流 鬼  《連載中》

流鬼 第14話 憤りと困惑(1)

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ただ誰もいない部屋に籠り、畳に転がりたかった。
和貴は無心に自転車を走らせる。

自分の体の中を虫のように這いまわるのが罪悪感なのか興奮なのか恐怖なのかまるで分からず、騒がしい蝉しぐれの中を、ひたすら走った。
甘い花の匂いがまだ微かに鼻孔に残ったままだ。

ヨシ江の店の前に差し掛かった時、数人のおばさん連中が立ち話をしているのが見えた。
うちわを片手にかなり気合を入れて雑談している様子だったが、挨拶する気にもなれず、そのまま脇を全速力で通り抜けようとした。

けれど瞬間ヨシ江と目が合い、甲高い声が和貴を呼び止めた。
「和ちゃん、あんたちょっと大変よ。健造さんが……」


父親の健造が先刻、カラスの駆除をめぐり村の年寄りたちと殴り合いの乱闘騒ぎを起こしたらしい。

「駐在さんが来て止めてくれたんだけどさ、野村のツネさんなんてもう昼間っから酒が入ってるから、ますます暴れちゃって。素手で健造さんに敵うわけないのに」
「何でそんなことに……」
薄々分かってはいたが、和貴は口にしてみた。

「この頃カラスがやけに凶暴化しちゃって、あそこの里帰り中のお孫さんが頭に怪我しちゃってね。自分も目を突かれそうになったとか、食われそうになったとか、揚句には北村さんの生まれたばかりの赤ん坊が死んだのだって、健造さんのカラス撃ちが山神様を怒らせたからだとか、だんだん支離滅裂になって来ちゃって。
健造さんも売り言葉に買い言葉よ。そのうち傍にいた連中もツネさんに加勢しだしてさ……」

やはりそうかと和貴は眉を顰める。

カラスを上夜千代の神の使いとしてきたこの村の年寄りにとって、何十羽、何百羽と打ちまくる健造は狂人でしかなく、災いをそこに関連付けてしまうのも、ある程度仕方ない事だった。

自分の父親が起こした騒動に対して、何と返していいかわからず、ひとつ頭を下げてその場を立ち去ろうとした和貴だったが、その背後で、1人の老女が話し足りないように言葉を続けた。

「でも考えてみたら由良の3人が引っ越して来てからだよねえ、健造さんがおかしくなっちまったのは。元凶はほれ、やっぱりあの小菊なんじゃないのか?」

走り去りながら聞いたその言葉が、ねっとりと和貴の脳の中に染み込んで来た。
“小菊”という言葉に、今日はいつも以上に感情が揺さぶられる。

―――確かにそうだ。奇妙な事はすべて小菊たち一家が引っ越してきてから始まった。

眼底のかすみが薄らいで、さっきまで見えなかった何かがくっきりと見えて来そうな、そんな気がした。


ヨシ江たちの雑談が勢いを増したところで和貴はそっとその場を抜け、自転車を飛ばす。
家に帰り、やっと薄暗い居間に入ったところで、また別の失望を感じた。

どんなに疲れていても銃の管理を怠ったことのない健造が、足元にそれを転がしたまま、大の字になって眠っていた。
普段和貴が触れることも許されない父親のミロク銃が、薄汚れた座布団の横で鈍く光っている。

健造を見ると、ほお骨と顎に赤黒いあざができている。かなりやり合ったのだろう。
気配を感じたのか、薄く眼を開け健造が和貴を見上げた。
ここ数カ月の変り様で、もうすっかり僅かな尊敬すら消え失せてしまったその父親を、なぜか今ばかりは哀れに感じた。

「由良の奴らって、いったい何なんだよ」

小さな声を床に転がる大柄な体に落としてみたが、健造は答えもせずにのっそりと体を起こして立ち上がり、銃をガンロッカーに片付け始めた。

「鬼だ」とでも言ってほしかったのだろうか。
そうすれば今現在の自己嫌悪が軽くなると思ったのか。

馬鹿げた質問に、自分自身が滑稽になり、和貴は半袖の端であごの汗をぬぐう。

その弾みに自分の体に染み込んでいた小菊の甘い匂いが再び鼻孔をくすぐり、和貴は堪らなくなって洗面所に駆けこんだ。

          
             ◇




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今回もあまり展開が無くてごめんなさい~。
こういう地味なやり取りと、行数が、この物語にはどうしても必要なので (>_<)

コメントも書きにくいと思いますので、今回はコメント欄を閉じますね~(*´ω`)
(あ、もしなにかメッセージが有りましたら、拍手コメは開けてあります^^)

次回(2)は、ちょうどこの時間に交わされている、小菊とキヨの会話の予定です。
そしてそのあとようやく飛田の登場で、舞台が動く……はず!

作者多忙にて、なかなか進みませんが、のんびりとお付き合いくださいませ(*ノд`)・゚。



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