の時に犯罪のにおいを感じながら、それを自分の一時的な感情で容認してしまう。これがこの年代の子供たちの恐ろしいところなのかも。生死も善悪も何もかもが紙一重。
こういう出来事があったのだとしても、おかしくないと思える。

久しぶりの更新、楽しく拝読しました~(*^_^*)

八少女 夕 さんへ 

夕さん~、さっそくのコメント、ありがとうございます!

うああ、やっぱり私らしいですか(;・∀・)←でもよく分かっていない。
女がエキセントリックで嫌な奴、と言うところでしょうか。

そうそう、今回の女は、悪い奴と言うよりも、夕さんのおっしゃるように小物なんですよね。
計算高くて、自己中で利己的で。
男の方が数段悪いんだけど、やっぱり小物感は女の方が大きいですよね。
法的な善悪の枠を超えた、そんなものを書いてみたかったんです。

そう、占い師のお母さんとこの息子の関係と、罪。
物語には直接描写していませんが、この2人の罪と関係性も、スパイスになってくれてたら嬉しいです。

とんでもないSSですが、温かいコメント、本当にありがとうございました!

大海彩洋さんへ 

わあ~、大海さん、ありがとうございます!
(なかなかコメントを書きに行けてなくてごめんなさい><)

いやいや、楽しみながら読んでくださってめちゃくちゃうれしいです!
そう、これ、最初の説明書きのあたりで大海さんならピンと来て、ニマニマしてくれるんじゃないかなあと期待してたのです。
ホラーとかヒューマンドラマとかじゃなく、単に作者の趣味のSSのような……(;^ω^)

最初は、柔らかい青春ものを書こうと思っていたんですが、まったく意欲をそそられない!
きっとそんな温かい物語は誰でも書くし、自分も読みたいとは思わない。
思い切り切ない物語か、犯罪がらみでダークな奴を模索してたら……こうなりました。
やっぱり物語にエロスは必要です←歪んだ持論

そうそう、群像劇的なミステリーには、子供の頃のあのいじめが……とか、タイムカプセルが……とか、そう言うのをきっかけに始まることが多いですよね。
そう言うのもいろいろ考えてみたんですが、どれも目新しさが感じられなくて。

ええ~~、もう、自分が見たいキャラとか、言わせてみたいセリフ優先に書いてしまおう!と思ったわけです。

この女の自己中な小物感は、書いててちょっとうんざりしたので、きっと読者さんもそうなのかな、と危惧しました。主人公が嫌な奴と言うのは、どうなんでしょうね。マイナスポイントになるのかな。
でも、私が書いてみたかったこの悪魔的な青年で、なんとか持たせることが出来ないかと思って、頑張りました。

うん、この青年と母親の関係性も、なんだか神聖なような邪悪のような、倒錯した何かがあったんじゃないかと思います。
そんなことを想像するのも何となく楽しくてw
そんな裏側の物語も書いてみたくなる病気を押さえつつ、書きました。

そう、小学生高学年の頃の善悪って、大人のそれとはまた違ったものがあるのかもしれませんよね。
思い切り純粋な反面、悪との境界線は、おっしゃる通り、紙一重で。12~3歳の子共の物語を書きたくなるのは、きっとそのせいだな。

でも結局、私のこのSSのようなエロスはエブの人たちにはいつも評価の対象外で(>_<)
やっぱり私の感覚はマイナーなのかな……と、萎れているこの頃です。

大海さん、お忙しいのに、嬉しいコメント、本当にありがとうございました!
またゆっくり、お邪魔します(*´▽`*)

NoTitle 

子どもの頃の約束というと、
その約束が繋がる先で友情や恋愛を想起しますが、
今回はダークな感じでいいですね~。
由貴哉の弱みを知っているから優位に立っている、
彼女は保護欲や独占欲みたいなものがあったのかもしれませんが、
今回は由貴哉の方が一枚上手でしたね。
自分の思い通りなると思っていたらそうではなかったというのは、
彼女の中では衝撃的だったかもしれませんが、
こういうどんでん返しみたいな話もいいですね(´∀`)

ツバサさんへ 

ツバサさん、読んでくださってありがとうございます!
そうなんですよね>< 私も最初は温かい、ノスタルジーな物語を考えていたんですが、そう言うのはきっと誰でも書けると……。
だから、おもいきり自分好みのお話にしてみましたw

そう、彼女は由貴哉の弱みを握った事で完全に自分の所有物のように感じていたんですよね。
考え方が自己中で利己的で。小物です。
由貴哉のほうは、ある意味犯罪者ではあるんですが、なんとなく人間的には彼の方が器が大きかったような……。
この物語のポイントは、最後の立ち位置の逆転。
そこを感じ取ってくださって、っても嬉しかったです!
けっこう長いSSだったのに、今回も丁寧に読んでくださって、ほんとうにありがとうございました!!

NoTitle 

ウ~ム、ヒロインに名前が無いんですね。
苗字だけが目立つんです。その点が妙に気になりました。
意図されているのでしょうか?サキではあり得ないことです。
ヒーローの方には名前が付いているのに・・・。
それともサキが読み逃してるのかな?

limeさんらしい描写で描かれる黒一色の由貴哉。
典型的なサクセスストーリーを歩む彼女。輝いているけれど若干高慢ちきな印象です。
一見対照的な2人の関係性がとても印象的でした。
彼女はやはり由貴哉を愛していたのかな?しかもかなり歪んだ形で、それも無自覚で・・・。
彼が言っているように彼を自分だけの物にしたかったのだろうと思います。
自分の欲求にまかせて彼を手の平で踊らせているつもりが、彼女の輝きが弱まるにつれていつの間にか逆転している立場、テーマの取り込み方と共にとても巧妙で興味深かったです。。
彼女はもう彼の手の平で踊らされる立場で、それが解っているのに、そこから出られなくって、すっかり取り込まれている様です。
でも、彼は彼女とのことなんか何とも思ってなさそうで・・・。
こういう奴、本当に居るのかもしれませんね。
こういうドロドロ、サキにはとても作り出せません。
とても面白く読ませていただきました。

山西 サキ さんへ 

サキさん~、おはようございます!

ヒロインの名前。そこに注目されるとは思ってもいませんでした。
ええ、もう、名字すら必要が無ければ設定しないでおこうと思ったほどです(笑)
この主人公の女に思い入れが無いというのもあるし、彼女の1人称なので、とくに必要がなかったんですよね。
SSの場合、必要ない情報は極力カットしてしまいます。

長編でも、不要だと思った描写や設定は捨ててしまうので、短くなってしまって(;_;)
10文字の物語を書こう……というのがあっても、6万文字で終ってしまう><
でも、不要なものを書かないのは癖なので、仕方ないですよね( ;∀;)

このヒロインの性格や、由貴哉の性格、そして二人の思惑、とても深いところまで察してくださって、うれしいです。
彼女が由貴哉に感じていたのは「愛」なのか……。そこが一番微妙で難しいですよね。

もし相手に好感を持ち、その相手の幸せを願う事が愛だとしたら、彼女の感情はまるっきり違いますよね。
エゴに近いのかな。いろんな意味でこのヒロインは、勘違いの塊であり、小物だったみたい(;・∀・)
この由貴哉が大物……ということでもないんですが、少なくともすべての行動に信念があったってところは、悪役としては正統派だったのかも。

……なんて、サキさんのコメントを読みながら、自己分析させていただきました^^
サキさんならこのテーマで、こんなドロドロしたものは書かれないだろうな。
私自身も、びっくりです><

でも、お付き合いくださってありがとうございました!
コメント、とてもうれしかったです。

遅くなりました~ 

執筆、お疲れ様でした。

お題から受ける一般的なイメージとは、明らかに一線を画するシリアスなお話ですね。
冒頭とラストで、二人の関係というか立場が逆転するところが鮮やかで、ちょっと怖くて、感心しました。
事件のあった十五年前からすでに、由貴哉はそんなふうに考えていたんですね。底知れない黒さを感じます。
そして順風満帆だったヒロインの境遇が大きな転機を迎えたあとの、最悪な再会。これはもう、逃れられないかな。
この先にどんなドラマがあるのか。いろいろと想像が膨らむラストでした。

TOM-F さんへ 

TOM-Fさん~、いえいえ、ちっとも遅くなんかないです。
コメント等、気になさらずに、気軽にお立ち寄りくださいね^^読んでくださっただけでうれしいのですから。

シリアスというか、とんでもないお話ですよね(笑)
一般的な善悪とかセオリーとか、全部無視して書いてみたかったんです。
この気のつよい、自己中な女主人公の悲劇と言ったほうがいいかもしれません。
読者が男性の場合、ちょっともやっとした感じに思えてしまうかな、という心配はありました。
男女差ってあるのかな……。

犯罪者の方に軍配が上がる感じのとんでもない展開になってしまいましたが、ちょっと自分の美学を押し込んでみました。
在り来たりな展開とラストにしたくなかったんですが、ちょっとやりすぎた感も……(;・∀・)

コメント、ありがとうございました!(^^)!

こんばんは~~(^0^*)ノ 

ごめんなさい~~~/(≧Д≦;)\
なかなかコメント出来なくて~~~i-201

なんか2人とも可哀想ですよね・・・・・・
2人の黒い心とセンセーショナルな出来事と
思い込みと策略と優越感と独占欲が交差して絡み合って
悪い奴らの化かし合い・・・
limeさんは良い人が出て来ない。と仰ってますけど
確かに良い人ではないですが
2人とも、自分にとって一番大切だったものを
二度と戻っては来ない形で失ってるんですよね・・・

由貴哉は確かに背徳だったかもしれないけど愛してやまなかった母を
森下はピアノを、生きていくうえでの希望というか糧?を
すべて失ってる。
そして、黒く捻じ曲がったものだったかもしれないけれど
自分が飼っていると思っていた狼に心を咬み殺され・・・
悲しい人たちだな~・・・・・って思いました(;m;)





かじぺたさんへ 

かじぺたさん、こんにちは~!
お忙しいのに、読みに来てくださってありがとうございます( ;∀;)

そしてさらに今回はとてもドロッとした人間の内面を描いてて、爽やかさの欠片もないし><

うん、見方によっては2人とも悲しい人かもしれない……。

物語としては、自己中な女の高慢な鼻っ柱をバシッとへし折り、立場の逆転劇を楽しむSSではあるんですが、うん、この女の方も哀れではありますよね……。
ちょっと、友達にはなりたくない女だな、と思いつつ書いたので、幾分手厳しくなってしまったのかもしれませんが、これはかじぺたさんの優しさが導き出す感覚なんだろうなあと、改めて思いました。

短い中で、劇的な展開を求められるSSって、長編とは盛り込める感情が違うので、やはりなかなか難しいですね。
瞬間芸っていってもいいかも。

読者をあれこれ悩ませずに、短いストーリーの中で爽快さや絶望を描く。
むずかしいけれど、いい鍛錬になってるような気がします。

かじぺたさんも、貴重な感想、本当にありがとうございました。
とても参考になりました(*´ω`)

NoTitle 

limeさん、どもどもです^^
これはまだいくつかあるlime作品読み逃げのうちの一つ(><)
エブの方にコメ入れますね。
全作読破した暁にはタッくんに私も!と手を挙げるのだ!(気合い!)

けいさんへ 

わあ、さっきエブでコメ返してきました^^

読み逃げ大歓迎ですよ~。レビューは気にしないでくださいね(*´ω`)

でももう、妄想コンにはあまり参加しないと思うので、新作は出来ないと思うんだけど><

ああ~、新作長編かきたいなあ~~。(最近某ヒップホップグループに骨抜きにされていて、なかなか執筆に身が入らず……。ああ~~、好きすぎるって辛い( ;∀;))

^^ 

アニメ版「風と木の詩」をYouTubeで視聴しました。原作を読んでいなかったので「@@;」でした。だってイキナリあれですから^^; それまでの少女マンガの枠を超えて文学・哲学の世界にまで広がっていますね。70年代後半ほぼ40年前。竹宮恵子はやはり天才のひとりです。全面降伏^^;)/

Re: ^^ 

わあ、waravinoさん~! アニメ版を見られたんですね!w 私はコミックでしか読んでないんですが、アニメ版を観る勇気がないです(;・∀・)

随分昔の作画だと思うから、絵がぎこちないんじゃないかなと、そんな心配が先立ってしまう。
でも、waravinoさんにあの作品を見てもらえて嬉しいです。
(アニメは、そんな大胆なところから始まるのですね(*ノωノ)……いや、コミックもですが)

そうなんですよ、内容はかなり文学的・哲学的で、最近はやりのBL(ボーイズラブ)とは全く違うんです。
今、軽いタッチのBLを書いてる作家たちは、この風と木の詩を、知らないんだろうなあ。
竹宮さんが、あの時代にこの大胆な作品を世に出していなかったら、今頃BLなんて世界が開拓されていなかったのに。

竹宮さんの神聖で強烈な世界観に中学で出会ってしまって……今に至ります。
本当に天才です。
私の中では、手塚治虫と同レベルの天才漫画家です!

ファラオの墓とか、あまり知られていない名作がたくさんあるのに~><
あれを、現在の美しいアニメで再現してほしいなあ←ワガママ

あ、もし機会があったら、リメイク版「地球へ…」も、ぜひ見てください!←ワガママ

コメント、とてもうれしかったです^^

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