流 鬼  《連載中》

流鬼 第20話 照準(2)

 ←流鬼 第20話 照準(1) →(観劇日記)『子供の事情』作・演出:三谷幸喜
自転車で前を走る秋人が、合図のようにほんの一瞬、飛田の車を振り返った。
わだちの出来た細い農道から少し奥まった場所に、納屋のない、母屋だけの一軒家があった。

今にも背後の雑木林に呑み込まれそうな脆弱さとは裏腹に、異様な存在感を感じるのは、小菊の家だと認識したせいだろうか。

縁側の横に木の引き戸の玄関がある平屋建てで、屋根は所どころ苔むした古い瓦だったが、もしもまだ茅葺であったなら、そのまま昔話に出て来る古民家そのものだった。

「何代も続いた家なのかな」
家の前に停めた車を降りた飛田は、自転車を押して近づいてきた秋人に尋ねた。

「どうかなあ。ここはキヨおばあちゃんの、亡くなった旦那さんの家だったんだって。13年間もほったらかしだったから、引っ越した日は襖が開かなかったり、蜂が巣を作ってたりして、大変だった」

屈託なく笑う秋人は本当に無邪気なごく普通の子供で、ほっとすると同時に、この村に来てしまったことを哀れに思った。
いや、……小菊の子として産まれた事を、だろうか。

「秋人君たちはこの冬までどこに住んでたんだ?」
「そんなに遠くの街じゃないよ。それから秋人って、呼び捨てでいいよ。和貴のことは和貴って呼んでたろ?」
「そうだっけ。じゃあ、秋人……なんでまたこんな辺鄙なところに?」

けれどそれは聞こえていなかったのか、秋人は自転車を押しながら家の方へ走って行ってしまった。
ちゃんと付いてきていた赤紐のカラスが、それを追いかけていく。

訊きたいことはまだ他に山ほどあったが、何より今は小菊の事だ。
飛田は秋人が飛び込んで行った暗い玄関引き戸の中を、だまってじっと見つめた。

キヨや小菊に、秋人はどんなふうに飛田を説明するのだろうか。根岸の事は一応隠したが、それで尚、一研究者に会ってくれるのだろうか、と不安を抱きながら。

けれど暫くして飛び出して来た秋人は、首を横に振った。その表情はどこか不安げだ。

「母さんもおばあちゃんも居ないんだ。ごめん、また今度」
「いないって、……二人してよく出かけるのか?」
声に落胆が素直に出てしまった。

「この頃はおばあちゃんと、時々出かけてる」
「どこに?」
「たぶん須雅神社」

「須雅神社に? いったいなんで」
神社に行くのはお参りだと相場が決まっている。けれど思わず口をついた。
あの二人にはなにか特別な場所のような気がしたのだ。

「たぶん、明日が本祭だからだと思うんだけど」
「本祭……か」

―――宮野老人が言っていた祭りの事だ。9月30日。前日の夜からひっそりとかがり火を焚いて須雅神社の神と鬼を鎮める神和ぎ。小菊も祭りに合わせてお参りでもしているのだろうか。他の村人と同じように。
飛田には少し意外な気がした。

その日を意識して今回の調査に入ったわけではなかったが、根岸が死んだのも9月30日。ちょうど明日が命日だった。
あの根岸の惨事は、かがり火が焚かれた須雅神社での出来事だったと言う事になる。

そのころ小菊は12歳。

「なあ秋人……。小菊さんは小さなころからよく、須雅神社に遊びに行ってたのかな。その……祭りの間なんかにも」

そう質問した飛田の顔を見上げた秋人の目は、すぐにそれを交わして後方へ動いた。
砂利を踏む微かな音が、飛田の背後から聞こえた。

「どなたですか?」

声の方を振り向いた飛田は、体がサッと冷気に包まれたのを感じた。まるで13年前に戻ったかのような錯覚に、恐怖さえ覚えた。

声を掛けて来たのは初老というにはまだ若い中年の女、キヨ。それなりに歳を重ねてはいるが、はっきりと覚えている。
醜いとまでは言わないが、どこか貧相で幸の薄そうな顔立ちだ。

そしてその少し後ろに寄り添って立つ、華奢で少女のような面影の女。―――小菊だった。

13歳のころと変わらぬ白く柔らかな肌と黒目がちの吸い込まれそうな瞳。腰まで垂れた真っ直ぐで艶やかな黒髪。ゆるりとこちらに向けられた視線は、心の中を覗かれているようで、思わず身がすくむ。

そうだ、この感覚だ。

ただ一人の小柄な少女なのに、視線を捉えられ、じっと見つめずにはおれなくなる。
自分の心を揺さぶるその訳を知りたくて、更に一歩近づいて見たくて堪らなくなる。
触れて、そこに実体があるのか確かめたくなる。

13年前の飛田がその目で見た衝撃と、少しも変わらぬ衝撃がここにあった。

そしてそれは単にその女の魅惑的な容姿のせいばかりではなかった。
鎖骨の滑らかな線が浮かび上がるほど細身であるにもかかわらず、緩い形で女の体を包み込んでいる長いワンピースの腹は、大きく前にせり出していた。

あの13年前の春先、森の入り口で見た光景とあまりに酷似していた。
今、飛田の目の前にいる小菊は、再び腹に子を孕んでいるのだ。

小菊が、濡れたように光る黒い瞳を飛田に向け、小さく首を傾げてささやく。

「また、わたしを写すの?」

周囲の木々からこちらを見つめる、無数の黒い鳥の刺すような視線を感じ、飛田の背が粟立った。




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作者の日程の勘違いがありました(>_<) 。祭りの期間を変更し、早めます。(以前の記述も少し変更しました)
この日は9月29日。そして翌日の30日が、この物語の最終日になります (。>д<)  



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~ Comment ~

NoTitle 

limeさん、おひさ~^^ (No.2)
和貴と健造の深入るようなしんみりとするような会話があるのと同時進行で(?)いよいよなご対面が…?

飛田と秋人のお互いを探るような、見せるような隠すようなやり取り。
ローティーンとの会話ってそれでなくても難しいのに、飛田頑張ってます。
見て聞いて考えていますね。応援。
一応案内してくれる秋人なんだけど、留守とは…

落胆したところで衝撃の再会! え、まさか即座に思い出すとは…
飛田のリアクションやいかに。
いや大人だし。目的持ってきてるし。やっとここまでたどり着いたんだし。

この二日(一日半くらい?)でどれだけのことが明らかになるのか。
本祭…どんなお祭りなんだろうか。

それぞれの思いが交錯していく感じがとても良いです。
このバラバラ感がいよいよ近づいてくるのですかね。
次回も楽しみです^^

こんばんは。 

不気味な雰囲気の家、一旦留守と思わせておいて、後ろからそっと接近させる。
ドキッとしますよね。登場のさせ方としては最高です。
え?小菊、もうそんなにお腹が大きく?あらためて誰が父親?
気になりますが、それ以上に小菊の描写が生々しくてとても怖い。
まるで13年前のリバイバルですね。
恐怖の予感が増殖しますが、どうなんだろう?
そして「また・・・」って飛田のことを憶えてるんだ。
読んでいるサキの背も粟立ちますよ。

NoTitle 

須雅神社に足を運んでいる。
単にお参りする為に行っているだけとも取れますが、
それ以外の理由があったりしそうですし、
ここは気になるところですね~。
それにしても、ついに小菊と会いましたね。
写真を撮られた事も覚えているようですが、
ここから更に飛田も踏み込めるのか気になりますね(`・ω・´)

けいさんへ 

こんばんは~^^
名前が無かったけど、きっとけいさんですよね!
こっちにもコメント、ありがとうございます~(*´ω`)

飛田と秋人の会話、わっぱりどこか噛み合ってないですよね(爆)
これは年齢差のせいかなあ。(うん、きっとそうだw)
飛田、頑張ってますよね!

留守と見せかけておいてからの~、13年半ぶりの再会!
小菊は26歳の今でも、やっぱり恐ろしいほどの美少女のようです。

何の呪いか、また腹には子がいるようですが><
さあ、この後どんな会話が……。って、そんなスムーズに展開はしないんですが^^;

そうそう、お祭りが迫ってます。
でも、実は、お祭りが最大の舞台にはならないのです。
祭りなんてやってられない状況に……。

バラバラのこの状況が、まとまるのか。それともさらにバラバラになるのか。

もうそんなに長くない話だと思うので、またどうぞ、お付き合いください^^

山西 サキさんへ 

サキさん、こんばんは~^^

はい、ちょっとばかしフェイントでしたが、ついに飛田と小菊のご対面です。
特に何か、奇異な事をするわけでもない小菊を、際立たせるのって、とても難しいですね。
成功してたら嬉しいんですが。
(作者も小菊はちょっと、恐ろしい><)

そうなんです、13年前と同じ状況になってしまいました。
小菊はあの頃よりも更に美しく、妖艶で……、そして再び孕んでて。
(父親が気になりますよね。)

そして、小菊はしっかりあの時の飛田の行為を覚えていました。
嫌な事は根に持って覚えてるタイプかもw

さあ、じわじわ参ります。残すところあと1日とちょっとなんだけど、この物語、1日が長い!
(飛田が宮野老人と話をしてからまだ、半日しか経ってなくて、もう2日ぐらいたったと勘違いしてた作者は、焦って日にち調整しました><)←バカです)

まだまだ、謎な部分がいっぱいですが、どうぞまたお付き合いください^^
いつも、ありがとうございます!

ツバサさんへ 

こんばんは~^^

小菊、須雅神社にお参りに行ったみたいですが、さて、なんか深い意味があるんでしょうか。
(けっこう、信心深いふつうのお嬢さんだったりしてw)←読者にモノ投げられそう

はい、やっと飛田と小菊が再会しました。
小菊はしっかり、昔飛田に写真撮られてたのを覚えていますね。やっぱり腹を立ててたのかな><

そして小菊の腹にはまた子が……。いつから??

そんなところも合わせて、このあと追ってやってください^^
いつもコメント、ありがとうございます!

NoTitle 

こんばんは。

飛田にとって、秋人は「かわいそうに小菊の子供に生まれちゃった、普通の少年」に見えているのかな。
実際はどうなんでしょうね。

そして、小菊がいつの間にかまた妊娠している?
ポイントは「一体誰の子」なんでしょうけれど、えええ?

このお話、この日の翌日までなのですね。
さて、お祭りで何があるのか、ドキドキしながらお待ちしています。

八少女 夕さんへ 

おはようございます^^

飛田は警戒しつつも、秋人の事を普通の子かも、と思いはじめていますよね。
話し方に、まったく棘が無いし^^。
実際は……。

秋人の本当の姿を最初に知るのは、飛田かもしれません(さらっと告知)

そうそう、この回の一番のポイントは、小菊が13年経ってまた子を孕んでいた事で。
父親は誰なんでしょうね……。ふふ。←病んでる

ここ、私自身が下書きの段階で日程を勘違いしてまして><。
飛田が調査に来てからまだ2日しか経ってなかった((;´・ω・)
(後でもう一度、日付に間違いが無いか、確認しなきゃ……。最終日が、9月30日でないとダメなんです←これはもう、ストーリーに関係なく、作者のある事情で……。)

実はですね、お祭り自体は、物語と大きな関係は無いんです。

祭りの前に、きっと大きな展開があるはず。

もたもたしていますが、またどうぞ、お付き合いください(*´ω`*)
夏が終わるまでには、終わらせたいと思っています。^^

NoTitle 

あちゃー(><)すみません(><)名無しのけいでしたm(__)m
物語、色々と起こるんですねっ^^

けいさんへ 

おお~、再びありがとう! 名無しだったけいさん♪
いやいや、すぐにわかるから大丈夫ですよん(*´ω`)

そう、いろいろ起こって、読者様からきっとお叱りを受けるかと……(;_;)

NoTitle 

おぉ、小菊のお腹に秋人の弟が??
いや、本当に弟なのでしょうか……なんだか秋人以上に凄い怖い子が生まれそうな予感です><;

夢月亭清修さんへ 

そう、そこなんですよ~、夢月亭さん。

腹の子は、本当に弟?

そして、凄い子……と言うのも……。 いろいろ核心を突いててこわい><

NoTitle 

・・・魅惑か。
年齢を取っても異性を魅力する力がある。
引きずり込まれる感覚がある。
そういうのは素晴らしい努力と感性があるからでしょうね。
私は年齢を重ねるごとにお腹が大きくなる。。。(笑)。

LandMさんへ 

幾つになっても魅力的な人っていますよね。
本当にうらやましいです。

あ、でもこの小菊はまだ26なので、少女のような美しさが残っていても、不思議はないかな?
小柄な人って、30くらいでも高校生に見えたりしますし。

小菊はあまり美容に興味無さそう。そして子持ちなのに……。
その美しさが逆に、不気味……って言う事もあるかもしれませんよね。

まあ……総じて、羨ましい限りです>< (←けっきょく嫉妬?)

わあ!! 

小菊、孕んでた~~~w(゜Д゜;;)w
しかも華奢な小菊の腹が目立つほど大きいってことは
もう臨月近く???こわい・・・

ところで、妊娠してるって普通だとステキなことなのに
孕むって書いたとたんに、なんかおどろおどろしい雰囲気になるのって
なんででしょうね?
この先、危うくも平穏に過ごしてる様に見える
みんなに破綻が訪れるんですよね??
わーー・・・・・・
どうなるんだろう・・・(((゜m゜;)))))
怖いけど楽しみです(^▽^*)vv-238

かじぺたさんへ 

そう、孕むと書くと、なんとも不穏な空気が漂いますよね。
日本語って不思議……。そしてよくぞ、この言葉を作ってくれたと感謝。

うん、もう臨月が近いんです。
2カ月くらい前に、お風呂で和貴にちょっかい出した時、腹をタオルで隠していたのは、そのせいなんです。(そうじゃなかったら、ぜんぶ取っ払ってたかも)
さあ、この後からです。不穏ですよ~~^^

いろいろひどい展開になりますが、またよかったらお立ち寄りください。コメント、気にしないでね~(*´▽`*)

えぐさがパワーアップしてるぅ 

こんにちは。あれからここまで読ませて頂きました。(*^^*)
相変わらず、時々えぐい艶めかしいシーン(人によっては気分悪くなりそうな…まあ、それを気にしてたら面白さが半減で生温いもののなってしまうでしょうけど)が登場するlimeワールド、常識内の想像を無意味にさせてくれます。これからどういう展開になるか、続きを楽しみにしてます。(^_-)-☆

Ichii さんへ 

Ichiiさん~、ごぶさたしています!おげんきですか?

お忙しいなか、また続きを読んでくださって本当に恐縮です(;_;)
そしてえぐくて艶めかしいというお言葉が、とっても嬉しいです^^

小奇麗なだけの物語からは卒業したいと思っていたので。
このあと、もっとえぐくなるので、読者さんが去らないか心配ですが、このままがんばります><(更新遅いですが)

Ichiiさん、暑くなりますが、猫ちゃんたちといっしょに、元気でがんばってください(*´ω`*)
また、こそっと遊びに行きますね^^
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