小説ブログ「DOOR」

いらっしゃいませ。右側の目次はシリーズ毎に帯の色分けがしてあります。【あらすじ】だけでも覗いて見ませんか?★切なくスリリングに登場人物たちの心の葛藤を描いて行きたいと思っています★イラストや漫画も時々更新♪

流鬼 第25話 神薙ぎ 

流 鬼  《連載中》

「根岸が父親。……小菊さんがそう言ったのか?」

飛田はやっと手に入れた真実をどう受け止めようか狼狽えながらも、あくまで静かに秋人に尋ねた。
本題はここからだ。訊きたいことは無数にあった。

「つまり14年前小菊さんが根岸と出会って、その……」
「神薙ぎなんだ」
「え?」
「必要な神事なんだって。母さんが母さんであるために。……だって13歳になっちゃうから。新しい力を生んで繋げなきゃいけない。一人だと、とても弱いから」

「なあ秋人、13歳になるまでにって、何なんだ。それは流鬼だからなのか? そういう決まり事なのか?」
「そうだよ。村の人もキヨもみんなそう言う。母さんだってそう言った。でも何の決まり事なのか僕にはわからない。もしそんな決まり事があったとしても、じゃあなんで神薙ぎの相手を殺さなきゃならないの! なんで母さんは僕を嫌うの!」

秋人の膝のロクが主の興奮を受け取ったかのように、ひと声鳴いた。

妙な納得と共に、ある種の嫌悪が体中に広がり、じわりと発汗した。
車内の温度が異常に上がっているように感じられた。

「秋人。14年前のその儀式の一部始終を君は聞いたんだよな。それは確かなのか? 誰が言った?」
秋人の膝のカラスが瞬幕を瞬き、口をあけて威嚇の体勢を撮ったが、秋人はすぐさまそれを抑え込み、大きくひとつ呼吸をした。

「人間は不浄だし、不浄なものに神薙ぎの記憶を持たせたまま生かしては置けないって。……母さんとキヨがそう言った。でも、じゃあなんでそんな人間を儀式に使うんだよ。不浄な人間なんか使わなきゃいい。僕なんか産まなきゃいい。
そんな人間なんか使うから僕みたいに何の意味もない子が生まれるんだ。僕だって流鬼なんかなりたくて生まれてきたわけじゃない!」

ロクが今度こそ制御不能に暴れて羽ばたき、フロントガラスに体を打ち付けた。車内には何故か焦げたような匂いが充満し、滝は慌てて窓を全開にした。ロクはそれでも車外に出て行かず、またすぐに秋人の膝の上で飛田に威嚇ポーズをとる。

心臓がバクバクする。情報を処理しきれずに、次第に胃のあたりが不快になって行くのが分かる。
この少年に対する恐れなのかもしれない。

「落ち着けって。秋人くらいの子供は大なり小なりみんな親からの愛情に疑問を持つもんなんだって。きっとどこかに間違いがあるんだ。もしかしたら全部が間違ってるのかもしれない。
いいか、この科学の時代にそもそも鬼なんてものが存在するって思う方がおかしいんだ。昔話や都市伝説なら面白いかもしれないが。どこかの時点で間違ってるんだ。全部迷信で、思い違いなんだよ」

そうだ。きっとそうなのだ。そんな残酷お伽噺に紛れて、根岸の死が処理されていいはずがない。これはやはり、殺人事件なのだ。罪があるならばきちんと法に従い償わなければならない。

けれど、現世から切り離されたこの村で、それはどこまで可能なのか飛田には分からなかった。
震える手でクーラーのスイッチを入れ、とにかく呼吸を整えた。
秋人は汗ひとつかいていない。その蒼白い顔を左右に振って、ゆっくり否定の仕草をする。

「母さんは人間じゃ無いんだと思う。簡単に人を殺すんだ。手も触れずに」
「……そんな」
「それが流鬼の力なんだって、キヨが言った。子供の頃に酷いいじめっ子を4人殺した。噂が鬱陶しくて住みにくくなってきたから、僕を生んだ後、キヨが昔いた街に引っ越したけど、行く先々の学校で母さんは他の人と問題を起こして、やっぱり何人も死んだ。だんだんその町でも怪しまれ初め、住みにくくなって……」

「あ……秋人、ちょっと待ってくれ! それって……。そんなことってあるのか? いや、ありえないと思うんだけど。手も触れずにって」
「簡単なんだ。母さんには。頭の中の血管をちょっと裂けばいい」

飛田は絶句するしかなかった。
確かに根岸の時も耳から酷い出血があったと聞いたが、転落の衝撃なのだと誰もが疑わなかった。
納得するどころか逆に今、横に座る少年の言葉すべてが飛田への悪い冗談にしか聞こえなかった。
信じろと言う方が難しい。

「秋人。お前はいったいどう思ってるんだ。自分の家族のこと」
「変な事聞くよね」
秋人は一瞬、泣きそうな顔をして笑った。
「どう思ってたらいいの。二人は、僕の家族だよ。母さんは……母さんでしかない」
「……ああ。うん、そうだよな。悪かった。つい」
咄嗟に飛田は声のトーンを落とした。確かに酷な質問だ。

「僕にも分からない。これからどうしたらいいのか。この村と関係のない飛田さんに、本当の事を調べて教えてほしかった。僕は何者なのか。どうすればいいのか。だから話したのに」
「そうだった。それは分かってる」
「まだ足りない?」
「……そうだな。まだ出会ったばかりだし。秋人とも、小菊さんとも」

ゆっくりと深呼吸しながら飛田は言葉を選んだ。
自分はもしかしたら、とんでもないものに首を突っ込んでしまったのではないかという不安を鎮めるために。

「でももう、悩むこともないのかな」
ふいに秋人は静かな声で、フロントガラスの向こうの曇天を見ながらつぶやいた。

「今夜が須雅様の本祭なんだ。ほら、カラス達が騒ぎ始めてる。母さんのお腹の子も、もう生まれるかもしれない。そしたらきっと僕はもう、用済みになる」
「用済みってどういう意味だよ。一体誰がそんなことを。秋人は小菊さんの子だぞ?」

「根岸さんは殺されたよ」
「でもそれは……。え……」
飛田の中にひらめいた、およそ信じられない考えが体を電流のように貫いた。

「小菊さんのお腹の中の子って、まさか」

バシンと大きな音を響かせて、空からフロントガラスに黒い影が体当たりしてきた。飛田はビクリと体を跳ね上がらせら。
カラスだ。
ロクが狂ったように暴れ、車内で羽ばたいた。

「なんだ!」
ふと空に目を向けると台風接近の余波のせいか、どす黒い雲が恐ろしい速さで流れ、そしていつの間に集まったのか何百何千というカラスが遙か上空を飛び交い、空を更に黒く煙らせていた。
あまりのおぞましい光景に、飛田は喉の奥で低く唸った。

「認めてもらいたかった」
秋人が空のうねりを見上げながら小さくつぶやく。
先ほどの飛田の質問の答えなのだ。飛田は息を止めて秋人を見た。

「強い力がいるんだ。濃い血が必要なんだって、13の冬に母さんが僕に言った。お前の血が必要なんだって。だから」
「だから? 秋人それ……お前正気か? そんなことまでして」
「そんなことまでしても、僕は自分が存在する理由が欲しかった」

「馬鹿げてる。それこそ狂ってる。お前は根岸の子だ。人間だ。そんな真似しなくたって普通に生きればいいじゃないか。婆さんや母親が狂ってるんだったら出て行けばいい。俺でいいなら面倒見てやる!」
「ぼくは人間?」
「当たり前じゃないか! 他に何だってんだ」
何の迷いもなく吐き出した飛田の言葉に、秋人はニコリと笑った。

それは呆れるほど幼くて純粋な、ごく普通の中学2年生の笑みだった。
躊躇う様子も無く秋人はドアレバーに手を掛ける。

「ありがとう。最後に全部話せて良かった」
「……え、おい、どこ行くんだよ。これからちゃんとお前の身の振り方を考えよう。そういう相談所あんじゃん。それなりの手続き取って、生活変えて行かなきゃ……。おいって―――」

けれど秋人はドアを開けてロクと共に外へ飛び出した。
夥しい数のカラスの声と湿った風が流れ込んで来る。

「母さんとキヨが朝、山に入ったまま帰って来ないんだ。僕、探しに行ってくる。母さん、よく貧血で動けなくなったりするから」
「なあ秋人、待てったら。まだ話が終わってない」

「もうすぐ祭りが始まる」

秋人がドアを閉めた途端、風の仕業かカラスの仕業か、フロントガラスに折れた木々の枝や葉が無数に落ちて来て、まるきり前が見えなくなった。
外に出て排除しようとしたが、どういう訳かドアが開かない。
助手席のドアも同じで、まるで溶接したように、びくともしない。

「どうなってんだよ、くそっ!」
飛田は大きく叫び、ハンドルにこぶしを叩きつけた。
                       
            ◇

木の葉の隙間から空を覆いつくさんばかりのカラスを見上げ、さすがのキヨも背筋を凍らせた。

重そうに腹を抱え、ゆっくりと須雅神社への坂を上っていく華奢な背に、キヨは話しかけた。
「もう引き返した方がいいよ、小菊。銃声は聞こえなくなったけど、どこかで健造に出くわす気がする」

かがり火の当番のいない時間を狙って登り始めたものの、すぐそばで健造の散弾銃の音が轟き、二人は暫く参道を外れ、長い時間木陰に身をひそめていた。
けれど少し前に不意に音が止み、そのとたん当たり前のように小菊は山の中腹にある須雅神社を目指して登り始めたのだった。

まるで自分がさも神社の主であるように祭場へ向かう姿にキヨは苛立ちを覚えた。
須雅様に足しげく通ったからと言って、その腹の子が神格化するわけでもあるまいに。どうせ穢れた鬼の子だ。

キヨにしてみれば、小菊に関する感情のほとんどは、ただ空恐ろしい未知なる力に対する、好奇心でしかなかった。
運に見放され、何の富も幸せも縁のなかった自分の、唯一の優越感に他ならなかった。

小菊が秋人を抱いて子を孕んだと気づいた時も、最初はそんな濃い血が腹で育つはずもないと静観していた。
もしもそんな背徳の胎児が育ったとしたら、もう、それこそ計り知れない古の鬼の力の備わった化け物でしかないと。
けれど小菊の腹は小ぶりながらもしっかりと膨らみ、キヨは覚悟を決めるしかなかった。

秋人を育てていて、キヨは薄々気が付いていた。人に非ずは小菊だけではない。
秋人はその身の内に大きな力をひそめている。彼が宿すのは火と熱だ。流鬼を合祀し鎮めていた際神、カグツチのように。

ただ秋人は小菊のように馬鹿ではない。理性を持って今のところその力を抑えている。
その力の恐ろしさをキヨは誰よりも感じ、そして誘発しないように気にかけてきたのだ。

「ほら小菊。かがり火のせいでカラスが興奮してる。空が真っ黒だ。健造は今日はきっと狂ったように狩るよ。鉢合わせするのは嫌だし、やっぱりもう帰ったほうがいい」
けれど小菊は首を横に振った。ゆったりとしたワンピースが汗ばんでいる。

「健造はきっとどこかにいる。わざとどこかに潜んで待っているのよ、キヨ。だから行くの。あの男を、カラスの供物にする」
少女のような唇からこぼれた言葉は、どこまでも冷ややかで残酷だった。

「だけど小菊。健造を殺したら、秋人が悲しむね。仲のいい友達の父親だから」

「わたしには 関係ない」

小菊の声は怒気を強く孕んでいて、キヨはすこしばかり身震いした。



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(雑記)お別れ。なんだかぼんやりしちゃいますね 

☆雑記・四方山話

またもや更新が延び延びに……。
このところ、なかなかゆっくりブログのご訪問もできなくて、ごめんなさい

11日の早朝、我が家のワンコが旅立ちました。
ずっと闘病の日々だったので覚悟はしていたんだけど、やっぱり14年間もいっしょに暮して来た家族なので、寂しいものですね。

家事をしている間、ずーっと傍に座って私を見つめる子でした。
今でも見つめられてる気がして、つい振り返ってしまいます。

おバカで食いしん坊でしたが、家族のアイドルでした。
食べきれずに残ってしまった、大好きなタマゴボーロを持たせて、みんなで見送ってやりました。
向こうでは、転がるボーロを追いかけてw、いっぱい食べてほしいなあ。

なんだか、しんみりした記事になっちゃってごめんなさい(>д<)
いろいろサボってる言い訳を……と(爆)
あ、コメント欄は閉じさせていただきますね。

limeというペンネームはこの子から貰ったのですが、これからは私だけの名前になっちゃうんだなあ。
しばらく、ぼんやりしちゃうと思いますが、またじわじわ復活する予定です。
(あさっての土曜日は、待ち焦がれていた大好きなヒップホップグループのドームコンサートです! はじける予定です(笑))

暑かったり寒かったりで、体調崩しやすい季節ですが、みなさんお気をつけて~(*´ω`*)



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流鬼 第24話 問い(2)  

流 鬼  《連載中》

飛田は細い農道の端に立つ二人の少年に気づき、窓を開けたままゆっくり車を近づけた。
口論しているような険悪な雰囲気に見えたが、この機会を逃すつもりはなかった。

小菊に容易く近づくことができないと分かった今は、自分の求める答えをくれるのは、やはり子供たちかもしれないと思い至り、彼らに会うために先刻宿を出たのだ。

けれど車を路肩に寄せた直後、鋭く発せられた秋人の声に和貴は雷に打たれた様に怯み、すぐに自転車でその場から走り去ってしまった。
その波動が飛田にも伝染し、思わず息をのむ。
内容は聞き取れなかったが、およそ秋人のイメージとはかけ離れた鋭い叫びだった。

「和貴と喧嘩でもした?」

運転席の窓から顔を出し、軽い調子で秋人に声を掛けると、ちょうど舞い戻って来た赤ヒモのカラスを腕に止まらせ、秋人はゆっくり視線を飛田に流した。

中性的で細身の肢体。腕には守り神のカラス。母親によく似たその目元は冷ややかに飛田を見下ろしているが、小菊に感じた恐ろしさは皆無だった。
それは飛田がこの少年の中に友人の血をほぼ確信していたからでもあった。
有り得ない、有ってはならない事ではあったが、そう考えなければ、あの友人の死に様の説明がつかないのだ。

「神社の鬼の伝承を調べに来たなんて、全部嘘なんだね」

秋人は腕のカラスの背を撫でながら静かに言った。
何の抑揚も無い穏やかな声だが、その中に冷ややかな苛立ちを感じた。

「昨日、小菊さんに聞いたんだな、俺のこと。……悪かった。でも全部が嘘って訳じゃないよ。鬼の伝承については真剣に調べてたんだ。13年前半にお腹の大きな小菊さんを思わず写真に撮ってしまったことを、小菊さんが覚えているとは思わなくて、君にも内緒にしていたけど。あの時も、悪気があったわけじゃないんだ。結果的に小菊さんを怒らせてしまったかもしれないけど……」

「母さんを探してたのはなぜ?」
秋人は腕のカラスから、車内の飛田に視線を移した。

「和貴に見せてた写真は、飛田さんが撮った写真じゃないよね。別のだったんだろ? 飛田さんは、ずっと前にここで死んだ旅行者友達で、その人の撮った写真を持って、母さんを探してた。……なぜ?」

飛田を見下ろして来たその目の中には、怒りよりも落胆が見てとれた。
飛田は咄嗟に助手席のドアのロックを解除し、「乗って。少し込み入った話になりそうだから」、と手招きして秋人を誘ってみた。
秋人はわずかに戸惑いの表情を浮かべたが、やがて素直に頷いた。

あまりにスムーズな展開に飛田の方がほんの少し身構えた。自分はこの少年相手に、この後どこまで話をし、どこまで聞き出せばいいのだろうかと。

秋人は内面の見えない硬い表情のまま車の前面を回り込んだが、驚いたことにカラスを腕に乗せたまま助手席に乗り込んできた。
あまりに当然といった秋人の行動が飛田には可笑しくて、声を出さずに笑った。この少年にとっては、カラスは本当にお守りなのかもしれない。
それで秋人が落ち着くならと、あえて同乗者の指摘はしなかった。

一呼吸置き、座席にきちんと座った少年の足元に何気なく目を落とすと、その足首には鮮やかな真紅の赤い紐が巻かれていた。膝に乗せたカラスの足の紐によく似ている。

「それ、何かのおまじない? カラスの足のと同じ紐だよね」
魔よけとか? と言いそうになって口をつぐむ。なんとなくシャレにならない気がした。

「ロクのひもは、犬の首輪と一緒。僕の大事なカラスだって誰にでも分かるように、僕が目印でつけたんだ。でも僕のは……、和貴がずっと前に悪戯につけたんだ。僕が寝てる間に」
「そのままにしてるんだな。邪魔だろ?」
「いいんだ。和貴が、同じ気持ちでつけてくれたのかなって……思ったから」
「秋人がカラスにしたように?」

けれど秋人はもうそれ以上無駄口をきく気はないと言わんばかりに黙り込んだ。
僕の質問に答えろと、その横顔が言っている。飛田ももう一度真っ直ぐ前を向き直り、本題に入った。

「秋人。まずは、ごめん。確かに俺は幾つか嘘をついていた。
2カ月前に和貴に見せた写真は14年前、俺の友人の根岸っていう男が撮った、12歳の小菊さんの写真だ。根岸は写真を撮った次の日に、須雅神社の前の斜面で死んだ。目も当てられないような酷い姿で発見されたよ。死因は急な斜面を転がり落ちて頭部を破損し、そのあと獣か猛禽類に食われたんだろうってことだったんだが、あれから14年経って根岸の荷物の中から、12歳の小菊さんの写真とかメッセージとかが見つかったんだ。メッセージからは、意味深な「鬼」というワードが出て来て、俺は改めていろいろ疑問を感じたんだ。
もしかして、ただの転落死じゃ無かったんじゃないかって」

秋人はカラスの背を撫でながらゆっくりと飛田の方を見たが、やはり落胆に似た表情で再び顔を伏せた。

「僕に嘘をついて近づいたのは、母さんのことが怖かったから?」
秋人は膝のカラスに視線を落としたまま小さく訊く。

飛田は咄嗟にいろいろな答えを想定してみたが、適当な言葉を選んで誤魔化すことに疲れてしまっていた。
もしもこの少年を傷つける結果になったとしても、もういい加減早く、正しい答えにたどり着きたかった。

「そうだ。小菊さんの事もいろいろ耳に入って来たし、下手に刺激しちゃダメな人なのかなと思ってね。だけどこのままじゃ、俺が知りたいことは何も分からない。やっぱり、一度ちゃんと小菊さんに会って話をしなきゃって思い直して」

「飛田さんが本当に知りたいことは、なに?」

「……小菊さんが、俺の友人の死の真相を知っているのかどうかを知りたい」

他にも知りたいことはいくつもあったが、一番掲げやすいそれを提示してみた。
口の中が異様に乾く。秋人は、冷めた目をしてさらりと言った。

「母さんが根岸って人を殺したかどうか、ってこと?」
「いや、何もそこまでは……」
けれど秋人は冷ややかに口の端をクイと上げ、冷笑を浮かべた。
「それなら僕が全部答えられると思う」
「本当か」
思わず飛田は声を上ずらせた。

「でも僕が喋ったって分かったら、今度こそ僕、母さんに殺されちゃうかもしれないから、内緒にしてくれる?」
「殺されるって、そんなバカな」
思わず苦い笑いを浮かべてみたが、秋人は笑い返して来なかった。

「……秋人、お前らはいったい……」
「でも待って。ただでは教えてあげられない。交換条件がある」
「交換条件? あ……、昨日の?」

―――「飛田さんが本当の事を調べてくれるのなら、僕は協力する。母さんは鬼なんかじゃない、普通の人間だってみんなに言ってくれるのなら、協力する。母さんにも会わせてあげる」

つい昨日、飛田の嘘を鵜呑みにした秋人が提示した条件が脳裏に浮かんだ。
昨日は適当に承諾するふりをしたが、今となってはすべてが空しい。そんな約束は不可能だった。

「昨日の約束なら……」
「あれはもういいんだ。忘れて。そんなの出来っこない。分かってる。母さんは鬼だから」
「……」
口の中がさらに乾き、鼓動が早まる。
交換条件の内容うんぬんよりも、核心に迫りつつあるこの状況が、なぜだか怖かった。

「飛田さんの知りたいことを教える代わりに、僕の知りたいことを教えてくれる?」
助手席から見つめて来る黒い瞳が飛田を捉えた。

「なんだ。言ってみろ。何が知りたい?」

「流鬼って、いったい何?」

飛田はあまりに思いがけない直球の質問に、一瞬言葉を失った。そんな質問が秋人から来るとは思ってもいなかった。

けれども、その何処までも深く黒い瞳は強い光を宿していて、改めて吸い込まれるようにその目を見た。
小菊とよく似た目、輪郭、白い肌。けれど別物だ。目の前に居るのは紛れもなく人間の子供に違いなかった。

自分の親を村人の言う「鬼」だと認めつつもこの子は、自分や母親が一体何者なのかが分からずに、不安で堪らないのかもしれない。
不安を抱えていたとしても、秋人にその不安を解消するすべはないのだろう。
村人は母親を恐れ、秋人を疎んじる。友人であったはずの和貴とも、仲たがいしているようにも見える。
まだろくすっぽ正体の分からない飛田に、こんな大胆な提案をしてくるほど切羽詰まっているという事なのか。

飛田はにわかに、隣でそっとカラスの背を撫でる少年が不憫に思えて来た。
そしてもし、本当にこの子が根岸の子であったとしたら、と思うと尚更のこと、情が湧き上がってくる。

「……秋人。小菊さんとは、そんな話は一切しないのか? 流鬼がいったい何なのか、彼女なら教えてくれるだろ? 彼女は秋人の母親なんだ。何でも話せるだろう」
けれど秋人は表情を硬くしたまま、首を横に振った。
「母さんとは、そんな話はしない」
「そうなのか?」
「僕は出来そこないで、あまり好かれてないから」
「そんな馬鹿なことないだろ!」
「いいんだ、キヨが優しくしてくれるから」

“僕が喋ったって分かったら、今度こそ僕、母さんに殺されちゃうかもしれないから”

さっき秋人の口からきいたその言葉は、冗談では無かったのかもしれないと飛田は胸の冷える想いがした。
もしもそれ程息子に冷徹な母親だとしたら、小菊はそれこそ鬼畜だ。

「じゃあ……お父さんは?」

飛田は堪えきれずについその言葉を口にした。
秋人との交換条件を承諾する前だったが、もう訊かずにおれなかった。すべてはそこなのだ。
それを知るために、飛田はここに来た。

「秋人のお父さん、どこかに居るんだろ? その人に相談したりは、できないのか?」

秋人はしばらくじっと飛田の目を見つめていたが、今度は目をそらさずに、やがて真っ直ぐ答えた。
少年の目の中に小さな決心が見える。これは母親への密かな反抗なのに違いなかった。

「その人なら須雅神社の森で、14年前に死んだよ。僕の父親は、飛田さんの友達だった人だ」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
飛田、残念ながら無事でしたね(。>д<) ←ん?

ここは二人とも、まだ完全に腹を割っていない状況での交渉なので、すごく悩みました(;´Д`)

秋人が結構飛田に内面や、由良家の秘密語り始めました。(読者さんには既知です><)←新鮮味が……(;_;)
次回も更に二人の会話が続きます。ここで飛田は驚愕の真実を知っていくのですが……。

相変わらずの亀更新ですが、また良かったら、お立ち寄りください(*´ω`*)
コメント等も、どうぞお気遣いなく、お気軽に♪

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流鬼 第24話 問い(1)  

流 鬼  《連載中》

夜が明けて、9月末日の早朝。
和貴は納屋の前で自転車チェーンの修理に取り掛かった。

休日なので、時間は充分あった。それこそ考えたくないことまで想像し、思い巡らせてしまうほど。

垂れさがったチェーンを引き抜き、不自然に溶けた部分をチェーンカッターで切り落とした。
工具箱から予備の古いチェーンを取り出し、長さを調節しながらつなぎ直す。小学校の頃に、健造が教えてくれた工程だ。
無事繋がったチェーンをホイールにはめ込んで、20分ほどで作業は終了した。

工具箱を片付け、機械油で黒くなった手を石鹸でこすって洗いながら和貴は、先刻父親から聞いた14年前の衝撃的な場面を、何度も何度も思い出していた。

それは鮮明で生々しい映像になって定着し、もう和貴の頭を離れていくことは無さそうだった。
旅行者と出会い、そしてまぐわい、不要になると殺して残骸をカラスに食わせ、そして13で秋人を生んだ。流鬼の繁殖周期にそって。

そしてそれから13年が過ぎた。
―――帰巣。
そんな言葉が和貴の中に浮かび上がる。

あの8月の末の小菊との出来事は誰にも決して言わないつもりだったが、まるでスルスルと口からこぼれおち、気が付いたらすべて健造に話してしまっていた。

話しながら体が震えた。
もしかしたら自分は、秋人の父親と同じ末路を辿っていたのかもしれない、と。

和貴の告白を聞いた後で唸る様に息を吐き、和貴の頭をギュッと抱え込んだ健造の力の強さが、まだしっかりと感触として残っていた。
確かにこの人は自分の父親なんだと、肌身に染みて感じた。


「今日、祭りが終わるまでに片を付ける」
布団の中で、健造は低く唸った。

「何をするつもり?」
「そうだな。カラスを全部撃ち殺す」
「無理だよ」
冗談めいたその言葉に、和貴は少しだけ安堵し、少しだけ落胆しながら布団に入った。
けれど興奮は冷めず、一睡もできなかった。

何かが起こる。何かを起こさねばならない。
自分たちの生活を脅かす鳥や獣は排除して然るべきなのだ。ましてや鬼など。

和貴は体を突き上げる武者震いのような感覚にじっとしていられなくなり、修理の終わった自転車で外に飛び出した。
遠くの山で乾いた銃声が二つとどろき、いつものようにカラスが慌てふためいて騒ぎ立てる。健造の銃だ。
すぐ先の森の上に煙る様に湧き立つ黒い鳥。鳥、鳥。

あんなものが守り神のはず、ないじゃないか。
鬼にしろカラスにしろ、悪しきものを崇めて鎮めたつもりで放置するから、増殖して手が付けられなくなるんだ。
祟られるから腫物に触るように守り、あげくに増殖されて、そして食われる。
いつかきっと手遅れになって泣きを見るに決まっている。
正しいのは抵抗しようとしている父さんなのだ。

自転車を走らせながら和貴は左手をピストルのように構え、煙のように湧き立って飛び交うカラスの群れに狙いを定める。

突如、バサリと羽音がしてその左手に黒い影が飛びついた。
和貴は凍り付いて情けない声を上げ、咄嗟に黒い影を力任せに振り払った。
腹から突き出た足に赤い紐。ロクだ。

「和貴、おはよう」

振り返ると、田圃のあぜ道に立つ秋人が、穏やかな笑顔で和貴を見ていた。その肩にゆっくりとロクが舞い降りる。
いつの間にか和貴は秋人の家の前まで来ていたのだ。

「危ないだろ! そのカラス」
「ごめん。和貴と遊びたかったんだよロクは。あ……、自転車直ったんだね」

昨日の気まずい別れ方を忘れてしまったかのような秋人の呑気な表情に、和貴は苛立ちを覚えた。
「お前がやった癖に」
小さく喉の奥でつぶやいたが、聞こえなかったのかその声に秋人は反応しなかった。

「ねえ和貴。聞きたいことがあるんだ」
「……なんだよ」
「昨日の飛田って人、母さんの写真を持って探してたんだろう? それってどんな写真?」
予想外の質問に、和貴は少々面食らった。

「どんなって……、普通に12歳くらいの、昔の小菊さんだよ」
「おなかが大きかった?」
いったい何を言わせたいのか分からぬまま、和貴は首を横に振った。

「そんな訳ない。その写真は、飛田さんの友達がとった写真で……」
和貴はそこで改めて飛田の事を思い出し、ハッとした。

あの12歳の小菊の写真を撮ったのは、ちょうど14年前ここに旅行に来た秋人の父親なのだ。
写真を撮った後日、その男は小菊と交わり、そして殺された。
あの飛田という男は、友人の壮絶な最期も知らずに、小菊を探しているのだ。

けれど和貴をゾッとさせたのは、その後の秋人の反応だった。

「そっか。……そういう事なんだ。飛田さんは、あの旅行者の知り合いだったんだ…。僕には教えてくれなかった。
民俗学の研究とか、ぜんぶ嘘っぱちなんだね。僕また、騙されちゃった」

俯いたまま秋人は、自嘲気味に小さく笑った。
その姿は和貴が知っている、闊達でどこか幼げな秋人とはまるで別人に見えた。

「なんでみんな嘘をつくのかな。飛田さんも、おばあちゃんも、母さんも」
「何がだよ。知らないよそんなこと。何が嘘なんだよ。俺に訊かれたって分かるわけないだろ!」
不可解な恐れは和貴の中で次第に苛立ちに代わり、そして猛烈な怒りに代わっていく。

「ああ、もういい。行けよ和貴。僕が直接飛田さんに会って訊くから。何が目的で僕らに近づくのかって」
冷ややかに言い放ったあと、秋人は何かに気づいたように視線を左手の農道に移す。
飛田の白い自家用車がこちらにゆっくり向かって来るのが見えた。

―――なんでこのタイミングに。
和貴の背筋に冷たいものが走った。

「殺すのか?」

自分の口から思わずこぼれた言葉に、和貴自身が凍り付いた。
笑い飛ばすと思っていた秋人の目が見開かれ、じっと和貴の目を見つめる。

「殺さないよ。なぜそんなことを?」
「腹を……立ててるみたいだったから」
「僕が腹を立てたら、人が死ぬの? どうして?」

いったいどこまでこの狂った会話を続けなければならないのだろう。
和貴は血が沸き立つ様な興奮と恐怖とで、体が強張るのを感じた。
飛田の車がすぐそばまで近づいているのに、秋人は和貴から目を離そうとしなかった。

「秋人は……。お前は知ってるんだろう、全部。小菊さんの事、自分の事、……自分の父親の事」
「もう行けよ和貴。話は終わったから。僕は飛田さんに用があるんだ」
「何だよそれ! 勝手だよな。こっちの質問には答……っ、わっ!」
突然威嚇するようにロクが和貴の頭をかすめ、和貴は総毛立ちながら手で頭を庇った。

「もう行けったら和貴! 僕が人を殺すところを見たいなら勝手にすればいい。だけどこれ以上僕を怒らせたらどこまで飛び火するか分からないからな!」

初めて聞いた秋人の怒声が刃物のように体に突き刺さり、和貴は自転車のペダルを我武者羅に踏み込んでその場から逃げ出した。

――化け物だ! やっぱりそうなんだ、あいつ等は流鬼なんだ。秋人は全部知ってて何食わぬ顔でここに戻ってきたんだ。

恐れと共に秋人にしっぽを巻く形になったことが悔しくて、情けなくて、和貴は心の中で叫び声を上げた。


               ◇





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流鬼 第23話 悪夢 

流 鬼  《連載中》

夕闇を引き裂く悲痛な声とともに、無数の羽音がクスノキの森に響き渡った。

目の前で血に染まるのは見ず知らずの男だ。
けれど体の奥底から噴き出す恐怖にわななき、健造は喉が裂けるほど大きく叫んで身を起こした。

豆球の明かりだけの薄暗い部屋の布団の上で、汗だくになりながら肩で息をする。
夢を見たのだと気づいた後も、体の震えは止まらなかった。


もう数え切れないほど何度もあの日の夢を見てきたが、今夜見た理由は和貴が連れて来たよそ者のせいだと健造には分かっていた。

警察もあの14年前の旅行者の件は転落事故として処理したというのに、今になってその男の知人がこの村を訪れ、そして小菊を探しているというこの事実が、何かの符号のような気がして健造には恐ろしかった。
どこかに無数の目があって、健造の穢れを見つめているようで息が苦しかった。

薄い敷布団の上で首筋の汗をぬぐい、暗闇の中、大きく息を吸い込んでみる。
健造の精神の根幹を狂わせたものがあるとすれば、それはまさしくあの日見た地獄絵図に他ならない。

ちょうど14年前の9月の末日の夕刻。その日は健造が須雅神社のかがり火の守り役だった。

林業の仕事も精力的にこなし、その2年前に祝言をあげた嫁が高齢ながら初めての子を身ごもり、生活は豊かとはいえなかったが、まずまずの日々だった。

森の中は夕方4時を回るころには、鬱蒼と茂った木々のせいで、早くも薄暗くなる。
ねぐらに帰るカラスの声を、パチパチと爆ぜるかがり火の音と共に聞きながら、祠の裏のクスノキの根を枕に、健造は少しの間ウトウトしていた。

その眠りから健造を呼び戻したのは、低く唸るような獣じみた声だった。
まさか山犬か熊でも出たのかと、祠の影からそっと前方を覗き込んだ健造は、目を疑った。

まだ若いガッシリした男が地べたにしゃがみ込み、下半身をあらわにして体を大きくうねらせているのだ。
斜め後方からで顔はよく見えなかったが、この村の者ではないように思えた。
けれど何より健造を驚愕させたのは、その男に組み敷かれているもう一つの体だった。

「小菊」
健造は喉の奥で僅かに呻いた。
まだ幼さを残す細い体は何も纏わず、がっしりと男に抱きかかえられるように身を任せていた。

身を任せていたというのが適当なのか、ただ動きを封じ込められ放心していただけなのかは分からない。
うす暗がりをてらてらと揺らめくかがり火の明かりの中で、少女の驚くほど白く滑らかな体が、男の動きに合わせて大きく揺れていた。
見開かれた黒い瞳は男ではなく天蓋の木々を見つめ、まるで紅をさしたような鮮やかな唇は時折震えた。
幼い胸はまだ膨らみすらなく、ただ呼吸に合わせて大きく上下し、男の顎から滴る汗で艶めかしく濡れていた。

背後からは夥しい視線を感じるものの、そのカラスどもは息をひそめ、健造と同じように、この目の前の行為をただじっと見つめているのが分かった。

ただ男の苦痛に似たうめき声が響く中で、突き上げられる小菊の折れそうな体がゆれる。
次第に上気していく幼い裸体。男の手で固定された細い腕、足。唇から時折覗く小さな舌。
体の自由を奪われたのは健造も同じだった。思考が麻痺し瞬きも忘れ、目の前の絡みを憑りつかれた様に見つめていた。

天を見つめていた小菊の目がゆっくりと動き、健造の視線と合わさった。
それでも絡み合った二つの体はほどけることはなく、悠然と律動を続ける。

炎で焙られた様に体中の血が沸き立ち、熱を帯び、抗う事も出来ず健造の手は自分の股間へと伸びた。
小菊の視線をまっすぐ受け止めながら健造自身も激しく自慰を続けた。

恐れも羞恥も背徳感もまるで働かず、理性と呼べるのもなど欠片も存在しない、ただ衝動に支配された時間だった。

その狂った時間の終焉の合図は、男の獣じみた咆哮と、そして一斉に木々から舞い立ったカラスの声だった。
男はゼンマイ仕掛けの人形のような動きで衣服だけは身に着けたが、恐怖を顔に張り付けたまま何度も転倒して体を地面に打ち付け、それでも叫びながらカラスの飛び交うその場から退こうともがいた。

裸体を起こした小菊は、カラスを交わして半狂乱で走り回る男をじっと目で追い、ゆっくりと口元をゆがめた。

嗤ったのだ。
途端、男の耳から血が噴き出した。

それを合図にするかのように、中空を飛び交っていたカラス達が一斉に男の顔めがけて飛びかかった。
布が引き裂かれたような叫び声をあげ、体中にカラスどもを張り付かせた黒い不気味な怪物は、まるで用意されていた動線を辿る様に崖下に転がり落ちて行った。

その落下物をめがけ、あぶれて舞っていたすべてのカラスが、次々に崖下へと飛び込んで行く。
男の身の毛もよだつような断末魔は、その命が尽きていくに従いやがて弱くなり、細くなり、ついには消えて行った。

〈小菊は祟る。〉〈意のままに人を殺す。〉〈鬼だから。〉
あれはホラでも出まかせでもイジメでもなんでもない。事実なのだ。

男の汗や体液や血で汚れた小菊が再び健造の方をゆっくり振り向く。
目の焦点が合う前に、健造は逃げ出していた。

何処をどう走って家にたどり着いたのか記憶にない。
その夜は話しかけて来る嫁を怒鳴りつけ、ただひたすら寝間に籠って震えた。今にも小菊が訪ねて来るのではないかという恐怖に憑りつかれ熱を出し、三日三晩寝込んだ。

その後、逆に小菊が気配を消し、家に籠る様になっても健造は常に怯え、小菊の話題に触れるのさえも避け続けた。

小菊がいつの間にか子を孕み、人知れずこの村を出たという噂を聞き、ようやく平常心を取り戻したというのに、またあの鬼は13年して戻ってきたのだ。あの時まぐわった男の血で増殖した子鬼を連れて。

目的は再びの増殖か。それとも報復か。何にせよ放置していいはずはないのだ。
血に飢えた狂ったしもべ達を排除しつくし、そしてあの化け物を消してしまわなければ、次に食われるのは自分かも知れないのだ。


「父さん、いやな夢でも見た?」
眠っているとばかり思っていた和貴が隣の床の中からじっと健造を見ていた。

「……起こしたか」
「小菊のこと?」
「……なんでそう思う」
「話して欲しいんだ、全部。俺、父さんがおかしくなったなんて思ってない。今まで父さんが怖くてちゃんと話すのが嫌だったけど、今は違う。ちゃんと聞けるし信じられると思う。だから話して欲しいんだ。全部」

布団の上に座りなおした和貴の目は真剣で、健造は胸が掴まれる思いがした。
目の前にいるのは息子であると同時に、境界を越えて意思が通じることができるようになった同志にも思えた。

「ちゃんと、聞けるか」

薄暗がりではあったが健造の問いに、和貴の唇がきゅっと強く結ばれたのが分かった。



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流鬼 第22話 鬼の子  

流 鬼  《連載中》

―――まさか死んでいるのではないだろうか。

一瞬そんな想いに捕らわれ、キヨがピクリとも動かない秋人の肩に触れると、梁に止まっていたらしいロクが矢のように飛んできて、キヨの手を足ではじいた。
「痛っ!」

思わずロクを手で払いのけると、今まで床の上にうつ伏せで転がっていた秋人がムクリと起き上がり、キヨを見上げた。
母親によく似た大きな目に、キヨはゾッとする。


小一時間前。よそ者を勝手に引き入れようとした秋人に怒った小菊が、家に入るなり秋人を睨みつけた。
そのひと睨みは実質的な衝撃となって秋人に突き刺さった。小菊からの制裁はキヨが知る限り、この村に来て初めてのことだった。

ひとつ呻いて床に倒れ込んだ秋人だったが、少しは小菊にも情があるのか、自分の子を殺すまでには至らなかったようだ。
ホッとしたものの、キヨは複雑な気持ちだった。

もしかしたら今回は見逃してもらったが、『用済み』の秋人は小菊にとって本当にただの疎ましいだけの不要品なのかもしれないと感じたのだ。

「あの飛田って人は、須雅神社の歴史を調べに来た人だよ。話を聞かせてあげようとしただけなのに。何で母さんは怒るんだろう」

堪え切れないように目に涙を溜め、秋人はキヨに訊いて来る。小菊の代わりにずっと親代わりをして来たキヨにとって、秋人が可愛くないわけではなかった。
けれどやはりどこかに恐れがある。
この子に流れる血が、いつか暴れ出すのではないか。その前に手を打つのは自分の役目ではないのか、と。

「秋人。さっきの男はね、昔この村に来たことがある。いきなり腹の大きな小菊の写真を盗み撮りして、逃げるように帰って行った不作法ものだよ。その時腹の中に居たのがお前だ、秋人」
「写真……? そういえば飛田さん、和貴に写真を見せて母さんを探してた。その写真が、昔撮ったって いう写真だったのかな」
「そうだと思うよ。小さな女の子の腹ボテが面白かったんだろう。悪趣味なこった。小菊は写真を撮られるのをひどく嫌がるから、しっかり顔を覚えていたんだろうね」

「写真、いやなの?」
「その半年前に、旅行者の男に撮られたのが酷く嫌だったんだろう」
「半年前の旅行者って……あの男?」
「そうよ。カラスに食われて死んだ男。死ぬ前の日に、小菊の写真を何枚も何枚も撮ったんだ」

「何言ってんの、おばちゃん。あの人はカラスに食われたんじゃないよ」
キヨは土間へ降りかけた足を止めた。

「母さんが殺したんだろ? 儀式の後で」
秋人の声は、どこまでも静かで落ち着いていて、その分ゾッとする余韻を残した。
「そうだったね」

キヨは何とか笑ってみせた。自分が仕事でいない間、小菊は秋人をそうやって懐柔してきたのだろう。自分が今更それを曲げることなどできない。

「13年前の事は、必要な神事だったって母さんは言った。そして僕は今13歳だから、もう一度あの場所で弱った力を強めるんだって。僕は頷いてあげた。力になってあげたくて母さんの言うとおりにしたし、この村にも来た」
押し殺したように静かに語る秋人の言葉は、僅かに震えているようにも思えた。

「秋人は何も間違ってなんかいないよ。大丈夫。秋人は自分のことだけ考えていればいい。学校へ行って、友達を作って、沢山勉強して大人になるの。大人になれば村を出ていくのも、小菊から離れるのも自由だしね。
さあ、ほら。たくさん汗をかいたでしょう? お風呂に入って来なさい。遅くなったけどご飯にするから」

ひとつ頷いて立ち上がった秋人の膝からロクは飛び立ち、羽音を響かせて梁に戻って行った。
緩慢な動きで開襟シャツのボタンをはずしながら、秋人はキヨを振り返る。
「ねぇ、おばあちゃん。母さんのお腹にいる子は、母さんに可愛がられるのかな」

キヨは一瞬戸惑ったあと、頷いた。
秋人は「そっか」、と言った後、替えの下着と寝巻を取りに奥の間に消えた。
母に愛されていないことをどこかで悟っている秋人には、もっと他に言いようがあったかもしれないが、とっさに出たのは真実だった。
小菊はきっと腹の子を待ち望んでいる。今度こそ本当に自分の強い力を受け継いだ流鬼をその手に抱けるのだと、心待ちにしている。

「それ」はとてつもなく穢れた理念なのだとキヨは心得ていたが、今更もうどうすることもできない。小菊に逆らう気力など無かった。
自分のしていることが過ちであるのなら、その過ちは26年前、「鬼」を拾い上げてしまったあの日に始まっていたのだ。

須雅様が試しているのは自分だろうか。それとも村人だろうか。
寝巻を抱えてパタパタと土間の向こうの風呂場へ走って行った秋人を見ながら、キヨはぼんやり思った。

「キヨ」
小菊が襖を細く開けて、キヨを呼ぶ。腹を見なければ、まだ十代の少女のような幼顔だ。

「明日も夜が明ける前に須雅様にいきましょう。この子の元気がないのよ」
そっと自分の腹を撫でる小菊に、キヨは頷いた。
「かがり火の当番のいない時間を知っているから、その時に連れて行ってあげるよ。安心して早くお休み」

初産ではないが、もう13年も前の事だ。小菊は感覚を忘れてしまっているのだろう。胎児が動かなくなるのは、子が下がってきている証拠だ。
出産は祭りの日と重なるな、とキヨは思った。

いつどんな時に産気づいても取り上げるのはキヨの仕事なのだ。秋人の時にそうであったように。
村の産婆の助手をやっていた知識と経験はまだしっかりキヨの中に残っている。
けれどその子を生かすか殺すかは、穢れをなにより嫌うこの山の神が決めること。
小菊にはそう言い聞かせてある。

秋人は「是」だった。

今小菊の腹にいる鬼が「是」なのか「非」なのか。
すべて須雅様に任せようと、キヨは思った。




-----------------------------------------------------------------------------------------------
今回は、この由良家の3人の関係性が、少し見えてきたのではないでしょうか。
少し、スピードアップしなければ、ね(*。・ω・)

次回は健造視点です。
ついに、14年前のあの日、何があったか分かる……かもしれません。



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(雑記・イラスト)残暑お見舞い申し上げます(*´ω`*) 

☆イラスト・マンガ・水彩画

お盆も過ぎ、ヒグラシの声も聞こえてくるようになりました。
夏の終わりの気配は、いつもちょっと寂し気です。

帰省や仏事や夏イベントで、またもやブログから少し遠ざかっていました。
ご無沙汰しております(>_<)

今年は猛暑かと思えば雨が続いて少し冷えたりと、奇妙な夏でしたね。
皆様、夏バテなどしておられませんか?

年々夏が堪える様になって、健康のありがたみをしみじみ感じます……(;∀; )
サプリメントとウイダーインゼリーが良き友ですw

うちの水色ネコも、すっかりバテバテです。
かき氷b

あ、そうそう、ずーっと改稿を続けていた『ラビット・ドットコム』ですが、ようやく脱稿しました。
セリフは90%書き変え。描写もずいぶん修正して、なんとか読んでもらっても恥ずかしくないレベルになったんじゃないかと(*´ω`*)

さあ、次はどれを改稿しよう。KEEP OUTかな……。26万字もあるけど(´゚∀゚`;)

では、次回からは本腰を入れて「流鬼」に取り掛かります。またどうぞ、お暇な時に遊びに来て下さい♪
(いったいいつ終わるんだ、流鬼><)

うさぎb

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流鬼 第21話 カラスと鬼の棲む森(2)  

流 鬼  《連載中》

「じゃあ、その話を根岸にも?」
飛田は心臓がトクンと跳ねるのを感じた。

「ええ、しました。このあたりの歴史の事を調べてるって言う事でしたから」
「いったいどんな話を……」

「あそこに夜千代村が出来た時からあった、本当にただの昔話ですよ。
あの周辺の山に元々住み、ほとんど人と同じ形をして人に成りすましているけど、本当は気が荒くて、気分次第で人を喰らったっていう鬼です」

飛田は黙って頷いた。米田講師に聞いた、移り住んできた集団の話はまだ出てこない。
女将は少し笑いながら続けた。

「人を食べるというのはいかにも昔ばなしっぽくて笑えるけど、13年周期で子を産んで増やすっていうのはなんだかリアリティありますよね。そう言う数字を出されると怖くなるのは何ででしょうね」

「13年周期」
思わず飛田が声を漏らした。

「ええ、そう、13年ごとに鬼たちは何かの儀式のように子を生み、その子もまた13で子を生み、鬼の血を伝えていく。記憶も知識も恨みも、全部その血の中に伝えていく鬼。それが流鬼。
でもこの単なる昔話の流鬼と、今現在須雅神社で祀られてる流鬼は、ちょっと違うんですよね」

「……別なんですか?」
飛田は更に身を乗り出す。

「須雅神社に流鬼が祀られるようになったのは1900年のはじめに、移住してきた集団との諍いが有った後なんだそうです。
その移り住んできた人たちっていうのが、嘘か本当か、ものすごく怖い集団でね。一見普通で、村の仕事を手伝いながら生計を立ててるんだけど、村人と深く交わろうとしない。不思議な事に10代前半で子を産む女が多くて、50年くらいの間にどんどん数を増やしていったんだけど、まったく……やることなすこと伝説の流鬼なんですよ」

「……じゃあ、もしかしてその大もとの昔話があったせいで、彼らが流鬼呼ばわりされたってこと?」

「ああ、そうも言えるかもしれませんね。でも、その昔ばなしこそが、リアル流鬼の予言だったって思われてたみたいです。神通力を持って、喧嘩相手の村人を殺したって言うのが発端で、村人と対立するようになっていったそうなんだけど。偶然なのか人為的なものか、その移民の人たちは火事でみんな死んでしまったんです。結構な数だったみたいですよ。焼け跡は地獄絵図だったって。
それ以降、干ばつや山火事なんかが絶えなくて、村の人はこれは崇りに違いないって恐れ、須雅神社に流鬼を祀ったんですって。まあ、祀るというより封印と鎮魂の意味の方が近いような気がするんですけど」

飛田はしばらく言葉が出なかった。
米田講師が語ったことの全貌が、これだったのだ。ほんの100年前の話だ。流鬼は夜千代村の人間にとって、昔話などではない。
大昔の民話と、その奇妙な移民集団との関係は、多分無かったのだろう。
けれど、人の中にある姑息な感情が、それをひとくくりにして、「鬼」を作り上げた。

移民の集団は、神通力のようなものを持っていたと言う事だが、もしかしたらそれも村人の言いがかりだったのかもしれない。
書物も残っているはずはなく、そして村人にとって、だぶんその真偽はどっちでもよかったのだ。

ただ移民は邪悪な鬼であり、鬼は退治すべきものであるという図式さえ作れれば、すべて許される。

その、トチ狂った大義名分を掲げ、よそ者の集団を一致団結して焼き払ってしまった村人。
そして、教授の話によれば、初期の須雅神社が燃えてしまったのは、その後だ。
村人が我に返り、遷座させた須雅神社に流鬼を祀ったのは、ただひたすら祟りを恐れての保身のためだ。

―――そんな後ろめたく、痛い過去を抱えた須雅神社の祠宮の中から、小菊は拾われた。

村人の怖れが伝染したかのように、飛田の背筋を冷たいものがザラリと撫でる。

「13年周期……」
飛田の口から再び、その言葉がこぼれた。

よほどこういう話が好きなのか、女将が興味深げに頷く。

「その年月に意味があるのか、偶然の周期なのかは分からないけど、キリスト教始めいろんな宗教で嫌われる数字だから、なんとなく気味が悪いですよね」

飛田は頷いた。13年。あまりにも符号が合いすぎる。あの家族と。

「根岸にも、その話をされたんですね、女将さん」

「多分同じようなことを言ったと思いますよ。14年も前だからうろ覚えですけど。それにあの頃、流鬼の復活だってやたらと上夜千代の知人が騒いでたから、私も調子に乗っていろいろ喋ったのかもしれない」

「流鬼の復活って……」
「須雅神社の祠から拾われた女の子が、人にあり得ない力を持ってるって話で」
「そ! その子の……」

飛田は思わず声を荒げ、女将ににじり寄った。

「その子の話を根岸にしたんですか!?」

女将はさすがにたじろいで飛田を見る。
「飛田さん、その子の事をご存知なんですか?」

「あ……いえ」咄嗟に言葉を濁す。

「もちろん、そんな名指しで教えたりはしませんよ。 だけど、12年前須雅神社で拾われた、絶世の美少女が居るって言う噂の事は、少し話したかもしれませんね。それはもう、この町にも噂が聞こえるくらいインパクトのある話でしたから」

根岸がその話に興味を持ったのなら、上夜千代で少女についての真相を確かめるのは訳もないと思った。
飛田に残したメッセージの中の鬼が、流鬼の事であることはもう間違いない。
そして、それが“小菊”であることも。

根岸は、流鬼であると知ったうえで小菊のあの写真を撮ったのだ。
いったいどんな気持ちで……?

そしてこの世を去った夕刻。
かがり火が焚かれた須雅神社の祠の前でお前はいったい、何者と対峙したのだ。 何を見たのだ。

飛田は鈍く痛む頭を垂れたまま、目の前の机にそっと触れてみた。
けれど14年前、根岸が飛田への最後のメッセージを書いたと思われる古い文机は、黙して何も語ってはくれなかった。


             

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回、過去の昔話が沢山あって、とてもややこしくなってしまいました( ;∀;) 読みにくくてごめんなさい~。
でも、過去の流鬼の伝説は、適当に読み飛ばしてください!
そんなことがあったんだな~~、くらいで(*´Д`)  推理は不要です。

次回は、キヨと秋人の意味深な会話です。
謎めいたこの2人、なにか解き明かす話題を振ってくれるのでしょうか……。



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流鬼 第21話 カラスと鬼の棲む森(1)  

流 鬼  《連載中》

何がきっかけになったのか、突如周囲の木々から無数のカラスが舞い上がり、夕暮れの空に散らばった。

飛田は咄嗟に襲って来た幾重もの恐怖心から喉の奥で言葉にならない声をひとつあげ、路肩に停めた車に乗り込むと急発進させた。

舗装道路に入りバックミラーの中から由良の家が消えても、胸の動悸は少しも鎮まらなかった。
カラス達の異常な行動が怖かったのか、それとも小菊が自分にささやいた一言が怖かったのか。

―――また、わたしを写すの?

しっかりと覚えていたのだ小菊は。 13年前に飛田が腹の大きな小菊を無断で撮り、逃げ帰った日の事を。
まさか、その半年前に須雅神社で小菊を撮った、根岸と勘違いしているのではあるまいか。
そうも思ったが、どちらを想定しても、恐怖で体が震える。

あんなに無害そうな、華奢な女なのに。
あの女はいったい本当に人間なのだろうか。あの小柄な体から滲みだす妖気に似たモノは一体何なのだろうか。

飛田は汗ばむ手でハンドルを握り、とりあえず気持ちを落ち着かせようと、全てを後回しにして篠崎町の宿に車を走らせた。

          ***           

「上夜千代にでも行かれたんですか、お客さん」

人好きのするふっくらした頬にえくぼをつくり、民宿「千鳥」の女将は飛田に微笑んだ。
飛田が部屋に帰ってきてしばらく後、夕食の用意が出来たと呼びに来てくれた時の事だ。

「え……、どうしてわかるんですか?」
「ああやっぱり。飛田さんの車にカラスの糞がたくさんついていましたから」

そうだった、車は悲惨な状況だったと、また一つ厄介ごとを思い出しながら飛田は情けない表情を女将に向けた。
「すごいな、カラスの糞だってすぐにわかるんですね」
「そりゃあね、食べるもんも大きさも、他の鳥と違いますから。特に上夜千代はハシブトガラスが多いし、タチが悪くてワザとそんな嫌がらせをするんですよ」

「女将さん、上夜千代村に詳しいんですか?」
「私も主人も元々は少し離れた“下”夜千代の生まれなんです。小さなころから“上”夜千代には近づくなって年寄りによく言われました。今そんな事を子供に言うと大問題ですけどね。差別だなんだって」

「あの……」
それは思いがけない情報源だった。飛田は前のめりになって女将ににじり寄った。

気を回されるのが嫌で、宿泊手続きのとき女将に伝えていなかったが、実は自分は14年前、上夜千代村で変死した学生の友人で、その死を不審に思って調べに来たのだと、飛田は思い切って言ってみた。
友人がその時泊まったのが、この宿であることも合わせて。
女将はすぐに思い出してくれたようで、あの時は警察の人もここにきて、結構な騒動だったと話しに乗ってくれた。

「でも事故だったんですよね? 14年前にも警察の人に、そのお客さんに思いつめたような様子が無かったか訊かれたんですけど。そんな風に見えなかったし、それに須雅神社の正面のあの崖は、飛び降りて死ねるような険しい崖じゃないらしいし。遺書みたいなものも、結局見つからなかったらしいし……」

遺書という言葉に、飛田は反応した。
根岸の最後のフィルムに写り込んでいた飛田への奇妙なメッセージが瞬時に蘇ったが、あれを遺書と呼べるかどうかは分からなかった。

『飛田 いるんだ、鬼が。もう…… オレ、だめだ。ヤバい事になりそう』
SOSにも取れなくないメッセージだった。……正常な精神状態だったかは別として。

「カラスじゃないかと思うんです」
思い切って飛田は切り出してみた。
「え?」
女将が、愛嬌のある丸い目をさらに丸くした。

「根岸の体にはまだ生きているうちにつつかれたような損傷が無数にあって。……ここのカラスは人を食いますか?」

思いがけない質問に驚いたのか飛田の顔をじっと見つめた女将は、そのあと気の毒そうに答えた。

「さあ。確かにカラスは雑食だし、あそこのカラスは気が荒いとは聞くけど……まさかそんな」
「ねえ女将、なぜ上夜千代のカラスはあんなにも気が荒いんでしょう。神社の眷属だから大事にされて来たっていうのは分かりますが、あまりにも気味が悪くて」

ああ、と女将は笑ったあと、これは主人が教えてくれたことなんですけどね、と前置きをしながら話してくれた。

「夜千代村にはクスノキの繁る森が多くて。そのクスノキを原料にして樟脳を生成したり炭を作ったりして生計を立てる人が多かったんです。ご存知でしょう? 樟脳。カンフルとも言われて、興奮薬にも使われていた成分なんですよ。生成の過程で流れ出した製油とか、不要チップの焼却とかで、カラスが異常に興奮状態になった時期があったらしいんです。

元々食料が豊富でカラスの数は多かったそうなんですけど、異常行動するカラス達に村人が恐れをなしてしまったらしいです。カラスが神社の眷属になったのが、それより前か後かは分からないんですけど。
今では大きな工場も潰れて、その産業もほとんど廃れてしまったけど、クスノキチップや木炭は使われ続けているし、須雅神社のお祭りにも必ずクスノキの炭を使うし。

まあ、これらは検証したわけじゃなくて、あの村をよく知る年寄りたちが言ってる事なんですけどね。カラスの気が荒いのはそんな血を受け継いで育ってるからじゃないのかって、主人なんかも言うんです。人間がカラスを恐れて駆除もしないから、人間を馬鹿にしてるところもあるだろうし」

飛田は食い入るようにその話を聞き、そしてその推論にも一理あるなと共感した。
そして一歩離れた場所から上夜千代を見て来た女将に、もっと深くいろんな視点から聞いて見たい欲求があとからあとから湧きだす。

「じゃあ、鬼は……」
「え」
飛田は米田教授に聞いた伝承の事は伏せて、聞いてみた。新たな情報が得たかった。

「鬼です。須雅神社はカラスと共に鬼も祀られていると聞きました。死んだ根岸もそのことに興味を持っていて、埼玉県の鬼鎮神社のように、ここもまだ知られていない言い伝えなんかあるんじゃないかって調べていたんです」

「ああ、流鬼のことね」
それです!と叫びそうになるのをぐっとこらえる。

「女将、それはどんな鬼なんですか」
「村にいたらしいんですよ」
「だからそれって……」

女将は笑った。

「飛田さんも根岸さんと同じような表情するのね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回、女将の話がとても長くなるので、中途半端なところで切ってしまいました( ;∀;)
コメントもしにくいと思うので、コメント欄は閉じておきますね。

次回は1週間後。
女将は、なにかヒントをくれるのでしょうか……。


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(観劇日記)『子供の事情』作・演出:三谷幸喜 

☆感想(観劇・映画・小説)

久しぶりに舞台を見に行ってきました。

東京だけの公演だったので、日帰りで東京まで行ってきました (*´∀`)ノ
なかなか手に入らないチケットだったんですよ。当たってラッキーでした。

数々のヒット作を手掛けた脚本家、三谷幸喜の劇団だということもありますが、キャストが豪華すぎる!

タイトル&キャストはこちら↓


子供の事情


給食、テスト、奇妙なクラスメイト、転校生、席替え……。
誰もが身に覚えのある、遠い遠い昔の小学4年生<10歳>を、三谷さんが描くのです。
しかも、このまま、シェイクスピアだって、チェーホフだって、大河ドラマだって、すぐに成立可能な驚きの豪華メンバーが10歳の子供を演じるんです。
もう、面白くならないはずがない。

いや~、もう最高でした!
懐かしくておかしくて、死ぬほど笑ったし、予測不可能な瞬間に、たった一言でじ~んと涙ぐませられたりもして。

三谷作品に共通する、大掛かりなトリックは無かったんだけど、最後の展開はもう、ものすごく心にぐっときて……。

ああ、もう、やっぱり三谷幸喜は凄い。本当に最高。

そしてまさかここで、キャスト達の生歌が存分に聴けるとは!(笑)
クオリティ高すぎるのに、涙が出るほど可笑しくて。役者って……ほんとうにすごいな!(←ボキャブラリーが貧困過ぎて上手く書けない)

交通費+チケット代は大きかったけど、更にそれ以上楽しませてもらいました。
(翌日は疲れ果てて死んでいましたがw)

皆さんも、もしwowowなんかで放送されたら、ぜひ見て見てください^^ 最高に楽しいですから!

***

話は変わるんですが。

最近、某ヒップホップグループにハマってしまって、休日はずっとPVなんか見ています。
いや~~、もうラップ系のダンスなんか硬派で最高にかっこよくて、そして曲調によっては妖艶でクールで美しくて、普段のじゃれ合う姿は小動物のようにキュートで可愛い、世界的に認められてる平均年齢22歳の青年たち。

やばい、久々に骨抜きになってしまっています。どうしよう。
初めて携帯会社から、通信規制の通知が来ました。Wi-Fiの無いところでは動画見ないようにしよう(;_;)

ああ……また創作とか更新が止まる。

いろいろ悩みの多い、この頃です。(笑)


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流鬼 第20話 照準(2) 

流 鬼  《連載中》

自転車で前を走る秋人が、合図のようにほんの一瞬、飛田の車を振り返った。
わだちの出来た細い農道から少し奥まった場所に、納屋のない、母屋だけの一軒家があった。

今にも背後の雑木林に呑み込まれそうな脆弱さとは裏腹に、異様な存在感を感じるのは、小菊の家だと認識したせいだろうか。

縁側の横に木の引き戸の玄関がある平屋建てで、屋根は所どころ苔むした古い瓦だったが、もしもまだ茅葺であったなら、そのまま昔話に出て来る古民家そのものだった。

「何代も続いた家なのかな」
家の前に停めた車を降りた飛田は、自転車を押して近づいてきた秋人に尋ねた。

「どうかなあ。ここはキヨおばあちゃんの、亡くなった旦那さんの家だったんだって。13年間もほったらかしだったから、引っ越した日は襖が開かなかったり、蜂が巣を作ってたりして、大変だった」

屈託なく笑う秋人は本当に無邪気なごく普通の子供で、ほっとすると同時に、この村に来てしまったことを哀れに思った。
いや、……小菊の子として産まれた事を、だろうか。

「秋人君たちはこの冬までどこに住んでたんだ?」
「そんなに遠くの街じゃないよ。それから秋人って、呼び捨てでいいよ。和貴のことは和貴って呼んでたろ?」
「そうだっけ。じゃあ、秋人……なんでまたこんな辺鄙なところに?」

けれどそれは聞こえていなかったのか、秋人は自転車を押しながら家の方へ走って行ってしまった。
ちゃんと付いてきていた赤紐のカラスが、それを追いかけていく。

訊きたいことはまだ他に山ほどあったが、何より今は小菊の事だ。
飛田は秋人が飛び込んで行った暗い玄関引き戸の中を、だまってじっと見つめた。

キヨや小菊に、秋人はどんなふうに飛田を説明するのだろうか。根岸の事は一応隠したが、それで尚、一研究者に会ってくれるのだろうか、と不安を抱きながら。

けれど暫くして飛び出して来た秋人は、首を横に振った。その表情はどこか不安げだ。

「母さんもおばあちゃんも居ないんだ。ごめん、また今度」
「いないって、……二人してよく出かけるのか?」
声に落胆が素直に出てしまった。

「この頃はおばあちゃんと、時々出かけてる」
「どこに?」
「たぶん須雅神社」

「須雅神社に? いったいなんで」
神社に行くのはお参りだと相場が決まっている。けれど思わず口をついた。
あの二人にはなにか特別な場所のような気がしたのだ。

「たぶん、明日が本祭だからだと思うんだけど」
「本祭……か」

―――宮野老人が言っていた祭りの事だ。9月30日。前日の夜からひっそりとかがり火を焚いて須雅神社の神と鬼を鎮める神和ぎ。小菊も祭りに合わせてお参りでもしているのだろうか。他の村人と同じように。
飛田には少し意外な気がした。

その日を意識して今回の調査に入ったわけではなかったが、根岸が死んだのも9月30日。ちょうど明日が命日だった。
あの根岸の惨事は、かがり火が焚かれた須雅神社での出来事だったと言う事になる。

そのころ小菊は12歳。

「なあ秋人……。小菊さんは小さなころからよく、須雅神社に遊びに行ってたのかな。その……祭りの間なんかにも」

そう質問した飛田の顔を見上げた秋人の目は、すぐにそれを交わして後方へ動いた。
砂利を踏む微かな音が、飛田の背後から聞こえた。

「どなたですか?」

声の方を振り向いた飛田は、体がサッと冷気に包まれたのを感じた。まるで13年前に戻ったかのような錯覚に、恐怖さえ覚えた。

声を掛けて来たのは初老というにはまだ若い中年の女、キヨ。それなりに歳を重ねてはいるが、はっきりと覚えている。
醜いとまでは言わないが、どこか貧相で幸の薄そうな顔立ちだ。

そしてその少し後ろに寄り添って立つ、華奢で少女のような面影の女。―――小菊だった。

13歳のころと変わらぬ白く柔らかな肌と黒目がちの吸い込まれそうな瞳。腰まで垂れた真っ直ぐで艶やかな黒髪。ゆるりとこちらに向けられた視線は、心の中を覗かれているようで、思わず身がすくむ。

そうだ、この感覚だ。

ただ一人の小柄な少女なのに、視線を捉えられ、じっと見つめずにはおれなくなる。
自分の心を揺さぶるその訳を知りたくて、更に一歩近づいて見たくて堪らなくなる。
触れて、そこに実体があるのか確かめたくなる。

13年前の飛田がその目で見た衝撃と、少しも変わらぬ衝撃がここにあった。

そしてそれは単にその女の魅惑的な容姿のせいばかりではなかった。
鎖骨の滑らかな線が浮かび上がるほど細身であるにもかかわらず、緩い形で女の体を包み込んでいる長いワンピースの腹は、大きく前にせり出していた。

あの13年前の春先、森の入り口で見た光景とあまりに酷似していた。
今、飛田の目の前にいる小菊は、再び腹に子を孕んでいるのだ。

小菊が、濡れたように光る黒い瞳を飛田に向け、小さく首を傾げてささやく。

「また、わたしを写すの?」

周囲の木々からこちらを見つめる、無数の黒い鳥の刺すような視線を感じ、飛田の背が粟立った。




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作者の日程の勘違いがありました(>_<) 。祭りの期間を変更し、早めます。(以前の記述も少し変更しました)
この日は9月29日。そして翌日の30日が、この物語の最終日になります (。>д<)  



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流鬼 第20話 照準(1) 

流 鬼  《連載中》

「父さん、銃、持って入ったから」
居間の卓袱台の前で小山のように背を丸めて動かない健造に、和貴は出来るだけ静かに声を掛けた。

興奮状態の時に刺激すれば、狂ったように怒鳴られるか、殴られるのがオチなのだ。
こんな状態になるのは大概が酒を飲んでいる時であり、しらふでは初めてで、そのことが余計に恐ろしくもあった。

けれど不思議な事に、その恐れとは裏腹に、この狂いかかった父親に怒りは湧いて来なかった。

「いくら弾が入ってなくても、いきなり人に銃を向けたりしたら通報されて免許取り上げられるよ。……だけど、さっきはありがとう」
和貴はまだ少し息の荒い健造から少し離れた板間に猟銃をそっと置き、自分もその横に座った。

「さっきは俺を庇ってくれたんだろ? 知らない男に手を掴まれてたから。あれ、なんかちょっと嬉しかった……。父さんにはもう俺は見えてないんだと思ってたから」

薄暗い居間の床の上で、ミロク銃の機関部に施された精緻な彫金が鈍色に浮かび上がっていた。
和貴は指で美しい2羽のキジの、緩やかな窪みをそっとなぞる。

「さっきの飛田って人が言った言葉の中に、父さんの嫌な思い出があるのかな。きっと小菊を嫌うのも、カラスを撃つのも、ちゃんと訳があるんだよね。でも俺、訊かないから。訊いて父さんが嫌な思いするなら訊かない。……俺さ、なんとなく分かるんだ。あの小菊って人の怖さ」

動かなかった大きな背中が緩慢に動き、二つのギラリとした目が和貴を見た。

「小菊と何かあったのか」
久しぶりに聞いた、父親の落ち着いた声だった。

和貴は慌てて首を横に振りながら否定した。
「何もないよ。ただ、いろいろな人から話を聞いたり、秋人を見たりして、そう思った」

あの風呂場での事は何が有っても口に出来ない。誰にも悟られたくない。
あの日の事を思い出すたびに、和貴は体の芯が震え、自分が薄汚い下等な獣になった気がして、やりきれないのだ。
自分を誘い込みたぶらかしたのはあの女なのに、そう思う事も屈辱だった。

「本当に小菊は流鬼なんじゃないかって、この頃思うようになったんだ」

むくりと影が立ち上がり、床を軋ませながら和貴の方に近寄ってきた。
和貴は座ったまま、その巨体を見上げる。影の中から伸びて来たのは毛むくじゃらのごつい手だった。
床のミロク銃を掴みあげると、そのまま健造は和貴の横にゆっくりと腰を下ろした。

自分の父親のはずなのに、和貴の体はひどく緊張して強張った。怖さが半分、嬉しさが半分。
こんな風に健造の方から傍に来てくれるのは、本当に久しぶりだったのだ。

健造は部屋の隅に置いてあった工具箱を、手を伸ばして引き寄せたあと、膝に乗せた上下二連銃のトップレバーを押し、本体を二つに折った。
銃身内にガンオイルを吹き付け、長い“鉛落とし”を突っ込み、何度もこする。いつもの掃除の手順だ。

小さなころの和貴は、腕のいいシシ撃ちとして一目置かれていた父親が自慢で、ずっとこうやって、健造が銃の手入れをするのを傍で見ていたものだった。
鉛落としを床に置いた健造に、和貴はすかさずボロ切れを巻きつけた棒を差し出した。これでこすって銃身内の掃除は完了する。

「和貴」
ひとしきり手入れを終えたあと、健造が口を開いた。

「あ、はい」
「秋人は、普通の子供か」
突然の質問に和貴はうろたえ、答えを探した。

脳裏に、溶けた自転車のチェーンが鮮明に過ぎったが、すぐにかき消した。
ジャキン、と機関部を元に戻し、健造は壁に向かって銃を構える仕草をした。

「……うん。普通……だと思う」

「そうか」

和貴はもう一つ頷きながら、少しだけ息を深く吸い込んだ。のどの奥が、僅かに震える。

父親の構える銃のむこうに居るのは、本当はカラスじゃないような、そんな気配がしてならなかった。



               ◇


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(イラスト)ちょっとクールな青年&拙作大改稿 

☆イラスト・マンガ・水彩画

梅雨に入ったけど、まだカラッとしたお天気が続きますね。
私的には嬉しいんだけど……(*´Д`)

そういえば、今年の目標に、「KEEP OUT」を書き変える! ってのがあったんだけど、これはいっこうに進まず。はやくも諦めました。

でも、そのほかの過去作品は、着実に修正が進行中です。『RIKU』の番外とか、春樹の番外とか^^←本編を直しなよ。
一番手間を掛けさせる問題児は、やっぱり『ラビット・ドットコム』。なにしろ、本当に初期作品ですから。

今のところ第6話の後半まで見直し、なんとか読んで恥ずかしくない程度に改稿されつつあります。(当社比・笑)
いや~~(>人<;) 、改めて読み返して、恥ずかしくて死にそうでした。
もう、会話とかひどい! こんなのを読ませていたのかと思ったら、本当に穴を掘って埋まりたい気分でした。(読んでくださった皆さん、ほんとごめんなさい><)

改稿のきっかけは、他所でこの作品を紹介しようと思ったからなんですが、掘り返してみてよかった。
自分の過去作の酷さを改めて知ることが出来ました。
ただ、根幹のストーリーラインは気に入っているので、その骨の部分だけは生かそうと思っています。

会話文は8割、地の文は6割ほど書き変え、更に加筆しているので、ボリュームは1.4倍くらいになりました。
ようやく、キャラ本来の味が出て来たんじゃないかと思います。

宇佐美は大人の落ち着きと優しさを見せ、李々子はガサツな部分を可愛らしさに変え、そして稲葉は、前よりもすこしバカっぽさを押さえ、素直な子にしてみました。(おや? 別人じゃない?)
第1話の、稲葉のアホっぽさは残ったままですが、5~6話の稲葉は、ちょっと大人^^

会話文って本当に大事ですね。今までは、こういったコメディタッチの作品はノリで書いていた部分もあり、そこを大いに反省しています。
一つ一つの会話文が、キャラを作っていくんだって言うのを、改稿作業で改めて感じました。
まあ、大元がお気楽コメディなので、目覚ましい変化はありませんが、ブログに残しておいてもいいレベルにはなった気がします。

修正したページは、ものすごく行間を開けて書いてあるので、一目瞭然。
勉強の意味も兼ねて、最後まで地道に修正していきたいと思います^^


さて、今日のイラストは、仕事の出来る理系男子風。
ちょっとガッチリさせつつ、クールさも出してみました。

ああ~。理系男子ってキャラもいいな。 
うちには光瀬と比奈木がいるけど、彼らは絶対コメディ要員だしな……( ̄- ̄lll)





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流鬼 第19話 偽りの協定(2)  

流 鬼  《連載中》

今にして思えば、自分がこの村に来たのは、根岸の死の真相を探るというよりも、根岸に対する自分の想像が、まったくの思い違いであることを確かめる為だったのかもしれない。

そしてその事で、ろくでもない妄想の連鎖から解き放たれ、自分自身もどこかで救われたいと願ったのかもしれない。
飛田は秋人という少年を見つめながら、そう思った。

まずは小菊に会わなければならない。そのためには少しばかりの嘘が必要だった。

「実は僕、民俗学の研究をしていてね、いろんな土着信仰を調べているんだ。鬼を祀った神社は日本にいくつかあるけど、ここの事はまだほとんど知られていないよね」

「え。ほかにもあるんですか、須雅神社みたいなところ。そこにも鬼が閉じ込められてるの?」
秋人は大きな目をさらに大きく開き、興味深げに飛田を見た。少し予想外の反応だ。

「ああ、鬼神神社のように有名どころもあるけど、きっとここのように、知られていなところもまだ沢山ありそうだしね。出来るだけ詳しく調べたいんだ。でもここの人たちはあまり村の歴史なんかを話すのが好きじゃないみたいで、さっぱり情報が集まらない。
ただ、なぜか小菊さんや、由良という家の名前は何度か出てきたもんだから、きっと神社について詳しいんじゃないかなと思って探してたんだ。
そう言う事で……秋人くんのお母さんに会わせてもらえると有難いんだけど」

こんな下手な芝居が通用するだろうかと幾分不安になりながら返事を待っていると、秋人は意外にもあっさりと答えをくれた。

「それならおばあちゃんに訊くといいよ。母さんは体調がよくない日は誰にも会わないし、知らない人とは口を聞かないから。それでもいい?」
不思議な事に秋人はとても好意的に目を輝かせ、飛田を真っ直ぐ見上げた。
今時の13歳にしては意外なほど無邪気で人懐っこい子供に見える。

あの第一印象の方が間違いだったのかもしれないと飛田は思った。
この子なら少し突っ込んだ質問でも受け入れて、答えてくれるかもしれない。

「君のおばあちゃんって、神社で小菊さんを拾って育てた人?」
「そうだよ。だから血は繋がっていないんだ」
あまりにあっけらかんと言うので、飛田は逆に戸惑った。

「……そのおばあちゃんが、君とお母さんのお世話を?」
「そう、全部。昼間は外で仕事もしてるし、大変だと思うから、僕も学校が無い時は、なるべく手伝うようにしてる」
「へえ、そいつは偉いな。じゃあ、小菊さんはずっと家に? 仕事は?」

「してない。体と……時々心が病気になっちゃって」
僅かにテンションが下がった気がした。けれど、質問を遠回りさせたくなくて、そのまま続けた。

「それは大変だね。働き手がおばあちゃんだけだなんて、生活も大変だろう。……ところで、秋人君のお父さんは?」
さらりと言ってみたつもりだったが、僅かに声が上ずった。
秋人と目が合う。

「お父さんは亡くなった」
「亡くなった?」
「母さんが殺したから」

次の言葉が継げず、思わず黙り込んだ飛田の顔を無表情でじっと見つめた後、秋人は笑った。

「…って、村の人たちに聞かされたんでしょう? 村の人たちはそんなひどい噂ばかり流すから。時々僕も、本当なのか嘘なのか分からなくなる。
村の人とは仲良くしたいけど、母さんの事悪く言う人たちと仲良くする気は、なんだか起こらなくて……」

すこし言い淀んで秋人は飛田を見上げた。

「飛田さんが本当の事を調べてくれるのなら、僕は協力する。母さんは鬼なんかじゃない、普通の人間だってみんなに言ってくれるのなら、協力する。母さんにも会わせてあげる」

飛田はとりあえず「出来るだけ協力する」と、頷いた。
頷きながらも罪悪感で胸が痛んだ。
本当は鬼の伝説などどうでもよかった。今はただ、小菊にもう一度会えさえすればそれでよかったのだ。

鬼などと言う迷信的なものが存在するはずないこの世の中で、小菊は鬼なんかじゃないと言うのは実際訳もない。
ただ、村人にこの根深い『いじめ』をやめさせるように説得する役は、よそ者の飛田には無理なのだ。安易に約束することなど出来ない。

それでも少年は嬉しそうに目を輝かせた。

「飛田さん、僕の家こっちだよ。ロクと一緒に付いてきて」

自転車にふわりと飛び乗って走り出した少年を、飛田は車でゆっくりと追う。
期待と不安と罪悪感の入り混じった、なんとも複雑な気持ちだった。

同じく少年を追いながら、ロクという名のカラスが、まるで挑発するように車と並走して飛ぶ。
時折こちらに首を動かすカラスの視線がすべてを見透かしているようで、飛田には怖かった。




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あれ? 思ったよりも先が長いです (゚ω゚:)
次回は、また健造の家からお送りします 


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流鬼 第19話 偽りの協定(1) 

流 鬼  《連載中》

ハンドルを握る手が汗ばんで、小刻みに震えた。
猟銃を鼻先に突き付けられたことよりもむしろ、最後の健造の狂気を思わせる咆哮がおぞましく、今も耳から離れない。

和貴は慣れていた様子だったが、飛田にはあれが猟銃所持を許された男の行動だという事が恐ろしくてならなかった。
問題なく所持許可が下りたのだとしたら、たぶんここ最近の変貌なのだろう。明らかに常軌を逸している。

そしてそうさせているのは、春先に13年ぶりに戻ってきた小菊たちのせいなのだと、和貴は飛田にほのめかした。

13年周期。由良家。カラス。須雅神社。そして鬼。
いったい何の符号なのだろうと考えを巡らせたが、よそ者である飛田には何の絵も見えてこなかった。

小菊に会おう。結局それが一番の近道だと思った。
友人の根岸が14年前、亡くなる前日撮った写真の事も、その半年後に飛田が撮った写真の事も伏せて、まずはただ、通りすがりの旅行者として成人した小菊に会ってみたいと思った。

根岸を惑わせ、健造を狂わせ、村人に鬼と畏れられ、13歳で子を生み、忌み嫌われながらも再び13年後にこの村に戻ってきた女。
小菊に会いたいと強く思った。

村人を誰でもいいから捕まえ、謝礼をはずんでもいいから家を聞き出そう。そう思いながら飛田は車を徐行させ、もう日の暮れかかった寂しげなあぜ道と田畑を見回す。
そして同時に気持ちを落ち着かせる努力をした。
知らず知らずに気持ちを乱され、いったい自分は何をしにこの村に来たのか、それ自体を見失いそうになっていた。

急な土手沿いのカーブを曲がりかけた時、飛田は咄嗟にブレーキを踏んだ。
にわかに視界の端に飛び込んだ人物の姿に、胸が高鳴る。
草むした急こう配の斜面を背にして道端に座り込んでいるのは、先ほどの少年、秋人だった。

自転車を脇に止め、肩に止まったカラスと戯れている。
足に赤い紐を巻きつけたカラスは、まるで愛撫するように少年の髪をくちばしでついばみ、少年はくすぐったそうに笑い声を漏らした。
まるで映画のワンシーンのように、不思議で優しい、見とれてしまう情景だ。

けれど道のわきに停まった飛田の車に気づいた秋人は、すぐに表情を曇らせた。
さもありなん、あんな出会いを仕掛けたのは飛田だ。こちらにいい印象を持っていないのは想像に難くない。
車から降りながら飛田は、出来るだけ優し気に声を掛けた。

「さっきはせっかく友達と一緒に帰ってたところをごめん。俺は飛田っていうんだ。ちょっと調べ物をしていてね。君は、秋人君だよね」

秋人とカラスは同じようにじっと飛田を見つめて来た。敵か味方かを見定めるように。
秋人が穏やかならば、カラスもそれにならうらしい。
白い瞬膜でパタパタ瞬きしながら、首をかしげるようにしてこちらを伺っている。

「君のカラス? よく懐いてるな」
「飛田さんは僕のお母さんを探しているんですか? なぜ?」
秋人はゆっくり立ち上がり、やはり真っ直ぐ飛田を見つめて来る。

飛田は少年のその面影を、13年前自分の肉眼で捉えた小菊と重ねて、少しばかり胸が苦しくなった。
あの12~3歳の小菊の毬のような腹の中に居たのが、この少年なのだ。そしてもしかしたら……。

考えないようにと封じ込めていた推論が、その時同時に飛田の中ににわかに湧き立った。
何度追い払っても消え去らない、死者への愚弄とも取れる推論だ。
ありえないし、有ってはならないことだった。この少年が根岸の子だなどと。

けれど事務所で最初にあの写真を見せられた時、撮影者の、被写体への隠しきれない欲情を感じてしまったのは確かなのだ。

少女の視線をこちらに導き、陽に透けた逆光から幼い肢体の稜線を拾う手法。あどけなく薄く開かれた唇と、外れたボタンから覗きかけた、僅かに膨らんだ胸元のショット。
それは恐ろしい事に、飛田自身が映した小菊の写真とも重なる。

幼い少女にそんな感情を持つことが罪だとすれば、より罪深いのは飛田の方かもしれない。
飛田は、明らかに腹に子を宿した少女に魅せられ、あるいはある種の欲情を感じてシャッターを切ったのだから。





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(イラスト)ホットケーキとスイーツ天使(追記:5月31日) 

☆イラスト・マンガ・水彩画

もう5月も半ばを過ぎました。
新緑の心地いい季節。でも、また梅雨に入るんだなあ。

ああ、それにしても日々が経つのが早い。10日に一回は更新しようと思っているのに、気が付くと2週間。

GWもひたすら籠ってたし、雑記の話題もないし、どうしよう……。

あ、ここ2カ月で、やたらと買い物をしました。
車。Mac(夕さん、最新iMac買っちゃった。Retinaちゃん)。ソファ。そして週末には冷蔵庫買わねば(冷蔵がすべて凍る)。
散財です (。-_-。) 仕事辞めらんない……。


ちょっと前に衝動でイラストを描いたので今日はイラストをUPしてみます。

以前描いた、ミニサイズのスイーツ天使です。
シロップに興味津々で、近寄ってきました。
ちょっかい出して遊んでいますが、きっとこの後、べたべたになるはず(笑)

ギリギリまで服を着せるか迷ったのですが、もういいや!と、すっぽんぽんで^^

このメイプルシロップのとろ~~りを、描きたかったのです^^



ほっとけーきpng


パンケーキが昨今人気ですが、たまにはこんなフワフワホットケーキも、いいもんですよね。

※《追記:5月21日》
★なんとかじぺたのデンジャラス(そうでもない)ゾーンの、かじぺたさんが、このイラストにとってもかわいいSSをつけてくださいました!
とってもハートフルで、ちょっとウルウル来ちゃう、感動SSです。
この一枚から、まさかあんな背景を生み出してしまうとは。天使の描写がめちゃくちゃ可愛くて、思わずにまにま^^主人公のお兄ちゃんの優しさも、じんわり伝わる、素敵なSSです。
どうぞ、読んでみてください~(*´▽`*)かじぺたさん、ありがとう!!
かじぺたさんのSSはこちら

※《追記:5月25日》
★今日はね、Debris circusの山西サキさんが、このイラストにSSを書いて下さいました!
何とも壮大で、重厚感のある、せつないSFです。この天使がここに存在する背景には、とんでもない真実が……!
あのほよよんイラストから、なんでこんな物語を思いつくのだろうと、驚きです。
ああ~、こういう発想力ほしいな><
サキさん、ほんとうにありがとうございます! 皆さんもぜひ読んでみてください。
サキさんのSSはこちら。

※《追記:5月31日》
★今日は、『百鬼夜行に遅刻しました』のウゾさんが、このイラストにSSをかいてくださいましたよ! 
とっても短いお話なんだけど、とっても可愛くて、ニマニマしちゃいます。さあ、主人公の調査員の語りを、たっぷり楽しんでください(*´▽`*)ウゾさん、ありがとう~~。
ウゾさんのSSはこちら!







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流鬼 第18話 叫び(2) 

流 鬼  《連載中》

「秋人って子がやったのか? でもどうやって」
そんな飛田の質問など耳に入らぬ様子で、和貴は跳ねるように立ち上がり、そのまま家に駆けこもうとした。

けれど咄嗟に飛田は和貴の手を掴んで引き止める。
ここで逃げられるのは不本意だ。
「ちょっと待って。何か大変なのは分かるけど、小菊さんの家だけ教えてくれないか? あとはもう自力で何とかするから」

苛立ったように振り返った和貴だったが、その目は飛田を睨みつける間もなく、すぐに飛田の後ろに居る別の何かを捉えた。
一瞬にして和貴の表情が凍り付く。

振り向こうとした時にはもう遅く、すさまじい力で飛田は背後から襟首を掴みあげられ、そのまま横向けに地面に叩き落された。
頭を打ち付けるのは免れたが肩を強打し、呻きながら天を仰いだ飛田の鼻先に、二つの空洞のある凶器が突き付けられた。

肩の痛みなど瞬時に吹き飛び、全身が恐怖で硬直し縮上がる。
まだ火薬のにおいが強く残る、それは上下二連式の猟銃だった。

「俺の息子に何をしてる」
低く唸るような声で見下ろして来たのは、赤黒く日焼けした顔に無精ひげを生やした、熊のような大男だ。その目は今すぐに引き金を引いてやると言わんばかりに血走り、飛田を睨み据えている。

―――これがカラス撃ちの健造か。
喘ぐようにひとつ息を吸い込んだが、言葉が出てこない。
きっとこういう猟奇殺人犯と鉢合わせしてしまった人間は、声を上げる間もなく撃たれて死んで、翌日の朝刊に載るんだろうと、頭の中を冷めた思考が一瞬駆け抜けただけだった。

「やめなよ父さん。この人は人を探してるだけなんだ」
和貴の落ち着いた声が、逆にこの状況では異様に思えた。

「誰なんだ、こいつは」
「小菊に会いに来たみたい」
「小菊……」
健造は喉を鳴らして息を吸い込み、再び強張った形相で飛田を見下ろした。
銃口が飛田の鼻先から僅かに外れる。

「うん。僕が生まれる前、須雅神社の近くで旅行者の男の人が死んだ事故があったんだろ? この人、その死んだ人の友達で、その時の写真が……」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

突如耳をつんざくような奇声を張り上げ、健造は頭を抱えたまま体を前後に激しく揺さぶり始めた。
一瞬何が起きたのか、飛田には理解できなかった。
支えを失くした猟銃は耳のすぐ横に落下し、飛田は思わず喉の奥で「ヒッ」と叫び声をあげた。
和貴も顔や体を硬直させ、絶叫しながら家の中に走り込んで行った父親を、唖然として見送った。

「和貴……。一体……」
肩の痛みを堪えて立ち上がり、和貴の傍に駆け寄ったが、和貴の顔はすでに落ち着きを取り戻していた。
何事も無かったかのように猟銃を拾い上げ、飛田を振り向く。

「由良の3人がこの村に戻ってきてから、父さんはおかしいんだ。……乱暴してごめんなさい」

工具と自転車をその場所に置いたまま、父親を追って家の中に入ろうとする和貴に、飛田はなんと声を掛けてよいのか戸惑った。この異常な事態はこの少年にとって日常なのだろうか、と胸の冷える想いがした。

「和貴。……お父さんには、猟銃を持たせちゃいけない」

小菊と健造の間にいったい何があるのか、そこも酷く疑問に思ったが、飛田は最後にこの言葉を選んだ。
けれど和貴は思いがけず、笑い返して来た。

「大丈夫。父さんは腕のいい猟師なんだ。人間は撃ったりしない。父さんが撃つのは、カラスと鬼だけだ」

真意の分からないうつろな目をして言ったあと、和貴は猟銃と共に、薄暗い引き戸の中に消えて行った。



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流鬼 第18話 叫び(1) 

流 鬼  《連載中》

赤い紐を足に結わえたカラス。
そして、そのカラスをしもべのように従わせ、細い脇道の先に消えてしまった少年を、飛田はじっと目で追った。

立ち去る刹那、自分の方にゆるりと視線を流して来たその少年の目が、飛田の脳裏に刻まれ、ゾワゾワとした感情がぬぐえない。
初めて会った少年のはずなのに、胸騒ぎにも似た動悸がしばらくたっても鎮まらなかった。

先刻、フロントガラス越しに二人の少年を見つけた飛田は、願ってもないチャンスに遭遇したことを瞬時に把握した。
背の高い方は、ひと月前に飛田が小菊の写真を見せて質問した少年だ。
この村で希少な中学生であり、宮野老人が『カラス撃ちの健造の子』と言っていた子に違いない。

そしてその横にいるのが、“この村に越して来た、もう一人の中学生”であり、“小菊の息子”であることは十中八九間違いなかった。
ここで怪しまれず、かつ迅速にその「息子」の反応を伺うために、飛田はわざと、顔見知りの少年の方に情報をぶちまけたのだ。
そして飛田は確信を得た。
小柄な少年は、わずかな警戒の視線を一瞬飛田に向けて来たのだ。あるいは敵意だったのかもしれない。

「今の……、小菊さんの子供だね」
ゆっくりと吐き出したその言葉は、走り去ったその少年を見つめていた大柄の少年を、ひどく慌てさせたようだった。

「あんた……いったい……」
「やっぱり」
核心に一気に近づけたことが嬉しくなり、飛田は車を飛び降りた。走って車の後方に回り、トランクを開ける。

「じゃあまず、その自転車を乗せようか。歩くと遠いんだろ? 家まで送るよ。それとも自転車屋に持って行って修理する? どっちでも行くよ」
「……俺から何を聞きたいんだよ」
「だから話は車の中でしようよ。さあ、どっちに行く? 家? 修理屋?」
「……家」
「了解。案内頼むよ」

宮野老人の言葉どおり、その少年は和貴と名乗った。
あまり口の軽くないこの少年と打ち解けるために、飛田はまず、自分のこの行動の理由を、できるだけ丁寧に説明した。
自分が14年前、この須雅神社の近くで変死した根岸という男の友人であること、その友人が亡くなる前日に撮った写真とメッセージが気になって、その写真の女の子を探そうと思った事。
そして根岸の死体が何者かによって食い荒らされていた事まで。

子供に聞かせるには少々グロテスクな話だとは思ったが、飛田はこれ以上遠回りをするつもりは無かった。
けれどさすがにその根岸が死んだ時期と小菊が妊娠した時期が重なるという情報は、あえて伝えなかった。
逆算すれば分かる事ではあったが、それでも。
妙な方向に勘ぐられるのは根岸の名誉に関わるし、紛らわしい情報は真実をブレさせてしまう恐れがある。

「じゃあ、なんでさっき秋人を追いかけなかったんだよ」
ひとしきり聞いた後、和貴はボソリと言った。

「秋人が小菊の子だと思ったんなら、すぐに車で追いかけて、家まで押しかけて小菊に会えば良かったんだ。小菊を問い詰めて、あんたは14年前に根岸っていう旅行者に会って、写真を撮られて、それが気に入らなくてその旅行者を呪い殺して、食い散らかしたんだろうって、訊けば良かったじゃないか」

「……え」
あまりに刺々しい言葉に飛田は正直たじろいだ。
同級生の親を、なぜそんな風に呼び捨てにし、辛辣に語れるのだろう。
とっさに返す言葉を失った飛田をちらりと睨み、和貴は続けた。

「きっとそんなことが有ったんだって聞いても今更村の人は誰も驚かないし逆に、ああそうか小菊ならやりかねない、って言うと思うよ。小菊本人に直接聞いた人間はまだ誰もいないけど、知りたいんなら訊けばいいじゃない。俺は半年前にあの家族が戻って来るまでの事は何も知らないし、俺に訊いても無駄だと思うよ。送ってもらっといて悪いけど。……あ、そのカーブの先にあるのが、俺ん家だから」

「なあ、君は秋人って子と友達じゃないのか? 俺たち、君の友達のお母さんの事話してるんだよね、今……。
あ、その口ぶりからすると、喧嘩でもしてたのか? さっき」

納屋付きの、この辺ではよく見かける平屋の民家の前に飛田が車を停めると、助手席の和貴が飛田の方を向いた。

「秋人とは友達だったとしても、小菊が恐ろしい女だってことには変わりないよ。詳しく調べて、警察にでも届ければいいじゃない。小菊は流鬼だから捕まえてくださいって」

そう言って車から飛び降りると和貴は、半開きのままトランクに乗せてあった自転車を下ろし、納屋の方に押していく。
明らかに機嫌が悪そうに見えた。

「なあ、今、流鬼っていったよね。君、詳しいの?」
「知らないなら広辞苑で調べれば? 夜千代村に住んでる鬼って出て来るよ」

冗談とも本気ともつかない口調でそう言い、いったん納屋に入って行った和貴は、中から大きな工具箱を出して来て、チェーンの切れた自転車の横にしゃがみ込んだ。自分で修理するらしい。

「わかった。和貴に全部聞こうってのは虫が良すぎたよな。友達の家族じゃ言いにくい事もあるだろうし。……じゃあさ、その小菊さんの家だけ教えてくれる? 今更だけど。
ちょっと前に会った宮野ってお爺さんには近寄るなって言われたんだけどさ。やっぱり一度話をしてみたいんだ。根岸が撮った最後の被写体だしね」

少々しつこすぎるかと思いつつ、尚も食い下がり、飛田は少年の横にしゃがみ込んだ。
「自分で修理するの?」と、興味深げに垂れ下がったチェーンを覗き込んだが、すぐに奇妙な事に気づく。

「あれ……。このチェーンなんだろ。熱で溶けたみたいになってる。走ってる途中に切れたんだろ? 普通、こんなふうになるかな」

飛田が摘み上げたチェーンの先を、和貴も覗き込んで来た。その表情が次第に強張っていく。

「秋人だ……」

まるで憎悪の塊を吐き出すようなその声に、飛田は今までとは違う寒気を感じた。



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(バトン/イラスト)春樹×塚本×隆也 

☆イラスト・マンガ・水彩画


今日は、TOM-F さんや山西サキさんや八少女 夕さんがされてたキャラバトンに挑戦しました!

うちも、1人では味気ないので、この3人に登場してもらいます。
KEEP OUTシリーズの春樹隆也、そして『不可視光線』で初登場の塚本です (*´ω`*)

塚本、覚えていらっしゃいますでしょうか。
春樹をえらく気に入ってしまった、ちょっとアブノーマルな大学生です。
(私のキャラの中で、唯一のゲイです) 


とりお

↑ここで、塚本のイラスト初公開(*'ω'*)
え!? 隆也は? ないの?
ないよ。 ……端折りました(。-_-。)        …… (∥ ̄■ ̄∥) ← 隆也

そんなことは置いといて、バトンスタート(*´▽`*) なるべく短く答えますね。

                  ***


1、自己紹介

(春)KEEP OUTシリーズの天野春樹です。生まれつき持ってるサイコメトラー能力に、未だに悩まされています。

(塚)『不可視光線』から登場した塚本忠志です。あの番外以来俺、登場してないんですけど(作者を睨む)

(隆)ずっと春樹の親友の、穂積隆也です。……て、おい作者、なんで俺のイラスト無いんだよ!塚本は要らんでしょ!


2、好きなタイプ

(春)そばに居て、安心感をくれる人。(なるべく触って来ない人)

(塚)年下の可愛い少年、もしくは春樹。

(隆)なんか、守ってあげたくなる様な人。……てか、塚本てめえふざけんな(怒)


3、自分の好きな所

(春)……ひと晩考えさせてもらっていいですか。

(塚)逆に嫌いなところが無いな。

(隆)親友想いなところ。(どや顔)


4、直したい所

(春)考えすぎるところ。臆病なところ。でも一番はこの能力を消したい。

(塚)ない。オレ完璧。

(隆)短気なところ。……塚本お前はすべて直せ!


5、何フェチ?

(春)……フェチってなに?(と、横の塚本に訊く)

(塚)こういう可愛い生き物を眺めながら脳内でアレコレ遊ぶこと。(春樹を見ながら満面の笑み)

(隆)こいつ殴っていいですか(塚本を指さす)


6、マイブーム

(春)美味しい珈琲をいれること。

(塚)春樹。

(隆)シミュレーションゲーム。塚本という名の害虫の駆逐。


7、好きな事

(春)休日、隆也とくだらない話をしたり、美味しい珈琲店開拓すること。

(塚)それ隠居生活だな春樹。もっとエキサイティングな日々を提案しようか。

(隆)道頓堀に沈めるぞ塚本!(←なぜ道頓堀)


8、嫌いな事

(春)満員電車、プールや海水浴……。(←いろいろトラウマが有るらしい)

(塚)合コン。(←マジ女は苦手らしい)

(隆)(*`▽´*)(←塚本の回答がツボだったらしい)


9、読者に一言

(春)微妙なところで連載が終わっていますが、またどこかで番外が出ましたら、どうぞよろしくお願いします!

(塚)言っとくが、俺にだってコアなファンはいるんだ。

(隆)もし続編が有っても、塚本は出てこないと思うので安心して読みに来てください。……てか、作者、続編書けよ!


10、次を指名する。

どなたでも、お気軽に~!


       ***

って事で、久々のトリオ漫才でした(*´▽`*)




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流鬼 第17話 帰巣 (2)  

流 鬼  《連載中》

「ねえ和貴。なにか怒ってる?」
自転車のスピードを上げれば上げる程、秋人は後ろから必死に追ってくる。

バスの中では和貴が終始無言で窓の外を見ていたため、秋人は話しかけてこなかったのだが、村に入り、カラスが舞うバス停に降りた途端、急にしつこく近づいて来始めた。

怒っているわけではなかった。ただこの秋人という少年が、今はどうにも不気味だった。

小菊の子供の頃の噂、由良の3人が越して来てから人が変ってしまった健造、異様な存在感を放ち増殖するカラス、学校で広がる数々の波紋と、不可解な事故。
そして小菊と和貴の事を知っていながら、まるで今までと変わりなく和貴に懐いて来る秋人。
ひたひたと、目に見えない何かに追い込められている。それが思い過ごしだと思えるほど、和貴は鈍感ではなかった。

「ねえ和貴。待ってよ。話をしようよ、僕さあ……」
秋人の自転車がすぐ横に並んだ。

「悪いけど、急いでるんだ。この頃おやじ、駆除から帰ってくるの遅いし、帰ったら帰ったで酒飲んで寝ちまうし。晩御飯は自分で作ることが多いんだ。何も無かったら買い物に出なきゃならないし」

「健造さん、まだカラス撃ちを?」
「そうだよ。この一週間は仕事も休んで狂ったみたいに打ちまくってる。半年前までは……。3月まではそんなことなかったのに」

「僕らがこの村に来てから、っていう意味? でも、僕らとは関係ないよ」
「そんな事言ってないだろ? 絡むなよ! 頼むからもう放っといてくれ」

乱暴な言い方なのは分かってた。けれど秋人に対する罪悪感は希薄になっていた。
何に向けていいのか分からぬ怒りが自分の中で増幅するのを紛らわす様に、和貴は力任せにペダルを踏み込む。
ただ逃げ出したかった。
この少年から。あの狂いかけた父親から。そして得体のしれない妖気すら漂うこの村から。

「でも、僕は何もしていないじゃないか!」

思いがけず発せられた秋人の叫びと共に、バキンという金属音が足元に響き、自転車が制御不能になって揺らいだ。
とっさにバランスを取りブレーキを掛けたので転倒は免れたが、和貴の自転車のチェーンは見事に切れて地面に垂れ下がっていた。

和貴は自転車を飛び降りると、すぐ後ろに止まった秋人を振り返った。
興奮し、心臓をバクバクさせているのは自分で、叫んだはずの秋人はただヒンヤリとした視線で和貴を見つめている。
全身に湧き立つのが怒りなのか恐怖なのか、分からなくなった。

「いい加減にしてくれよ……。もうやめてくれ」
「何を? 何をやめればいいんだよ」

秋人はそこでようやく表情を崩し、泣きそうに顔をゆがめながら和貴を睨んで来た。

頭の奥がズキンと痛む。秋人を怒らせてしまったのだと気づくと、それだけで得体のしれない冷たい汗がにじむ。その感覚は“恐怖”以外の何ものでもなかった。
目の前にいるのは、数か月前に引っ越して来た、ただの同じ年の少年のはずなのに。

「怖いんだよ!」
思わず口から零れ落ちたのは、言うつもりなど少しも無かったその言葉だった。
「こわい? どうして」
秋人は大きな黒いガラス玉のような瞳を見開き、まっすぐ和貴を見つめて来る。

「そんな目で見るからだろ。そうだよ、怖いんだよ。怒ってるのは俺じゃない、秋人のほうなんだ。そうだろ? あの日からきっと秋人は怒ってたんだ。それなのに……」
「あの日?」
「あの日だよ。登校日の。俺、あの日確かに小菊さんに呼ばれて家に入ったけど、何もなかったんだ。本当に何も……。もし秋人があの時なにか、変な事思ったとしたら、全部誤解なんだ。本当に。俺は、全然……」
突然バサバサと黒い影が和貴の頭をかすめ、そのまま秋人の方へ向かった。

秋人の肩に舞い降りたカラスは、1、2度秋人の頬にくちばしを摺り寄せて甘える仕草をした。右の足に赤い紐。
ロクだ。
秋人より先にあの夏の日、あの場所で裸の小菊と和貴を見ていたはずの、カラスだ。

「ああ……そっか」
そう言いながら秋人はロクのくちばしをさする。

「そんなことなら気にしなくていいのに」
「違う! 本当に違うんだ。ただあの日暑くて……すごく暑くて……」
「すごく暑かったから母さんと裸で水を浴びていたんだろ。それでいいじゃない」
「良くない! お前のその言い方が何か疑ってるみたいで、腹が立つんだよ!」

「和貴が母さんと何をしたって、僕は関係ない。僕と母さんは別の人間だし。母さんがむかし、人を殺しただとか、鬼の生まれ変わりだとか言われたって、僕にはどうすることもできないのと同じ。どうしようもないことだよ。ただ……」

静かに言った後、秋人はそこで唐突に話を止め、耳を澄ます仕草をした。
わりと近くの山から銃声が2発、続けざまに響いた。そのあと、また2発。カラスが山の上を沸き立つように飛び交い、騒ぎ立てる。
秋人がそれを目で追い、言葉を続けた。

「この村の人はみんな狂ってる」

まるでカラス達の羽ばたきが巻き起こしたかのような突風が秋人と和貴の髪をかき上げ、辺りの木々をザザッと揺らした。
秋人がこぼしたその言葉は、張り詰めた和貴の神経の糸を切るには充分だった。

「今何て言った。秋人。もういっぺん言ってみろよ」
喉の奥で唸るような自分の声は、和貴自身が戸惑うほどだったが、それよりも秋人がそんな言葉を吐いたことが、和貴には脳天を殴られたほどの衝撃だった。
体が震え、次の言葉が出てこない。
あたりの緑を取り込んで異様に光る秋人の目を見つめながら、和貴はただ自分の中でうねる、怒りに似た感情を持て余した。


「あれ、この前の子だよね。今学校の帰り? あ。チェーン切れてるじゃないか」
ゆっくりと近づいてきた白い車から聞こえて来た男の声に、和貴はドキリとした。

やはりそうだ。車の窓から顔を出しているのは、1か月前に和貴に小菊の写真を見せて、「知ってる?」と尋ねて来た男だ。
嫌な予感がし、思わず自転車を押して立ち去ろうとした和貴を、その男は呼び止めた。

「この間はごめんね。あの写真の女の子、小菊さんって言う人の、12歳の時の写真だって分かったんだ。13年ぶりに、またこの辺に引っ越して来たって聞いたんだけど、君、知ってるよね。君くらいの歳の子供がいるそうだし。ちょっとだけでも話を聞かせてくれたら、家まで送ってあげるよ。自転車はトランクに積めるし。どう? 悪くないだろ?」
男は、そのあとようやく秋人気づいたように、「あれ…」と口籠る。

けれど再び口を開く前に、ロクが車めがけて飛び立った。
激しい羽音に気圧されて、窓から顔を出していた男は「わっ」と叫んで首をひっこめる。

「ロク! おいで」
ひと声だけ鋭く発し、秋人は和貴の横をすり抜けた。
秋人の自転車は、家のある脇道の緩い坂を上っていき、すぐに見えなくなった。

その秋人を追いかけて飛んでいくロクの足の赤い紐を、和貴はぼんやりと見つめる。

秋人の右足に、同じ真紅の紐を結えたあの日の事が、やけに遠い昔に思えてならなかった。



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