流 鬼  《連載中》

流鬼 第20話 照準(1)

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「父さん、銃、持って入ったから」
居間の卓袱台の前で小山のように背を丸めて動かない健造に、和貴は出来るだけ静かに声を掛けた。

興奮状態の時に刺激すれば、狂ったように怒鳴られるか、殴られるのがオチなのだ。
こんな状態になるのは大概が酒を飲んでいる時であり、しらふでは初めてで、そのことが余計に恐ろしくもあった。

けれど不思議な事に、その恐れとは裏腹に、この狂いかかった父親に怒りは湧いて来なかった。

「いくら弾が入ってなくても、いきなり人に銃を向けたりしたら通報されて免許取り上げられるよ。……だけど、さっきはありがとう」
和貴はまだ少し息の荒い健造から少し離れた板間に猟銃をそっと置き、自分もその横に座った。

「さっきは俺を庇ってくれたんだろ? 知らない男に手を掴まれてたから。あれ、なんかちょっと嬉しかった……。父さんにはもう俺は見えてないんだと思ってたから」

薄暗い居間の床の上で、ミロク銃の機関部に施された精緻な彫金が鈍色に浮かび上がっていた。
和貴は指で美しい2羽のキジの、緩やかな窪みをそっとなぞる。

「さっきの飛田って人が言った言葉の中に、父さんの嫌な思い出があるのかな。きっと小菊を嫌うのも、カラスを撃つのも、ちゃんと訳があるんだよね。でも俺、訊かないから。訊いて父さんが嫌な思いするなら訊かない。……俺さ、なんとなく分かるんだ。あの小菊って人の怖さ」

動かなかった大きな背中が緩慢に動き、二つのギラリとした目が和貴を見た。

「小菊と何かあったのか」
久しぶりに聞いた、父親の落ち着いた声だった。

和貴は慌てて首を横に振りながら否定した。
「何もないよ。ただ、いろいろな人から話を聞いたり、秋人を見たりして、そう思った」

あの風呂場での事は何が有っても口に出来ない。誰にも悟られたくない。
あの日の事を思い出すたびに、和貴は体の芯が震え、自分が薄汚い下等な獣になった気がして、やりきれないのだ。
自分を誘い込みたぶらかしたのはあの女なのに、そう思う事も屈辱だった。

「本当に小菊は流鬼なんじゃないかって、この頃思うようになったんだ」

むくりと影が立ち上がり、床を軋ませながら和貴の方に近寄ってきた。
和貴は座ったまま、その巨体を見上げる。影の中から伸びて来たのは毛むくじゃらのごつい手だった。
床のミロク銃を掴みあげると、そのまま健造は和貴の横にゆっくりと腰を下ろした。

自分の父親のはずなのに、和貴の体はひどく緊張して強張った。怖さが半分、嬉しさが半分。
こんな風に健造の方から傍に来てくれるのは、本当に久しぶりだったのだ。

健造は部屋の隅に置いてあった工具箱を、手を伸ばして引き寄せたあと、膝に乗せた上下二連銃のトップレバーを押し、本体を二つに折った。
銃身内にガンオイルを吹き付け、長い“鉛落とし”を突っ込み、何度もこする。いつもの掃除の手順だ。

小さなころの和貴は、腕のいいシシ撃ちとして一目置かれていた父親が自慢で、ずっとこうやって、健造が銃の手入れをするのを傍で見ていたものだった。
鉛落としを床に置いた健造に、和貴はすかさずボロ切れを巻きつけた棒を差し出した。これでこすって銃身内の掃除は完了する。

「和貴」
ひとしきり手入れを終えたあと、健造が口を開いた。

「あ、はい」
「秋人は、普通の子供か」
突然の質問に和貴はうろたえ、答えを探した。

脳裏に、溶けた自転車のチェーンが鮮明に過ぎったが、すぐにかき消した。
ジャキン、と機関部を元に戻し、健造は壁に向かって銃を構える仕草をした。

「……うん。普通……だと思う」

「そうか」

和貴はもう一つ頷きながら、少しだけ息を深く吸い込んだ。のどの奥が、僅かに震える。

父親の構える銃のむこうに居るのは、本当はカラスじゃないような、そんな気配がしてならなかった。



               ◇


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~ Comment ~

NoTitle 

もう自分の事を見ていないと思っている父親が、
庇ってくれたらやっぱり嬉しいものですもんね。
カラス撃ちに憑りつかれたように、
ずっとそればかりだっただけに、
ちゃんと見てくれたのは和貴に取っては大きいかもしれませんね(´ω`)
それにしても、「秋人は、普通の子供か」か。
健造としてはどんな答えを期待したんでしょうね。
答え次第では何かしていたりしたんでしょうか。

ツバサさんへ 

おはようございます~^^

そうなんですよね。和貴にとって、健造はやっぱりたった一人の父親。
奇行が目立って、みんなに変人扱いされても、やっぱり慕っているのですよね(;_;)
和貴も、今までは反抗的な見方をしていた部分もあるんですが、もしかしたら父親のやってる事は、あながち間違ってないんじゃないか……とか、そんな思いも出て来たのかも。
健造の質問にはちょっとビビってましたが^^;
この親子の今後も、また注目してみてください♪

こんにちはー\(^o^)/ 

いつも、どうもありがとうございます(*^^*)
ちょっと今、建て込んでまして(理由はまた後程)
出先から
携帯でコメントです(  ̄▽ ̄)\
(さっき記事も携帯で書いたけど、めっちゃ大変だったー( ;∀;))

なんか、銃の手入れをすると云うあまりほのぼのとした状況では無いというのに
いつも殺伐とカラス打ちをして、少し前まで身の毛もよだつ恐ろしい咆哮をしていた健造が
人間らしく父親らしく息子と話をするシーンは、なんとなくホッとするという摩訶不思議な印象を醸し出してますね( ;∀;)
それにしても、limeさん銃の知識がすごい!
博識ーー( ☆∀☆)

がじぺたさんへ 

かじぺたさん、プチご無沙汰しちゃってごめんなさい><
え、なにかあったんですか? 良い事ならいいんだけど!

私もいまだにスマホで文字を打つのが苦手なので、すごくわかります><
それなのに、コメントくださってありがとう~~( ;∀;)

猟銃はね、私が小さなころすぐ身近にあったので、けっこうなじみ深いんです(撃った事はないですが←そりゃそうだ)
そしてここのシーン^^
今までが今までだから、親子の会話ができて、ちょっとしみじみムードがありますが……。
この2人の親密度が増すことで、物語の流れが少し変わって来るかも。

次回は、ついに飛田と小菊のご対面です(*´ω`)

NoTitle 

普通の子どもか・・・・。
言われて傷つく言葉かもしれないですね。
何をもって普通とするか。
その定義が難しいですからね。
大人でも難しいのに、子どもに聞かれたら困惑しますわな。。。

LandM さんへ 

ほんと! まったくそうですよね。普通って何w
でも、これでちゃんと会話が成立してしまうところが、恐ろしいところです。
明らかにこの村には、普通と、それ以外が居るって事を前提にしてますもんね。
さあ、秋人は、普通の子なのでしょうか……。

NoTitle 

カタストロフが迫ってきましたねえ……。

おろおろしながら見ているほかないのはつらい😰

ポール・ブリッツ さんへ 

いつもありがとうございます。

なんか、とんでもない……というか、ああやっぱりというか、そんな方向に行くかもしれませんが、生温かく見守ってやってください><

NoTitle 

普通の親子の関係ではとうていないのでしょうが、普段がアレなだけにこれくらいのふれあいでも和貴は嬉しかったでしょう。
健造の方はどんな気持ちなのか、ちょっと解りませんね。一瞬の間だけ精神が落ち着いた、というだけなのかも。
やはり傍に居る人間は気にはなりますから。
でも本当の息子に向ける感情が見えているようにはまだ感じられません。
これからすこしづつ・・・なのかな?。
ただ、気になっている事だけはちゃんと質問していますね。
普通じゃないと、サキは思うんだけど・・・。
健造の照準の向こうにはあの2人が見えているのでしょうか?

山西 サキ さんへ 

サキさん、こんばんは~。
今回は、何だか少し親子のような関係性が見えたような……。でも、サキさんのおっしゃるように、健造の本心がまるで見えませんよね。
物語の中盤では、健造の視点が一回あったんですが、あの頃よりも精神が破たんしてるようにも見えますし。

和貴は秋人が普通といいましたが、健造がそれを信じているのか。そして、和貴は本当にそう思ってるのか……。

みんな、欺瞞だらけです>< いったい、何が真実なのか。(なかなか進まなくてごめんなさい><)

でも、次回はついに、飛田と小菊のご対面になると思います。ちょっと、予想外な事実が分かるかも^^

NoTitle 

こんばんは。

そうか。前の建造のイメージでいたので、なんかこうやって話す方が珍しいほど精神が崩壊していたんだっけと思うと怖くなりました。「〇〇いに刃物」っていいますけれど、猟銃はもっと危険だし。免許がどうのこうのという問題以前に、取り上げた方がいいんじゃないのと思いますけれど、田舎だとその辺も放っておいてもらえるんでしょうかね。

ふと思ったんですけれど、和貴もとても寂しい境遇にあるんですよね。秋人はお母さんはああでも、少なくともキヨという存在があるけれど、和貴は健造がおかしくなってしまうと、本当に誰もいないのですよね。ううむ。こういう状況で、得体の知れない親子と対峙するのって怖いだろうなあ。

飛田の新しい動き、新展開に期待してます。

八少女 夕さんへ 

おはようございます^^

そうなんです、以前、健造視点で一度語らせたことがあるんだけど、あれから数か月、健造はさらに自分の殻にこもってしまっているみたい。和貴も、父親の事を少しばかり恐れているようです。

そうそう、こんな人間に猟銃持たせて、ここの村人は何も言わないんでしょうかねえ^^;
まあ、健造が敵意を向けてるのはカラスと由良家なんだと、村人は思い込んでるし、もし警察にチクったことがバレテ、逆に恨みを買うのは得策ではないと思ったんでしょうね。
実際、田舎に住んでいた頃は本当に、何考えてるのか分からない不気味な人間がたくさん居ました。
でもあまりそう言う奇行に干渉したりしないんですよね。またあいつか……みたいな。今考えても、怖いなあと思うんですが。

そうなんですよね。和貴の境遇はとても辛いもので。健造以外に頼るものはいないし、そして半年前まではそれでも尊敬していた父親なんですよね。秋人が来た時は素直に嬉しかったと思うけど、今は、逆に……なのかも。
健造だけでなく、こんどは和貴の精神も危ぶまれますが。
由良家との対峙。いったいどうなりますやら……。

次回はついに、飛田と小菊のご対面です!

うむ 

ここは短いながら、物語のかなり重要な転換ポイントみたいな気がします。和貴の気持ちは、秋人のことについてはまだ揺れ動いているようですが、健造がこっちを見てくれたことについて気持ちは傾いていますよね。やっぱり強がっても子どもなんだなぁ、そこを上手く表現されているなぁと思いました。短い会話の中で和貴の気持ちが痛々しく伝わってきます。
うぅむ、しかし、健造はまだ隠し事がありそうだし、もしかして秋人の○○は……(勘ぐりすぎか)

でもやっぱり、中学生くらいの少年の揺れる心を書いたら、limeさんはさすがです。この和貴の気持ち、しばらく味わっておきたい気がしました。
あ~でも、こうなると、ちょっと不気味ちゃんになっている秋人の動向が気になります。飛田はどうするんかな。え?小菊と対面? 何が起るのやら。

大海彩洋さんへ 

こんばんは~^^

ゆらゆらと揺れてる和貴の気持ちを汲んでくださって、うれしいです。
そう、ここは地味で短いけど、物語の大きな転換ポイント!(大海さんの言葉そのままやんw)
今まで理解不能で腹を立てていた父親に、わずかに歩み寄れて、和貴は実際素直に嬉しいんじゃないかと思います。(でも、やっぱり怖い部分も大きいみたいですが><)そこんとこ、ゆらゆら。
さあ、この親子の関係性が、この後どうなっていくのか。そっちもきっと、大海さんは言わなくても注目してくださるような気が……。
いつも焦らすlimeですが、ちゃんと健造の過去に何があったか、分かるシーンをご用意しています。
秋人のことも、分かるかも^^

やっぱり13歳前後の少年少女って、書いてて一番気持ちが入るというか……。
その繊細さ、あながち幻想ではないですよね。
フィクションではあるんだけど、リアルな部分もどこかに感じ取ってもらえたら嬉しいなと思っているので、とてもうれしいお言葉です(;_;)

そうそう、やっぱり由良家の面々の本性が気になるところですよね。
もはや普通の家族でした、なんてことにはなりようがないのですが……。(ああ、ラストに近づくにつれ、胃が痛いw。良くも悪くもlime小説だなあ><……)

はい、次回はたぶん、飛田と小菊のご対面まで、行けるような気がします。
また新しい真実が、ちらっと見えるかも。(災いともいう??)


NoTitle 

むー…危ない父親の感覚に和貴の感覚も近づいた、そんなエピソードにも見えましたが、建造の胸中や由良家の真実が分からないと何ともいえませんね><;
蓋を開けた時には建造が一番正しい行動をとっていた…なんてこともありそうです。
早く次が読みたいなー(←と、たまに急かしてみるw最近ご無沙汰なのにすみませんww)

夢月亭清修さんへ 

夢月亭さん、こんにちは。
そうなんですよね~、この物語、いったい誰に肩入れして読んでいいのか、ちょっと迷いますよね。
和貴と飛田は、常に真っ直ぐ前を向いて来た感じだったのですが。
和貴と健造がガッチリ組むと、それはそれで怖いような……。
みんなダークなのか(笑)

蓋を開けるときは、いったいいつなのか。本当に危ない奴は、だれ?
ここは読者様の勘で、読んで行ってください><
答えは……とんでもないものになりそうですが。

続きへの期待、とっても嬉しいです。いやいや、ちっともご無沙汰じゃないですよ。
私だってもう月に2~3回しか更新していませんし(;´・ω・)

またどうぞ、思い出した頃に覗いてみてやってください(*´ω`*)
ありがとうございました!
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