流 鬼

流鬼 第22話 鬼の子

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―――まさか死んでいるのではないだろうか。

一瞬そんな想いに捕らわれ、キヨがピクリとも動かない秋人の肩に触れると、梁に止まっていたらしいロクが矢のように飛んできて、キヨの手を足ではじいた。
「痛っ!」

思わずロクを手で払いのけると、今まで床の上にうつ伏せで転がっていた秋人がムクリと起き上がり、キヨを見上げた。
母親によく似た大きな目に、キヨはゾッとする。


小一時間前。よそ者を勝手に引き入れようとした秋人に怒った小菊が、家に入るなり秋人を睨みつけた。
そのひと睨みは実質的な衝撃となって秋人に突き刺さった。小菊からの制裁はキヨが知る限り、この村に来て初めてのことだった。

ひとつ呻いて床に倒れ込んだ秋人だったが、少しは小菊にも情があるのか、自分の子を殺すまでには至らなかったようだ。
ホッとしたものの、キヨは複雑な気持ちだった。

もしかしたら今回は見逃してもらったが、『用済み』の秋人は小菊にとって本当にただの疎ましいだけの不要品なのかもしれないと感じたのだ。

「あの飛田って人は、須雅神社の歴史を調べに来た人だよ。話を聞かせてあげようとしただけなのに。何で母さんは怒るんだろう」

堪え切れないように目に涙を溜め、秋人はキヨに訊いて来る。小菊の代わりにずっと親代わりをして来たキヨにとって、秋人が可愛くないわけではなかった。
けれどやはりどこかに恐れがある。
この子に流れる血が、いつか暴れ出すのではないか。その前に手を打つのは自分の役目ではないのか、と。

「秋人。さっきの男はね、昔この村に来たことがある。いきなり腹の大きな小菊の写真を盗み撮りして、逃げるように帰って行った不作法ものだよ。その時腹の中に居たのがお前だ、秋人」
「写真……? そういえば飛田さん、和貴に写真を見せて母さんを探してた。その写真が、昔撮ったって いう写真だったのかな」
「そうだと思うよ。小さな女の子の腹ボテが面白かったんだろう。悪趣味なこった。小菊は写真を撮られるのをひどく嫌がるから、しっかり顔を覚えていたんだろうね」

「写真、いやなの?」
「その半年前に、旅行者の男に撮られたのが酷く嫌だったんだろう」
「半年前の旅行者って……あの男?」
「そうよ。カラスに食われて死んだ男。死ぬ前の日に、小菊の写真を何枚も何枚も撮ったんだ」

「何言ってんの、おばちゃん。あの人はカラスに食われたんじゃないよ」
キヨは土間へ降りかけた足を止めた。

「母さんが殺したんだろ? 儀式の後で」
秋人の声は、どこまでも静かで落ち着いていて、その分ゾッとする余韻を残した。
「そうだったね」

キヨは何とか笑ってみせた。自分が仕事でいない間、小菊は秋人をそうやって懐柔してきたのだろう。自分が今更それを曲げることなどできない。

「13年前の事は、必要な神事だったって母さんは言った。そして僕は今13歳だから、もう一度あの場所で弱った力を強めるんだって。僕は頷いてあげた。力になってあげたくて母さんの言うとおりにしたし、この村にも来た」
押し殺したように静かに語る秋人の言葉は、僅かに震えているようにも思えた。

「秋人は何も間違ってなんかいないよ。大丈夫。秋人は自分のことだけ考えていればいい。学校へ行って、友達を作って、沢山勉強して大人になるの。大人になれば村を出ていくのも、小菊から離れるのも自由だしね。
さあ、ほら。たくさん汗をかいたでしょう? お風呂に入って来なさい。遅くなったけどご飯にするから」

ひとつ頷いて立ち上がった秋人の膝からロクは飛び立ち、羽音を響かせて梁に戻って行った。
緩慢な動きで開襟シャツのボタンをはずしながら、秋人はキヨを振り返る。
「ねぇ、おばあちゃん。母さんのお腹にいる子は、母さんに可愛がられるのかな」

キヨは一瞬戸惑ったあと、頷いた。
秋人は「そっか」、と言った後、替えの下着と寝巻を取りに奥の間に消えた。
母に愛されていないことをどこかで悟っている秋人には、もっと他に言いようがあったかもしれないが、とっさに出たのは真実だった。
小菊はきっと腹の子を待ち望んでいる。今度こそ本当に自分の強い力を受け継いだ流鬼をその手に抱けるのだと、心待ちにしている。

「それ」はとてつもなく穢れた理念なのだとキヨは心得ていたが、今更もうどうすることもできない。小菊に逆らう気力など無かった。
自分のしていることが過ちであるのなら、その過ちは26年前、「鬼」を拾い上げてしまったあの日に始まっていたのだ。

須雅様が試しているのは自分だろうか。それとも村人だろうか。
寝巻を抱えてパタパタと土間の向こうの風呂場へ走って行った秋人を見ながら、キヨはぼんやり思った。

「キヨ」
小菊が襖を細く開けて、キヨを呼ぶ。腹を見なければ、まだ十代の少女のような幼顔だ。

「明日も夜が明ける前に須雅様にいきましょう。この子の元気がないのよ」
そっと自分の腹を撫でる小菊に、キヨは頷いた。
「かがり火の当番のいない時間を知っているから、その時に連れて行ってあげるよ。安心して早くお休み」

初産ではないが、もう13年も前の事だ。小菊は感覚を忘れてしまっているのだろう。胎児が動かなくなるのは、子が下がってきている証拠だ。
出産は祭りの日と重なるな、とキヨは思った。

いつどんな時に産気づいても取り上げるのはキヨの仕事なのだ。秋人の時にそうであったように。
村の産婆の助手をやっていた知識と経験はまだしっかりキヨの中に残っている。
けれどその子を生かすか殺すかは、穢れをなにより嫌うこの山の神が決めること。
小菊にはそう言い聞かせてある。

秋人は「是」だった。

今小菊の腹にいる鬼が「是」なのか「非」なのか。
すべて須雅様に任せようと、キヨは思った。




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今回は、この由良家の3人の関係性が、少し見えてきたのではないでしょうか。
少し、スピードアップしなければ、ね(*。・ω・)

次回は健造視点です。
ついに、14年前のあの日、何があったか分かる……かもしれません。



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~ Comment ~

あら 

って、妙な声だしちゃった(あ、声は出てないけど)……そうかぁ、この回は何か見えた気がしましたよ。って、お話の展開は分からないけれど、秋人の立ち位置というのか。
そうかぁ、たまに不気味に見えた秋人だけど、詰まるところ、お母ちゃんに愛されていないと不安がっている子どもなんですね。その不安が、5歳や6歳の子ならともかく、13歳という年齢だから、その分深いというか、重いというのか。だから、すごい子どもっぽいときと(その時の方が怖いところが出てるけれど)、妙にものの分かっている感じの時があるんですね。
秋人は結局、(小菊から見ると)中途半端で、能力的には小菊のお眼鏡には叶わなかったのかぁ。今までのあれやらこれやらの行動や言葉の中にある秋人の幼く素直な気持ち……和貴とはすれ違ったままになるのか、やはり気になります。でも思春期のこうしたすれ違いって、修復不可能なことも多いですものね。

そしてキヨ! この人の覚悟のほどが何だかかっこよく見えちゃいましたが……秋人を救ってくれるかなぁ~
それにしても、不気味な小菊が普通にマタニティブルー、じゃなくて子どものことを心配しているのがちょっと不思議に思えたりして……あ、単に次の子に期待しているから心配している? これって、普通にお父ちゃんのいる妊娠なのか、その辺りも気になったりします(もしかして健三かとも思ってたけど)。
ひと睨みが「実質的な衝撃」になる力……やっぱり小菊は日本版メデューサかも。

暑いというのか、湿気がすごくて過ごしにくいけれど、limeさんもお気を付けくださいね!

NoTitle 

ひと睨みしただけで実質的な衝撃になる、
秋人の事を思って加減したのか、
利用価値がまだあるから殺さなかったのか、
小菊にしか分かりませんが、
どこかで秋人に対する情や愛情があればいいなとは思いますがどうでしょう(><)
秋人もどこかで愛されていない自覚はあるみたいですが、
それが届かないというのも何だか悲しいですね。
それにしても、秋人は「是」だったんですね。
もし次の子も「是」なら小菊の力を引き継いだことにもなりそうですが、
これが「非」なら小菊はどんな行動に出るのか気になるところです。

NoTitle 

こんばんは。

小菊にとって秋人は我が子であるよりも何かの役に立つべき存在だったってことなんでしょうかね。

「用済み」ってどういう意味なんだろう。それに、もう一人産んで、ラッキーだったら今度はどうしようと思っているんだろう。

そして、人にらみで殺すのも自在な力をもていても、子供を無事に産めるかどうかはわからないのですね。

ブキミな子を拾ってしまったと怯えながらも、秋人に哀れみなのか愛情なのか、あたたかさを与えるキヨにちょっとだけホッとしてしまいました。

赤ん坊の父親って普通の人間なのかなあ。

おとなしく次のお話を待ちます。

大海彩洋さんへ 

大海さん、さっそくのコメントありがとうございます(*´ω`)

そう、この回には、秋人の立ち位置と心情が少しだけ語られていますが、情報量としては3%くらいでしょうか。
とにかく、皆さんのコメントを読んでいて、「実はそうじゃなくて……」って、語りたくて仕方のない衝動が><

この物語ほど、読者さんを欺いてる物語はないかもしれません。
ただ、どこにも嘘はないんです。
登場人物たちも、嘘はついていないんです。
でも……。
最後の最後まで、作者を疑って読んでください。大きなトリックはひとつもないんです。
でも、「なるほど」って思ってもらえるかも。

そうそう、小菊の秋人への感情は、大海さんが思われる通りかも。
そう考えると、不憫な子でもあります。まあ、不気味さは残っていますが……。
和貴との仲たがいは、更に最悪な方向に行きそうです。それがクライマックス??((;´・ω・)

小菊の2度の受胎については、やっぱり物語の重要な部分で。
ここを紐解いていくと、何かが見えてくるはず。次回、健造がいろいろ語ります^^

キヨ。この人がね……。ああ、語りたいけど語れない。
私が中年のおばさんを描くのは珍しいのですが、この人はなかなか重要な存在です。
善なのか、それとも…。
キヨをどう思ったか。物語のラストで、読者さんに一番聞いてみたい感想です。

お忙しい中、コメントありがとうございました!

ツバサさんへ 

おはようございます!

そうなんです、小菊の能力は結構すさまじい威力がありそうです。
秋人はほんとうに哀れというか……。
愛されていないのはあきらかのようですね><
でも殺すほどひどい親でもないみたいで……。

そう、秋人は無事に生まれてきましたが、次の子が無事に生まれるかどうかは山の神(?)しだい?
この辺のキヨの言葉も何か、意味があるのかも。

この結論はすさまじいものになりますが、また良かったらお立ち寄りください。
いつも亀更新にお付き合いくださって、ありがとうございます(;_;)

八少女 夕 さんへ 

おはようございます。

そうなんです、小菊にとっての秋人は、まさにそういう存在だったのかも。
小菊の心情だけはどこにも書いていないので、キヨの推測が大部分ではあるのですが。

そして「用済み」という言葉。この言葉を見逃さなかった夕さん、鋭い。
けっこう、あとで「おっ」と思う展開になるかもです。
何でもできるように見えて、子供に関しては思い道理にいかない、という小菊の弱点。これも重要なところで。

大海さんへのコメントにも書いたのですが、皆さんのコメントを読みながら、全部喋ってしまいたい衝動に。

とにかく嘘じゃない嘘が多い物語です。

そして、なぜ作者がこれを書こうと思ったのかは……、最後の数行で分かるはず(*´ω`)←物語とは関係ないかも

逃げる準備を整えて、頑張って更新します!

NoTitle 

ウムム・・・やはり一番力を持っているのは小菊なんですね。
秋人もキヨもその異能の前にはひとたまりもない。
でもいったい小菊は何がしたいんでしょう?
13年ぶりに新しい鬼を生み出そうとしているのでしょうか?
新しい命を継いで流鬼の血を守ろうとしているのでしょうか?
じゃぁ秋人はどうだったの?「是」だったはずでは?
『用済み』ってどういうこと?
あ、女じゃないとだめなのかな?
それとも何かの復讐?
キヨが拾わなければ鬼の血は絶えていたんでしょうか?
小菊が根岸を殺した?
13年前に何が起こったのか少しずつ明かされていきますが、
まだまだlimeさんの術中にはまっていて疑問ばかりしか湧いてきません。(わかるはずないか・・・)


次は健造視点?
また別角度からの開示が有るのでしょうか?
心して待ちます。

山西 サキ さんへ 

サキさん、こんばんは^^
いつもありがとうございます!

そう、小菊が恐ろしい力を持っているのは間違いなさそうですね。
キヨや秋人も被害に遭って来たみたいで……。

本当にね。小菊はいったい何をしようとしてるのか。
これは……ちょっと意外というか、「……え」な理由なんですが、もちろん言えません(>人<;)

「是」だった秋人も今や用済み。小菊の理想の子供では無かったのかもしれませんね。
あまり強そうでもないし^^;
いや、本当の事を知っているのは小菊とキヨのみ。

少しずつ彼らの事や村の事を明かして行っていますが、実はまだ、どこにも真実は無いんです。
……っていったら怒られるかな(;_;)

誰も嘘をついてないし、作者も嘘をついていないのに、真実がそこにない。

さてさて……><

次回、健造が語ることが、何かのヒントになるかもしれません。
真実がどこにあるか、どうぞ探ってやってください(;_;)

あ、もしもすべてのからくりが分かっても、ナイショにしてくださいね(*´ω`*)ウフ


うーーわーーー 

難しいなあ~~
ただ・・・秋人は、小菊のおめがねに適わなかった(?)だけあって
普通の子供なところが、やっぱり無いわけではないんですね。
可哀想(;Д;)
山の神には是とされたけど母である小菊には
非でもないけど、たぶん保留程度の子供で・・・・・
今お腹にいる子は果たして誰にとって是であるのか。
それとも誰にとっても是で無いのか・・・・・
無事に生まれるのか・・・・それとも?

儀式で死んだ(殺された)根岸と殺されなかった飛田・・・
そこには、どんな謎が隠されてるんでしょうね?

怖いけど、続きが、結末が楽しみです(((゜m゜;)))))

かじぺたさんへ3 

かじぺたさん、こちらにもありがとう~~><

ここは、たくさんのヒントを放出しました。
今まで表に出して来なかった、この由良家3人の関係性。信頼性?
そう、秋人は結構苦しい立場にあるみたい。
普通の子ではないのは確かだけど、親に「鬼」だと認めてもらえてないような……。
キヨはキヨで、二人を助けるわけでもなく、牽制してるところもあるし……。
奇妙な共同体です。

結局謎が深まっちゃったみたいな回ではあるんですが。
かじぺたさん、作者はこの時点でまだ、なんら真実を開示していません。
どうぞ、ミスリードにお気を付け下さいね^^

でも、悲壮な物語であることは間違いないと思います。
どんな結果になっても、怒らないでね(;_;)
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