流 鬼  《連載中》

流鬼 第17話 帰巣 (1)

 ←(イラスト)もう3月。鶯の声も^^ →(イラスト)久々に春樹
「13年? 何の事でしょう」

飛田は問いかけたが、老人はすっかり自分の思考の中に埋没してしまったようで、聞いてもいない風だった。けれど左手だけは無意識なのか巧みに動き、右手に少女の写真を握ったまま、落ち葉除去を続けている。
飛田はすこし話題を変えてみた。

「いつも綺麗にされているんですね。ここはずっと、あなたがお一人で?」
竹の熊手には、宮野、と黒いペンで名が書かれている。この老人の名だろう。仕事上の癖で飛田はその名をしっかり記憶に留めた。

「持ち回りだよ。上夜千代は若いもんが少ないからな。まつりごとも年寄りの仕事になる」
「祭りの準備なんですね。だからこんな立派なかがり火台が置いてあったんだ」
「ああ、今晩から明日の晩に掛けてな。祭りって言っても、火を前の晩から絶やさんようにして、交代で守りするだけの地味なもんさ。本祭の夜には隣村から神官に来てもらって祝詞あげるが、派手なもんじゃない。ここに宿る魂が荒ぶる神にならん様に祈る神和ぎだから」

「へえ……。僕も立ち会っていいですか、その本祭」
「よそ者が見たって何も面白いこたあねえよ。それでもワシらの若い頃はもっと派手な櫓組んでクスノキの炭と薪で盛大に火を焚いたもんだ。火柱はここのご神木より高く昇ってな。祭りの間はそりゃあカラスが狂ったように騒いだもんさ。ここのカラスは須雅様そのものだ。少々悪さしても、なかなか撃ち落とす気になれないのもそのせいさ」

少し饒舌になってきた宮野老人は、気が済んだのか握っていた少女の写真を飛田に返した。
写真のしわを伸ばし、飛田はもう一度そこで話を本題に戻してみた。祭りの話には、それほど興味はなかった。
「小菊さんって、有名なんですか?」

宮野老人はハハッと笑う。
「そりゃあね。知らんもんはいないね。この神社の祠ん中から拾われた赤ん坊だし。弱りもせず泣きもせず入ってたもんで、鬼の子かって騒ぐ奴もいてな」
飛田の胸に何かが刺さった。

「この祠から?……ここに捨てられていたんですか? なんで? 親は?」
「さあもう何も喋らねえ。それこそなんか変なもんに祟られるわ」
老人が再び笑う。

「だけど……ひと月前この村に通りかかった時、店屋の女の人や学生にこの写真見せて訊いたんですが、知らないって言われましたよ?」
「店屋の女の人? ヨシ江さんかな。あの人は口から生まれたみたいに喋り魔だけど、小菊の事は怖がってるし、よそ者には喋らんだろうね」
「中学生か高校生くらいのガッチリした男の子は?」
「和貴か? カラス撃ちの健造の子さ。それこそ喋らんだろう。……さあ、もうおしまい、おしまい。くわばらくわばら」

宮野老人はおどけた様子で掃除用具を片付け手に持つと、飛田に背を向けた。
喋りたい気持ちと警戒する気持ちとがせめぎ合っているようにも見える。

「あの……。もう一つだけ。小菊さんに会いたいんです。どこに行けば会えるかだけでも教えてもらえませんか」
もう10メートルほど先を進んでいた老人は、渋い顔で振り返った。

「やめた方がいい。13年目に当たる年だしな。面白半分に近づくとあんたも食われるぞ」

それは妙にゾッとする響きを残し、飛田の耳に刺さった。
―――あんたも食われるぞ……。
それは『根岸が小菊に食われた』という事なのだろうか。

「まさかね」
そうつぶやいたが、笑い飛ばせない余韻がまとわりつく。
この森には思いもよらない事が起こっても不思議ではない、そんな空気が漂っている。

ふと気配を感じ頭上を見上げると、木々の枝を軋ませて止まっているおびただしい数のカラスがこちらを見下ろしていた。
いままで気配すら感じなかったのに。
体中が総毛立ち、飛田は努めて素知らぬ顔で来た道を折り返した。

―――食われる。

そんな馬鹿げた恐怖を感じたのは、その時が初めてだった。


              ◇


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~ Comment ~

NoTitle 

祟りじゃー。
、、、という物語ですよね。
喰われるのはありそうですよね。
やはり田舎だと多いでしょうし。
この伝承の真実とか明かされるんですかね。
楽しみです。
(  ̄ー ̄)ノ

こんばんは~。 

食われる?小菊に?
なんかこの物語の最初から抱いている(抱かされている)イメージ通りの言葉でした。
彼女がこの世の物と思えないくらい美しいので余計に恐いです。
少しずつ小菊達の様子を調べ上げていく飛田、さすが探偵だなぁ。
13年目もまだ謎のままですが、いったいどんなふうに展開されるのでしょう?
見下ろすカラス達も、なお怖ろしくなってきました。
本当に馬鹿げた恐怖なんでしょうか?
今まで半信半疑でしたが、いよいよ小菊は人間じゃない・・・そんなふうに思えてきました。

LandM さんへ 

こんばんは~。
犬神家とか、そういう怖いのは見たことも無いのに、なんかこんな感じの書いちゃってます。
食われるってなんか怖いですよね。
食われて死ぬのはいやだなあ><

さあ、真実はいかに。
また、のんびりお付き合いください^^

山西 サキ さんへ 

こんばんは~^^
やっぱり小菊って、普通の子のイメージ無いですよね><
(友達殺す時点で、ぜんぜん普通じゃないしw)
まだ隠された真相はあるみたいなんだけど、飛田はそれを探ることができるんでしょうかねえ。
ちょっと頼りないけど( ;∀;)
(飛田、食われてジ・エンドになりませんように)
何十羽のカラスに見下ろされたら怖いだろうなあ……><
カラスは人の顔を覚えるし、目を合わせちゃいけないって言いますよね。
カラス。この後も沢山出てきますので、よろしく!(なにをよろしくするんだろう…)

いつも続きを読んでくださって感謝です!
じわじわ攻めていきますので、またどうぞ、よろしくお願いします^^

NoTitle 

こんばんは。

くわばら、くわばら。
爺さん、結構喋ってくれましたが、さすがに居場所は教えてくれなかったか。でも、ここまでわかれば、たどり着けるかしら。

「食われる」って文字通りの意味や「祟られる」的な意味よりも、もっとアブナい想像しちゃいました。もっともそういうのを全部含めているのかしら。

十三年という周期も氣になりますね。西洋だと普通に「不吉な数」ですけれど、日本の神社や古い村などだとそういう十三じゃなさそうだし。どっちにしてもカラスの大群は怖いです。東京でも逃げたくなりますよね。

あ、でも、こっち、カラスを殺して案山子代わりにぶら下げておくんです。それも「ひぇ〜」です。

八少女 夕さんへ 

爺さん、けっこう喋ってくれましたよねw
いいのか、おい、って、ちょっとツッコみそうになりましたが、こういうキャラも必要です(爆)
飛田が、無害なイメージを上手く醸し出したんだと……思ってください><

そうなんです、小菊の名前や「鬼」という言葉が聞ければもう、あとは大丈夫ですよね。
核心に迫れるかが問題ですが。(小菊に会っても、謎はとけそうにないですし)

そうそう。喰われるっていう表現も、いろいろですもんね。夕さんが言葉を濁した「あれ」も、含まれそうですし。
きっと飛田の脳裏にも、浮かんできてるでしょう。
根岸の顔と共に。

13という数字、ココでは全くのオリジナル。そして、けっこうあやふやな数字でもあります。
あまり深く考えずに、この辺は読み飛ばして大丈夫。
ここで注目すべきは……やっぱり村人と健造と由良家の面々かな^^

子供たちが、いろいろ謎を解く鍵になっていくはずです。
飛田に頑張らせますので、またどうぞお立ち寄りください(*´ω`*)

おはようございます(^^) 

なによりもまず、タイトルが怖い(@_@) 帰巣って、な、何が帰ってくるの~とびびりながら読んだら、また、じいさんの中途半端に煽るような言葉がいちいち引っかかるようになっていて、誰か(何か)のお帰りを待っていいのか、いや、逃げた方がいいのか、と飛田の身を案じちゃいました。

本当の小菊がどこまで不気味か、ということは置いといて、「自分はそんなことはない」と思っている人が絡み取られる心理ってのには興味が湧きますよね。あ、和貴はまぁ、年齢的にしょうがないなぁ~ってのがありますが、ここで飛田が目的を忘れて小菊に食われたら……・それはそれで、ま、ありか、とか思っちゃったりして。でもそれだと、根岸氏の謎はそのままに……頑張れ、飛田! こっちが食うのもありだぞ!(あ、励ましになってないか……)

大海彩洋さんへ 

こんにちは~^^
このタイトルねえ、じつは大海さんとのやり取りから思いついたんですよ。
ココにまた別の何かが帰って来るって意味じゃなくて……ほら、あれですよ、お魚さん^^

物語は本当にシンプルな構造になってるので、何も深く関変えずに、本能のままに読んでくださるほうが謎が解けやすいかも!
小菊が不気味なのはもうこれは不動のものですが(笑)、彼女を探る飛田のビビりも、感じ取ってもらえてうれしいです。
(飛田も、あの写真撮ってから小菊に目をつけられてますもんねw)
そうか、こっちから食う! これもなんか、阿鼻叫喚な迫力のあるシーンになりそうでゾクゾク(何が描きたいんだ!)
さて飛田さん、食われずに謎を解くことができるのか!
楽しいコメント、ありがとうございました(*´▽`*)

 

絶対limeさん大技トリックを仕掛けてくるだろうからなあ。

ここは素直にクライマックスの予想外の展開を楽しむことにします。

憶測しだすととどまるところを知らないタイプなもんで(^_^;)

ポール・ブリッツさんへ 

いやいやいや。
本当に今回は何のひねりも無いんですよ。
でも、ひねりの無い部分に、何かを感じてほしくて。

何にも考えずに読むのが一番です(*´ω`*)。そもそもミステリーでも何でもないですし。

(ホラージャンルには入れたらいいなあ…)

NoTitle 

情報を得たのか得なかったのか。
食われる……これは情報なのか。
気になるキーワードも出てきて、わくわくです(←なんか感覚違う?)

さあ、飛田と小菊との直接対面は近いのか遠いのか。
いあ、その前に、少年たちとの対面ですかね。
でも今、和貴と秋人の関係が微妙だからなあ……

まだまだ緊張、続きますね。
飛田の関わりに大いに期待しています。

NoTitle 

食われるというのが、
いったい何を指すのか気になるところですね。
物理的に食べられるのか、
それとも魂でも食べられるのか。
まだまだ小菊の正体の全容も見えてきませんが、
下手に真相に触れようとすると火傷では済まなさそうですね^^;

けいさんへ 

そうそうそう。

なんか、お爺さんからいろいろ情報得たみたいに見えるけど、それって有力情報なのか、そうじゃないのか・・・。
けいさんったら、するどい!
進んだようで、ちっとも進んでない飛田さんでした(爆)

そうなんです、やっぱり和貴たちと飛田を早く会わせなきゃね。
何も進展はありません。
あの二人の関係は、これからどうなっていくのか・・・。

もう言わずと知れた亀更新ですが、またゆるゆると、飛田探偵を応援してやってください><
ありがとう~。

ツバサさんへ 

ツバサさん、こんばんは~^^

そうなんです、食われるっていうワードがねえ。なんか不気味に思えますが。
これは単にこのお爺さんの勝手な想像なのか、そうじゃないのか……。
食って言うのも、いろんな感覚の比喩ですもんね。もしかしたら、男女のあれとかも、そうなのかな……。

そうそう、下手に触ると火傷じゃすまないかも。
根岸の二の舞にならなきゃいいけど><

コメント、ありがとうございました!

NoTitle 

こんなあちこちに時系列が飛び複数の視点のあるひねくれた話を「単純にまとめる」っていう行為を「大技トリック」っていうんですよ(^^;)

正直なところどうまとめるのかさっぱり見当もつきません。

お手並み拝見というところです。

ポール・ブリッツ さんへ 

(;'∀')
単純にまとめるというより……強引にまとめるという感じかな……。

「なんだ、そう言う事か」って呆れられそうだし。

でも、いいんだもん(; ̄^ ̄) とりあえず最後まで書きます!

救いは一個も無いお話だけど><

こんばんは~~(^0^*)ノ 

13年目には何があるんでしょう・・・・・・
老人は、やっぱり知ってるんですよね?
不気味だなあ~~~(;▽;)
見下ろす、夥しい烏・・・・・・
ヒッチコックの「鳥」を思い出します・・・・・
怖かったなあ~~あの映画(子供だったから尚更ね(^^;))

何が起こるんだろう??
怖いのに、なんだかワクワクしちゃいます(^^*)\
オバケ屋敷に入る前みたいな??・・・・・

かじぺたさんへノ 

かじぺたさん、こんばんは~^^
今回も、進んだようで進んでなかったかも!

ヒッチコックの鳥の怖さ、鳥好きでもゾッとしますよね。
ここのカラスはヒトも食いそうな勢いですし><

じわじわですが、確実に怖い展開が迫ってる…と思います。
お化け屋敷、いっしょにはいりましょう~~^^

NoTitle 

13年の謎は引っ張りますか……そうですよね~笑
飛田の立ち合う祭りで何かが起こりそうな予感……

なんとなくですが、この物語のエピローグは誰の視点になるんだろう? と興味深々です(^^)
和貴なのか、飛田なのか……
どっちか死んでしまいそうな気がしてます。笑

夢月亭清修 さんへ 

ひゃあ~、すびばぜん~(すすり泣く)
13年は引っ張ってしまいました~ww
(実はそんなに引っ張るほどの者じゃないんですが)←こっそり

そう、9月30日。何かが起こります。
あともう少しです。ふふ。

おお……。エピローグ。
そう……。きっと全員そろってはいないと思われます。

たぶん意外な人の目線で終るはず。黒いあいつ??(そんなまさか!)

夢月亭さんの鋭い推測に、ドキドキです(;´Д`)
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