流 鬼  《連載中》

流鬼 第14話 憤りと困惑(2)

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キヨが奥のふすまを開けると、まだ濡れた髪を手ぬぐいで拭いながら、鏡台に座る小菊のうしろ姿があった。
須雅神社の祠の中から拾い26年が経つが、その肢体はなお10代の娘のようにたおやかで、可憐な花を思わせる。

けれどこの白い薄衣に隠された体や精神は、人に易々と触れさせない呪いが施され、気に障れば母親の自分も、自らが生んだ息子でさえも容赦なく引き裂いてしまうのではないかという、馬鹿げた恐れが時折キヨを襲う。

追い打ちを掛けるように村の連中はこぞってこの娘を伝説の流鬼の末裔だという。
事実か浮説か。はるか昔にこの村に流れ着き、村人を気分次第で手も触れずに取り殺してしまったという鬼。

それらを馬鹿らしいと笑う事が出来ればどんなに楽だったろう。
しかしながらこの娘には気分次第で人を物のように壊していた時期が、確かにあるのだ。

鏡の中に映ったキヨの目を、小菊が見つめる。
振り向かずに小菊は口の端で笑った。

自分たち親子はまるでこの鏡越しの関係のようだと、キヨは思った。
映り込んだ虚像だけ見て、その本体から目を背ける。
家族とはいったいなんだったろうかと、ふと奇妙な笑いが込み上げる。

「ねえ小菊。さっき、和貴が死にそうに青い顔で飛び出して行ったんだけどね」

キヨは静かに鏡の中の小菊に言ってみた。

「ああ……。たくさん汗をかいて、可哀想だったから流してあげたの」

「秋人の背を流してやったこともないのに?」

「秋人はあんなふうに汗をかかないわ。人間の子って、汚らしいのね」

「和貴に、わるさしたのか?」

その質問に、小菊が含むような笑い声を出した。
キヨは眉を顰める。

「秋人とはまるで違う、骨の太い体をしてるの。肌はよく陽に焼けててとても硬い。それから血の匂いがした。健造の子だから当然よね」

「健造が撃ったカラスの血?」

「それから12歳の私が流した血」

小菊は笑うのをやめた。

「小菊は健造をどうする気? あの男が憎いのは分かるけど、和貴は違うでしょう。和貴を痛めれば、秋人が悲しむよ」

「同じよ。血は受け継がれるもの。健造の血も和貴の血も、同じ」

「秋人とお前の血が同じように?」

「心配しないでいいよ、キヨ。今はなにもしない。体の調子が良くないし、他にやることがあるから。すべて終わって、またここを出ていく前に、いらないものは全部片付けるから」

小菊は、緩く体を纏った白いワンピースの腹を、そっと抱くようにした。

―――和貴はその腹のわずかな膨らみに気づいただろうか。

キヨはふと思った。

いや、それを感づかれるのは小菊も良しとしないだろう。
歪んでひずんで軋んだ血の結晶だ。

キヨは白く滑らかな指と、その指が撫でている腹を見つめながら、胃が絞られるような感覚を味わっていた。
底知れぬ恐ろしさと、得難い神を手に入れる前のような、相反する感情に血がざわめく。

「あとひと月もすれば祭りだね。またかがり火が焚かれる。体調が良くなったら、行ってみるかい? 小菊」

風通しに開けていた障子の隙間から外を見ながら、キヨは言ってみた。
普通の母と子の会話をしているうちに、その胸のざわつきはいつも、次第に薄れるのだ。

「そうね。もうじきまたカラスが騒ぎ始める。私もちゃんとお参りに行かなければ。村の連中のいない時に、連れて行ってくれる? キヨ」

小首を傾げ、清らかな日本人形の目をして娘は訊いて来る。

キヨはふたたび、いくつも混ざり合った感情が沸き上がるのをなだめつつ、頷いてみせた。





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~ Comment ~

こんばんは~ 

キヨと小菊の会話って、本当に腹に一物、じゃなくて何かを隠しながら、上滑りしているようで、値の見えない部分が怖いというのか、今回はずっとそんな雰囲気でしたね。この二人の「親子」関係、そしてこの二人にとって秋人はどんな存在なのか、そして秋人の方でもどんな想いなのか。家族とか親子とか単純に言えないのはもちろんだろうけれど、どこかに情愛みたいなものも残っているのかなぁ。そのあたりが逆に気になるのでした。

小菊の腹……えっと、今度はどこの誰と? いや、この村にはもしかして、出産のために帰ってきているとか?? まるでそれじゃあシャケ? でもここが鬼のふるさと、ならありかも~とびびっているのでした。
健造とのあいだにも何かあったのですね……う~む。

寒くなってきましたが、風邪は治りましたか? 今年はいろんなものが早くに流行し始めているみたいなのでお互いに気をつけましょうね……(^^)

大海彩洋 さんへ 

大海さん、さっそくありがとうございます!
遅々として進まない物語ですが>< そう、この腹を割って話さない母子。小菊と秋人も、キヨと秋人もそうですよね。
探り探り、というのが一番近いかも。
何を探ってるのか……。それがもしかしたら愛情なのかもしれませんね。

大丈夫、最後まで探り合わせはしません。いつかどこかでガチャンと枷が外れて……来るはずなんだけど、その役を担うオッサンがまだ現れません><

あと、和貴と健造の親子も、なかなかまだ探り合いデス。
物語は終盤に近づくのに、こんな感じですみません。今までで一番難解な物語になる・・・??

いや、実は笑えるほど単純な、でも哀れな物語なんです。

また、忘れた頃に現れますので、どうぞお付き合いくださいませ(*´ω`*)

あ、風邪は治ったんですが、耳がどうも中耳炎っぽい><
病院に行く間が無くて、なんかやばそう。
週末は行かねば……。ああ、耳鼻科キライ~><

明日は寒くなりそう! 大海さんもお気を付け下さいね^^

※あ、描き忘れた! そうそう、小菊の腹のことも触れてくださいましたね。
うん、鋭い。もう、ほぼバレタ感じですね^^ 小菊の帰省理由~。

NoTitle 

キヨが小菊を拾ったのが26年前。で、12歳の小菊が××されたのが14年前。とすると、いま14歳の登場人物といったら誰だ……。

そして今の小菊を妊娠させることのできるごく身近にいる男っていったら、和貴だけじゃあないよなあ。男いうものは能力さえあれば妊娠させられるもんなあ。

小菊の生みの親は誰かいな、という話にもなるからなあ。母親はいいとして、父親はなあ。

「モルダーあなた疲れてるのよ」

NoTitle 

こんばんは。

わぁぁ……ぞくぞくしました。
なんだか小菊の会話は、色々含んでいるようで読んでいて気持ちが落ち着かないです……!

和貴を人間の子とわざわざ呼ぶのは……。
一話の冒頭を思い出すと色々勘ぐってしまいます。

だんだん色々なことが明らかになってきましたね!
続きを楽しみにしています(^^)/

ポール・ブリッツさんへ 

うん、これねえ~、逆算してみると、13と14という数字が、いろいろややこしいんですよ。
12歳の小菊が××したのが14年前……とすると、妊娠期間含めて、その子供は今13歳。
そしてこの物語の中で、しきりに14年前を示す事件と言えば・・・。

って感じに、簡単に謎は解けて来るんです。

ふふ、謎解きするまでもないお話なんですが、主題はそんなところには無くて。

そして、そうそう、小菊を妊娠させられるのは和貴だけじゃないですもんね。ふふふ。

スカイさんへ 

スカイさん、おはよう~。
続きを読んでくださってありがとうございます^^

ぞくぞくしてくださってうれしいなあ~(;_;)
そう、小菊とキヨの話の内容は、すごくうわべだけになってるので、意味不明な部分が多いんですが、
ここは小菊の怪しげで、色香を含んだ感じだけが伝わればいいかな~と思いながら書きました。

「人間の子」発言、注目してくださって嬉しい^^
何を思って小菊がそう言ったのかは、今は分からないと思うのですが、ただならぬものを感じてくださるとうれしいな~。

まだいろいろスッキリしませんが、この親子関係も含め、みんなの本心がいつか分かると思いますので、じわじわと辿って行ってやってくださいませ^^

いつもお立ち寄り、ありがとうございます!!

こんばんは。 

キヨと小菊の会話は怖いですね。
腹に一物あって・・・とかではなくて本人たちにとってはかなり率直で辛辣な会話なんでしょうけれど、読者にとっては事情が分からない分とても上滑りに聞こえてしまう・・・そんなふうに感じました。
意味深な比喩や、たくさんの謎を含んではいますが少しも解が見えない。
健造にもたくさんの謎があるみたい。ということはそれは和貴にも繋がってくるののですね?
小菊はキヨに対して、というより人に対して完全に上から目線だし、人(男?)に対して自分の美貌の使い方も充分に理解しているし。小菊が何をしようとしているのか確かめずにはいられません。
お腹のわずかな膨らみ?父親は?いったいどうなってるんだろう?
村の連中のいない時にお参り?小菊は何のために行くんだろう?
飛田さんは何をしているの?
いつものことながら疑問がいっぱいです。

NoTitle 

「秋人はあんなふうに汗をかかないわ。人間の子って、汚らしいのね」
↑うわぁ…このセリフが一番真実に近い気がしてゾッとしました。
(いやいや、またこちらの妄想が暴走しているだけの話ですが…w)

山西 サキ さんへ 

サキさん、続きを読んでくださってありがとう~~^^
そうなんですよね、今回は重要な会話部分になるんですが、二人が何の事を言っているのか、読者様にははっきりと見えてこないかもしれません。

この部分を、すべてこのお話を読んでからもう一度読むと、きっと二人の心情とか欺瞞が見えてくると思うんですが。
そう、この小菊の上から目線も、大事な要素の一つ。
小菊の腹の膨らみも。(ちょっよこの頃太っちゃった?ってオチじゃないと思うw)
健造の事も、お祭りの事も、秋人への感情も・・・。

そうそう、飛田は何をしてる?

飛田が村に再訪してから、きっと物語はまた動き出すと思います。もうしばらく、お付き合いくださいませ。
いつもありがとう><

夢月亭清修さんへ 

夢月亭さん、続きをよんでくださってありがとうございます!

ふふふ、そこに目をつけてくださってありがとうございます。
なんかサラッととんでもない事を言ってる小菊ですがw

この言葉の裏の裏を知ってるのは、キヨだけなのかもしれません。
2人のいろんな想いが入り乱れております。
小菊をネタに、いろいろ妄想を膨らませてくださいませ(*^^*)
その妄想に、真実が勝つか、負けるか!(なんの勝負)

ああ夢月亭さんの濃厚なお話も読みに行きたい><~←かなり好きらしいw

NoTitle 

得体が知れない小菊という存在は、
やっぱり気になるところでもあり怖い存在でもありますね。
「人間の子って、汚らしいのね」という台詞も、
まるで自分が人間以外であるかのようにも取れますし、
本当はどんな存在なのか気になるところです|・ω・`)

お腹の事はやっぱり妊娠だったりして。
でも、妊娠だったら誰との子供なのでしょうか?
それに、いらないものは全部片付けるという言葉も気になりますし、
終わったら何をするつもりなのか気になるところですね。

ツバサさんへ 

ツバサさん、こんばんは。続きを読んでくださってありがとうございます!

今回も含みの多い会話ばかりで、「分かるように話せ!」って皆さんにキレられないかとひやひやしましたw
そう、「人間の子は」発言、気になりますよね。
じゃあ小菊や秋人は・・・?って感じで。

そして、お腹です。(食べ過ぎで太っちゃった…とかだったら座布団投げていいです)
孕んでるんだとしたら、だれの??ってなりますよね。
それもいずれ分かってくると思います。

この後の小菊の予定は……いったい何なんでしょう^^;
この物語のラストは、多分私の小説の中で一番、とんでもないものになりそうです><

NoTitle 

こんばんは。

すっかりと遅くなってしまってすみません。

今回の小菊はいろいろと怖いことを言っていますね。
まだ真実は私にはさっぱり見えてこないけれど
「12歳の私が流した血」
ってところが氣になります。

このお話のポイントである秋人が生まれるちょっと前の「事件」の頃だし、なんか確信っぽい?

でも、建造は生きているということは、小菊も簡単に誰でも死なせることができるわけでもないのかしら?
それとも何か理由があるのかも。

でも、小菊は自分で、自分と秋人は人間ではないという認識なんですね。じゃあ、なんなんだろうな。

なんて訊いてもここでlimeさんが答えるわけはないんですけれど。

というわけでおとなしく続きを待つことにしますね。

八少女 夕 さんへ 

おはようございます~。
いえいえ、ちっとも遅くなんてないですよ。
2週間も更新の間が空いてるので、ゆっくりおいでください^^

わたしこそ、このところバタバタしてて、なかなか時間が取れなくて。
ブログも閑古鳥が><
またゆっくりおじゃましますね。

おお~、夕さんはそこに注目してくださったんですね。
そう、今回はじつは、いろんな重大発言があるんですが、その謎が解けるのはもっと、ずっと後になります。

健造と小菊の関係も、ちょっと微妙なものかも。
でもこの二人の関係以外は、すごく単純な事なので、皆さん何となく感じてることが、たぶん答えなんじゃないかと…。

はい、なかなか進まない物語ですが、またのんびり見てやってくださいませ^^
ありがとうございました!

NoTitle 

こんにちは。
いやあ、見た目が美しいから余計に怖い小菊。
繁殖が目的のエイリアン映画なら見た目で怖くてギャー!!だけど、このお話はじわじわ怖くなってきております。分からない怖さがじわじわ。
じわじわのマダムです。

マダム猫柳さんへ 

マダム~、おはようございます!
続き、よんでくださってありがとう~^^

今回は、かなりいろんな暴露が含まれてるんですが、この2人の話しぶりではまだちっともわかりませんよね。
なんか、上滑りしてる感じで。
でもジワジワと恐ろしさが伝わったなら、うれしいなあ~^^
小菊がエイリアンだったら……。ちょっといろんな意味で怖いですね。(ある日バリバリっと皮を剥いで……)

ほんと、この亀更新にお付き合いくださってありがとうございます!

こんばんは~(^0^*)ノ 

小菊はやっぱり人で在らざる者なんでしょうか・・・
12歳の小菊になにか良からぬことをした建造・・・
だとしたら、秋人と和貴は・・・・・

そして、今まさに孕んでいるような小菊は
いったい腹に何を宿しているのか・・・・・

段々パズルのピースが集まってきてはいるけど
まだ、どことどこが繋がるのかは不明な状態・・・
飛田さんは、一体どこで絡んでくるのか??
楽しみです~~o(^^*)o

かじぺた さんへ 

かじぺたさん~、続き読んでくださってありがとう!!

いつもかじぺたさんのところ、読み逃げでごめん><ウナギも鳥も、たのしいい~~ww
またコメいきますね!

そしてそして。そう、今回小菊はさらっと、いろんな重大発言をしました。
でも、一体どこまで信じていいやら・・・。(いえ、小菊はウソをついてるわけではないのです><)

まだまだ、いろいろ回路が繋がらないお話ですが、飛田が戻ってきたらきっと、何とかなるはず。
破天荒な物語ですが、またどうぞお立ち寄りくださいませ(*´ω`*)
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