小説ブログ「DOOR」

いらっしゃいませ。右側の目次はシリーズ毎に帯の色分けがしてあります。【あらすじ】だけでも覗いて見ませんか?★切なくスリリングに登場人物たちの心の葛藤を描いて行きたいと思っています★イラストや漫画も時々更新♪

(雑記・イラスト)残暑お見舞い申し上げます(*´ω`*) 

☆イラスト・マンガ・水彩画

お盆も過ぎ、ヒグラシの声も聞こえてくるようになりました。
夏の終わりの気配は、いつもちょっと寂し気です。

帰省や仏事や夏イベントで、またもやブログから少し遠ざかっていました。
ご無沙汰しております(>_<)

今年は猛暑かと思えば雨が続いて少し冷えたりと、奇妙な夏でしたね。
皆様、夏バテなどしておられませんか?

年々夏が堪える様になって、健康のありがたみをしみじみ感じます……(;∀; )
サプリメントとウイダーインゼリーが良き友ですw

うちの水色ネコも、すっかりバテバテです。
かき氷b

あ、そうそう、ずーっと改稿を続けていた『ラビット・ドットコム』ですが、ようやく脱稿しました。
セリフは90%書き変え。描写もずいぶん修正して、なんとか読んでもらっても恥ずかしくないレベルになったんじゃないかと(*´ω`*)

さあ、次はどれを改稿しよう。KEEP OUTかな……。26万字もあるけど(´゚∀゚`;)

では、次回からは本腰を入れて「流鬼」に取り掛かります。またどうぞ、お暇な時に遊びに来て下さい♪
(いったいいつ終わるんだ、流鬼><)

うさぎb

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流鬼 第21話 カラスと鬼の棲む森(2)  

流 鬼  《連載中》

「じゃあ、その話を根岸にも?」
飛田は心臓がトクンと跳ねるのを感じた。

「ええ、しました。このあたりの歴史の事を調べてるって言う事でしたから」
「いったいどんな話を……」

「あそこに夜千代村が出来た時からあった、本当にただの昔話ですよ。
あの周辺の山に元々住み、ほとんど人と同じ形をして人に成りすましているけど、本当は気が荒くて、気分次第で人を喰らったっていう鬼です」

飛田は黙って頷いた。米田講師に聞いた、移り住んできた集団の話はまだ出てこない。
女将は少し笑いながら続けた。

「人を食べるというのはいかにも昔ばなしっぽくて笑えるけど、13年周期で子を産んで増やすっていうのはなんだかリアリティありますよね。そう言う数字を出されると怖くなるのは何ででしょうね」

「13年周期」
思わず飛田が声を漏らした。

「ええ、そう、13年ごとに鬼たちは何かの儀式のように子を生み、その子もまた13で子を生み、鬼の血を伝えていく。記憶も知識も恨みも、全部その血の中に伝えていく鬼。それが流鬼。
でもこの単なる昔話の流鬼と、今現在須雅神社で祀られてる流鬼は、ちょっと違うんですよね」

「……別なんですか?」
飛田は更に身を乗り出す。

「須雅神社に流鬼が祀られるようになったのは1900年のはじめに、移住してきた集団との諍いが有った後なんだそうです。
その移り住んできた人たちっていうのが、嘘か本当か、ものすごく怖い集団でね。一見普通で、村の仕事を手伝いながら生計を立ててるんだけど、村人と深く交わろうとしない。不思議な事に10代前半で子を産む女が多くて、50年くらいの間にどんどん数を増やしていったんだけど、まったく……やることなすこと伝説の流鬼なんですよ」

「……じゃあ、もしかしてその大もとの昔話があったせいで、彼らが流鬼呼ばわりされたってこと?」

「ああ、そうも言えるかもしれませんね。でも、その昔ばなしこそが、リアル流鬼の予言だったって思われてたみたいです。神通力を持って、喧嘩相手の村人を殺したって言うのが発端で、村人と対立するようになっていったそうなんだけど。偶然なのか人為的なものか、その移民の人たちは火事でみんな死んでしまったんです。結構な数だったみたいですよ。焼け跡は地獄絵図だったって。
それ以降、干ばつや山火事なんかが絶えなくて、村の人はこれは崇りに違いないって恐れ、須雅神社に流鬼を祀ったんですって。まあ、祀るというより封印と鎮魂の意味の方が近いような気がするんですけど」

飛田はしばらく言葉が出なかった。
米田講師が語ったことの全貌が、これだったのだ。ほんの100年前の話だ。流鬼は夜千代村の人間にとって、昔話などではない。
大昔の民話と、その奇妙な移民集団との関係は、多分無かったのだろう。
けれど、人の中にある姑息な感情が、それをひとくくりにして、「鬼」を作り上げた。

移民の集団は、神通力のようなものを持っていたと言う事だが、もしかしたらそれも村人の言いがかりだったのかもしれない。
書物も残っているはずはなく、そして村人にとって、だぶんその真偽はどっちでもよかったのだ。

ただ移民は邪悪な鬼であり、鬼は退治すべきものであるという図式さえ作れれば、すべて許される。

その、トチ狂った大義名分を掲げ、よそ者の集団を一致団結して焼き払ってしまった村人。
そして、教授の話によれば、初期の須雅神社が燃えてしまったのは、その後だ。
村人が我に返り、遷座させた須雅神社に流鬼を祀ったのは、ただひたすら祟りを恐れての保身のためだ。

―――そんな後ろめたく、痛い過去を抱えた須雅神社の祠宮の中から、小菊は拾われた。

村人の怖れが伝染したかのように、飛田の背筋を冷たいものがザラリと撫でる。

「13年周期……」
飛田の口から再び、その言葉がこぼれた。

よほどこういう話が好きなのか、女将が興味深げに頷く。

「その年月に意味があるのか、偶然の周期なのかは分からないけど、キリスト教始めいろんな宗教で嫌われる数字だから、なんとなく気味が悪いですよね」

飛田は頷いた。13年。あまりにも符号が合いすぎる。あの家族と。

「根岸にも、その話をされたんですね、女将さん」

「多分同じようなことを言ったと思いますよ。14年も前だからうろ覚えですけど。それにあの頃、流鬼の復活だってやたらと上夜千代の知人が騒いでたから、私も調子に乗っていろいろ喋ったのかもしれない」

「流鬼の復活って……」
「須雅神社の祠から拾われた女の子が、人にあり得ない力を持ってるって話で」
「そ! その子の……」

飛田は思わず声を荒げ、女将ににじり寄った。

「その子の話を根岸にしたんですか!?」

女将はさすがにたじろいで飛田を見る。
「飛田さん、その子の事をご存知なんですか?」

「あ……いえ」咄嗟に言葉を濁す。

「もちろん、そんな名指しで教えたりはしませんよ。 だけど、12年前須雅神社で拾われた、絶世の美少女が居るって言う噂の事は、少し話したかもしれませんね。それはもう、この町にも噂が聞こえるくらいインパクトのある話でしたから」

根岸がその話に興味を持ったのなら、上夜千代で少女についての真相を確かめるのは訳もないと思った。
飛田に残したメッセージの中の鬼が、流鬼の事であることはもう間違いない。
そして、それが“小菊”であることも。

根岸は、流鬼であると知ったうえで小菊のあの写真を撮ったのだ。
いったいどんな気持ちで……?

そしてこの世を去った夕刻。
かがり火が焚かれた須雅神社の祠の前でお前はいったい、何者と対峙したのだ。 何を見たのだ。

飛田は鈍く痛む頭を垂れたまま、目の前の机にそっと触れてみた。
けれど14年前、根岸が飛田への最後のメッセージを書いたと思われる古い文机は、黙して何も語ってはくれなかった。


             

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回、過去の昔話が沢山あって、とてもややこしくなってしまいました( ;∀;) 読みにくくてごめんなさい~。
でも、過去の流鬼の伝説は、適当に読み飛ばしてください!
そんなことがあったんだな~~、くらいで(*´Д`)  推理は不要です。

次回は、キヨと秋人の意味深な会話です。
謎めいたこの2人、なにか解き明かす話題を振ってくれるのでしょうか……。



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流鬼 第21話 カラスと鬼の棲む森(1)  

流 鬼  《連載中》

何がきっかけになったのか、突如周囲の木々から無数のカラスが舞い上がり、夕暮れの空に散らばった。

飛田は咄嗟に襲って来た幾重もの恐怖心から喉の奥で言葉にならない声をひとつあげ、路肩に停めた車に乗り込むと急発進させた。

舗装道路に入りバックミラーの中から由良の家が消えても、胸の動悸は少しも鎮まらなかった。
カラス達の異常な行動が怖かったのか、それとも小菊が自分にささやいた一言が怖かったのか。

―――また、わたしを写すの?

しっかりと覚えていたのだ小菊は。 13年前に飛田が腹の大きな小菊を無断で撮り、逃げ帰った日の事を。
まさか、その半年前に須雅神社で小菊を撮った、根岸と勘違いしているのではあるまいか。
そうも思ったが、どちらを想定しても、恐怖で体が震える。

あんなに無害そうな、華奢な女なのに。
あの女はいったい本当に人間なのだろうか。あの小柄な体から滲みだす妖気に似たモノは一体何なのだろうか。

飛田は汗ばむ手でハンドルを握り、とりあえず気持ちを落ち着かせようと、全てを後回しにして篠崎町の宿に車を走らせた。

          ***           

「上夜千代にでも行かれたんですか、お客さん」

人好きのするふっくらした頬にえくぼをつくり、民宿「千鳥」の女将は飛田に微笑んだ。
飛田が部屋に帰ってきてしばらく後、夕食の用意が出来たと呼びに来てくれた時の事だ。

「え……、どうしてわかるんですか?」
「ああやっぱり。飛田さんの車にカラスの糞がたくさんついていましたから」

そうだった、車は悲惨な状況だったと、また一つ厄介ごとを思い出しながら飛田は情けない表情を女将に向けた。
「すごいな、カラスの糞だってすぐにわかるんですね」
「そりゃあね、食べるもんも大きさも、他の鳥と違いますから。特に上夜千代はハシブトガラスが多いし、タチが悪くてワザとそんな嫌がらせをするんですよ」

「女将さん、上夜千代村に詳しいんですか?」
「私も主人も元々は少し離れた“下”夜千代の生まれなんです。小さなころから“上”夜千代には近づくなって年寄りによく言われました。今そんな事を子供に言うと大問題ですけどね。差別だなんだって」

「あの……」
それは思いがけない情報源だった。飛田は前のめりになって女将ににじり寄った。

気を回されるのが嫌で、宿泊手続きのとき女将に伝えていなかったが、実は自分は14年前、上夜千代村で変死した学生の友人で、その死を不審に思って調べに来たのだと、飛田は思い切って言ってみた。
友人がその時泊まったのが、この宿であることも合わせて。
女将はすぐに思い出してくれたようで、あの時は警察の人もここにきて、結構な騒動だったと話しに乗ってくれた。

「でも事故だったんですよね? 14年前にも警察の人に、そのお客さんに思いつめたような様子が無かったか訊かれたんですけど。そんな風に見えなかったし、それに須雅神社の正面のあの崖は、飛び降りて死ねるような険しい崖じゃないらしいし。遺書みたいなものも、結局見つからなかったらしいし……」

遺書という言葉に、飛田は反応した。
根岸の最後のフィルムに写り込んでいた飛田への奇妙なメッセージが瞬時に蘇ったが、あれを遺書と呼べるかどうかは分からなかった。

『飛田 いるんだ、鬼が。もう…… オレ、だめだ。ヤバい事になりそう』
SOSにも取れなくないメッセージだった。……正常な精神状態だったかは別として。

「カラスじゃないかと思うんです」
思い切って飛田は切り出してみた。
「え?」
女将が、愛嬌のある丸い目をさらに丸くした。

「根岸の体にはまだ生きているうちにつつかれたような損傷が無数にあって。……ここのカラスは人を食いますか?」

思いがけない質問に驚いたのか飛田の顔をじっと見つめた女将は、そのあと気の毒そうに答えた。

「さあ。確かにカラスは雑食だし、あそこのカラスは気が荒いとは聞くけど……まさかそんな」
「ねえ女将、なぜ上夜千代のカラスはあんなにも気が荒いんでしょう。神社の眷属だから大事にされて来たっていうのは分かりますが、あまりにも気味が悪くて」

ああ、と女将は笑ったあと、これは主人が教えてくれたことなんですけどね、と前置きをしながら話してくれた。

「夜千代村にはクスノキの繁る森が多くて。そのクスノキを原料にして樟脳を生成したり炭を作ったりして生計を立てる人が多かったんです。ご存知でしょう? 樟脳。カンフルとも言われて、興奮薬にも使われていた成分なんですよ。生成の過程で流れ出した製油とか、不要チップの焼却とかで、カラスが異常に興奮状態になった時期があったらしいんです。

元々食料が豊富でカラスの数は多かったそうなんですけど、異常行動するカラス達に村人が恐れをなしてしまったらしいです。カラスが神社の眷属になったのが、それより前か後かは分からないんですけど。
今では大きな工場も潰れて、その産業もほとんど廃れてしまったけど、クスノキチップや木炭は使われ続けているし、須雅神社のお祭りにも必ずクスノキの炭を使うし。

まあ、これらは検証したわけじゃなくて、あの村をよく知る年寄りたちが言ってる事なんですけどね。カラスの気が荒いのはそんな血を受け継いで育ってるからじゃないのかって、主人なんかも言うんです。人間がカラスを恐れて駆除もしないから、人間を馬鹿にしてるところもあるだろうし」

飛田は食い入るようにその話を聞き、そしてその推論にも一理あるなと共感した。
そして一歩離れた場所から上夜千代を見て来た女将に、もっと深くいろんな視点から聞いて見たい欲求があとからあとから湧きだす。

「じゃあ、鬼は……」
「え」
飛田は米田教授に聞いた伝承の事は伏せて、聞いてみた。新たな情報が得たかった。

「鬼です。須雅神社はカラスと共に鬼も祀られていると聞きました。死んだ根岸もそのことに興味を持っていて、埼玉県の鬼鎮神社のように、ここもまだ知られていない言い伝えなんかあるんじゃないかって調べていたんです」

「ああ、流鬼のことね」
それです!と叫びそうになるのをぐっとこらえる。

「女将、それはどんな鬼なんですか」
「村にいたらしいんですよ」
「だからそれって……」

女将は笑った。

「飛田さんも根岸さんと同じような表情するのね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回、女将の話がとても長くなるので、中途半端なところで切ってしまいました( ;∀;)
コメントもしにくいと思うので、コメント欄は閉じておきますね。

次回は1週間後。
女将は、なにかヒントをくれるのでしょうか……。


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(観劇日記)『子供の事情』作・演出:三谷幸喜 

☆感想(観劇・映画・小説)

久しぶりに舞台を見に行ってきました。

東京だけの公演だったので、日帰りで東京まで行ってきました (*´∀`)ノ
なかなか手に入らないチケットだったんですよ。当たってラッキーでした。

数々のヒット作を手掛けた脚本家、三谷幸喜の劇団だということもありますが、キャストが豪華すぎる!

タイトル&キャストはこちら↓


子供の事情


給食、テスト、奇妙なクラスメイト、転校生、席替え……。
誰もが身に覚えのある、遠い遠い昔の小学4年生<10歳>を、三谷さんが描くのです。
しかも、このまま、シェイクスピアだって、チェーホフだって、大河ドラマだって、すぐに成立可能な驚きの豪華メンバーが10歳の子供を演じるんです。
もう、面白くならないはずがない。

いや~、もう最高でした!
懐かしくておかしくて、死ぬほど笑ったし、予測不可能な瞬間に、たった一言でじ~んと涙ぐませられたりもして。

三谷作品に共通する、大掛かりなトリックは無かったんだけど、最後の展開はもう、ものすごく心にぐっときて……。

ああ、もう、やっぱり三谷幸喜は凄い。本当に最高。

そしてまさかここで、キャスト達の生歌が存分に聴けるとは!(笑)
クオリティ高すぎるのに、涙が出るほど可笑しくて。役者って……ほんとうにすごいな!(←ボキャブラリーが貧困過ぎて上手く書けない)

交通費+チケット代は大きかったけど、更にそれ以上楽しませてもらいました。
(翌日は疲れ果てて死んでいましたがw)

皆さんも、もしwowowなんかで放送されたら、ぜひ見て見てください^^ 最高に楽しいですから!

***

話は変わるんですが。

最近、某ヒップホップグループにハマってしまって、休日はずっとPVなんか見ています。
いや~~、もうラップ系のダンスなんか硬派で最高にかっこよくて、そして曲調によっては妖艶でクールで美しくて、普段のじゃれ合う姿は小動物のようにキュートで可愛い、世界的に認められてる平均年齢22歳の青年たち。

やばい、久々に骨抜きになってしまっています。どうしよう。
初めて携帯会社から、通信規制の通知が来ました。Wi-Fiの無いところでは動画見ないようにしよう(;_;)

ああ……また創作とか更新が止まる。

いろいろ悩みの多い、この頃です。(笑)


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流鬼 第20話 照準(2) 

流 鬼  《連載中》

自転車で前を走る秋人が、合図のようにほんの一瞬、飛田の車を振り返った。
わだちの出来た細い農道から少し奥まった場所に、納屋のない、母屋だけの一軒家があった。

今にも背後の雑木林に呑み込まれそうな脆弱さとは裏腹に、異様な存在感を感じるのは、小菊の家だと認識したせいだろうか。

縁側の横に木の引き戸の玄関がある平屋建てで、屋根は所どころ苔むした古い瓦だったが、もしもまだ茅葺であったなら、そのまま昔話に出て来る古民家そのものだった。

「何代も続いた家なのかな」
家の前に停めた車を降りた飛田は、自転車を押して近づいてきた秋人に尋ねた。

「どうかなあ。ここはキヨおばあちゃんの、亡くなった旦那さんの家だったんだって。13年間もほったらかしだったから、引っ越した日は襖が開かなかったり、蜂が巣を作ってたりして、大変だった」

屈託なく笑う秋人は本当に無邪気なごく普通の子供で、ほっとすると同時に、この村に来てしまったことを哀れに思った。
いや、……小菊の子として産まれた事を、だろうか。

「秋人君たちはこの冬までどこに住んでたんだ?」
「そんなに遠くの街じゃないよ。それから秋人って、呼び捨てでいいよ。和貴のことは和貴って呼んでたろ?」
「そうだっけ。じゃあ、秋人……なんでまたこんな辺鄙なところに?」

けれどそれは聞こえていなかったのか、秋人は自転車を押しながら家の方へ走って行ってしまった。
ちゃんと付いてきていた赤紐のカラスが、それを追いかけていく。

訊きたいことはまだ他に山ほどあったが、何より今は小菊の事だ。
飛田は秋人が飛び込んで行った暗い玄関引き戸の中を、だまってじっと見つめた。

キヨや小菊に、秋人はどんなふうに飛田を説明するのだろうか。根岸の事は一応隠したが、それで尚、一研究者に会ってくれるのだろうか、と不安を抱きながら。

けれど暫くして飛び出して来た秋人は、首を横に振った。その表情はどこか不安げだ。

「母さんもおばあちゃんも居ないんだ。ごめん、また今度」
「いないって、……二人してよく出かけるのか?」
声に落胆が素直に出てしまった。

「この頃はおばあちゃんと、時々出かけてる」
「どこに?」
「たぶん須雅神社」

「須雅神社に? いったいなんで」
神社に行くのはお参りだと相場が決まっている。けれど思わず口をついた。
あの二人にはなにか特別な場所のような気がしたのだ。

「たぶん、明日が本祭だからだと思うんだけど」
「本祭……か」

―――宮野老人が言っていた祭りの事だ。9月30日。前日の夜からひっそりとかがり火を焚いて須雅神社の神と鬼を鎮める神和ぎ。小菊も祭りに合わせてお参りでもしているのだろうか。他の村人と同じように。
飛田には少し意外な気がした。

その日を意識して今回の調査に入ったわけではなかったが、根岸が死んだのも9月30日。ちょうど明日が命日だった。
あの根岸の惨事は、かがり火が焚かれた須雅神社での出来事だったと言う事になる。

そのころ小菊は12歳。

「なあ秋人……。小菊さんは小さなころからよく、須雅神社に遊びに行ってたのかな。その……祭りの間なんかにも」

そう質問した飛田の顔を見上げた秋人の目は、すぐにそれを交わして後方へ動いた。
砂利を踏む微かな音が、飛田の背後から聞こえた。

「どなたですか?」

声の方を振り向いた飛田は、体がサッと冷気に包まれたのを感じた。まるで13年前に戻ったかのような錯覚に、恐怖さえ覚えた。

声を掛けて来たのは初老というにはまだ若い中年の女、キヨ。それなりに歳を重ねてはいるが、はっきりと覚えている。
醜いとまでは言わないが、どこか貧相で幸の薄そうな顔立ちだ。

そしてその少し後ろに寄り添って立つ、華奢で少女のような面影の女。―――小菊だった。

13歳のころと変わらぬ白く柔らかな肌と黒目がちの吸い込まれそうな瞳。腰まで垂れた真っ直ぐで艶やかな黒髪。ゆるりとこちらに向けられた視線は、心の中を覗かれているようで、思わず身がすくむ。

そうだ、この感覚だ。

ただ一人の小柄な少女なのに、視線を捉えられ、じっと見つめずにはおれなくなる。
自分の心を揺さぶるその訳を知りたくて、更に一歩近づいて見たくて堪らなくなる。
触れて、そこに実体があるのか確かめたくなる。

13年前の飛田がその目で見た衝撃と、少しも変わらぬ衝撃がここにあった。

そしてそれは単にその女の魅惑的な容姿のせいばかりではなかった。
鎖骨の滑らかな線が浮かび上がるほど細身であるにもかかわらず、緩い形で女の体を包み込んでいる長いワンピースの腹は、大きく前にせり出していた。

あの13年前の春先、森の入り口で見た光景とあまりに酷似していた。
今、飛田の目の前にいる小菊は、再び腹に子を孕んでいるのだ。

小菊が、濡れたように光る黒い瞳を飛田に向け、小さく首を傾げてささやく。

「また、わたしを写すの?」

周囲の木々からこちらを見つめる、無数の黒い鳥の刺すような視線を感じ、飛田の背が粟立った。




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作者の日程の勘違いがありました(>_<) 。祭りの期間を変更し、早めます。(以前の記述も少し変更しました)
この日は9月29日。そして翌日の30日が、この物語の最終日になります (。>д<)  



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流鬼 第20話 照準(1) 

流 鬼  《連載中》

「父さん、銃、持って入ったから」
居間の卓袱台の前で小山のように背を丸めて動かない健造に、和貴は出来るだけ静かに声を掛けた。

興奮状態の時に刺激すれば、狂ったように怒鳴られるか、殴られるのがオチなのだ。
こんな状態になるのは大概が酒を飲んでいる時であり、しらふでは初めてで、そのことが余計に恐ろしくもあった。

けれど不思議な事に、その恐れとは裏腹に、この狂いかかった父親に怒りは湧いて来なかった。

「いくら弾が入ってなくても、いきなり人に銃を向けたりしたら通報されて免許取り上げられるよ。……だけど、さっきはありがとう」
和貴はまだ少し息の荒い健造から少し離れた板間に猟銃をそっと置き、自分もその横に座った。

「さっきは俺を庇ってくれたんだろ? 知らない男に手を掴まれてたから。あれ、なんかちょっと嬉しかった……。父さんにはもう俺は見えてないんだと思ってたから」

薄暗い居間の床の上で、ミロク銃の機関部に施された精緻な彫金が鈍色に浮かび上がっていた。
和貴は指で美しい2羽のキジの、緩やかな窪みをそっとなぞる。

「さっきの飛田って人が言った言葉の中に、父さんの嫌な思い出があるのかな。きっと小菊を嫌うのも、カラスを撃つのも、ちゃんと訳があるんだよね。でも俺、訊かないから。訊いて父さんが嫌な思いするなら訊かない。……俺さ、なんとなく分かるんだ。あの小菊って人の怖さ」

動かなかった大きな背中が緩慢に動き、二つのギラリとした目が和貴を見た。

「小菊と何かあったのか」
久しぶりに聞いた、父親の落ち着いた声だった。

和貴は慌てて首を横に振りながら否定した。
「何もないよ。ただ、いろいろな人から話を聞いたり、秋人を見たりして、そう思った」

あの風呂場での事は何が有っても口に出来ない。誰にも悟られたくない。
あの日の事を思い出すたびに、和貴は体の芯が震え、自分が薄汚い下等な獣になった気がして、やりきれないのだ。
自分を誘い込みたぶらかしたのはあの女なのに、そう思う事も屈辱だった。

「本当に小菊は流鬼なんじゃないかって、この頃思うようになったんだ」

むくりと影が立ち上がり、床を軋ませながら和貴の方に近寄ってきた。
和貴は座ったまま、その巨体を見上げる。影の中から伸びて来たのは毛むくじゃらのごつい手だった。
床のミロク銃を掴みあげると、そのまま健造は和貴の横にゆっくりと腰を下ろした。

自分の父親のはずなのに、和貴の体はひどく緊張して強張った。怖さが半分、嬉しさが半分。
こんな風に健造の方から傍に来てくれるのは、本当に久しぶりだったのだ。

健造は部屋の隅に置いてあった工具箱を、手を伸ばして引き寄せたあと、膝に乗せた上下二連銃のトップレバーを押し、本体を二つに折った。
銃身内にガンオイルを吹き付け、長い“鉛落とし”を突っ込み、何度もこする。いつもの掃除の手順だ。

小さなころの和貴は、腕のいいシシ撃ちとして一目置かれていた父親が自慢で、ずっとこうやって、健造が銃の手入れをするのを傍で見ていたものだった。
鉛落としを床に置いた健造に、和貴はすかさずボロ切れを巻きつけた棒を差し出した。これでこすって銃身内の掃除は完了する。

「和貴」
ひとしきり手入れを終えたあと、健造が口を開いた。

「あ、はい」
「秋人は、普通の子供か」
突然の質問に和貴はうろたえ、答えを探した。

脳裏に、溶けた自転車のチェーンが鮮明に過ぎったが、すぐにかき消した。
ジャキン、と機関部を元に戻し、健造は壁に向かって銃を構える仕草をした。

「……うん。普通……だと思う」

「そうか」

和貴はもう一つ頷きながら、少しだけ息を深く吸い込んだ。のどの奥が、僅かに震える。

父親の構える銃のむこうに居るのは、本当はカラスじゃないような、そんな気配がしてならなかった。



               ◇


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(イラスト)ちょっとクールな青年&拙作大改稿 

☆イラスト・マンガ・水彩画

梅雨に入ったけど、まだカラッとしたお天気が続きますね。
私的には嬉しいんだけど……(*´Д`)

そういえば、今年の目標に、「KEEP OUT」を書き変える! ってのがあったんだけど、これはいっこうに進まず。はやくも諦めました。

でも、そのほかの過去作品は、着実に修正が進行中です。『RIKU』の番外とか、春樹の番外とか^^←本編を直しなよ。
一番手間を掛けさせる問題児は、やっぱり『ラビット・ドットコム』。なにしろ、本当に初期作品ですから。

今のところ第6話の後半まで見直し、なんとか読んで恥ずかしくない程度に改稿されつつあります。(当社比・笑)
いや~~(>人<;) 、改めて読み返して、恥ずかしくて死にそうでした。
もう、会話とかひどい! こんなのを読ませていたのかと思ったら、本当に穴を掘って埋まりたい気分でした。(読んでくださった皆さん、ほんとごめんなさい><)

改稿のきっかけは、他所でこの作品を紹介しようと思ったからなんですが、掘り返してみてよかった。
自分の過去作の酷さを改めて知ることが出来ました。
ただ、根幹のストーリーラインは気に入っているので、その骨の部分だけは生かそうと思っています。

会話文は8割、地の文は6割ほど書き変え、更に加筆しているので、ボリュームは1.4倍くらいになりました。
ようやく、キャラ本来の味が出て来たんじゃないかと思います。

宇佐美は大人の落ち着きと優しさを見せ、李々子はガサツな部分を可愛らしさに変え、そして稲葉は、前よりもすこしバカっぽさを押さえ、素直な子にしてみました。(おや? 別人じゃない?)
第1話の、稲葉のアホっぽさは残ったままですが、5~6話の稲葉は、ちょっと大人^^

会話文って本当に大事ですね。今までは、こういったコメディタッチの作品はノリで書いていた部分もあり、そこを大いに反省しています。
一つ一つの会話文が、キャラを作っていくんだって言うのを、改稿作業で改めて感じました。
まあ、大元がお気楽コメディなので、目覚ましい変化はありませんが、ブログに残しておいてもいいレベルにはなった気がします。

修正したページは、ものすごく行間を開けて書いてあるので、一目瞭然。
勉強の意味も兼ねて、最後まで地道に修正していきたいと思います^^


さて、今日のイラストは、仕事の出来る理系男子風。
ちょっとガッチリさせつつ、クールさも出してみました。

ああ~。理系男子ってキャラもいいな。 
うちには光瀬と比奈木がいるけど、彼らは絶対コメディ要員だしな……( ̄- ̄lll)





kaminaga.jpg



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流鬼 第19話 偽りの協定(2)  

流 鬼  《連載中》

今にして思えば、自分がこの村に来たのは、根岸の死の真相を探るというよりも、根岸に対する自分の想像が、まったくの思い違いであることを確かめる為だったのかもしれない。

そしてその事で、ろくでもない妄想の連鎖から解き放たれ、自分自身もどこかで救われたいと願ったのかもしれない。
飛田は秋人という少年を見つめながら、そう思った。

まずは小菊に会わなければならない。そのためには少しばかりの嘘が必要だった。

「実は僕、民俗学の研究をしていてね、いろんな土着信仰を調べているんだ。鬼を祀った神社は日本にいくつかあるけど、ここの事はまだほとんど知られていないよね」

「え。ほかにもあるんですか、須雅神社みたいなところ。そこにも鬼が閉じ込められてるの?」
秋人は大きな目をさらに大きく開き、興味深げに飛田を見た。少し予想外の反応だ。

「ああ、鬼神神社のように有名どころもあるけど、きっとここのように、知られていなところもまだ沢山ありそうだしね。出来るだけ詳しく調べたいんだ。でもここの人たちはあまり村の歴史なんかを話すのが好きじゃないみたいで、さっぱり情報が集まらない。
ただ、なぜか小菊さんや、由良という家の名前は何度か出てきたもんだから、きっと神社について詳しいんじゃないかなと思って探してたんだ。
そう言う事で……秋人くんのお母さんに会わせてもらえると有難いんだけど」

こんな下手な芝居が通用するだろうかと幾分不安になりながら返事を待っていると、秋人は意外にもあっさりと答えをくれた。

「それならおばあちゃんに訊くといいよ。母さんは体調がよくない日は誰にも会わないし、知らない人とは口を聞かないから。それでもいい?」
不思議な事に秋人はとても好意的に目を輝かせ、飛田を真っ直ぐ見上げた。
今時の13歳にしては意外なほど無邪気で人懐っこい子供に見える。

あの第一印象の方が間違いだったのかもしれないと飛田は思った。
この子なら少し突っ込んだ質問でも受け入れて、答えてくれるかもしれない。

「君のおばあちゃんって、神社で小菊さんを拾って育てた人?」
「そうだよ。だから血は繋がっていないんだ」
あまりにあっけらかんと言うので、飛田は逆に戸惑った。

「……そのおばあちゃんが、君とお母さんのお世話を?」
「そう、全部。昼間は外で仕事もしてるし、大変だと思うから、僕も学校が無い時は、なるべく手伝うようにしてる」
「へえ、そいつは偉いな。じゃあ、小菊さんはずっと家に? 仕事は?」

「してない。体と……時々心が病気になっちゃって」
僅かにテンションが下がった気がした。けれど、質問を遠回りさせたくなくて、そのまま続けた。

「それは大変だね。働き手がおばあちゃんだけだなんて、生活も大変だろう。……ところで、秋人君のお父さんは?」
さらりと言ってみたつもりだったが、僅かに声が上ずった。
秋人と目が合う。

「お父さんは亡くなった」
「亡くなった?」
「母さんが殺したから」

次の言葉が継げず、思わず黙り込んだ飛田の顔を無表情でじっと見つめた後、秋人は笑った。

「…って、村の人たちに聞かされたんでしょう? 村の人たちはそんなひどい噂ばかり流すから。時々僕も、本当なのか嘘なのか分からなくなる。
村の人とは仲良くしたいけど、母さんの事悪く言う人たちと仲良くする気は、なんだか起こらなくて……」

すこし言い淀んで秋人は飛田を見上げた。

「飛田さんが本当の事を調べてくれるのなら、僕は協力する。母さんは鬼なんかじゃない、普通の人間だってみんなに言ってくれるのなら、協力する。母さんにも会わせてあげる」

飛田はとりあえず「出来るだけ協力する」と、頷いた。
頷きながらも罪悪感で胸が痛んだ。
本当は鬼の伝説などどうでもよかった。今はただ、小菊にもう一度会えさえすればそれでよかったのだ。

鬼などと言う迷信的なものが存在するはずないこの世の中で、小菊は鬼なんかじゃないと言うのは実際訳もない。
ただ、村人にこの根深い『いじめ』をやめさせるように説得する役は、よそ者の飛田には無理なのだ。安易に約束することなど出来ない。

それでも少年は嬉しそうに目を輝かせた。

「飛田さん、僕の家こっちだよ。ロクと一緒に付いてきて」

自転車にふわりと飛び乗って走り出した少年を、飛田は車でゆっくりと追う。
期待と不安と罪悪感の入り混じった、なんとも複雑な気持ちだった。

同じく少年を追いながら、ロクという名のカラスが、まるで挑発するように車と並走して飛ぶ。
時折こちらに首を動かすカラスの視線がすべてを見透かしているようで、飛田には怖かった。




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あれ? 思ったよりも先が長いです (゚ω゚:)
次回は、また健造の家からお送りします 


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流鬼 第19話 偽りの協定(1) 

流 鬼  《連載中》

ハンドルを握る手が汗ばんで、小刻みに震えた。
猟銃を鼻先に突き付けられたことよりもむしろ、最後の健造の狂気を思わせる咆哮がおぞましく、今も耳から離れない。

和貴は慣れていた様子だったが、飛田にはあれが猟銃所持を許された男の行動だという事が恐ろしくてならなかった。
問題なく所持許可が下りたのだとしたら、たぶんここ最近の変貌なのだろう。明らかに常軌を逸している。

そしてそうさせているのは、春先に13年ぶりに戻ってきた小菊たちのせいなのだと、和貴は飛田にほのめかした。

13年周期。由良家。カラス。須雅神社。そして鬼。
いったい何の符号なのだろうと考えを巡らせたが、よそ者である飛田には何の絵も見えてこなかった。

小菊に会おう。結局それが一番の近道だと思った。
友人の根岸が14年前、亡くなる前日撮った写真の事も、その半年後に飛田が撮った写真の事も伏せて、まずはただ、通りすがりの旅行者として成人した小菊に会ってみたいと思った。

根岸を惑わせ、健造を狂わせ、村人に鬼と畏れられ、13歳で子を生み、忌み嫌われながらも再び13年後にこの村に戻ってきた女。
小菊に会いたいと強く思った。

村人を誰でもいいから捕まえ、謝礼をはずんでもいいから家を聞き出そう。そう思いながら飛田は車を徐行させ、もう日の暮れかかった寂しげなあぜ道と田畑を見回す。
そして同時に気持ちを落ち着かせる努力をした。
知らず知らずに気持ちを乱され、いったい自分は何をしにこの村に来たのか、それ自体を見失いそうになっていた。

急な土手沿いのカーブを曲がりかけた時、飛田は咄嗟にブレーキを踏んだ。
にわかに視界の端に飛び込んだ人物の姿に、胸が高鳴る。
草むした急こう配の斜面を背にして道端に座り込んでいるのは、先ほどの少年、秋人だった。

自転車を脇に止め、肩に止まったカラスと戯れている。
足に赤い紐を巻きつけたカラスは、まるで愛撫するように少年の髪をくちばしでついばみ、少年はくすぐったそうに笑い声を漏らした。
まるで映画のワンシーンのように、不思議で優しい、見とれてしまう情景だ。

けれど道のわきに停まった飛田の車に気づいた秋人は、すぐに表情を曇らせた。
さもありなん、あんな出会いを仕掛けたのは飛田だ。こちらにいい印象を持っていないのは想像に難くない。
車から降りながら飛田は、出来るだけ優し気に声を掛けた。

「さっきはせっかく友達と一緒に帰ってたところをごめん。俺は飛田っていうんだ。ちょっと調べ物をしていてね。君は、秋人君だよね」

秋人とカラスは同じようにじっと飛田を見つめて来た。敵か味方かを見定めるように。
秋人が穏やかならば、カラスもそれにならうらしい。
白い瞬膜でパタパタ瞬きしながら、首をかしげるようにしてこちらを伺っている。

「君のカラス? よく懐いてるな」
「飛田さんは僕のお母さんを探しているんですか? なぜ?」
秋人はゆっくり立ち上がり、やはり真っ直ぐ飛田を見つめて来る。

飛田は少年のその面影を、13年前自分の肉眼で捉えた小菊と重ねて、少しばかり胸が苦しくなった。
あの12~3歳の小菊の毬のような腹の中に居たのが、この少年なのだ。そしてもしかしたら……。

考えないようにと封じ込めていた推論が、その時同時に飛田の中ににわかに湧き立った。
何度追い払っても消え去らない、死者への愚弄とも取れる推論だ。
ありえないし、有ってはならないことだった。この少年が根岸の子だなどと。

けれど事務所で最初にあの写真を見せられた時、撮影者の、被写体への隠しきれない欲情を感じてしまったのは確かなのだ。

少女の視線をこちらに導き、陽に透けた逆光から幼い肢体の稜線を拾う手法。あどけなく薄く開かれた唇と、外れたボタンから覗きかけた、僅かに膨らんだ胸元のショット。
それは恐ろしい事に、飛田自身が映した小菊の写真とも重なる。

幼い少女にそんな感情を持つことが罪だとすれば、より罪深いのは飛田の方かもしれない。
飛田は、明らかに腹に子を宿した少女に魅せられ、あるいはある種の欲情を感じてシャッターを切ったのだから。





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(イラスト)ホットケーキとスイーツ天使(追記:5月31日) 

☆イラスト・マンガ・水彩画

もう5月も半ばを過ぎました。
新緑の心地いい季節。でも、また梅雨に入るんだなあ。

ああ、それにしても日々が経つのが早い。10日に一回は更新しようと思っているのに、気が付くと2週間。

GWもひたすら籠ってたし、雑記の話題もないし、どうしよう……。

あ、ここ2カ月で、やたらと買い物をしました。
車。Mac(夕さん、最新iMac買っちゃった。Retinaちゃん)。ソファ。そして週末には冷蔵庫買わねば(冷蔵がすべて凍る)。
散財です (。-_-。) 仕事辞めらんない……。


ちょっと前に衝動でイラストを描いたので今日はイラストをUPしてみます。

以前描いた、ミニサイズのスイーツ天使です。
シロップに興味津々で、近寄ってきました。
ちょっかい出して遊んでいますが、きっとこの後、べたべたになるはず(笑)

ギリギリまで服を着せるか迷ったのですが、もういいや!と、すっぽんぽんで^^

このメイプルシロップのとろ~~りを、描きたかったのです^^



ほっとけーきpng


パンケーキが昨今人気ですが、たまにはこんなフワフワホットケーキも、いいもんですよね。

※《追記:5月21日》
★なんとかじぺたのデンジャラス(そうでもない)ゾーンの、かじぺたさんが、このイラストにとってもかわいいSSをつけてくださいました!
とってもハートフルで、ちょっとウルウル来ちゃう、感動SSです。
この一枚から、まさかあんな背景を生み出してしまうとは。天使の描写がめちゃくちゃ可愛くて、思わずにまにま^^主人公のお兄ちゃんの優しさも、じんわり伝わる、素敵なSSです。
どうぞ、読んでみてください~(*´▽`*)かじぺたさん、ありがとう!!
かじぺたさんのSSはこちら

※《追記:5月25日》
★今日はね、Debris circusの山西サキさんが、このイラストにSSを書いて下さいました!
何とも壮大で、重厚感のある、せつないSFです。この天使がここに存在する背景には、とんでもない真実が……!
あのほよよんイラストから、なんでこんな物語を思いつくのだろうと、驚きです。
ああ~、こういう発想力ほしいな><
サキさん、ほんとうにありがとうございます! 皆さんもぜひ読んでみてください。
サキさんのSSはこちら。

※《追記:5月31日》
★今日は、『百鬼夜行に遅刻しました』のウゾさんが、このイラストにSSをかいてくださいましたよ! 
とっても短いお話なんだけど、とっても可愛くて、ニマニマしちゃいます。さあ、主人公の調査員の語りを、たっぷり楽しんでください(*´▽`*)ウゾさん、ありがとう~~。
ウゾさんのSSはこちら!







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流鬼 第18話 叫び(2) 

流 鬼  《連載中》

「秋人って子がやったのか? でもどうやって」
そんな飛田の質問など耳に入らぬ様子で、和貴は跳ねるように立ち上がり、そのまま家に駆けこもうとした。

けれど咄嗟に飛田は和貴の手を掴んで引き止める。
ここで逃げられるのは不本意だ。
「ちょっと待って。何か大変なのは分かるけど、小菊さんの家だけ教えてくれないか? あとはもう自力で何とかするから」

苛立ったように振り返った和貴だったが、その目は飛田を睨みつける間もなく、すぐに飛田の後ろに居る別の何かを捉えた。
一瞬にして和貴の表情が凍り付く。

振り向こうとした時にはもう遅く、すさまじい力で飛田は背後から襟首を掴みあげられ、そのまま横向けに地面に叩き落された。
頭を打ち付けるのは免れたが肩を強打し、呻きながら天を仰いだ飛田の鼻先に、二つの空洞のある凶器が突き付けられた。

肩の痛みなど瞬時に吹き飛び、全身が恐怖で硬直し縮上がる。
まだ火薬のにおいが強く残る、それは上下二連式の猟銃だった。

「俺の息子に何をしてる」
低く唸るような声で見下ろして来たのは、赤黒く日焼けした顔に無精ひげを生やした、熊のような大男だ。その目は今すぐに引き金を引いてやると言わんばかりに血走り、飛田を睨み据えている。

―――これがカラス撃ちの健造か。
喘ぐようにひとつ息を吸い込んだが、言葉が出てこない。
きっとこういう猟奇殺人犯と鉢合わせしてしまった人間は、声を上げる間もなく撃たれて死んで、翌日の朝刊に載るんだろうと、頭の中を冷めた思考が一瞬駆け抜けただけだった。

「やめなよ父さん。この人は人を探してるだけなんだ」
和貴の落ち着いた声が、逆にこの状況では異様に思えた。

「誰なんだ、こいつは」
「小菊に会いに来たみたい」
「小菊……」
健造は喉を鳴らして息を吸い込み、再び強張った形相で飛田を見下ろした。
銃口が飛田の鼻先から僅かに外れる。

「うん。僕が生まれる前、須雅神社の近くで旅行者の男の人が死んだ事故があったんだろ? この人、その死んだ人の友達で、その時の写真が……」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

突如耳をつんざくような奇声を張り上げ、健造は頭を抱えたまま体を前後に激しく揺さぶり始めた。
一瞬何が起きたのか、飛田には理解できなかった。
支えを失くした猟銃は耳のすぐ横に落下し、飛田は思わず喉の奥で「ヒッ」と叫び声をあげた。
和貴も顔や体を硬直させ、絶叫しながら家の中に走り込んで行った父親を、唖然として見送った。

「和貴……。一体……」
肩の痛みを堪えて立ち上がり、和貴の傍に駆け寄ったが、和貴の顔はすでに落ち着きを取り戻していた。
何事も無かったかのように猟銃を拾い上げ、飛田を振り向く。

「由良の3人がこの村に戻ってきてから、父さんはおかしいんだ。……乱暴してごめんなさい」

工具と自転車をその場所に置いたまま、父親を追って家の中に入ろうとする和貴に、飛田はなんと声を掛けてよいのか戸惑った。この異常な事態はこの少年にとって日常なのだろうか、と胸の冷える想いがした。

「和貴。……お父さんには、猟銃を持たせちゃいけない」

小菊と健造の間にいったい何があるのか、そこも酷く疑問に思ったが、飛田は最後にこの言葉を選んだ。
けれど和貴は思いがけず、笑い返して来た。

「大丈夫。父さんは腕のいい猟師なんだ。人間は撃ったりしない。父さんが撃つのは、カラスと鬼だけだ」

真意の分からないうつろな目をして言ったあと、和貴は猟銃と共に、薄暗い引き戸の中に消えて行った。



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流鬼 第18話 叫び(1) 

流 鬼  《連載中》

赤い紐を足に結わえたカラス。
そして、そのカラスをしもべのように従わせ、細い脇道の先に消えてしまった少年を、飛田はじっと目で追った。

立ち去る刹那、自分の方にゆるりと視線を流して来たその少年の目が、飛田の脳裏に刻まれ、ゾワゾワとした感情がぬぐえない。
初めて会った少年のはずなのに、胸騒ぎにも似た動悸がしばらくたっても鎮まらなかった。

先刻、フロントガラス越しに二人の少年を見つけた飛田は、願ってもないチャンスに遭遇したことを瞬時に把握した。
背の高い方は、ひと月前に飛田が小菊の写真を見せて質問した少年だ。
この村で希少な中学生であり、宮野老人が『カラス撃ちの健造の子』と言っていた子に違いない。

そしてその横にいるのが、“この村に越して来た、もう一人の中学生”であり、“小菊の息子”であることは十中八九間違いなかった。
ここで怪しまれず、かつ迅速にその「息子」の反応を伺うために、飛田はわざと、顔見知りの少年の方に情報をぶちまけたのだ。
そして飛田は確信を得た。
小柄な少年は、わずかな警戒の視線を一瞬飛田に向けて来たのだ。あるいは敵意だったのかもしれない。

「今の……、小菊さんの子供だね」
ゆっくりと吐き出したその言葉は、走り去ったその少年を見つめていた大柄の少年を、ひどく慌てさせたようだった。

「あんた……いったい……」
「やっぱり」
核心に一気に近づけたことが嬉しくなり、飛田は車を飛び降りた。走って車の後方に回り、トランクを開ける。

「じゃあまず、その自転車を乗せようか。歩くと遠いんだろ? 家まで送るよ。それとも自転車屋に持って行って修理する? どっちでも行くよ」
「……俺から何を聞きたいんだよ」
「だから話は車の中でしようよ。さあ、どっちに行く? 家? 修理屋?」
「……家」
「了解。案内頼むよ」

宮野老人の言葉どおり、その少年は和貴と名乗った。
あまり口の軽くないこの少年と打ち解けるために、飛田はまず、自分のこの行動の理由を、できるだけ丁寧に説明した。
自分が14年前、この須雅神社の近くで変死した根岸という男の友人であること、その友人が亡くなる前日に撮った写真とメッセージが気になって、その写真の女の子を探そうと思った事。
そして根岸の死体が何者かによって食い荒らされていた事まで。

子供に聞かせるには少々グロテスクな話だとは思ったが、飛田はこれ以上遠回りをするつもりは無かった。
けれどさすがにその根岸が死んだ時期と小菊が妊娠した時期が重なるという情報は、あえて伝えなかった。
逆算すれば分かる事ではあったが、それでも。
妙な方向に勘ぐられるのは根岸の名誉に関わるし、紛らわしい情報は真実をブレさせてしまう恐れがある。

「じゃあ、なんでさっき秋人を追いかけなかったんだよ」
ひとしきり聞いた後、和貴はボソリと言った。

「秋人が小菊の子だと思ったんなら、すぐに車で追いかけて、家まで押しかけて小菊に会えば良かったんだ。小菊を問い詰めて、あんたは14年前に根岸っていう旅行者に会って、写真を撮られて、それが気に入らなくてその旅行者を呪い殺して、食い散らかしたんだろうって、訊けば良かったじゃないか」

「……え」
あまりに刺々しい言葉に飛田は正直たじろいだ。
同級生の親を、なぜそんな風に呼び捨てにし、辛辣に語れるのだろう。
とっさに返す言葉を失った飛田をちらりと睨み、和貴は続けた。

「きっとそんなことが有ったんだって聞いても今更村の人は誰も驚かないし逆に、ああそうか小菊ならやりかねない、って言うと思うよ。小菊本人に直接聞いた人間はまだ誰もいないけど、知りたいんなら訊けばいいじゃない。俺は半年前にあの家族が戻って来るまでの事は何も知らないし、俺に訊いても無駄だと思うよ。送ってもらっといて悪いけど。……あ、そのカーブの先にあるのが、俺ん家だから」

「なあ、君は秋人って子と友達じゃないのか? 俺たち、君の友達のお母さんの事話してるんだよね、今……。
あ、その口ぶりからすると、喧嘩でもしてたのか? さっき」

納屋付きの、この辺ではよく見かける平屋の民家の前に飛田が車を停めると、助手席の和貴が飛田の方を向いた。

「秋人とは友達だったとしても、小菊が恐ろしい女だってことには変わりないよ。詳しく調べて、警察にでも届ければいいじゃない。小菊は流鬼だから捕まえてくださいって」

そう言って車から飛び降りると和貴は、半開きのままトランクに乗せてあった自転車を下ろし、納屋の方に押していく。
明らかに機嫌が悪そうに見えた。

「なあ、今、流鬼っていったよね。君、詳しいの?」
「知らないなら広辞苑で調べれば? 夜千代村に住んでる鬼って出て来るよ」

冗談とも本気ともつかない口調でそう言い、いったん納屋に入って行った和貴は、中から大きな工具箱を出して来て、チェーンの切れた自転車の横にしゃがみ込んだ。自分で修理するらしい。

「わかった。和貴に全部聞こうってのは虫が良すぎたよな。友達の家族じゃ言いにくい事もあるだろうし。……じゃあさ、その小菊さんの家だけ教えてくれる? 今更だけど。
ちょっと前に会った宮野ってお爺さんには近寄るなって言われたんだけどさ。やっぱり一度話をしてみたいんだ。根岸が撮った最後の被写体だしね」

少々しつこすぎるかと思いつつ、尚も食い下がり、飛田は少年の横にしゃがみ込んだ。
「自分で修理するの?」と、興味深げに垂れ下がったチェーンを覗き込んだが、すぐに奇妙な事に気づく。

「あれ……。このチェーンなんだろ。熱で溶けたみたいになってる。走ってる途中に切れたんだろ? 普通、こんなふうになるかな」

飛田が摘み上げたチェーンの先を、和貴も覗き込んで来た。その表情が次第に強張っていく。

「秋人だ……」

まるで憎悪の塊を吐き出すようなその声に、飛田は今までとは違う寒気を感じた。



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(バトン/イラスト)春樹×塚本×隆也 

☆イラスト・マンガ・水彩画


今日は、TOM-F さんや山西サキさんや八少女 夕さんがされてたキャラバトンに挑戦しました!

うちも、1人では味気ないので、この3人に登場してもらいます。
KEEP OUTシリーズの春樹隆也、そして『不可視光線』で初登場の塚本です (*´ω`*)

塚本、覚えていらっしゃいますでしょうか。
春樹をえらく気に入ってしまった、ちょっとアブノーマルな大学生です。
(私のキャラの中で、唯一のゲイです) 


とりお

↑ここで、塚本のイラスト初公開(*'ω'*)
え!? 隆也は? ないの?
ないよ。 ……端折りました(。-_-。)        …… (∥ ̄■ ̄∥) ← 隆也

そんなことは置いといて、バトンスタート(*´▽`*) なるべく短く答えますね。

                  ***


1、自己紹介

(春)KEEP OUTシリーズの天野春樹です。生まれつき持ってるサイコメトラー能力に、未だに悩まされています。

(塚)『不可視光線』から登場した塚本忠志です。あの番外以来俺、登場してないんですけど(作者を睨む)

(隆)ずっと春樹の親友の、穂積隆也です。……て、おい作者、なんで俺のイラスト無いんだよ!塚本は要らんでしょ!


2、好きなタイプ

(春)そばに居て、安心感をくれる人。(なるべく触って来ない人)

(塚)年下の可愛い少年、もしくは春樹。

(隆)なんか、守ってあげたくなる様な人。……てか、塚本てめえふざけんな(怒)


3、自分の好きな所

(春)……ひと晩考えさせてもらっていいですか。

(塚)逆に嫌いなところが無いな。

(隆)親友想いなところ。(どや顔)


4、直したい所

(春)考えすぎるところ。臆病なところ。でも一番はこの能力を消したい。

(塚)ない。オレ完璧。

(隆)短気なところ。……塚本お前はすべて直せ!


5、何フェチ?

(春)……フェチってなに?(と、横の塚本に訊く)

(塚)こういう可愛い生き物を眺めながら脳内でアレコレ遊ぶこと。(春樹を見ながら満面の笑み)

(隆)こいつ殴っていいですか(塚本を指さす)


6、マイブーム

(春)美味しい珈琲をいれること。

(塚)春樹。

(隆)シミュレーションゲーム。塚本という名の害虫の駆逐。


7、好きな事

(春)休日、隆也とくだらない話をしたり、美味しい珈琲店開拓すること。

(塚)それ隠居生活だな春樹。もっとエキサイティングな日々を提案しようか。

(隆)道頓堀に沈めるぞ塚本!(←なぜ道頓堀)


8、嫌いな事

(春)満員電車、プールや海水浴……。(←いろいろトラウマが有るらしい)

(塚)合コン。(←マジ女は苦手らしい)

(隆)(*`▽´*)(←塚本の回答がツボだったらしい)


9、読者に一言

(春)微妙なところで連載が終わっていますが、またどこかで番外が出ましたら、どうぞよろしくお願いします!

(塚)言っとくが、俺にだってコアなファンはいるんだ。

(隆)もし続編が有っても、塚本は出てこないと思うので安心して読みに来てください。……てか、作者、続編書けよ!


10、次を指名する。

どなたでも、お気軽に~!


       ***

って事で、久々のトリオ漫才でした(*´▽`*)




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流鬼 第17話 帰巣 (2)  

流 鬼  《連載中》

「ねえ和貴。なにか怒ってる?」
自転車のスピードを上げれば上げる程、秋人は後ろから必死に追ってくる。

バスの中では和貴が終始無言で窓の外を見ていたため、秋人は話しかけてこなかったのだが、村に入り、カラスが舞うバス停に降りた途端、急にしつこく近づいて来始めた。

怒っているわけではなかった。ただこの秋人という少年が、今はどうにも不気味だった。

小菊の子供の頃の噂、由良の3人が越して来てから人が変ってしまった健造、異様な存在感を放ち増殖するカラス、学校で広がる数々の波紋と、不可解な事故。
そして小菊と和貴の事を知っていながら、まるで今までと変わりなく和貴に懐いて来る秋人。
ひたひたと、目に見えない何かに追い込められている。それが思い過ごしだと思えるほど、和貴は鈍感ではなかった。

「ねえ和貴。待ってよ。話をしようよ、僕さあ……」
秋人の自転車がすぐ横に並んだ。

「悪いけど、急いでるんだ。この頃おやじ、駆除から帰ってくるの遅いし、帰ったら帰ったで酒飲んで寝ちまうし。晩御飯は自分で作ることが多いんだ。何も無かったら買い物に出なきゃならないし」

「健造さん、まだカラス撃ちを?」
「そうだよ。この一週間は仕事も休んで狂ったみたいに打ちまくってる。半年前までは……。3月まではそんなことなかったのに」

「僕らがこの村に来てから、っていう意味? でも、僕らとは関係ないよ」
「そんな事言ってないだろ? 絡むなよ! 頼むからもう放っといてくれ」

乱暴な言い方なのは分かってた。けれど秋人に対する罪悪感は希薄になっていた。
何に向けていいのか分からぬ怒りが自分の中で増幅するのを紛らわす様に、和貴は力任せにペダルを踏み込む。
ただ逃げ出したかった。
この少年から。あの狂いかけた父親から。そして得体のしれない妖気すら漂うこの村から。

「でも、僕は何もしていないじゃないか!」

思いがけず発せられた秋人の叫びと共に、バキンという金属音が足元に響き、自転車が制御不能になって揺らいだ。
とっさにバランスを取りブレーキを掛けたので転倒は免れたが、和貴の自転車のチェーンは見事に切れて地面に垂れ下がっていた。

和貴は自転車を飛び降りると、すぐ後ろに止まった秋人を振り返った。
興奮し、心臓をバクバクさせているのは自分で、叫んだはずの秋人はただヒンヤリとした視線で和貴を見つめている。
全身に湧き立つのが怒りなのか恐怖なのか、分からなくなった。

「いい加減にしてくれよ……。もうやめてくれ」
「何を? 何をやめればいいんだよ」

秋人はそこでようやく表情を崩し、泣きそうに顔をゆがめながら和貴を睨んで来た。

頭の奥がズキンと痛む。秋人を怒らせてしまったのだと気づくと、それだけで得体のしれない冷たい汗がにじむ。その感覚は“恐怖”以外の何ものでもなかった。
目の前にいるのは、数か月前に引っ越して来た、ただの同じ年の少年のはずなのに。

「怖いんだよ!」
思わず口から零れ落ちたのは、言うつもりなど少しも無かったその言葉だった。
「こわい? どうして」
秋人は大きな黒いガラス玉のような瞳を見開き、まっすぐ和貴を見つめて来る。

「そんな目で見るからだろ。そうだよ、怖いんだよ。怒ってるのは俺じゃない、秋人のほうなんだ。そうだろ? あの日からきっと秋人は怒ってたんだ。それなのに……」
「あの日?」
「あの日だよ。登校日の。俺、あの日確かに小菊さんに呼ばれて家に入ったけど、何もなかったんだ。本当に何も……。もし秋人があの時なにか、変な事思ったとしたら、全部誤解なんだ。本当に。俺は、全然……」
突然バサバサと黒い影が和貴の頭をかすめ、そのまま秋人の方へ向かった。

秋人の肩に舞い降りたカラスは、1、2度秋人の頬にくちばしを摺り寄せて甘える仕草をした。右の足に赤い紐。
ロクだ。
秋人より先にあの夏の日、あの場所で裸の小菊と和貴を見ていたはずの、カラスだ。

「ああ……そっか」
そう言いながら秋人はロクのくちばしをさする。

「そんなことなら気にしなくていいのに」
「違う! 本当に違うんだ。ただあの日暑くて……すごく暑くて……」
「すごく暑かったから母さんと裸で水を浴びていたんだろ。それでいいじゃない」
「良くない! お前のその言い方が何か疑ってるみたいで、腹が立つんだよ!」

「和貴が母さんと何をしたって、僕は関係ない。僕と母さんは別の人間だし。母さんがむかし、人を殺しただとか、鬼の生まれ変わりだとか言われたって、僕にはどうすることもできないのと同じ。どうしようもないことだよ。ただ……」

静かに言った後、秋人はそこで唐突に話を止め、耳を澄ます仕草をした。
わりと近くの山から銃声が2発、続けざまに響いた。そのあと、また2発。カラスが山の上を沸き立つように飛び交い、騒ぎ立てる。
秋人がそれを目で追い、言葉を続けた。

「この村の人はみんな狂ってる」

まるでカラス達の羽ばたきが巻き起こしたかのような突風が秋人と和貴の髪をかき上げ、辺りの木々をザザッと揺らした。
秋人がこぼしたその言葉は、張り詰めた和貴の神経の糸を切るには充分だった。

「今何て言った。秋人。もういっぺん言ってみろよ」
喉の奥で唸るような自分の声は、和貴自身が戸惑うほどだったが、それよりも秋人がそんな言葉を吐いたことが、和貴には脳天を殴られたほどの衝撃だった。
体が震え、次の言葉が出てこない。
あたりの緑を取り込んで異様に光る秋人の目を見つめながら、和貴はただ自分の中でうねる、怒りに似た感情を持て余した。


「あれ、この前の子だよね。今学校の帰り? あ。チェーン切れてるじゃないか」
ゆっくりと近づいてきた白い車から聞こえて来た男の声に、和貴はドキリとした。

やはりそうだ。車の窓から顔を出しているのは、1か月前に和貴に小菊の写真を見せて、「知ってる?」と尋ねて来た男だ。
嫌な予感がし、思わず自転車を押して立ち去ろうとした和貴を、その男は呼び止めた。

「この間はごめんね。あの写真の女の子、小菊さんって言う人の、12歳の時の写真だって分かったんだ。13年ぶりに、またこの辺に引っ越して来たって聞いたんだけど、君、知ってるよね。君くらいの歳の子供がいるそうだし。ちょっとだけでも話を聞かせてくれたら、家まで送ってあげるよ。自転車はトランクに積めるし。どう? 悪くないだろ?」
男は、そのあとようやく秋人気づいたように、「あれ…」と口籠る。

けれど再び口を開く前に、ロクが車めがけて飛び立った。
激しい羽音に気圧されて、窓から顔を出していた男は「わっ」と叫んで首をひっこめる。

「ロク! おいで」
ひと声だけ鋭く発し、秋人は和貴の横をすり抜けた。
秋人の自転車は、家のある脇道の緩い坂を上っていき、すぐに見えなくなった。

その秋人を追いかけて飛んでいくロクの足の赤い紐を、和貴はぼんやりと見つめる。

秋人の右足に、同じ真紅の紐を結えたあの日の事が、やけに遠い昔に思えてならなかった。



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(イラスト)久々に春樹 

☆イラスト・マンガ・水彩画

やっぱり3月は早いですね。
バタバタしてる間に終わってしまいそうな勢いです。
年度末、皆様もきっと慌ただしい日々をお過ごしでしょう。

ところで毎年この時期になると、私の家の周辺一帯が醸されてるような匂いに包まれます。
「あ、これはもしかして、桜が芽吹く前の匂い??」と、毎年一人で感慨にふけっていたのですが、だれに聞いても、ネットで調べてもそんな話はヒットしない。

でも、この地に引っ越して来て20年。毎年この時期に、このにおいを嗅いでいるんです。
謎です。
いったいなんだ??

そして私はある考えにたどり着いたんです。

……もしかしたら、二件隣のおうちの、家庭菜園の畑の肥料の匂いなんじゃないかと。
けっこう本格的にお野菜を庭で作ってるおうちがあるんです。(あまりしゃべった事は無いんですが)

うん……そんな気がしてきました。きっとそうだ。『芽吹き』じゃなくて、『肥やし』だ!

20年間の疑問が解決した気分です。……もっと早く気づくべきだった (。-_-。)



さて、今日は久々に春樹のイラストをUPしてみます。
少し前に描いた、20歳の春樹。ちょっと憂いた表情ですが、元気でやってるかなあ・・・。




春樹rakugakiブログ


数か月前から、春樹の最後の物語を書こうと、地味にプロットを組み始めていたんですが、ふっと気が変わりました。

いや、それよりもこの春樹の物語を、ちゃんと整理して一本の長編にする方が先かも! と。

春樹のシリーズは、今現在『呵責の夏』からスタートしています。
私にとっては大事な作品の一つではあるのですが、このシリーズの第1話として置いておくのはやっぱりちょっと違う気がして。
(春樹はちょこっと出てきますが、あれは友哉と由宇の物語ですもんね)

もうこの際大改稿して、KEEP OUTをごっそり再編集してしまおうと思い立ったんです。
今年は流鬼を書きあげた後、それに集中しようと思います。

まだ、思いついたところなので、完成するかどうかは分からないのですが、ブログでは、新しくなった部分だけ抜粋して追加掲載する予定です。

また更新が途絶えることがあったら、「仕事でばててるか、改稿に悩んでるんだな」と、憐れんでやってください(;_;)

創作って、どこまで行っても果てが無いなあ……。でも、やっぱり楽しい作業です(*´ω`*)





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流鬼 第17話 帰巣 (1) 

流 鬼  《連載中》

「13年? 何の事でしょう」

飛田は問いかけたが、老人はすっかり自分の思考の中に埋没してしまったようで、聞いてもいない風だった。けれど左手だけは無意識なのか巧みに動き、右手に少女の写真を握ったまま、落ち葉除去を続けている。
飛田はすこし話題を変えてみた。

「いつも綺麗にされているんですね。ここはずっと、あなたがお一人で?」
竹の熊手には、宮野、と黒いペンで名が書かれている。この老人の名だろう。仕事上の癖で飛田はその名をしっかり記憶に留めた。

「持ち回りだよ。上夜千代は若いもんが少ないからな。まつりごとも年寄りの仕事になる」
「祭りの準備なんですね。だからこんな立派なかがり火台が置いてあったんだ」
「ああ、今晩から明日の晩に掛けてな。祭りって言っても、火を前の晩から絶やさんようにして、交代で守りするだけの地味なもんさ。本祭の夜には隣村から神官に来てもらって祝詞あげるが、派手なもんじゃない。ここに宿る魂が荒ぶる神にならん様に祈る神和ぎだから」

「へえ……。僕も立ち会っていいですか、その本祭」
「よそ者が見たって何も面白いこたあねえよ。それでもワシらの若い頃はもっと派手な櫓組んでクスノキの炭と薪で盛大に火を焚いたもんだ。火柱はここのご神木より高く昇ってな。祭りの間はそりゃあカラスが狂ったように騒いだもんさ。ここのカラスは須雅様そのものだ。少々悪さしても、なかなか撃ち落とす気になれないのもそのせいさ」

少し饒舌になってきた宮野老人は、気が済んだのか握っていた少女の写真を飛田に返した。
写真のしわを伸ばし、飛田はもう一度そこで話を本題に戻してみた。祭りの話には、それほど興味はなかった。
「小菊さんって、有名なんですか?」

宮野老人はハハッと笑う。
「そりゃあね。知らんもんはいないね。この神社の祠ん中から拾われた赤ん坊だし。弱りもせず泣きもせず入ってたもんで、鬼の子かって騒ぐ奴もいてな」
飛田の胸に何かが刺さった。

「この祠から?……ここに捨てられていたんですか? なんで? 親は?」
「さあもう何も喋らねえ。それこそなんか変なもんに祟られるわ」
老人が再び笑う。

「だけど……ひと月前この村に通りかかった時、店屋の女の人や学生にこの写真見せて訊いたんですが、知らないって言われましたよ?」
「店屋の女の人? ヨシ江さんかな。あの人は口から生まれたみたいに喋り魔だけど、小菊の事は怖がってるし、よそ者には喋らんだろうね」
「中学生か高校生くらいのガッチリした男の子は?」
「和貴か? カラス撃ちの健造の子さ。それこそ喋らんだろう。……さあ、もうおしまい、おしまい。くわばらくわばら」

宮野老人はおどけた様子で掃除用具を片付け手に持つと、飛田に背を向けた。
喋りたい気持ちと警戒する気持ちとがせめぎ合っているようにも見える。

「あの……。もう一つだけ。小菊さんに会いたいんです。どこに行けば会えるかだけでも教えてもらえませんか」
もう10メートルほど先を進んでいた老人は、渋い顔で振り返った。

「やめた方がいい。13年目に当たる年だしな。面白半分に近づくとあんたも食われるぞ」

それは妙にゾッとする響きを残し、飛田の耳に刺さった。
―――あんたも食われるぞ……。
それは『根岸が小菊に食われた』という事なのだろうか。

「まさかね」
そうつぶやいたが、笑い飛ばせない余韻がまとわりつく。
この森には思いもよらない事が起こっても不思議ではない、そんな空気が漂っている。

ふと気配を感じ頭上を見上げると、木々の枝を軋ませて止まっているおびただしい数のカラスがこちらを見下ろしていた。
いままで気配すら感じなかったのに。
体中が総毛立ち、飛田は努めて素知らぬ顔で来た道を折り返した。

―――食われる。

そんな馬鹿げた恐怖を感じたのは、その時が初めてだった。


              ◇


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(イラスト)もう3月。鶯の声も^^ 

☆イラスト・マンガ・水彩画

2月の終わりの朝にね、綺麗な声で鶯が鳴いていました。

気の早い子。でも、かなり美声でした。
最初は練習して、4月ごろにはあちこちで鳴き始めるんだと思うけど。

「いい声だけどまだ真冬じゃん!」って、メス鶯のツッコミが聞こえそうな寒い朝でした(笑)

前回の雑記では、耳の不調のことを書いてしまい、みなさんにねぎらいのコメを沢山いただきました。
お気遣いさせてしまってごめんなさい(>_<)
そしてありがとう~~。完全栄養食、めっちゃ参考になりました!

あれから大阪で唯一の、その病気の専門医に通い、ずいぶん回復してきました^^
耳鼻科ジプシーをした結果、あの手術(耳業界ではかなり荒療治)をやる先生は日本であの人しかいないという事実が判明。
出会えてよかった。(手術は麻酔効かなくて拷問に近いが)(それなのにいつもにっこり笑ってるドクター!)

とにかく、地の底から地上に出て来られた感じで、ほっとしてます。…………啓蟄Σ(*゚Д゚*)

仕事の方も少し落ち着き、PCの前に座る時間も取れそうです。
相変わらずの遅読で遅筆、そして春は頭もフワフワしていますが、またよろしくお願いします^^
更新間隔は、相変わらずこんなペースだと思いますが(>_<)

今日は特別なにも事件が無いので(事件は無いに限りますが)、
以前、UPのタイミングを逃してしまった、チョコのイラストを載せておきますね。

チョコと一緒に、フワフワ飛んでる子がいますが(笑)

最近、私のお気に入りの天使。

そう、「またもや天使」のあの子に似てますよね。
ちょっとコミカルにアレンジしてしてみました。
すごく大食いでお菓子大好き。でも天然で可愛らしい、まさに天使。
この子を拾っちゃった殿方は、なかなか手放せないかも…的な。

基本天使なので服は着ないんですが、いろんな大人の事情があるので、とりあえずエプロンを着せます。
は〇かエプロンは、流行の天使モードです。

すいません、春はなんかちょっとlimeもフワフワしてます(*´ω`*)




ちょこてんし



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流鬼 第16話 兆し(2)  

流 鬼  《連載中》

                ◇

昼前に飛田は、篠崎町の宿「千鳥」をいったん出て、車で上夜千代に向かった。
ぽつぽつと点在する田圃では、もうすっかり稲刈りもはざかけも終わり、秋の気配を漂わせていたが、相変わらず人の姿は少なく、目にするのはカラスばかりだ。

飛田はまず、13年前に行きそびれた須雅神社に向かう事にした。
鳥居のそばに車を停め、ゆっくりと傾斜の急な参道を登っていくと、麓から15分ほどのところにその小さな神社はあった。
苔むした3段の石段の上に、子供が手を広げたほどの祠宮が鎮座している。何の変哲もない、古ぼけた祠だ。

けれど観音開きの扉には、まだ新しいしめ縄と紙垂(しで)が施され、竹の花器には艶やかな榊が生けられていて、人々にきちんと祀られていることが伺われる。
灯篭の横には、その場にそぐわない黒光りのするかがり火台が6台も設置され、ひょっとすると祭りが近いのだろうかと、飛田は思った。

村と共に創設され、火の神であるとともに農業の守護神でもあるカグツチを主神にし、知能の高いハシブトガラスを眷属とした神社は、長い間村人の中心にあったのだろう。

そして明治の初めごろ、村人はこの神社に、村の災いの元凶と伝えられる“流鬼”を新たに祀った。
米田教授の話によれば、それは流れ者の集団をさすものであり、鬼であったために村人は殺戮を余儀なくされたのだと記述されているという。

火事を起こして半焼し、さらに神社合祀令によって夜千代村の氏神は別の神社に取って代わられたが、それでも村人は須雅神社をこの山奥に遷座し、相変わらず鬼を祀り、そして祈った。

死んでも尚村に災厄をもたらす「流鬼」の魂を慰めるために祀ったと言う事なのだろうが、飛田にしてもそれは恐れからの封印にしか思えなかった。
そもそも“鬼だったから退治した”的な、時代錯誤な言い訳が、どうにも滑稽で辟易した。

流鬼は村のほの暗い歴史とともにあり、その殺戮が事実だという事はたぶん、村人も暗黙のうちに了解しているのだろう。
村人は何か天災が起こるたび、常に恐れて来たのかもしれない。

思えば祭りごとは元来どれも、敬意というよりは畏怖と鎮魂が発端のように思えてならない。
この扉の中には村人が畏れ、ひたすら鎮めようとしている負の力が閉じ込められているのだろう。

―――14年前、この場所で飛田の友人、根岸は変死した。あのメッセージを残して。

何か関係があるのか。それともまったく無縁なのか。

飛田は根岸が発見されたと聞いている、祠の正面の崖に向かって歩いた。
崖と言っても木々の根の張り巡らされた、なだらかな傾斜だ。
足を滑らせても、そう簡単に頭を割られて死ぬようなことは無いように思われた。
けれども根岸は確かにこの場所で脳が崩れるほどの損傷を受け、そして獣に食い荒らされ、無残な姿で発見されたのだ。

いったいその時何があったのか。どういう状況だったのか。
何もわからぬまま14年が過ぎた。

飛田は根岸の好きだった日本酒の瓶をカバンから出してその斜面に振りかけると、長い時間をかけて手を合わせた。
本当は13年と少し前、この村を訪れた時にするはずだった弔いだ。
けれどあの時、腹の膨らんだ人形のような少女に出会い、思わず写真に収め、そしてそのことに何かとてつもない背徳感に襲われ、この場所に来る前に逃げ出してしまった。

つい3か月前に根岸の撮ったという、あの少女の写真を見た時、正直言って飛田は戦慄した。
根岸の撮った写真の中の少女が、「なぜ逃げたの?」と飛田に問いかけてきた気がしたのだ。

いったいあの少女は何なのだろう。
あの少女と、根岸の死と、根岸が残した「鬼」の文字。そしてこの村の伝説。
何か関係があると思い込んでる自分こそ、どこかおかしいのだろうか。

飛田は合掌を解き、視線を斜面から180度返し、封印の祠と、その背後に佇むクスノキを仰いだ。
物言わぬそのご神体はきっとすべてを見ていたのだろうと思いながら。

その時ふいに、緑の天蓋の果てから、パンという乾いた破裂音が響いた。

どこかでカラスが騒いだ。続けてまた破裂音が2発続く。
間違いない、銃声だ。狩猟期を外れてもここでは猟をやっているのだろうかと、飛田は暫し聞き耳を立てた。

「ああ~~。な~んだ、キモ冷やしたよ、あんた。俺ぁ、てっきり熊でも出たのかと思った」

突然真後ろから声がして、飛田はビクリと体を竦めた。振り向くと、竹の熊手と麻袋を持った老人が一人、笑いながら頭を掻いている。
70歳くらいだろうか。頭は白髪で体つきもひょろりとしているが、背筋はぴんと伸び、「かくしゃくとした」、という言葉がふさわしい老人だった。

老人は首の手拭いで汗をぬぐいながら、飛田から目を離そうとしない。

「あんた、この辺の人じゃないな。迷いなさった?」
「いえ。ちょっとこの神社にお参りを、と思って」

老人はハハッと笑い、拝んでもなにもご利益はねえよと言いながら、熊手であたりの落ち葉をかき集めはじめた。
地元の人間に向こうから話しかけられたのは初めてで、聞きたいことは山ほどあったが、ひと月前の失敗もあるし、ここはあえて慎重に話題を選んだ。

「ここ、熊なんて出るんですか? さっき銃声が聞こえたみたいなんですが」
「熊は居るには居るが、ここ数年見てないな。イノシシなら多いが。あの銃声は健造さ。健造がカラス撃ってんだ。休みの日は朝から晩までな」
「え。でもこの村ではカラスは守り神みたいなもんだって聞いたんですが」
飛田の言葉に老人は口元だけで笑った。

「あんた詳しいね。そうだよ、別に敬ってる訳でもないけど、カラスを撃つのはあの男くらいだ。人間並みに賢いし気持ちのいいもんじゃないだろ? 健造もそのうち祟られる」

「守り神じゃなくて、崇り神なんですか?」
飛田の質問に、こんどこそ老人は手を止めた。

「……なんでそんなことを訊く? あんた何しに来た」
「14年前、私の友人がここに旅行に来てこの場所で亡くなりました。ご存じないですか? その弔いを兼ねてここに来ました」

ほんの少し前の守りの体勢を解き、飛田はいきなり本題に切り出した。根拠はないが、この老人なら答えてくれそうな気がしたのだ。

「へえ。それは気の毒だったな。そう言えばそんな旅行者がいたような気もするが。崖から落ちたのか? 街のもんは山に慣れてないからすぐに足を踏み外す」

けれどそう言っただけでまたすぐ熊手を動かし始めた。

「確かにこの崖を落ちたんですが、そのあと鳥か獣に損壊されて」
「気の毒にな。キツネや山犬も出るしな。田舎は」

老人は次第に面倒くさそうに声を小さくし、手を動かしながらも背を向ける。
けれど飛田は畳みかけた。

「その友人はカメラが趣味だったんですが、死ぬ前の日にこんな写真を撮ってたんです。この子、ご存知ありませんか?」

飛田が老人の目の前に、根岸の撮った少女の写真を一枚かざすと、そこで今度こそ老人はぴたりと動きを止めた。首を伸ばし、食い入るようにその写真を見つめる。

「こりゃあ……小菊」
「小菊?」
繰り返した飛田を、老人が見上げる。

「その死んだ友達って人は、小菊に会ったのか?」
「……こうやって写真撮ってますから。それは間違いないでしょう。写真のバックは平地みたいだから、こことは別の場所で見かけたんだと思うけど。……この子は小菊っていうんですね? 今もこの村に? おいくつなんでしょう。いえ、変な意味ではなくて。友人が最後に会話を交わした人かもしれないから、ちょっと気になってしまって」

「小菊か……。そうか、小菊が」
「あの……」
「小菊は14年前なら小学生さ。13の時に村を出たが、また今年になって戻ってきやがった。子連れでね。へえ……そうか。やっぱり孕んでたってのは本当だったか。……小菊の奴……」

老人は自分に言い聞かせるようにモゴモゴつぶやく。その目は僅かに好機に輝いていた。
「子を?」
飛田はその老人の言葉を確認せずにはいられなかった。

「子供を産んだんですか? 13で」

やはり飛田がカメラを向けた少女は奇病ではなく、腹に子を宿していたのだ。
あの腹の子は、ちゃんと生まれ、そして今母子ともにこの村にいる……。

正体のわからない奇妙な興奮と感慨が飛田の中に過ぎる。
すっかり自分の思考の中に埋没しているらしい老人が、ふと顔を上げ、答えを見つけ出したようにつぶやいた。

「13年周期……。まさか奴め。それで戻ってきたか?」

その老人の小さな独り言は、奇妙な響きをもって飛田の耳に届いた。





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前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました(;´Д`) 話の筋を忘れちゃった皆さま、ごめんなさい><。

さあ、また飛田が戻ってきました! もうラストまで消えませんよ~。
今回は須雅神社のあれこれを、もう一度振り返ってみました。

細かく読み解く必要はありません。さらっと読みで大丈夫です^^
ようやく、少し喋ってくれる老人をゲットした飛田ですが。さあ、どこまで探ることができるのか。
見守ってやってください^^



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(雑記・イラスト)共著の結果発表 

☆イラスト・マンガ・水彩画

昨年のクリスマスに、携帯小説サイト(エブリスタ)で、お友達のSさんと、お題小説を共作した記事を書きました。

記事→→「(イラスト・雑記)メリクリ&初めての共著体験」

その結果発表があったのですが、嬉しい事に入賞しました。
Sさんに、「二人で組んで、最高に面白いエンタ作品書いて、賞狙おう!」って誘われ、取り掛かったお題小説。
超・妄想コンテスト、お題は「猫」が出て来る物語。

とにかく「何も考えずに夢中で読めて、過激なのに、そのくせハートフルで可愛くて萌える」。そんなのが描きたいよね。……と、二人で試行錯誤して2週間。

完成した作品は、ぶっ飛び設定だけど最高にお気に入りなエンタ小説になりました。(10000文字の縛りがあって、急ぎ足な展開にはなりましたが)

だから、入賞できてほんとうによかった。
私もSさんも、どちらかというとエブではアウトローな小説を書くタイプなので、運営さんからはあまり好かれてないかな?なんて思ってたんです。
今回も、キャラは男多めですし(笑)

このお話は共著だし、Sさんのページで公開しているので、ここに掲載は出来ないんですが、リンクを貼っておきますね。

コンテスト結果発表はこちら。

共著作品は→こちらです


表紙はこちら↓

ちくわ表紙370

【あらすじ】
雷鳴とどろく深夜。
殺人を依頼された純平は、生きた心地もせずにターゲットの元に向かうのだったが。
気付くと自分は濡れそぼった小さな捨て猫で……。
―――なんじゃこれ!
拾い上げてくれた優しい青年と、派手なギャル、そして赤毛単細胞のヤクザ男。
子猫になった純平の奇想天外、猫ライフストーリー♪


看板ネコの、ちくわ です。
Sさんは今、手術&入院療養中なので、コメントはできない状態です。もしご訪問される場合は、そっと覗いてくださるとうれしいです^^

このごろすっかりブログへの訪問回数が減ってしまって、頻繁にコメントできなくて、本当にごめんなさい。
繁忙期であるとともに、体調のほうがなかなか優れなくて、ちょっとサボりがちです。
耳の持病がまた悪化で、ほぼ毎週日帰りぷち手術。
耳が調子悪いと、無口になるし、食べることが面倒くさくなります。
(なんか、リクになった気分)
お昼も食べないし、うっかりすると夜中まで、薬とサプリとコーヒーしか飲んでない……ってなことになるので、頑張ってなにか口に入れるようにしなければ。
(完全栄養食って、何があるだろう……最近バナナも美味しくないし。……何故バナナ)

もう少し元気になって仕事も落ち着いたら、いっぱいお邪魔すると思いますので、その時はまたよろしくお願いします(*´▽`*)



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流鬼 第16話 兆し(1)  

流 鬼  《連載中》

その朝、教室に入った和貴と秋人を迎えたのは、異様な級友たちの視線だった。

もちろん秋人に対する畏怖とも興味本位とも取れる視線は以前からあったが、今朝の雰囲気は和貴が休む前日までとはまったく違う、殺気立つほどに冷ややかなものだった。

「和貴、ちょっと……」
普段はわりとムードメーカーの中嶋が、カバンを置いたばかりの和貴を廊下に引っ張って行った。

「なんだよ」
「由良秋人はバケモノだ。近づかないほうがいい」
「……なに。突然」
まるでホラー映画の役者を演じているような中嶋の喋り方に、思わず笑いそうになった和貴だったが、中嶋はそれを許さなかった。

「3年の香川先輩が昨日、大やけどしたんだ」
「やけどって……。でもなんでそれが?」
「あいつだよ」
その視線は一瞬教室内の、大人しく自分の席に座って窓の外を見ている秋人に向けられた。
中嶋の声にはまったく躊躇いはなかった。憶測ではなくて、恐ろしいまでの断定の表情だ。

「焼却炉の当番だった香川先輩の横を由良がすれ違うとき、なんかちょっと肩が当たるとかのいざこざがあってさ。ほら、香川先輩ってあの、由良の母ちゃんに従姉殺された高本先輩と仲良いだろ。いつかそのことを面と向かって言ってやろうと思ってたみたいでさ。
ぶつかった事をきっかけにして、相当あからさまに暴言吐いたらしいよ。人殺しの子とか、鬼一家とか。
そしたらいきなり、種火程度まで消えてた、何も入ってない焼却炉から爆発するみたいに火が噴き出してさ、香川先輩直撃喰らったんだ。髪の毛と顔の皮膚焼いて、即病院送りさ。救急車来て大騒ぎだったんだぞ、昨日」

和貴はあまりの衝撃に小さく口をあけたまま中嶋を見、無言でその先を促した。

「な? そんなこと今まであったか? あの、ただでさえ燃えにくい焼却炉だぞ? 俺、由良のうわさは今まで適当に笑って聞いてたんだけど、昨日の話し聞いてちびりそうになったもんな。スプレー缶でも混ざってたんじゃないかって先生たち調べてたけど、結局そんな破片なんにも見つからなかった。
由良はそのあとホームルームを早退してさっさと帰っちゃうしさ。そのあと先生たち泡吹いて焼却炉閉鎖したり、大変だったんだ。……なあ、今朝由良はその話、和貴にしたのか?」

「いや、……ぜんぜん」
心臓がザワザワと騒ぐ。
今朝の秋人は、事故の事など匂わせもしなかった。そんな騒ぎが目の前であったのに、あまりにも不自然ではないか。

和貴は窓越しに教室の秋人をチラリと確認すると中嶋に視線を戻し、出来るだけ声を潜めた。
「……その香川って先輩は?」

「結局は顔に軽い火傷しただけだったみたいだけど、髪の毛ほとんど焼けちゃってさ。横でずっと見てたもう一人の当番の先輩は、絶対死んだ!って思ったらしいぜ。顔だけ火だるまで。先輩相当ショックらしかったから、しばらく学校休むんじゃない?」
「……へえ。こわいな」
「由良だよ。あいつやっぱり化け物なんだ。でも証拠がないし、だれもあいつを突き出せない。……けさも平気な顔で登校してきやがる し。和貴、ほんと、もう近づくのやめた方がいいって」

そこまで話したところで担任が廊下の端に見え、その話題はとりあえずそこで打ち切りになった。
担任に注意される前に二人は慌てて室内に飛び込み、席に着く。
教室では誰もが秋人を目の端で捉え、観察し、ピリピリとした空気に満たされている。

和貴は頭の中でひたすら、焼却炉の種火が爆発的に燃え出す科学的な別の理由を考えながら、担任の話を上の空で聞いていた。
けれどもその一方で、心のどこかではすっかり諦め、由良秋人という人間の正体に、自分が結論を出そうとしているのに気付きはじめていた。


                ◇



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今回も短めですが、ここまでで止めておきますね><
次回、(2)からようやく飛田ががっつり介入してきます。
村人や関係者への聞き込み調査で、真相がじわじわ分かっていくはずです。
(飛田が、優秀ならば……(・_・;))
少年たちとの接触も、もうすぐかな。



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