小説ブログ「DOOR」

いらっしゃいませ。右側の目次はシリーズ毎に帯の色分けがしてあります。【あらすじ】だけでも覗いて見ませんか?★切なくスリリングに登場人物たちの心の葛藤を描いて行きたいと思っています★イラストや漫画も時々更新♪

(雑記)9月。書き疲れてカムバです。 

☆雑記・四方山話

丸まる2週間、ご無沙汰していました。

もう、こんなに追い立てられて物語を書いたのも初めてですし、下書きどころかプロットも立てずにPCで公募作品を書き始めたのも初めてでした。

ライブ執筆と言う感じで、いったいこの後どうなるのか、1人リレー小説のような感じで物語を膨らませて行きました。
一言一句計画的に書いていた今までとはまるで違って、すごく面白かったんですが、本当に2週間でまともなものが書きあがるのか、すごく不安でした。

でも、何とか昨日の締切日、ギリギリに仕上がりました。
2万文字くらいで終ったらいいな……と思っていたのに、結局5万文字。
仕事やそのほかの用事をしながら、空き時間はとにかく書いていました。
もう二度と出来ないな。肩や手首が痛くてシップだらけです。(笑)

でも不思議なものですね。書く端から物語が構築されていく感じ。
とんでもない奇想天外現代ファンタジーなので、「なんだそりゃ」と、自分で突っ込みながらも、最後ウルっとしてしまったり。

とても賞には絡めないドタバタファンタジーなんだけど、いい経験でした。
今までと全く違うものも、書き始めてみれば何とかなるのかもしれないと思えたりして。

これからはまたのんびり、皆さんの所にお邪魔して、作品を読ませてもらいますね。
コメントは遅くなるかもしれませんが、またよろしくお願いします(*´ω`)


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全然関係ないのですが(;'∀')、この2週間、唯一遊びに行ったイベント。
私の大好きなヒップホップグループ(BTS:防弾少年団)が、自らデザインしたLINEキャラクター(BT21)が、日本上陸!
期間限定のBTカフェを必死に予約して、行ってまいりました。(←本当にどうでもいい話題でゴメン)

予約でもなかなか席が取れず、1時間半総入れ替えの満員御礼。
BTSの人気の凄さ、改めて感じました(*´ω`)

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タタ5066
私の大好きなテテがデザインしたキャラ(タタ)が一番ブキミ(笑) 2000円のバーガー。

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リーダーのデザインしたコヤのパフェ(*´ω`) 

テーブルチャージもいるし、めっちゃ高いのですが、BTSの曲を聞きながら、ファンと同じ空間で過ごす時間は、何とも幸せでした。(ほとんど周りは10代~20代だけど、くじけないんだもん(/_;))




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(イラスト・雑記)2週間お留守にします 

☆雑記・四方山話

このところすっかりご無沙汰してしまって、ごめんなさい(>_<)

今年のお盆はとにかく親戚関係のお客様が多くて、バタバタしっぱなしでした。
実家に帰るタイミングも逃し、のんびりする間もなく、今日からまた平常運転です。

そんな中、2日前から、8月末が締め切りの公募に取り掛かってしまいました。
書けたらいいなあと思っていた公募なんですが、2カ月くらいなんのプロットも立たなかったんです。
今回は諦めるか、いや、でも書き始めたら何とかなるかも……と、今までにない暴挙に出ました←そんな大げさな^^;

あと2週間。仕事も休めず、休日はまたお寺に何度か行かなければならずで、時間が……。

今までもご無沙汰ばかりだったのに、また8月いっぱいご無沙汰してしまうと思います。(/_;)
作品は、まともなものが仕上がる気がしないんですが、とりあえず時間いっぱい書いてみようと思います。
9月になったら、皆様のところにガッツリおじゃましますね。

ご無沙汰のお詫びに、巨大かき氷を緑ネコといっしょに食す水色ネコを、置いて行きます( ;∀;)←え、何のお詫びにもなっていない?(笑)

たまに、足跡を残すかもしれませんが、皆さま、また9月にお会いしましょう~。



かき氷3

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(イラスト)水色ネコの夏 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ああ~、うっかりまたスポンサー広告を出してしまいました。
ひと月が過ぎるのが、なんと早いことか。
自分は何も進歩していないのに、なんだか焦るこの頃です。

本当に命にかかわるほどの猛暑が続きますね。
仕事で週に一回、屋根裏倉庫で品出しをすることがあり、かなり危険を感じているこの頃です。
先日は涼しい部屋に戻った後、両手が攣って、しばらく何もできなくなりました。
それも水分不足が原因なのかなあ……。
お盆を過ぎるまではこの暑さ、続きそうなので、皆さん本当に気をつけましょうね。

あ、以前に見逃した映画、『恋は雨上がりのように』を、この前ようやく観て来たんですが、期待以上に面白くて、青春恋愛ものにもかかわらず、涙ぐんでしまいました。
「泣かせよう」として作られた映画やアニメにはほとんど泣けない私なのですが、なんだかあの純粋さに泣けてしまいました。
役者がみんな良かったからでしょうね。
チョイ役がみんな、光っていました。
(大泉さん最高( ;∀;) そして戸次さんとの共演に別の涙)←NACSファンはきっと分かる。
主題歌がまたいいんですよね。
↓映画の総集編にもなってて、このMV最高!
「フロントメモリー」

最近、青春ものを書く際、こんな感じの気分的に高揚できる曲を探しているんですが、なかなか見つからなくて、悲しいです。

「青春」「ポップ」なんかで引っかかるのは最近出て来た女性ボーカルのバンド曲が多いんだけど、個性が強すぎて、イメージが膨らむのを殺してしまう。

もっと、創造力を膨らませるような曲に出会いたいなあ……。
今のところ、一番創造力を膨らませてくれるのは、池田綾子の「プリズム」かな。
観たことないけど、アニメ『電脳コイル』の主題歌だったそうです。

うーーん、でも、曲に頼らずにサクサク書けたほうが一番いいんですけどね(*´Д`)
引き出しの数も少ないし、いろいろ悪戦苦闘しています。


さて、暑い夏には冷たいものがやっぱり欲しくなります。

水色ネコ、初めてソフトクリームに挑戦。きっとおいしくて夢中になると思うんだけど、その数分後が心配……(´゚∀゚`;)


そふとburogu




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日常ファンタジー 『妖狐な日々』 

10000文字までのショートショート

ご無沙汰しています! 久々の短編コーナーです。

今日更新するこの短編も、エブさんの方で、「そして○○年後……」という言葉を入れて短編を書きなさい、というお題を出されて書いたものなのですが、賞には至りませんでした。
愛着のあるコメディだったのですが、やっぱり少し遊びすぎたかなあ……と、反省。

でも、1年後、加筆修正して「日常を扱ったファンタジーを書こう」というコンテストに出したところ、佳作を戴きました。

自分が面白いと思ったストーリーをスルーされる悲しみと、それを評価してもらった喜び、両方を体験させてもらえた作品でした。

今思うと、評価の基準はやっぱり、『テーマをちゃんと生かせているかどうか』、なんですよね。
同じ作品でも、それが出来ているかどうかで評価が変わってくるし、求められたものを書く力があるかどうかを最終的には見られているんだと、最近分かってきました。

逆に言うと、作者が面白いと思っても、求められていない内容なら、評価はできないよ……という事なのでしょうね(゚´Д`゚)゚。
とてもシビアだけど、これが現実なんだなあ……。

この日常ファンタジーの審査員は、書評家の、三村美衣氏。
(著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)など。)
現在、創元ファンタジイ新人賞の最終選考を務めている方だそうです。

三村さんには、紹介文と、後ほど個別に、とても温かい選評をメールで戴きました(/_;)

↓では、三村さんが書いてくださった紹介文で、物語を始めたいと思います。

*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..

ひょんなことから、京介と妖狐のカイは魂を半分ずつ分け合うことになり、離れると京介の命に危険が及ぶ。おかげで初デートにまで、狐の少年を連れていくことになるのだが……。
人間と妖狐の少年との友情を描いたほのぼの癒し系。キャラも展開もとにかく可愛い!


妖狐表紙300


『妖狐な日々』


―――いったい、どうしてこんなことになったんだろう。

京助は、カチカチに焦げた朝食の目玉焼きを箸の先でつついた。

「お前、料理ぜんぜんダメじゃん」
そして目の前に佇む人物を、ため息まじりに非難してみる。

昨日まではたった一人で朝食を食べていた26歳、しがないサラリーマンの京助に、突如できた同居人だ。
けれど、この状況はまったくちっとも嬉しくない。

「……ごめんなさい」
彼はシュンとし、女の子のような声で言った。

同居人は、昨日までは全く見ず知らずだった、まだ小・中学生くらいにしか見えない小柄な少年だ。
サラサラヘアに顎のほっそりした色白で、目は大きく、琥珀色に澄んでいる。

半袖Tシャツにジーンズ。本当にその辺から浚ってきましたと言う感じの、見た目は可愛らしい少年だ。

事情を知らない人が見たら、こんなあどけない子供をマンションの一室に閉じ込めて、朝っぱらから召使の様にこき使うなんて、一体何を考えてるんだこのド変態め……と非難されかねない状況だが、実際途方に暮れているのは京助の方だった。

「でも大丈夫だよ京助さん。オレ、こう見えてもけっこう呑み込みが早いんだ。すぐにいろいろ勉強して、毎日うまいもん作って食わしてやるから! だから安心して!」

少年はニカッと人懐っこい表情で笑い、髪の間から生えた、三角の茶色い耳を掻く。
更に、シャツの裾からポワンと垂れる、モフモフの亜麻色しっぽをフルンと揺らした。

―――人間だったら、まだ救いがあった。
ママの所へ帰りなさいと、その奇妙な付属品をくっつけたコスプレ少年を追い払えば済んだ。

けれどどんなにその耳と尻尾を調べても、体温と絶妙な柔らかさを持つそれらモフモフは、ちゃんと血の通った本物だとしか思えなかった。
無理に引っ張ってみてもポロリと取れる事は無く、痛みに堪えて少年が涙目になるだけなのだ。

確かに出会ってすぐにこの少年は、いまだかつてないほど潔く自分の自己紹介をした。『オレ、狐です! と』
嘘では無いのは認めよう。けれど……。

―――ああ、何てついてないんだ。ようやく総務の雅《みやび》ちゃんを初デートに誘えたというのに。

よりによってそのデート前日に、こんな疫病神……いや、キツネに憑りつかれてしまうなんて。

     ***

この狐に出会ったのは昨夜の9時ごろだ。

自転車で10分のところにあるコンビニエンスストアに、タバコと夜食を買いに出た、その帰りだった。
開拓予定地の雑木林の傍を走っている最中、京介は急に心臓が痛くなり、さらに呼吸まで苦しくなって路肩に自転車を止めた。

このまま死んじゃうのかな。などと真剣に思うほど具合が悪く、地面に転がった途端、意識が朦朧とした。

―――明日はようやく出来た彼女、雅《みやび》ちゃんとの初デートだって言うのに。なんて可愛そうな俺。最後までツイてない人生だったな……。

そんなことを思いながら無意識に空に手を伸ばした京助だったが、ふわりとそれを別の小さな手で包み込まれた。
「みやびちゃん?」

思わずそうつぶやいたが、心配そうに京介をのぞき込んでいたのは、まだあどけなさの残る、少年の小さな顔だった。頭に三角の耳をつけている。

「ごめんなさい、オレのせいで! オレが自転車の速さに走れなかったばっかりに! でももう大丈夫。苦しくなくなったでしょ。二度と離れないから!」

まったく意味不明な言葉を叫びながら、狐もどきは大きな瞳を潤ませた。
だが確かにこの少年が近づいた途端、京助の胸の苦しさはすっかり消え去り、気分はすこぶる良くなった。

「ねえ、君はいったい何? ちっともわからないんだけど」

「狐です。名前はカイ。本当にごめんなさい、オレ、さっきトラックに跳ねられて死にそうになって、とっさに傍を通ったお兄さんの魂を半分貰っちゃったんだ。だからお兄さんの魂は半分になっちゃって、オレから離れたら苦しくなるんだ。
オレは人間の魂を半分もらっちゃったから、こんな姿になっちゃったけど、驚かないで。珍しい事じゃないんだ」

―――いや、充分珍しい。
けれども京助はツッコみそこねた。

「ねえ、お兄さん、名前は?」
こっちには質問させる隙を与えず、耳をぴんと立ててカイは訊いてきた。

「きょ、京助」
「きょきょすけ」
「ちがう、京助」

京助の名を覚えたところでカイは、引き続きその場でいきなり絶望的な発表をした。

「本当は一個だった魂だから、遠く離れてしまえばお互いに苦しくなる。ほら、今みたいに。だからもうオレたちは遠く離れられない。
本当に申し訳ないけど、これからオレはしばらく京助さんのそばで暮らすよ」

「意味わかんないんですけど。……離れたら苦しくなるって……距離にしてどれくらい?」
散らかった頭で、まずはそう訊いてみた。他に訊くべきことはたくさんあるはずだが、まだちゃんと思考が働かない。

「たぶん30メートル以上は離れられないと思う」
「それ、……いつまで?」
「術がとけなきゃ、オレが生きてる限り」

―――生活できやしないんですけど、それ。

「で、狐の寿命って何年?」
「普通のキツネは5年だけど、オレの両親はキャリアな妖狐《ようこ》で、オレもその血をひいてるから頑張れば500年は生きると思う」
じわりと奇妙な汗と嗤いが込み上げて来た。これはヤバい子に出会っちゃったかもしれない。逃げたほうが得策だな、と。

すぐさま自転車に飛び乗り、猛スピードでコスプレ少年を振り切って逃げ、マンションの2階にある部屋に帰り着いた。
けれど再び信じられないほどの胸痛が京介を襲い、呼吸が苦しくなってそのまま玄関に崩れ落ちた。ガクガクと体中の震えが止まらない。

―――もしかして、あの少年の説明は全部本当の事だったのだろうか。

肩で息をしているといきなり足音が響き、ドアから飛び込んできたカイが蒼白になって京助に縋りついた。「ゴメンなさい」と何度も言いながら、目を潤ませる。
まるで夢だったように呼吸がすっと楽になり、元凶がこの狐であるにもかかわらず、ほんの一瞬天使に見えた。パブロフの犬状態だ。

「こんなことになったのもオレのせいだし、オレ、ここで掃除でも洗濯でも何でもするよ。父さんと母さんは善狐《ぜんこ》だけど、もうすぐ仙狐《せんこ》に昇進するんだ。そしたら京助さんの魂も元に戻してくれるように頼むから。
だからそれまで、オレを傍に置いて。ぜったい邪魔にならないようにするから」

京助はまだくらくらする頭で、「わかった。とにかく、邪魔にならないところにいてくれ」と、それだけ言い、這うようにしてベッドにもぐりこんだ。

もう何を考える気力も無かったし、とにかくその子が傍に居れば苦しくはない事だけは分かった。
朝になったらもしかして、全部夢だったって事になるかもしれない。そんなことも思いながら、風呂も入らずに眠ってしまった。


けれど朝になっても狐はいた。

洗濯をし、掃除機をかけ、焦げた目玉焼きを焼いて、「シャワー使わせてもらいました」と、つやつやしたほっぺで言う。やけに文明慣れした狐だった。
しっぽと耳がまだ少し濡れていて、その表情はあどけなくて、なんだかもう京助は怒る気力もなくなり、逆に愉快になった。

できの悪いメイドをひとり雇ったと思えばいい。狐だけど。
今後の狐携帯生活をどうするかは、また後日考えることにしよう。
とにかく、そんな事より今日は大切なイベントがある。

「いいか、今日は彼女と初デートなんだ。絶対その奇妙な姿を見せるなよ。30メートルギリギリを常にキープすること」
「了解です、京助さん。つかず離れず見失わないようにします。人ごみに行くなら、ちゃんと変装しますから」

そう言うとカイはどこから見つけて来たのか昔京助が使っていた野球帽をかぶり、ジーンズの中にしっぽを器用に押し込み、普通の男の子の恰好をしてみせた。

「へえ、やればできるじゃん。それなら電車に乗っても平気だな。お前、電車乗れるのか?」
「お金さえ頂ければ。あ、子供料金で大丈夫です」

なんでおまえそんなに人間社会に精通してるんだ、と突っ込むと、妖狐は人間社会の事を学ぶのがステイタスなんですと、カイはにっこり笑った。
それよりもしっぽと耳を消す術を学べよと思ったが、可愛そうなので言わずに置いた。

テーブルを挟んで朝食を食べながら、京助は時間いっぱいカイの事を質問してみた。
耳をぴくぴくし、シリアルをぱくつきながら、カイは自分のことを何でも話した。

狐が妖力を持って100年生きて妖狐になり、普段は狐の姿で生活しながら更に修行して善狐になり、仙狐になり、1000年生きてついに天狐となる。
天狐は神であり、狐みんなの憧れだ。それを目指して精進する。

でも中には人を騙して快楽を得ようとする野狐《やこ》になる妖狐もいるのだという。
人に成りすまして人の善良な魂を喰らい、善良な人の心を灰にしていく悪狐《あっこ》なのだ、と。

シリアルを3杯もお代わりしながら、カイは熱く語った。
その様子はけっこう可愛いらしく、しだいに京助はこの半妖への嫌悪感や不信感が薄れていくのを感じていた。弟がいたら、こんな感じなのかもしれないと。

この子の親が、京助の魂の補充をしてくれる日もそんな遠くないという事だし、まあしばらくこの狐を飼ってみるのもいいかもしれないと、妙に楽天的な気持ちになっていた。
たぶんこの気楽さも、今日の楽しいイベントのせいだろう。

彼女の指定した自然公園で、彼女のお弁当を食べ、そして語り合い、その後は「ちょっとホテルで休憩しませんか」という言葉を自然に出せさえすれば、完璧だ。

などと妄想を膨らまし、頬を緩ませて着替えをしていると、カイが目を輝かせながら近づいてきた。

「京助さん、この服を着ませんか?」
手には、京助の着古した黒いTシャツが握られている。

真ん中に大きな髑髏《スカル》のイラストが入っている、某ロックバンドのロゴ入りTシャツだ。
着やすい事もあって週に一回はこれを着ているが、さすがに今日、髑髏を着る気にはなれない。

「あのな、デートにそれはないよ。でも気に入ったんならカイが着てもいいぞ。お前、服は他に持って無さそうだから」

その言葉の何に感化されたのか、カイは目を潤ませてニコッと笑い、オレはいいんです、ありがとうと、そのTシャツを元あった引き出しに片付けに行った。

           ***

時刻は10時。
緑地公園前駅で先に電車を降りた京助は、少し距離を置いて降りて来たカイの姿をチラッと確認した。

カイはすっかり耳と尻尾を隠し、どこにでもいる中学生くらいの少年にしか見えない。
ほっとして改札を抜け、今度はデートの約束をした山田雅《やまだみやび》の姿を探した。


「京助さん~」

雅はむっちりとした体を弾ませ、手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。

身長は160前後だが、かなりごっつい。ぽっちゃりならば可愛らしが、それを通り過ごして、固太りのダイナマイトボディだ。

仕草も言葉もどこか荒っぽく、昔から華奢でシャイな女の子に片想いすることの多かった京助が、なぜこの1か月前に入社してきたばかりの雅に夢中になったのかは、自分でもよくわからない。

気が付くと、脳内はいつも雅の事で満たされていた。
だが恋とはそう言うものなのだと、よく聞く。きっと理由なんてないのだ。

仕事中に、ふとした瞬間触れる指先、視線、吐息。同じ部署ではないのに、なぜか雅と事ある毎に触れあう。
その度に過剰に分泌されていくアドレナリン。
日を追うごとに、まるで思春期のような、そわそわムズムズが膨れ上がっていくのを止められない。

ついに意を決して雅に告白したのが今週の月曜日だ。

雅は「うれしい! 私も京介さんが大好きよ」と言いながらムギュッとハグをしたあと、すぐさま今日のデートを予定してくれた。
丸山湖のそばの自然公園にいきましょう。お弁当を作っていくわ。二人だけの最高のランチにしましょう、と。


「お待たせ!」

雅は満面の笑みで京助の腕に抱き付いてきた。

もしかしたら似合っていないんじゃないかと思うピンクのワンピースと、乙女チックな白い帽子については触れず、京助は「ちっとも」と返す。
楽しい気分をぶち壊す言葉は禁物なのだ。

「さあ、どこに行こうか」と京助が言うと、雅は三白眼のつり目を細くして笑い、グローブのような手で京助を、森のある方へ引っ張って行った。

ああきっとこの力強さに惹かれたんだろうな、などと改めて思いながら素直に手を引かれて歩く。
駅からどんどん離れ、人通りも少なくなり、自然公園の中程の丸山湖に近づいていった。

エメラルドグリーンの水面がキラキラ光り、遊歩道にはベンチやテーブルもあって、ちょうどいい休憩スポットに差し掛かったのに、そこを通り過ぎてもまだ雅は足を止めない。
それどころかどんどん京助を掴む手に力が入り、歩く速度も速まっていく。

「ねえ、どんどん山の奥に行っちゃうよ。遊歩道も無くなっちゃうし、ここでちょっと休んで行かない? 雅ちゃん。ベンチもあるし……」
けれどすぐさま返ってきた声は、けっこう凄みの有る低い声だった。

「さっきから癪に障るガキがコソコソ追いかけてくるのよ。鬱陶しいからもう少し引き離すの」

ガキ……。その時ようやくカイの事を思い出し、京助は後ろを振り向いた。
あの激しい胸の痛みが無いという事は、ちゃんと付いてきてるという事だが、見つかってしまってはせっかくのデートが台無しだ。
振り返った先には木々の緑しかなかったが、雅には見えたのかもしれない。

「な、なんだろうね。僕には見えないけど……この辺の子かもしれないね」
額の汗をぬぐいながらそう言うと、雅が返した。

「クソ忌々しい。もう少し近づいて来たら喰ってやる」

喰ってやる。……喰ってやるって聞こえたけど、気のせいだろうか。
それとも雅はそういう冗談が好きなのだろうか。
京助はぐいぐい引かれるままに歩きながら、やや霞のかかった頭で考えた。

食うと言えば、雅は荷物を何も持っていない。昼の弁当はどうしたのだろう。

「ねえ、雅ちゃん、そう言えばお弁当を持ってないよね」
もう遊歩道からも逸れ、道なき道を進んで行く雅の歩みがふと止まった。

「あ、いや別にいいんだよ。気にしないで。お昼なんてどうでも……」
あわてて取り繕う京助の手首をグイッと血が止まるほど強くつかんだまま、彼女が振り向く。

その目は興奮したように血走り、虹彩はひどく不気味な金色だ。
赤い口紅を塗りたくった唇を大きく引き伸ばし、尖った犬歯を見せて雅は嗤った。

「お昼ごはんならあるじゃない。ここに」
雅《みやび》は不気味な形相のまま笑う。

「え?」

けれどすぐさま表情を凍り付かせたのは雅の方だった。

ガサリと音を立てた木立の間から、目にもとまらぬ速さで何かが飛び出し、雅の体めがけて体当たりしてきたのだ。

ギャッと人間とも思えない声を上げて雅は地面に弾き飛ばされた。さっきまで雅が居たその場には、獣のように四肢を踏ん張って構え、精悍な顔つきで雅を睨むカイの姿があった。

「このガキ!」
「カイ!」
「京助さん、ねぇしっかり見て! 騙されちゃだめだ」

三人がほぼ同時に叫ぶ。

京助が事態を把握できずにいる間に、ズサっと体を起こした雅が同じく四つん這いの姿勢からカイに飛びかかり、大きな口でその喉元に喰らいついた。

カイがひと声あげる間もなく、雅はそのままその小柄な少年の体をブンと首を振るようにして力いっぱい投げ飛ばした。
カイの体はまるで綿を詰めた人形のように軽々と宙を舞い、手すりを超えて丸山湖の中にバシャりと落ちてすぐに見えなくなってしまった。

「あ」

「本当にもう。折角のデートが台無しだわ。行きましょう、京助さん」
何ごともなかったように雅はワンピースの裾をパンパンとはたいた。

口元に滴った赤い血をスッと手の甲で拭うと、ふたたび雅は京助の手首を掴んで引っ張る。

―――いったい今、何が起こったんだろう。何か大事なものを失くした気がする。

再び雅に掴まれて歩き出すが、その手首が今になってジンジン疼く。
自分は今、なぜ歩いているのだろうという疑問がチラチラと頭の隅に沸く。けれど思考がちゃんと戻って来ない。

ただ、胸が酷く苦しかった。心臓の痛み。そしてまともに呼吸ができない。
なぜだ。何かやっぱり―――忘れて来た?


“オレから離れちゃだめだ”

そう言った少年。―――そうだ、キツネの少年だ!


「雅ちゃん、ごめん、俺戻らなきゃ! カイが……」
そう言って雅の手を振り払った途端、目の前の女は振り返った。

けれどもはやそれは見知った事務員の女ではなく、耳元まで避けた口から赤い舌をはみ出し、目を血走らせて京介を見据える化け物だった。

頭には、今まで気が付かなかったが三角の大きな赤茶の耳が突き出している。
おののいて後ずさった京助の目に更に飛び込んだのは、長さ1メートルはあろうかと思える2本の太いしっぽだった。
憑き物が落ちたように頭がクリアになり、途端に全身を恐怖が貫いた。

飛び跳ねるようにその場から逃げ出した京助だが、すぐさま首根っこを引っ張られ、ものすごい力で地面に引き倒された。

「ちょうどお昼ですねぇ京助さん。全部とはいいません。半分だけいただきますよ」

目は固く閉じても、生暖かい吐息と、物騒な“いただきます宣言”はハッキリと感知できた。

―――ああもうここまでなのか。喰われるのは痛いのだろうか。

その様を想像し、恐怖で体を硬直させた瞬間。
サッと頭の上を湿気を帯びた風がよぎった。

同時に体の上から雅の気配が消え、そしてすぐさま足元で獣が格闘するうめき声が甲高く響いた。

まさか! と跳ね起きて目を凝らすと、赤茶色の巨大狐が何かを腹に巻き付けて七転八倒しもがいているところだった。

何度も回転し、激しく背を木々に打ち付けて喚き、金色だった目は白目になり牙の間から舌が力なく垂れ始めた。
腹に巻き付いたものは、ずぶ濡れのままのカイだった。

巨大狐が精彩を欠いたところでカイは足を踏ん張り、二本のしっぽをむんずとつかんで、ありったけの力で手すりのむこうに投げ飛ばした。
さっきやられたのと同じ方法で彼は、巨大狐《みやび》を湖の中に放り込んだのだ。

ザッバーンと大きな音と水しぶきが上がり、虹が弧を描いた。
そしてそのあとには、それまでと同じ、ごく普通の静寂が池とそれを囲む雑木林に戻ってきた。


京助はひとつ大きく呼吸をすると、ゆっくり立ち上がって、体中木の葉やひっかき傷だらけになっているカイのもとに近づいた。
巨大狐が消えた池の波紋を見下ろしていた少年の頭の薄茶の耳が、京助の気配にぴくりと動き、そしてこちらに顔を向ける。
その琥珀色の目が、酷く寂しそうに見えた。

「雅は、バケモノ狐だったのか?」
そう訊くとカイがひとつ頷く。

「あいつは野狐の中でも特にたちの悪い悪狐《あっこ》で、隙の有る人の魂を喰らって自分の妖力にする。修行する気がないんだ。全部食べられると人間は廃人になっちゃって、とても危ないんだ」

半分喰うとは、そう言う事だったのかと、京助は妙に納得した。

「俺に隙があったから引っかかっちゃったんだな」
京助は認めてつぶやいたが痛手は無く、逆に何か気持ちが晴れたような清々しさがあった。
同時にこの半妖が傍に居てくれたことに、改めて感謝した。

「とりあえず帰ろうか。そのまんまじゃ風邪ひくぞ」
そう言ってカイの濡れた耳を軽く引っ張ったが、カイは憂いた顔のままだ。
そして辛そうな表情で京助を見上げて来た。

「オレも、もう帰らなきゃ。目的は果たしたから」
「え? 目的って……。なに」

「今の野狐が京助さんを狙ってるって気づいたから、オレ、昨日からあんなウソついて傍に居たんだ。本当は車にはねられたとか、京助さんの魂を半分盗ったとか、嘘なんだ。妖狐って言うのは本当だけど、それ以外は全部嘘で……。距離が離れると胸が痛むのも、オレがかけた術で……。それも、本当にゴメン」

京助は、また視線をそらしてしょんぼりした少年を、奇妙な気持ちで見下ろした。

「うーんと、よく分からないんだけどさ。じゃあなんでそんなウソまでついて俺の傍に来て、こんな危険な目に遭ってまで俺を助けたんだ? カイは」
「だって、それは……。やっぱり京助さんは、忘れちゃったんだね。5年前の秋の日の事」
「5年前?」
「人間の捨てた鉄くずの中にハマって動けなかったオレを助けて、頭撫でて去って行ったじゃない。顔はよく見てなかったけど、あの髑髏の黒いTシャツを着た、背の高い男の人だったって事は覚えてたんだ。
ずっと気持ちの中にその時の事があったんだけど、顔を覚えてないからどうしようもなくて……。でも、つい一か月前に、あの近くで、あの同じTシャツを着てる男の人をを見かけたんだ。オレ、すごくうれしかった。
本当はそっと、マンションを出入りする姿を眺めてるだけにしようって思ってたんだけど、あの野狐と一緒にいるところを見かけて、何とかしなきゃって思ったんだ。あの頃はまだただの子狐だったから何もお礼が出来なかったけど、今ならできる!って」

「……それでわざわざ嘘までついて……? いや、そのカイの気持ちはすごく嬉しいんだけどさ、そもそも俺、5年前に子ぎつねを助けた記憶が全く無いんだけど」
「忘れてるだけです。大きな丸いふたを開けて、助けてくれました」

「あ! もしかして洗濯機の中から拾った犬!?」
「そう洗濯機! でも狐です」
「そうかあの時の……。でも、残念ながらそいつは俺じゃないよ。カイを助けたのは三郎って言う俺の友達さ。今思い出したんだけど、そう言えば大学時代に洗濯機にハマった茶色い子犬を助けたって言ってたことがあった。
あいつも同じロックバンドのファンで、あのライブ限定のTシャツ、毎日のように着てたしな」

「京助さんじゃ……無かったんですね」
カイは水を滴らせながら、辛そうな顔をした。

「なんか、ごめんな。助け損で」

カイは大きく首を横に振り、こちらこそ、出しゃばってごめんなさいと小さく頭を下げた。
そのまま、とぼとぼと森の方に歩いて行く。

―――このまま狐に戻るのだろうか。


「……ありがとな。妖狐の父さんと母さんによろしくな」

少し感傷的になってかけた言葉に、カイはちょっとだけ振り返り、「それも嘘。オレの親は早くに亡くなりました」とだけ言って、もう一度頭を下げた。
耳もしっぽも濡れたまま、肩を落とした少年の姿は、やがてゆっくり森の木立の中に消えて行った。

―――山に帰って、狐に戻って、そしてカイは一人で暮らすのか。

掃除も洗濯も、嬉々としてやっていたカイの姿が再び思い出された。
おいしそうに食べていたシリアルも、もう森では食べられないのだろうな……。


とたんにさっきと同じ、心臓をギュッと掴まれる様な痛みが走った。
呼吸は出来るが、胸に風穴があいてしまったように空しく、どうにも気持ちが落ち着かない。

「カイ! ちょっと待て。術が消えていない! 戻ってこい!」

大声で森に向かって叫ぶと、小さな薄茶の小柄な狐が、そろりと木の葉の間から顔を出した。

「お前がいないと、なんか苦しいんだ。術が消えていない」

もう一度京助が叫ぶと、狐はそんなはずはないと、首を横に振る。

「お前の森での予定がないんなら、また俺んちに来い。掃除洗濯し放題だし、テレビも見放題だし、シリアルだって食い放題だぞ。ただし、狐の姿じゃだめだ。あのアパートはペット厳禁だから!」

「ほんと!? 居てもいいの?」

くるりと飛び跳ねて狐は再び少年の姿に戻り、目を潤ませて京助の元に駆け寄ってきた。

しっかり抱き止めて、三角の耳ごと頭をワシワシと強く撫でてやったあと、京助は言った。

「ああ、本当だ。でも、まずは森の中からさっき着てた服を取って来い。素っ裸で尻からしっぽ生やした少年を連れてたら、俺は家に帰る前に逮捕されちまう」

      ***

―――あれから1年後。

カイは上手に目玉焼きを焼けるようになった。


それ以外の料理はよく失敗するが、嬉々として家事をこなし、シリアルをうまそうに食べる表情は、こちらをも元気にしてくれる。
おしゃべりも大好きで、毎日森に遊びに行っては、そこで出会った生き物の話をしてくれる。


“犬や猫を飼うと、婚期が遅れるんですよね”
今朝の情報番組でアナウンサーが言った言葉を思い出しながら、京助は、満員電車に揺られていた。

じゃあ、妖狐を飼うとどうなんだろうと、ちょっと考えてみて、可笑しくて笑ってみる。
きっと誰にも分からないだろう。

妖狐の寿命が50年から500年だと聞いて少し腰が引けたが、ペットレス症候群になる事だけはなさそうだし、カイが森へ帰りたいと言い出したら、自由に帰ればいいと、気楽に考えることにした。
その時はまた少し、胸が痛むかもしれないが。

京助はいつものように出社し、いつものようにタイムカードを押した。

そしてチラリと覗いた総務のデスクに、いつもと同じように雅《みやび》が座っているのを見つけ、ため息を吐く。

「ああ、おはようございます、京助さん」

ニコリと笑うその顔は、ますます血色がよく、生気がみなぎっている。

窓際に座るひょろっとした新人が、熱いまなざしでこちらを見ている。
雅は新たなターゲットを試食中らしい。なかなか懲りない悪狐だ。

―――半分だけにしとけよ
目だけでそう語り、京助は歩き出した。

窓の外は晴天。
人間界に紛れ込んで暮らす妖狐たちも、すこぶる元気。

今日も忙しいが、平和な一日になりそうな予感がした。


     了

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(イラスト)しずく 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ご無沙汰しています。
いつの間にか1か月が過ぎてしまっていて、今朝初めてスポンサー広告を出してしまいました。

わあ……、見づらい! やばい! (;・∀・) 慌てて更新することにしました。
何も内容を考えていなかったので、とりあえず季節に合ったイラストを載せておきますね。
以前描いたイラストなんですが、時期を逃してしまったので、眠らせていました。

そう……6月。梅雨です。洗濯物が乾かない、気持ちまでジメジメしてしまう梅雨です(;_;)

少しでも気持ちが爽やかになればいいなと思いながら描いたので、キラキラ感が多めかもしれません。

昨日も一昨日も雨(つか、雷雨!)。そして明日からもずっと雨予報……。
だけど、今日だけは奇跡的に晴れです。

これから久々に映画、見に行ってきます。
『恋は雨上がりのように』。たまにはね。こういう歳の差キュンも、いいもんです(^^♪

ではまた! もう広告出さないように、どうでもいいネタで雑記書きに来ます!!



しずくブログ用1200




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お題掌編 『モラトリアム・ノアール』  

10000文字までのショートショート

また、久々の更新になってしまいました。
今回も、エブでお題を貰って書いたSSを載せてみようと思います。(*'‐'*)

今回のお題は、「子供の頃のあの約束」。
いろいろプロットを立ててみたのですが、結局出来上がったのは、優しさのかけらもないダークな物語でした。

以前、可愛い女の子が書けないと嘆いたのですが、今回の主人公の女も、結構ひどいです(笑)
けれど、私が本当に書きたかったのは、もう一人の登場人物の青年の方だったかもしれません。
私なりの歪んだ美学を取り込んでみました。

「いい人」の出てこないビターテイストのSS。皆さんは、どんな感想を持たれるかな。

今回も6千文字以上あるのですが、一気に掲載します。
(長くてすみません>_<)

タイトルは『モラトリアム・ノアール』。
『悪趣味』と同じく、優秀作品(ベスト30)に選んでもらえた作品です。


*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..


―― もう一度  震えるキスをしよう…。

2ノアール小


まるで淀んだ闇の中に、ギラリと光る、カラスの濡れ羽色。

深夜の高架下で彼を見つけた時、私の胸に湧き上がったのは、愉悦と興奮と切なさの混じった、言葉に言い尽くせない感情だった。

間違いない。小学の頃の同級生、高柴 由貴哉だ。
進むべき道を断たれ、惨めな気持ちを抱えた今の私が、ここ数カ月会いたくてたまらなかった男。

最後に姿を見かけたのは高校生の頃だった。もう10年以上になるだろうか。

身長はまた更に伸びていたが、細身のしなやかな身のこなしは昔のままで、光沢のあるジャケットもスリムなジーンズも黒で統一され、彼が彼であることを隠そうともしていない。
見間違うはずもなかった。

27歳になった彼からにじみ出るオーラは、”あの12歳の時”も、そして ”私のものになったはずの”それ以降も、まったく変わることのない「黒」のままだ。

そうだ。
この高慢ちきで鋼鉄のような冷ややかな美しさをもつ男は、私のものだったのだ。
きっちり手の届くところに繋いでおかなかったばかりに所在を見失い、ここ数カ月、どうやって探し出そうか考えあぐねていた。
まったく迂闊だった。


思い返せばこの15年間、私には由貴哉のほかに、夢中になれるものがたくさんあった。

3歳から始めたピアノは数々の国際コンクールで賞を取り、高校を出てすぐに英国王立音楽大学に留学した。
帰国後も、歌劇団の伴奏ピアニストの仕事を得て、順風満帆だった。
由貴哉のような美しさは無かったが、劇団の若い演出家との恋はそこそこ刺激的で、経済的にも何の不足もない日々だった。

野放しにしていても、私は由貴哉の弱みを握っている。その気になれば、彼はいつでも私にひれ伏す。そんな安心感から、いつしか私は由貴哉の綱を手から離してしまったのだ。
互いに転居し、連絡がつかなくなってしまったが、その時はそれほど大きな痛手は感じなかった。

けれど今の私は違った。

1年前酷い腱鞘炎になり、手術の甲斐もなく指が思うように動かせなくなった。
演奏の仕事はなくなり、演出家も私の元を去り、そしてこの陰気で騒がしいだけの街で、幼児向けピアノ教室の教師として日々を送っている。

1人やけ酒をして、終電に見放されたこの深夜、闇夜から羽音もたてずに、この獣は舞い降りたのだ。

「由貴哉。久しぶりじゃない。元気にしてた?」

振り返った黒い瞳がじっと私を見つめる。

さあ、その狼のような目を、子ウサギのように怯えさせ、私に微笑みなさい。
あの12歳の日から、あなたは私のものだったはず。忘れたなんて言わせない。

けれど由貴哉はしばらく私を見た後、白けたようにフッと笑った。
「ああ。なんだ、森下か」

そうして、もう用事は済んだとばかりに、ゆらりと背を向けようとする。眩暈がしそうなほどの苛立ちが私を襲った。 
そんな態度はあり得ない。

「なによそれ! まさかそれでさよならって訳じゃないわよね由貴哉。なに全部終わったみたいな顔してんのよ!」

由貴哉は面倒くさそうに振り返り、ゾッとするほど冷ややかな目で私を見つめた。

「終わったみたいな顔って……。あんたと何か、始まってたっけ」

「何言ってんのよ! まさか忘れたわけじゃないよね。わたし全部覚えてるから。あんな事忘れられるわけないじゃない。あの時の約束、ちゃんと守ってあげたのよ。そんな態度取るんだったら、私……」

「ああ……。約束ね」
由貴哉は笑った。

「あの約束はもういいよ。忘れて。それに、たしか約束の代償はもうあん時あんたに払ったじゃん。あれっぽっちじゃ足りない?」

「あ……あんなの! あんなの代償じゃない!」
怒りと恥ずかしさで、私は全身が震えた。

そんなはずはない。あの時の由貴哉は私の手の中にあった。震える唇も戸惑う吐息も、ちゃんと覚えている。
目の前にいる黒い魔物は一体何なのか。15年の時が、すべて風化させてしまったとでも言うのか。

私は込み上げる怒りに耐えられず、叫びそうになった。



小学生のころから、高柴由貴哉は、とても異質な存在だった。
6年生になって初めて同じクラスになった由貴哉を、私は興味深く観察していた。

占星術師をしている母親と、大きな屋敷に二人暮らしだという事にも興味をそそられたが、クラスで一番背が高く、そして均整の取れたしなやかな体つきは、どこに居ても目をひいた。

彼は決して他の男子と群れない。

けれどそこに、仲間はずれにされているよいうな弱さは微塵も感じさせず、まるで強くなり過ぎた狼がそっと群れから外れ、高台で弱い者たちを見下ろしているような風格を感じた。

着る服はいつも黒。
彼の選ぶ黒は整った顔立ちを余計に際立たせ、更に近づき難くさせていた。

「こわ。またさっき睨まれたよ~。なんか黒ばっか着てるし、家でお母さんと黒魔術でもやってんじゃない?」
「あのでっかいお屋敷で二人暮らしでしょ? 絶対なんか洗脳されちゃって、一緒に水晶とか覗いてるよ」
仲の良かった友人たちは、とにかく由貴哉を不気味がり、同時に陰口で楽しんでもいた。

「そうかなあ。占い師のお母さんって、なんかカッコいいじゃん。いっぺん占ってもらいたいよ、友達価格で」

強がってそんなことを言ってはみたが、内心私も、どこかで由貴哉に怯えていた。
なにかの弾みで目が合った時に全身に走る衝撃は、トキメキなどとは程遠いものだった。
それでも、由貴哉が動くと、それを目で追ってしまう。

誰にも媚びず、安易に笑い掛けず、冷ややかで他を寄せ付けない、孤高な黒い瞳。
教師ですら、由貴哉に話しかけるときはどこか緊張してるように見えた。

毎日、目で追う。ピアノコンクールの事を考えていない時は、いつも由貴哉の事を考えていた。
12歳の私の中で、その存在は日に日に大きくなっていく。
頭の中では、黒く綺麗で獰猛な獣が、絶えず蠢いた。

卒業式を間近に控えた冬の日。
あまり欠席をしたことのない由貴哉が、連絡なしに学校を休んだ。

「家に電話を入れても繋がらないんだ、誰か何か聞いてるか?」 と、担任は訊くが、そんな親しい友人がいるはずもない。
たまたま日直だった私が、彼の家にプリント類を届けることになった。


校区の端の高台にある由貴哉の家は、鉄柵に囲まれ、寒々しい城のように見えた。
この家で由貴哉は母親と二人で暮らしているんだ……。

私はプリントをポストに入れたあと、そのまま帰るのがもったいなくて、しばらく周囲をぐるりと探索してみた。
その家は角地にあり、裏は雑木林に繋がっている。

病気なのだろうか。呼び鈴を押してみようか。
そう思いながら屋敷を見渡していた私の目が、そっと裏口から出て来た由貴哉の姿を捉えた。私は咄嗟に物陰に身をひそめた。

手にはビニールに入れた何かと、スコップのようなものを、隠すように握り締めている。学校で見る彼とは違い、どこか怯えたようなそぶりだ。
彼はそっと裏門を抜け、少し勾配のある道を上り、その向こうの雑木林に向かう。
私は足音を忍ばせ、充分に距離を取りながら彼を追って行った。

枯れ葉の少ない針葉樹の林は、足音を消し、そして太い幹で私をかくしてくれた。
立ち止まり、一心不乱に穴を掘り、その中にビニール袋ごと放り込もうとする作業をじっと見つめた。

彼らしくもない、慌てた動きにビニールが破れ、中から出てきたのは黒ずんだナイフと、赤い液体の付着した服。タオルなのかもしれない。

それはとても現実のものとも思えない不思議な光景で、私は映画の中に吸い込まれるように、一歩、二歩、由貴哉の傍に歩み寄った。
足元で小枝が爆ぜる。ビクリと由貴哉は振り返り、目を見開いて私を見つめた。

―――あの由貴哉が、そんな風に怯えた目で私を見ることが起こるなんて……。

恐怖心はどこかに消し飛び、そのことが私を興奮させた。そしてその時点で私が彼より優位に立ったことを確信した。
理由なんて分からない。直感だった。

「それ、なに? 血?」

私の静かな質問に、由貴哉は固まったまま答えなかった。反論してももう遅いという諦めからか。
肌は紙のように白いのに、唇は燃えるように赤かった。

「誰の血? 怪我でもしたの?」

彼の声が聞きたくて、質問を変えてみる。けれどその唇は薄く開いて震えたまま、何も語らない。昨日までの、まるで私たちを見下ろす王者のような風格は、微塵もなかった。
その代り、怯えるその姿がやけに健気で、可愛らしくも思えた。

彼は今日、一体どんな罪をこしらえたのか。

「森下……」
由貴哉が小さな声で私の名を呼んだ。その時が初めてだった。名前を呼ばれたのは。
一年も同じクラスに居て、初めて彼は私の名を呼んだのだ。 
怯えながら。

「何?」

「誰にも言わないでほしい……。頼む」

「何を? 高柴くんが土の中に変なものを埋めようとした……ってことを?」

「頼む……」

由貴哉は反論も言い訳もせず、ただそう言って項垂れた。誰かの飼いネコでも殺してしまったのだろうか。それとも、犬?
その時はそんなこと、大して気にならなかった。ただその時私を満たしたのは、この少年はもう自分に抵抗できないんだという、愉悦だった。

「いいよ」

「……本当に?」

「本当よ。誰にも言わない」

「約束してくれるか?」

「うん。してあげる。その代り」

「……?」

「キスしてよ」

その時の由貴哉の顔は、今でも忘れられない。驚きと困惑と諦めと。そんなものがすべて混ぜ合わさった、愛おしくなる様な表情。

拒否されたら、すぐに「ばーか、冗談よ」と笑うつもりだった。
けれど彼はゆっくりと私の傍まで歩み寄り、冷え切った唇を私の唇に重ねて来た。

時間も、音も、止まった。

由貴哉の唇はまるで許しを請うように、私の唇にそっと重ねられ、そして戸惑うように震えた。
いったい今自分たちは何をやってるのかも、言い出した私の方が、分からなくなった。

息が苦しくなって、私が体を放すと、由貴哉はやっぱり同じように縋る目で、私を見つめた。

「俺がやったんだ。もうじきニュースになると思う。でも……やらなきゃやられてた。頼む。内緒にしてほしい」

由貴哉は深く私に頭を下げた。

ああ……そうか。 とんでもないことが起きたんだ。私に屈辱的な事を要求されても、応じるほどの。
全身に行きわたるほどの納得と、恐怖と、そして得も言われぬ安堵があった。

「約束する」

私は彼の作業を見届けることもせずに、眩暈にも似た感覚を引きずりながら、家に帰った。


事件が報道されたのは、翌日の早朝だった。高柴由貴哉の自宅近くの側溝で、中年女性の遺体が発見された。

刺し傷は脇腹を一か所のみ。それが致命傷となったらしい。
その女性は由貴哉の母親、高柴美麗の顧客で、過去の占いを信じて大損害を被ったと、以前から憤慨していたらしい。
当日、”高柴美麗の所へ行く。殺してやる” と言って家を出たことを、家族が語っていた。

『でも……やらなきゃ、やられてた』
由貴哉の言葉が鮮明に蘇る。震える唇の感触が、今でも愛おしい。

―――大丈夫。誰にも言わないから。私が秘密を封印する。


高柴美麗の事は数日間、ニュースにも度々取り上げられた。屋敷には警察の捜査も入り、当然学校中がその話題で持ちきりになった。
結局由貴哉は卒業式にも出席することなく、そのまま小学校を去った。

遺体で発見された女と、高柴美麗の当日の接触の証拠も、凶器や血痕の痕跡も見つからず、高柴美麗への疑いや悪い噂も、次第に晴れて行った。
由貴哉は、様々な黒い噂だけ残し、遠い私立の中学校へ行ってしまった。

だけど私からは逃げられない。
彼を守ってやりたいという庇護の気持ちと、自分の手の中に居る、とういう愉悦は、中学生になった私の中に、常に同居した。

彼の家の前で待ち伏せして、ただ目を合わせただけで、「じゃあね」と帰る。
野性味のある精悍な顔つきの彼の表情が、私の前でだけ、従順なウサギになるのが見たかった。
ただそれだけのゲームを、月一くらいの頻度でしばらく続けた。

そして、そのうち、それにも飽きた。

ピアノを弾くことにのめり込み、コンクールで賞を取ることで自分の価値を高めていく興奮のほうが、ほんの少し由貴哉への愉悦に勝ってきたのだ。

大丈夫、あの男は私から逃れられない。私が守り、私がずっと捉えておくのだ。
楽しみの保険。どこかでそんな風に思っていた。

……それなのに。

            ◇

「いいの? 私にそんな態度取って、いいと思ってるの?」
私は目の前に佇む、すっかり大人の男になった由貴哉に凄んだ。けれど何の感触もない。

黒という色は、すべての色を吸い込むことで存在する色なんだと聞いたことがある。
私の怒りも混乱も、目の前の黒づくめの男にすべて吸収されてしまい、代わりに跳ね返ってくるのは、空しい屈辱だけだった。
いったい、15年前交わした約束は何だったのだろう。

「なあ森下。あれからもう15年経ってるんだよ。子供の頃の事なんかで、なんでそんなにムキになってんだよ」

「私はずっと約束を守ってあげたのよ? 言えばあなたの人生はめちゃくちゃになったはずでしょ? 私が誰にも言わなかったら、人殺しの事知られずに生きて来れたんでしょ。恩人のはずよ! それとも、あの時バラシちゃっても良かったって言うの? 子供だから罪に問われないって? 何なら今から警察に行ったっていいのよ。時効なんて無くなったんだから!」

自分でも支離滅裂だという事は分かっていた。もう今更、この男を罪に問う事は難しいだろうと頭の隅では分かっていた。
ただ悔しかったのだ。15年の日々が、この男につけたはずの鎖を風化させてしまったということが。

なぜもっとしっかり、捉えておかなかったのだろう。こんな勝ち誇ったような目で、私を見るなんて許せなかった。
私にだけは怯え、感謝の目を向けてくれなければならないのに。

「ああ、そうだよね」
由貴哉はまた、気だるそうな口調で言った。どこか、嘲笑うような溜息と共に。

「森下にはとても感謝してるよ。おかげであのあと、俺があの中年女を殺したなんてことが噂になったりしなかった。あんたが、凶器を埋めるところを見たなんてしゃべったら、俺も母さんも人生終わってたかもしんないし」

「ほら! 感謝しなさいよ。私は由貴哉の……」

「あんたなら、口止めするのはちょろいと思ったんだ。俺に惚れてたろ」

その言葉は私の脳天を殴りつけた。

「な……」

「秘密にして、約束してって神妙な顔で言えば、あんたはホイホイ言いなりになると思ってた。キスしてって言われた時は正直面食らったけど。まあ仕方ないなって。どう? 俺役者だったろ? 哀れな仔犬みたいに上手くキス出来たろ?」

「由貴哉……。調子に乗るんじゃないわよ! 今からだって私、喋るわよ。警察にでも、週刊誌にでも、何だって喋ってやる。この恩知らず! 私があなたの秘密を守ってあげたのに。あなたを守ってあげたのに!」

「違うね。あんたは俺を守ったんじゃない。俺を自分の所有物にしたつもりだったんだろう。思い出したように自宅を訪ねて来ては、忘れるなよってガン飛ばして。ウザいッたら無かった。抱いてくれなんて言われなくてまだ助かったけど。まあ、品行方正のお嬢様で通してたあんたが、そんな品位を落とすようなへまはしないよな。将来に傷がつく」

「な……何言って……」

「でもさあ。俺も感謝してないわけじゃない。約束を守ってくれた森下に、お礼の気持ちを込めて、本当の事を教えてやるよ」
由貴哉は黒光りするジャケットに手を突っ込んだまま、わたしを見下ろし、言った。

「あの中年女を殺ったのは俺じゃない。俺が心から愛して尊敬していた女性だ。証拠になるものはすべて俺がかき集めて処分した。もし見つかったら全部俺が罪をかぶろうと思ってた。12歳なら罪はそんなに重くはないし。あんたに見つかったあの時も、この面倒な女を黙らせるにはどうしたらいいか、それしか考えてなかったよ。俺の中には常にあの人がいた」

由貴哉はもう笑う事もせず、まっすぐその言葉を私に突き付けた。
「あんたの下僕になったと思った瞬間なんて、これっぽっちもない」

私は痺れる脳で、ただ目の前の黒いケダモノを見つめていた。
たぶんもう、これ以上砕けることもできないほど、心臓には醜いひびが入っていることだろう。

「その人って……。お母さん?」
それだけ言葉にするのが精いっぱいだった。

「母さんは、2年前に亡くなった。もう、あんたが何を訴えても、罪を償うことはできないよ」

由貴哉の顔はその時初めて人間らしい憂いをにじませた。恋しい人を亡くした男の顔だ。

惨めに打ち砕かれた後だというのに、その男の表情は私の胸をえぐった。
どうせなら最後まで憎らし気に嗤っていればいいものを。

彼が着る黒は、敬愛する占星術師である母親への、契りの色だったのかもしれない。
もとより、一瞬だってこの美しく冷徹な男は、自分のものではなかったのだ。

猶予を与えてこの高慢ちきな獣を、自由に泳がせているつもりだった。
でも違った。私の手の中には、最初から何もなかった。

そしてこれからも、何もない。

私は感情をそぎ落とし、ただ目の前の男を見上げた。
大声をあげて泣く代わりに。

由貴哉が、唇の端を少し持ちあげて、私を興味深げに見つめる。
「おまえ、良い表情してる。さっきよりも、15年前よりも、よっぽどいい」

ああ……。どこまで嫌な男なのだろう。

「なあ森下。もう一度キスをしようか。15年間、俺との約束を守ってくれたお礼に」


もう一度キスをしよう。屈辱と涙と自暴自棄の。

黒い魔物は嗤う。 


15年前と同じ冷たい唇。けどあの日とは真逆。

震えているのは 私だった。



- Fin -


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(イラスト)珍しく可愛い系で 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ご無沙汰です。
また更新からひと月近く経ってしまいました。

今年は本当に大きな行事が多い上に、町内会の役員まで回って来て、仕事が休みの日も走り回っています(;´Д`)
重なる時は重なる法則、健在です(。-_-。)

イラストもほとんど描く時間が無いのですが、ひと月前、エブの方のお仲間に、表紙絵を依頼されました。
私はエブでは、『絵は未熟なので表紙絵のご依頼は受けていません、ごめんなさい(;_;)』宣言をしてるのですが、それでもたまにこうやって(きっとプロフを読んでないんだなw)依頼をくれる親しいクリエイターさんに、描いてあげることがあります。

今回の依頼は、キュンとくる学園もので、背景に桜を……。
というもので、え、ちょっとまって、前回私が自分の中編の表紙絵に描いたイメージにそっくり( ゚Д゚)……と、ちょっと焦ってしまいました。

前回描いた、自分の作品の表紙絵
千の春表紙

でも、私の主人公は、ちょっと気の強い、意思のはっきりした女の子。
依頼されたのは、とにかく可愛くて好感の持てる女の子。

一瞬で伝わるように描き分けなければ。

可愛くて、なでなでしてあげたくなる様な女の子と、ちょっとクールな男の子。

……ということで、こうなりました↓


タッくん表紙ブログ用


ああ~、私もキュンとなるようなかわいい女の子、小説で書けるようになりたい。
なぜか書いてるうちに、どんどん気が強くなってしまう……。
男の子は、書くうちにどんどんひ弱になっていくのに (*ノд`)・゚・

世の中の読者が求めるのはきっと、強くてカッコいいヒーローと、健気で儚くてかわいいヒロインなんだろうな(;´Д`)
分かってはいるんだけど、気が付けば真逆になっている不思議……。うう(;_;)



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お題掌編 『悪趣味』 

10000文字までのショートショート

久しぶりの、短編小説の更新です。
今回も、以前エブさんの所で書いた、お題掌編を載せてみようと思います。

今回のお題は「誰にもいえない秘密の趣味」 。このお題を見た時から、絶対コミカル路線だな……と思いました。そして、ひねり出したものは、ちょっと軽薄で、ほんの少し不気味な、コメディSSでした(笑)

6千文字以上あるのですが、分割して載せる程の内容ではないので、一気に掲載します。
コメント等気になさらずに、さらっと読み飛ばしてやってください(*ノωノ)

タイトルは『悪趣味』。
私が実際に時々見る“明晰夢”を、題材に盛り込んでみました。

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僕が“明晰夢”を見始めたのは、2年ほど前だろうか。ちょうど中学に入学した頃だった。

もともと、かなりはっきりした夢を見る体質で、色彩も鮮やか、さらに匂い、味、体温まである程度感じてしまうので、朝目覚めても一日中その余韻から抜け出せないことも多かった。

けれど明晰夢というのは、そんなリアルな夢とはまた全く別な、特別な夢なのだ。
この夢の正式な名前を知ったのは、ふと書店で手に取った科学雑誌で、それまでは自分で勝手に“覚醒夢”と名付けていた。
夢の中で覚醒し、自分が今、夢の中にいることをはっきり自覚したうえで、夢を見続ける状態になるから。

この明晰夢を見る人は結構いて、特に珍しくはないらしいけれど、実際に見ている時間はとても短い。

「さあ、ここが夢の世界だ。自分は何にだってなれるし、どんなこともできるぞ」と思っても、5分から10分で目覚めてしまう。
究極に眠りの浅いノンレム睡眠時に見るからだと、科学雑誌には書いてあった。納得だ。


僕も初めの頃はそうだった。
月に一度くらいしか見ないその明晰夢の中で使える時間は、いつも5分ほど。貴重な時間だ。

夢の中で目覚め、自分の周りに広がるファンタジックなパノラマ世界に感動し、そして何をしようか考える。

夢だからどんなことでもできるのに、僕が最初にしようと思うのはなぜかいつも“飛ぶこと”だった。
飛びたい、という想いはきっと、人間の中に本質的にある素直な願望なのだろうと、真剣に思った。

そして僕は飛ぶ。
分かるだろうか。明晰夢の中で飛ぶという事は、本当にリアルに空中を飛ぶことなのだ。

普通の“飛ぶ夢”とは訳が違う。体が重くて飛べない、なんてこともない。
本当に鳥のように軽やかに空中を舞い、そして風や滑空のスピードと恐怖を感じる。まさにバーチャル世界の住人になれるのだ。

最初は本当に5分ほどだった。
けれどその時間はどんどん長くなり、自分の感覚が間違っていなければ、今では1時間くらいは夢の中の空中散歩を楽しむことができた。

更に月一の明晰夢はやがて週一に。そして最近では「見たい」と思った夜に、見ることができるようになった。
そうなると、1時間も空中浮遊だけしてるのは逆にちょっともったいない気がしてくる。この夢の中では何だってできるのだ。どこへでも行けるし、好きなゲストを招くこともできる。

リアルでは手の届かない、アイドルとのデートだってできるし、犯罪めいたことをしたって、誰にも咎められない。
思春期真っ盛りの中2の健全な僕は、思いつく限りの妄想を膨らませてみた。

けれどもダメなのだ。
自分の良心というのは夢にもブレーキを掛けるものなのらしい。
アイドルの少女を呼び寄せ、そしてその手を握り、体温を感じたあたりでスッと意識が現実と混ざり始め、そして、ベッドの上で目覚めてしまう。

自分の気の小ささが悲しいやら情けないやら。
本当に複雑な気持ちで僕は、いつもの朝より元気よく張り詰めたモノをそっと慰めるのだった。

       ***

「宮川君、科学雑誌、読むのね」

学校帰りに立ち寄った書店で急に後ろから声を掛けられ、僕は手に持った雑誌を取り落しそうになった。
振り返った先にいたのは、同じクラスの山咲美鈴だった。

「あ………うん。なんか……ね」

「脳科学の特集? 難しそうね」

「うん………だよね。読んでもよく分かんない」

ドキドキと打つ鼓動を隠しながら、僕は平静を保って答えた。
普段ほとんど接点はないが、実のところずっと気になっていた子なのだ。

クラスでも大人しく、男子とも女子ともあまり絡まずに静かに本を読んでいるイメージの山咲が、向こうから声を掛けて来たことも驚きだったが、このドキドキは明らかに動揺だった。
小心な僕の、良心とやらが活発に作用する。

実はここ数日、僕は明晰夢の中で山咲を求めて浮遊していたのだ。
特に何か悪い事をしようと思ったわけではない。ただ無性に、夢の中で会いたかったのだ。夜中に明晰夢の中で覚醒し、そして星空の中、自分の部屋の窓から飛び立つ。
良く知っている通学路の上空を浮遊し、そしてよく知っている山咲の家のベランダに降り立つのだ。

2階のその部屋は、山咲の部屋。
夢の中で美化された山咲は、ピンクの透けるようなネグリジェを着て、天使のように微笑みながら小さなテディベアを抱いて踊っていた。

流石に夢だけあって、妄想勃発だった。こうあってほしいと思う山咲が、そこにいた。

もしここで、“山咲にこの場で、そのスケスケのネグリジェを脱いでほしい”、と願えばきっと、目の前の彼女はそうするだろう。
もしかしたら、その下に身に着けているものすべてを取り払ってくれるかもしてない。
生まれたままの姿になって、ベランダの僕を振り向き、そっと手を差し出してくれるかもしれない。
そしてにっこりと桜色の唇で微笑み、「宮川君、来て……」と……。

そこまで思った瞬間、目が覚める。
いつもここまでで僕は自分の良心によって覚醒させられる。そしてそのあと、どうしようもない自己嫌悪に、のたうちまくるのだ。

今朝ついに僕は決心した。もうそんな不埒な遊びはやめよう。これは最低で最悪な趣味だ、と。

そして今、僕の前にはその、山咲美鈴がいる。
「宮川君って、面白いね」と、にっこり笑っている。ドキドキしないわけがない。

さすがに夢で美化された姿ではなかったが、清楚で文学的な香りのする三つ編みはとても彼女に似合っていて、更に僕の気持ちをぐっと惹きつけた。
教室内では話すきっかけさえつかめない微妙な距離を感じていたのに、不思議な事に今、目の前で微笑む彼女となら、どんな話もできそうに思えた。

これはチャンスなのかもしれない。僕はもう、後ろめたい妄想の趣味から抜け出せるのかもしれない。
胸の鼓動は、別の意味で激しくなった。

「山咲は……本を買いに来たの?」
僕が棚に戻した雑誌の表紙を眺めていた山咲は、振り返って僕を見た。

「ううん、この本屋さん、かわいいガラス細工とか、ハンドメイドの小瓶を売ってるでしょ? だからちょっと見に来たの」

「へえ、そういうのが好きなの?」

「女の子はみんな好きよ。キラキラしたもの。私だって、いつも本ばかり読んでる訳じゃないよ?」

「あ、いや、ごめん、そう言う訳じゃなくて、あの」

怒らせてしまったのかと冷や汗をかきながら僕が言い淀むと、山咲は教室では見せたことのない、屈託のない笑顔で笑った。

―――かわいい。

僕は眩暈を起こしそうだった。
何だこの展開は。一体どこの天使が僕にイタズラしている? これこそが夢なんじゃないのか?
ムギュッと頬をつねる僕をちょっと不思議そうに見ながら、山咲は言った。

「可愛い小瓶がたくさんあってね、どれにしようか決められなかったの。お小遣い少ないし、一個しか選べないからすごく困ってて。ねえ、時間があったら宮川君、選んでくれる?」

山咲が僕の袖を引っ張って連れて行ったのは、雑貨コーナーの隅の棚だった。
なるほど、コルクや金属のふたのついた小瓶が、たくさんのビーズや板金を施されて、まるで宝石のように煌めいてる。

「みんなきれいだね。山咲が悩むのも分かるよ」

「でしょ?」

「これって、なんの容器なの?」

「決まりはないよ。お姉ちゃんは手作りジャムを入れてよく、友達にプレゼントしてるけど、私はビー玉や、動物のガラス細工を入れて、机の前に飾っておくのが好きなの。朝日が当たるとね、プリズムの様にキラキラして、夢のつづきを見てるようなの」

山咲は本当に夢見るように言った。僕はその穢れなさに泣きそうになった。
ごめん、……本当にごめん。君をダシにして、あんなどうしようもない夢なんか見て。

僕は心の中で謝りながら、ブルー系の精緻な彩色を施した瓶をそっと持ち上げた。

「これがきれいだね。これにしようよ。お詫びに僕が買ってあげる」
思わずそんなことを口走ってしまい、1人で慌てる僕に、山咲はにっこりと笑った。

「お詫びされる理由もないし、これは私が買うよ。選んでくれてありがとうね、宮川君。本当にこれが一番キラキラしてて綺麗。きっとこれ、宮川君自身の色なのね。わたし、分かる」

そう言って僕を見つめる。

「本当にありがとう」

僕はいろんな意味で胸がいっぱいだった。
ああきっと僕はこの子をもっともっと好きになる。夢なんかで妄想しなくてもきっと僕の中学生活はばら色になる。そう確信した。
別れ際の、彼女の言葉を聞くまでは。

「宮川君……あのね。あなたに伝えておきたいことがあるの。まだ先生にしか言ってないんだけど」

「え、なに?」

「あと1週間したら私、転校するの。海外に引っ越して……だからもう、宮川君とも会えなくなる」

晴天の霹靂という言葉がこれほどしっくりくる状況を僕は知らない。あまりのショックに僕の足は石膏のように固まり、動けなくなった。
立ち止まった僕を振り返って、山咲は泣きそうな笑顔で言った。

「この小瓶、宮川君だと思って持って行くね。……いいよね? 気持ち悪いなんて思わないよね?」

僕はただ頷いた。
言葉なんか出てこなかった。呆然自失。国語なんか好きじゃないのに、どんどんそんな単語が脳裏をかすめて砕ける。

小瓶が入った袋を抱いて去っていく山咲の足元で、風が舞った。
フワリと捲られたスカートの下に見えたショーツは、淡い淡い水色だった。

     ***

そして僕はその夜、夢の中で覚醒した。

バラ色の中学生活は、一瞬で泡のように溶けて消えた。僕に残されたのは、再びこの「飛ぶ」妄想だ。

山咲の最後の表情は、もう思い出せない。その代り目に焼き付いて離れないのは、あの悲しい水色の下着のぷっくりとした膨らみ。

もう一度……見たかった。
それが彼女の笑顔なのか、下着なのか、僕色のガラス瓶なのか分からなかったが、もう一度あの部屋を覗いてみたかった。

嫌らしい趣味だという事は分かっていたが、所詮は夢、幻。誰に迷惑を掛けるわけではない。
もう、彼女にふさわしい、純粋な男になる必要もない。

飛ぼう。今日ばかりは妄想全開にしよう。ゆるしてね、山咲。
僕は明晰夢の中、星空に向かって飛び出した。

今日は特別、夜空がきれいだ。銀の三日月も笑っている。
近くの酒屋のおじさんが、レトリバーを散歩させている姿も見えた。
僕の横を名も知らない鳥がよぎる。
スピードを上げる。

そのうち、目指す家が見えて来た。何度も夢で訪ねた山咲の家だ。
まだ電気のついているベランダに降り立つ。

今日の僕の妄想は、どんな山咲の虚像を見せてくれるのだろうか。あのピンクのネグリジェだろうか。それとも、下着だけだろうか。どうせ妄想なんだし、今夜ばかりは無礼講でいいんじゃないだろうか。

そうだ、どうせ僕の妄想の産物だし、この際もっと開放的に、生まれたままの姿になって……。
僕のテンションは上がり続ける。

けれど。


―――僕はそれまでに、気づくべきだったのだ。

あれ? おかしいな……と。


なぜいつも山咲の家に飛ぶときは、夜中なのだろう。
妄想なんだから昼間だっていいし、何ならこの家じゃなくて、お花畑だっていいはず。
なぜ忠実にその時間なのか。この家なのか。
ここは本当に、明晰夢の中なのか?……と。

けれど気づいた時にはもう手遅れだった。

後悔先に立たず。人間最期の瞬間はきっとみんな、そんな風に思うのかもしれない。

ベランダに降り立った僕を、あのピンクのネグリジェの山咲が、優しい笑顔で迎えてくれた。
スッと窓を開け、瑞々しい右手を僕に差し出して来た。

「宮川君……来て」、と。

僕は何もためらうことなくその手に誘われ、部屋に入る。

山咲の左手には、数時間前に僕が選んで買った、あの綺麗な細工のガラス瓶が握られていた。
そっと持ち上げて、僕の鼻先まで持って来る。

「また来てくれて嬉しいよ宮川君。今日こそはと思って、慌てて容器を買いに行ったんだけど、そこで宮川君に会えたのは本当に素敵な偶然だった。あなた自身がこの容器を選んでくれたんだものね。本当に素敵。さあ、ここに入って」

僕の意思で展開するはずの明晰夢なのに、僕の予想もつかないことを山咲は言う。
けれど彼女はとてもきれいで、僕は花に吸い寄せられる蝶のようにその手に舞い降りた。

《コレハ、夢ダヨネ》 僕は問う。

「残念ながら夢じゃないよ、ここにいるのは宮川君の魂。あなたがここに来たのはこれで4回目よね。幽体離脱はあなたの趣味なの? でもとても危険な趣味ね」

山咲がそう言って笑ったあと、僕の体はするんと窮屈な何かにはまり込んだ。

「知らなかったでしょ? 私、見える人なの。そしてそれを集めるのが大好き」

なにかを思う間もなく、上から蓋をきゅっと締められる。

―――僕の妄想飛行は いつの間に幽体離脱飛行になってしまったのだろうか。

思考がまとまらず、ボンヤリ霞む目を手で擦ろうとしたが、その目もないし、その手もない。

「ああやっぱり宮川君は特別きれいで透明なブルー。今までに捕まえた幽体の中で一番きれい。このガラス瓶にぴったりだわ。ずっと大事に飾っておくね。ついでに白状するけど、引越しは嘘なの。ごめんね」

僕は思考がまとまらず、ぼんやりした頭でガラス越しに部屋を見た。
山咲の勉強机の上には、いくつもの小瓶が並んでいる。

オレンジやピンクやイエロー。きっと朝日が当たると、キラキラして綺麗なんだろう。

「宮川君の趣味も、なかなか変わってるけど健全よね。わたしのはダメね。霊魂のコレクションなんて、悪趣味すぎるでしょ? だから誰にも内緒ね」

山咲は小瓶に閉じ込めた僕を覗き込んでふっと笑った。

「もう、誰にも言えないけどね」




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(雑記)南海電鉄小説コンテスト 

☆雑記・四方山話


昨日南海電鉄小説コンテストの発表があり、私の短編、『君にとどけ -Lonely whale-』が大賞をいただきました。
昨年の秋に、エブさんのほうで、このコンテスト用に書き下ろした作品でした。

『南海電鉄沿線を舞台に「愛」をテーマにした小説を募集します。』 ということで、ちょっと難しそうだなあとは思ったんですが、せっかく大阪人なんだから、頑張ってみるか……と、慣れない「愛」を描いてみました。

南海電鉄✖エブリスタ✖マイナビの協賛であり、そして特別審査員に、あのミステリー作家の有栖川有栖先生と、脚本家の今井雅子さんの名もありました。

1000~10000文字の募集だったのですが、オーバーしそうでちょっと焦りました(笑)。なんとかギリギリセーフ。
行った事の無い駅を舞台にしたので、調べ物等、とても大変でしたが、それでも楽しみながら書くことが出来ました。

賞金や副賞も嬉しいのですが、一番うれしかったのは、有栖川有栖先生の選評でした。最後に、『いい小説を読ませていただきました。』と締めくくられていて、書いて良かった……と、しみじみ思いました。今井さんの『映像化するならモノトーンもいいかも』なんて言葉も、すごく嬉しかったです。

作品はブログに移せないんですが、上のリンクのコンテストページから飛ぶことができます。
(私の作品のタイトルや表紙をクリックしていただくと、小説が読めるようになっています)

もしよかったら、先生の講評だけでもチラッと、覗いて見てやってください^^

求められるテーマで物語を書く、という事を今までほとんどやって来なかったのですが、こういう事も一つの鍛錬だな、としみじみ思いました。
これからも、いろんな機会を見つけて地道にコツコツ、書いて行こうと思います。

読んでくださって、ありがとうございました!


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(雑記・イラスト)もうすぐ春 

☆雑記・四方山話

前の更新からもう一か月。本当に時の経つのは早すぎて……( ;∀;)

ここの所、すっかりご無沙汰しています。
別のところで、締め切りのある中編を書いていまして、ようやくなんとか形になりました。

以前大海さんとお会いした時に、「初めて中編の青春ものを書くんです!」って、恥ずかしげもなく(←いや、恥ずかしさを隠しつつ)語ったんですが、何とか出来上がりました。

とある文学賞に出すっていうのに、全くのラノベ青春ファンタジーになっちゃいました。
これは絶対選外だな…と、自覚していますが、けれど今まで書いたことのないタイプのものになり、これはこれでいい経験になった気がします。

実は書いている間、とても楽しかったんです。
訳も分からず楽しくて。
(一行書いては『たのしい!』って叫ぶ始末←危ない奴)

執筆は、多くの人に楽しんでもらおうとするなら本来苦しいものであり、楽しんで書いたものにはどこか甘くて、独りよがりな部分があると、ある小説コラム(?)で読んだことがあります。
確かに、そう思います。
でも、もし、楽しんで書いたものが他の人を楽しませることができたら、それはある意味快挙なんじゃないかな……とも、思うんです。

それにしても、何がこんなに楽しかったのか……。今までにない現象でした(笑)

この作品は文学賞向きではないし、選ばれることは無いと思うので、選考が終わったらここに更新しますね。

とりあえずは、表紙絵だけ置いて行きます。
春が待ち遠しくなる、奇想天外青春ファンタジーです。(そして、がっちりミステリー(笑))



千の春表紙


***

話はガラッと変わるんですが、昨日ほくほくのニュースが^^

私の大好きなヒップホップグループ(BTS)が、4月10日スタートの坂口健太郎主演ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』(毎週火曜 後9:00)の主題歌を歌う事になったんです(*´▽`*)

ドラマはとってもシリアスでスリリングなヒューマンサスペンスだということで、それに合わせて作られたBTSの「Don’t Leave Me」も、繊細でピリつく重厚な楽曲になっているそうです。
ああもう、楽しみでたまりません (゚´Д`゚)゚。←BTSは出ないけどね。

IMG_3492.jpg

今年は私生活でも、いろんなことが重なってとても大変な年なんですが、楽しい事をガシッと拾い集めて、何とか乗り越えて行こうと思っています。(って事で、さらにミーハーな記事が増えるかも・o( ´ ^ `。)o)

ではまた~ ヽ(*´∀`*)ノ




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(イラスト・観劇)NACS本公演と大海さん 

☆雑記・四方山話

すっかりブログの方がご無沙汰になってしまいました。

皆さんの所にもあまりお邪魔できなくてすみません。今、ちょっと裏で締め切りのある中編を書いていて、そちらに時間を取られてしまって。
でも、広告を出したくないので、今日は楽しかった昨日の記事と、そして少し前に書いたイラストを置いて行こうと思います。

昨日、ブログでもおなじみの大海彩洋 さんと一緒に、NACSの舞台を観に行ってきました。
毎回ファンクラブを通してチケットを確保していたんですが、今年はそれでもチケットが取れず、悲しんでいたところ、なんと大海さんが一枚譲ってくださったんです。

ワ~イ(*ノωノ)。
もう、NACSよりも大海さんに会うのが楽しみになってしまいました

駅で待ち合わせして劇場近くのカフェで2時間半もいろんな話をしました。楽しかったです(*´ω`)
創作の話、映画や本や仕事の話。
2時間半はあっという間でした( ;∀;)

興奮して、なんかすごく恥ずかしい話もしちゃったような気がするんだけど(笑)、そこは忘れてくださいね!!(;'∀')←思い返して悶絶。
なかなか創作の話ができるリアル友達がいないので、とても有意義な時間でした。



NACS本公演

一緒に見た今回のNACSの舞台は、史実を元に作られた、とてもシリアスなものでした。
「伝えたいことがあるんです」と、誠実に、熱く、観客に語る森崎さんの声が聞こえるようで。
エンタメとは言えないこの作品を上演するのは勇気がいっただろうな、と思いますが、今のNACSだからこそできる舞台なんじゃないかな、とも感じました。
合間に挟まれる笑いが、ほっとさせてくれて、そして泣かせてくれました。

次の本公演は何年後か分かりませんが、その時はガラッと変わって、また本気のエンタに取り組んでくれるんじゃないかなあと思っています。
次回もまたピロティーしましょう!(←関西人しか分からない(笑))

そして改めまして、大海さん、ありがとうございました。またおしゃべりしたいですね(*´ω`)←もう「見て見て~」って押しの子の写真無理やり見せませんから(;'∀')

           ***

最近はイラストもなかなか描けていないんですが、少し前に依頼されて描いた表紙絵を置いて行きますね。

依頼をくださったのはエブ仲間の朱里コウさんで、角川文庫から何冊もラノベを出しているかわいい作家さんです。
絵の依頼は受けていないんですか、プロフにそう言う表示をしていなかったので、じゃあこれが最初で最後という事で……と、書かせてもらいました。(これはエブの中だけの中編小説)

人様の作品の表紙絵を描くってドキドキしますね。
未熟ではあるのですが、気に入ってもらえてよかったです。


あいの表紙字無しブログ

3月の中旬までブログに顔を出す時間が減ってしまうと思うのですが、また戻ってきますので、その時は遊んでやってください(*´∀`*)ノ


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(scriviamo!2018参加イラスト)リュックにゃんこ☆追記:2月4日 

☆妄想らくがき・企画

scriviamo.png

今年も夕さんのscriviamo!に、イラストで参加してみました!(^^)!

昨年は天使、その前は狐女。
女性がメインに入ってたのですが、今年は青年です (。>д<)
……あ、にゃんこもいますが。

何も考えずに書くと、どうしても男の子になっちゃって。(そしてパーカー多め)
ああ、何の呪縛。

書きにくいなあ~と夕さんを悩ませてはいけないと思い(なんて優しいlime)、イラストの背景を2パターン用意しました。
背景が変わるだけで、ぐっと印象が変わってきますよね♪

どちらを使ってもOKです! 夕さんの紡ぐ物語を、楽しみにしていますね(*´ω`)


リュックにゃんこ・パターン①
3リュックburogu


リュックにゃんこ・パターン②
リュックと猫burogu


※《追記:2月4日》
★八少女 夕さんの『scriviamo! 2018 』企画からの、お返し掌編
さあ、早くもscribo ergo sum の夕さんの、scriviamo!企画のお返し掌編が更新されました。

毎回私が想像していないような設定で楽しませてくださるのですが、今回も、もうその設定とキャラの性格だけでニマニマしちゃいます。男の子と、その背中のリュックの中の白猫の関係性がもうドラマ(笑)
やっぱりSSにとって、その設定は命ですね。改めて思います。
さあ、一体どんな関係性なのか。どうぞ、夕さんのところでじっくり、お楽しみください。
夕さんの掌編はこちら






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(イラスト)2018年戌年♪ 

☆イラスト・マンガ・水彩画

明けましておめでとうございます(*ノωノ)

昨年は、超スロー更新だったにも関わらず、長編にお付き合いくださって、本当にありがとうございました。
思い返せば昨年はほぼ11カ月、ずーーーっと流鬼でした!(@_@)
ああ、なんて重くて寒々しい1年だったんだ(笑) 今年はもう少し、ご機嫌な作品を書きたいぞ。

本当は流鬼をスタートさせると同時に、その続編をいろいろ模索していたのですが、結局思うようなプロットが立たず、諦めモードに入っています。
(あの長い流鬼が、その、本当に書きたい作品の、ただの前章だった……って言ったら、笑われちゃうかなあ(。-_-。))
↑そんなものに1年かけたのか><

長編を書くって、主題や帰結点をどこにするのかが、本当に難しいものだなと、昨年は改めて思いました。
流鬼は、色々課題の残る作品ですが、それでも、今までと違うものにチャレンジしたという点では、書いて無駄では無かったなと思っています。

皆さんのコメントで気づかせてもらったことも沢山あり、そう言う意味でも収穫が多かったです。
意見を寄せてくださった皆様に感謝です^^

2018年は、長編を発進するめどは立っていないのですが、エブで書いた短編をいくつか、分割して更新して行こうと思っています。本数はあまり多くないのですが、入賞した作品や、入賞しなかったけど妙に気に入っている作品も入っているので、ガッカリはさせないレベル……だと思うんです (*'‐'*)

今、拙作『電脳ウサギ――』の大幅改稿も裏でやっているので、更にブログの更新回数は減ると思うのですが、今年もゆるーい感じで、お付き合いくださるとうれしいです(*´ω`)

さて、2018年。今年は戌年。

もう、何でもありの(笑)うちの水色ネコが、ご挨拶。^^


戌年ブログ用


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流鬼 最終話 夜明け前、そしてエピローグ 

流 鬼

「おおー。和貴もあんたも、無事か?」

飛田がうっすらと目を開けると、自分を覗き込んでいた宮野老人と、その横の数人の男たちが安堵の声を漏らした。
手に猟銃を持ったその男たちに揺さぶり起こされるまで、飛田は意識を失っていたのだ。

焦げ臭い匂いにむせ返りながら、鈍く痛む頭を起こして周囲を見回した飛田は、愕然とした。
周囲一帯の木々は葉を焼き尽くされ丸坊主になり、そこにあったはずの祠は石の台座があるのみだ。自分と和貴が無事でいられたことが逆に不自然なほど、辺りは変貌していた。

「飛田さん、一体何があった。煙が上がったのを見て皆で山家事かと思って来てみたが、この周辺だけが何かに囲われたみたいに火柱が立っとって。あんな火の出方は初めて見たよ。こりゃもうそん中に居たもんは助からんだろうって皆で話しとったんだが、あんたらが無事で……」

「秋人!」
飛田は一瞬のうちに先刻のすべてを鮮烈に思い出し、宮野老人の言葉も無視して立ち上がろうとしたが、先に叫んで走り出したのは、同じく飛田の横で意識を取り戻したらしい和貴だった。

男たちを掻き分け、先ほど秋人が倒れていた祠の横に走って行く和貴を、胸がつぶれる思いで飛田は目で追う。
腕時計の時間が正確ならあれから2時間ほどしか経っていないのに、何かに意図的に沈静されたかのように火はすっかり収まっていて、すべてが遙か昔の惨劇のように思われた。

周囲を見渡したが、小菊やキヨの姿がない。健造の姿もだ。

幻。そうだ。夢か幻を見たのに違いない。秋人のあの最後もすべて。
どこか狂気じみた笑いを自分の中に感じたが、秋人の名を呼びながら、祠の土台の傍まで走って行った和貴の仕草が、それを打ち砕いた。
焼け焦げた地面を見下ろし、言葉を失い、体をこわばらせたのだ。

「おい待て。見ん方がいい」
鋭く言ってがたいの大きな男が和貴に近づき、その場から離そうと肩を掴んだが、その手を叩き落として和貴はまた立ち尽くした。

「来た時にゃあ、まだ人の形して燃えてたってぇのに、こんなわずかな時間に、人がそんなふうになっちまうもんなのかね。気味の悪りぃ話だが……。その子はあれか? 小菊んところの子だったのか」
肩に猟銃を担いだままの宮野老人が、和貴になのか、飛田になのか、そう問いかけた。

その言葉を聞きながら飛田は、すべてが終わってしまったのだと、体中の血が抜け落ちてしまうような言い知れぬ脱力感に襲われた。
どこかで痛めた足首を引きずりながら飛田は、呆然と立ち尽くす和貴の元にゆっくり歩み寄る。10メートルほどがやけに遠かった。

宮野老人の声が取り繕うように和貴に再び投げられた。
「和貴、だが安心しろ。お前の親父さんは無事だ。ついさっき若いもんに担がせて山を下ろしたから。火傷は少しあったが、なに、すぐ元気になるさ」

だが宮野老人の言葉は、じっと地面を見つめる和貴を少しも救ったとは思えなかった。
逆に、「なんも悲しむことは無い。損失は最小限だ」とでも言わんばかりの軽い声色が、飛田の中にある、何かとてつもない憤りにつながる導火線を燻らせた。

「和貴」
蒼白になり目を見開く少年の肩にそっと手を置き、飛田も足元に視線を落とした。

黒く焼け焦げた土の上には凄惨な肉体の燃え残りがあるわけでもなく、それでも先刻目にした悲劇は夢でも幻でもないのだと物語る為だけに、その悲しい名残りは、そこに有った。

まるで背を丸めて眠るおさな子のように、あの少年はただ静かに穢れの無い白い灰と化して、焦土に横たわっていた。
実体を残すことも拒絶するかのように、それは白い灰でしかなかった。

宮野老人が言ったように自然発火でこんな風に人がすっかり燃えてしまうなどとは考えられなかった。
飛田は、今すべてを受け入れることに、何の抵抗も無くなった。どんな講釈も必要ない。これが秋人の力なのだ。

ずっと押さえ込み、どんなに迫害されても他人を攻撃することをギリギリまで耐えて来た異能。
その本当の威力を、あの少年は結局、自分自身をすっかり燃やし尽くすことに使ったのだ。

「和貴……。秋人は健造さんを殺さなかったよ」

飛田の言葉で和貴は崩れ落ちるようにその場にへたり込み、まるで糸を切られた操り人形のように肩を垂れた。
けれど眼だけは見開き、その目の前の事実をじっと見つめた。

飛田が見守る先で、その手はやがて何かに導かれるように延ばされ、真っ白な灰の端に落ちていた、赤いものを摘み上げた。
秋人の足首に巻かれていた赤い組みひもだ。
真っ先に燃えてしかるべきその柔らかな紐は、信じられない事に鮮やかな色のまま、ほぼ完全な状態で残っていた。

掌の上でそっと撫でながら、和貴が声を震わせた。
「秋人……、これ……」

「和貴が夏休みにイタズラして、秋人の足に結んだんだろ? 自分がロクに結んでやったのと同じで、なんかその事が嬉しくって、ずっとつけたままにしてるんだって秋人が言ってた。赤い紐は親愛の証なんだよって―――」
言い終らぬうちにその紐を握り締め、うずくまったまま拳を焦土に叩き付け、和貴は体を震わせながら嗚咽を漏らし始めた。

子供のように手放しで悲しみを吐き出すのとは違う、自分の罪を思い知り、悔やむ、もうこれ以上底は無いと思われるほどの慟哭だった。
飛田自身も、もう立っていることさえ叶わず膝から崩れ落ち、和貴の肩を抱きながらいつの間にか自分も同じ嗚咽を漏らしていた。
悲しみを通り越し、取り返しのつかない罪への憤りに、胸がつぶれそうだった。

「じゃあやっぱり燃えちまったのは小菊んところの子供なのか。秋人って言ったな。いったいどうやったらこんな有様になっちまうんだ? 火をつけたのは秋人なのか? 祠を焼いちまったのも。なあ和貴、お前一緒にいたんだろ? いったい何をやらかしたんだ、この鬼の子は」
宮野の急いた質問攻めは飛田を極限まで苛立たせた。
立ち上がって老人の傍まで行き、声を殺しながら威圧するように懇願する。

「今はそっとしておいてやってください。和貴には親友だったんだ。説明は後で私から……。それより小菊さんとキヨさんは? 誰か下山させてくださったんですか?」
「小菊とキヨさんだって? おい、誰か見たもんはいるか?」
他の3人の男も首を横に振ったが、そのうちの一人が気色ばんで言った。

「そうか、やっぱりあの女の仕業か。小菊が全部の元凶なんだ。カラスを狂わせたのだって健造を狂わせたのだってあの女さ。祭りの前に流鬼を封印した祠を燃やして、この山まで全部燃やそうとしたんだろ」
「じゃぁあれか? 勢い余ってうっかり自分の子まで燃やしちまったってのか?」
「秋人が出来損ないだから次の子を孕んだって、うちのババアが噂聞いたらしいが、まさか本当だったのかよ」
「だから俺が言ったろ、13年周期で次の流鬼を生むために戻って来たんだってさ」
「じゃ、次の流鬼生むために喰われたのはだれだ?」
「要らねえ子供は殺して次を生むってか? ひでぇ化けもんだ」

「殺したのはあんたらだ!」

予期していなかった飛田の怒号に、その場は一瞬水を打ったように静まった。
誰もが口を開くよりも先に、ただ飛田を凝視した。

「過去にどんな言い伝えがあったって、祠で拾われただけで小さな餓鬼の戯れ言のように鬼だ何だのって、いったいあんたらは何なんだよ! 小菊さんも秋人も人間だよ。人間だったよ。少なくとも、あんたらが小菊さん達を馬鹿らしい伝説に絡めて追い詰めるまでは! 頭イカレてんのはあんたらの方だ。秋人を撃ったのは健造だが、この上夜千代の人間全部が秋人たちをここまで追い込んだんだ! あんたらが秋人を殺したんだよ!」

「よそもんが知った口きくな。小菊が今までに何人殺したと思ってんだ。ちょっと小菊をからかったってだけで十にもならん子供が頭かち割られてんだぞ。鬼じゃなければ化け物だ。それとも小菊のせいじゃないってぇのか?」

先ほど和貴を止めた浅黒い大男が泡を飛ばし、肩に掛けた猟銃がガチャリと音を立てた。

「小菊さんは確かに普通の人間にはありえない、説明の出来ない力を持っていたんだと思うよ。秋人もキヨさんもそう言ってた。だがそんなもの普通に人間らしく暮らしてりゃ表に出すことなかったろうよ。陰湿なイジメがどんどんそれを制御不能にさせてったんだろうが。まだ幼い小菊さんはそうやって身を守るしかなかったんだよ。他の方法を知らなかった。あんたらの馬鹿げた噂が一人の女性の人生を狂わせ、尊厳を奪い、とうとうその子供を殺しちまったんだ! 鬼みたいな力を持って生まれて来たことと、鬼だって事は全く関係ない!」

矢を放つような飛田の憤りに満ちた言葉にしばし男たちは言い淀んだが、宮野老人の落ち着いた声がその間合いを埋めた。

「じゃあ飛田さん。あんたの友人が昔ここで死んだのはどう見るんだい。遺体の状態から見て俺は小菊の仕業だと思ってる。何の罪もないあんたの友人が殺されたんだぞ? 殺されてカラスに食われたんだぞ。カラスはあの女の使い魔のごとく動く。村のもんがそう思い込んで警戒したって仕方ないだろう。みんな自分がかわいいんだ」

「根岸は……。僕の友人は、制裁を受けても仕方ない卑劣な事をしたんだ。あいつは―――」


その後に飛田が続けた言葉を聞き、男たちは息を呑み、しばし口を閉じた。

《飛田、俺どうしよう。とんでもないことしちまいそうで。鬼が--------》

あのメッセージも写真も、飛田に見せるつもりで用意されたものではなかったのだろう。
12~3で子を産む怪しげな鬼が存在し、自分はその魔力に抗えないのだという自分勝手なストーリーに、あの頃の根岸は酔いしれた。
根岸の撮った小菊の写真には、もうすでに性的に魅了された感が色濃く浮き出ていた。
村中に鬼として虐げられている少女だと知り根岸は都合のいい洗脳に身をゆだねたまま、卑劣な行為に走ってしまった。
確信犯なのだ。

「小菊さんにちゃんと話しをしようと思ってる。根岸のやった事も含めて。そして人として生き直してもらいたいと思ってる。そんな事をしても小菊さんの生きた苦渋の時間も、秋人も、もう帰って来やしないけど」

「そんな話を蒸し返したら、それこそ小菊に殺されるぞ」
宮野がボソリという。

「それでもいい」

飛田がグイッと顔を上げ、宮野を見た時だった。坂の下から上ってきた中年の男が青ざめた顔で告げたのだ。

「下も酷ぇ事になってたよ。由良の家の庭であんまりカラスが騒ぐから覗いてみたら……」
その場にいた誰もがその先を促す様に一斉に男を見た。

「小菊が死んでたんだ。血だらけで。うちの嫁も一緒だったんだが、ありゃぁあの場で子を産んだんだろうって」
みぞおち辺りを殴られたような不快な衝撃が飛田を襲った。

「赤ん坊は? キヨさんは?」
「家ん中も周りも探したがどこにもいやしねえ。カラスが恐ろしいほど騒ぎまくってたし、赤ん坊は食われたかもな。あたりにゃあ血やらはらわたやら散らばって、もう目も当てられん酷いありさまだったし」

「そんな……俺、探しに……」
走りだそうとした飛田の肩をグイと掴んだのは宮野老人と傍にいた別の男たちだった。

「いい。俺らが行くから。……たぶん赤ん坊もダメだろうが。小菊をそのままにしたら狂ったカラスに食われちまうかもしんねえだろ。小菊はカラス使いなんかじゃなかったようだし。……最期くらいちゃんとしてやんなきゃあな。俺ら、夜千代村のもんの手で。
飛田さん、あんたは和坊を頼む。あんたに任せるのが一番いいように思うし。……すまないが」

最後にもう一度だけ秋人の灰の横たわる焦土に無言の視線を投げ、宮野老人や男たちは山を下りて行った。

まだ僅かに煙の立つ、焼けただれた空間に残されたのは、飛田と、まだ肩を震わせてむせび泣く和貴だけだった。
弔いとも取れるその声をかき消さぬように、飛田は自分自身に問うように、小さく言葉をこぼした。

「村の創設時の伝説の鬼も、100年ほど前に居たって言う流鬼ももしかしたら、小菊さんや秋人のように少しだけ特別な力を持って生まれてしまった、普通の人間だったのかもな。人間はなんで、異端を憎んで、排除してしまうんだろう」
「鬼だから」
「……え」
問うと、泣きはらした和貴の目が、まだ涙を滴らせながら飛田を見上げた。

「人間こそが鬼なんだよ。俺も父さんもあんたの友達も村の大人も子供もみんな鬼なんだ。500年前も100年前も、今も鬼ばっかりなんだ。人間が鬼なんだよ。でも秋人は……違うのに。本当に良い奴だったのに。鬼は、俺らの方だったのに。なんで秋人が居なくなっちゃうんだ」

悲痛な嗚咽が和貴の喉の奥から絞り出され、堪え切れずに飛田はただその震える背中をしっかり抱いた。
どんな言葉を掛けることもむなしく、やり場のない憤りと悲しみが飛田を突き上げ、思わず空を見上げた。
そしてゾッとする。

今もなお夥しい数のカラス達が我が物顔で、上空を旋回しながら飛び交っていた。
まるで地上に蠢くちっぽけな人間を高みから監視しでもするように。
否。もしかするとこのカラスこそ、この台地、神の化身であり、地上の者たちの愚行をひっそり傍観し、時には黒い羽根で悪行に誘いながら、嘲笑っていたのかもしれない。

けれどもそれならそれで、カラスどもを恨むのは筋違いだった。人の愚かさが天に暴かれただけの話。

ただ、ここで自分の愚かさを悔いて泣く少年と、愛を得ようとしてもがき、その果てに幼くして消えてしまったもう一人の少年の魂だけは嗤わないでやってほしいと、飛田は願った。

「和貴……。秋人を小菊さんの所へ連れて行ってあげよう」
そう言って、まだ震える和貴の肩をなでてやると、少年は何度かしゃくりあげた後、小さく頷いた。

その手には、秋人の白い燃えがらと、鮮やかな赤い組みひもの切れ端が、慈しむようにそっと乗せられていた。


        
           ― エピローグ


全てきれいに洗い流し、衣服も着替えて来たというのに、生臭い血のにおいが消えない。
けれど単にそれは自分だけの錯覚なのかもしれない、とも思った。

現に電車の中の客は大きな布袋を提げ、髪をふり乱したままのキヨを、気にする様子もない。都会の人間の無関心は、キヨにとって何よりも好都合だった。

もうあの呪われた地には二度と戻らぬつもりでキヨは身支度を整え、とりあえず以前暮らしていた街へ向かった。
けれど、どうしても捨てていくことが出来なかった荷物が大きな布製の手提げ袋の中にまだあり、それがずしりと重い。
足元に置いた布袋をそっと覗くと、つい数時間前に小菊の腹から出てきた嬰児が穏やかな表情で眠っているのだった。

あの時、耳と肩に散弾を受けたうえ、秋人の死を目の当たりにして半分意識を失った小菊を、キヨは負ぶうようにして山を下りた。
街に住む間も、自分を阻害する他人に危害を与えてしまう小菊に、キヨは既に恐れしか無く、親としての愛情は失くしてしまっていた。
けれどあの状態のまま小菊を山に放置して行かなかったのは、破水しながら秋人の名を呼び、血を流す小菊が、ほんのわずかに不憫に思えたからだった。

自分は愛されていないのかもしれないと嘆き、愛欲しさに母の言いなりに身を差し出し抱かれ、そしてそのトチ狂った母親を守って死んだ秋人。
今ならば言ってやれるのに。お前はそれでもちゃんと母親から愛されていたのだと。最後の最後に小菊は、お前のために涙を流したんだと。
その皮肉にキヨは顔をゆがめ、苦しげに笑った。

産婆の経験のあったキヨは、家の手前の藪での出産となった小菊の子は取り上げることは出来たものの、弱り果てすでに大量に出血していた小菊を救う事は出来なかった。
小菊の弔いは集まってきたカラスどもに任せ、嬰児の身を清めて処置した後、嬰児と必要最低限の金品だけ持って、キヨは村を飛び出したのだ。

陽がすっかり沈み、半年前まで住んでいた街の駅で電車を降りたキヨは、まるで季節を飛び越えてしまったかのような寒さに身を縮めた。
半年前、あの村の須雅様の前で、今度こそ本当の強靭な流鬼を生むのだという小菊の願いに渋々賛同し、この街を去った。この街は流鬼の住むところではないと、小菊は嫌っていたのだ。
キヨにしても何の愛着も無い街であったし、もう一度あの村の連中の青ざめる顔を見るのも悪くないと思った。

結局、あの村も小菊達の存在を許さなかった。
すべてを失い、キヨはまたこの猥雑な埃っぽい街に舞い戻ることになってしまった。

少なくともこれからは自由に生きていけるという安堵を抱えて村を出たはずなのに、寒さのせいだろうか、1人で生きていく不安がぐっと胃を軋ませ、思いがけず気を滅入らせた。
住むところを探さねば。仕事もだ。なるべく早く。そう焦る毎に布袋の重みが苦痛になった。

そうだ。自分はなぜこんな厄介な荷物を大事そうにぶら下げて来たのだ。小菊と秋人の血を受け継ぐ、生粋の化け物ではないか。
小菊の力も秋人の力も、結局キヨを脅かし、行く先々で生きにくくしただけで、救ってくれるものではなかった。
全ては誤算だったのだ。化け物の力など無用の長物。
いったい自分は何をやっていたのだろう。どこで人生を間違えてしまったのだろうか。

散々歩き回り、薄着の体が冷え切った頃、頭上でバサリと音がした。
見上げると一羽のハシブトガラスが梁のように渡された鉄柱に止まり、街灯を黒羽に反射しながらキヨをじっと見下ろしている。
ハッとして周囲を見渡すと、いつの間にかそこは見知らぬ駅の高架下であり、キヨのすぐ横には古びだコインロッカーの無機質な扉が並んでいた。

―――そうだ。あの祠の扉からだったのだ。

キヨは心の中で頷き、そして布袋の中から、泣きもせず薄っすらと目を開けてキヨを見つめている嬰児を取り出した。

あの扉の中から小菊を拾ったのがそもそもの始まりだった。
ならば再びその化け物の血を扉の中に還えせばいい。それですべてが終わる。

小菊や秋人によく似た黒々とした眼から、キヨは目を反らし、木綿の生地に包まれた小さな体を、冷たいそのスチールの箱の中にそっと押し込んだ。そしてガチャリと扉を閉める。

「お前が生きたいなら生きればいい。あの時小菊が私を呼び寄せたように、心の声で誰かを呼ぶといい。そうやって生き延びることが出来たなら、それはそれで何か意味のある事なのだろうから。
私にはもう、その濃すぎる化け物の血を手元に置く気力も自信もないんだ。悪いね小菊。すべてをこの赤ん坊の力に託すよ。……恨まないでおくれよね、秋人」

コインロッカーの前から立ち去る前に、聞こえるはずの無い赤ん坊の声が小さく聞こえた気がしたが、キヨはもう二度と振り返ることもなく、街の雑踏の中に消えて行った。


     -了-



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
長い間この物語にお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
最終話は切る場所が見つからず、長くなってしまって申し訳ないです。

そして、きっとこのラストは、皆さんが期待したものではないと思うし、賛否両論あると思うのですが、私が描きたかったテーマは、拙いながらも込めることができたかもしれないと、今は思っています。(説明不足が目立つなあと、読み直して焦ってはいるのですが)

村八分に込められるような、悪しき感情って、いったい何なのか。鬼とはいったい何なのか。そんなものを思ううちに、生まれた物語です。とても地味で、とても単純な物語でした。
もっと壮大な展開に出来てたかもしれないし、それを期待する読者様もいらっしゃったようなので、そこは本当に申し訳ないのですが。

あ、途中で質問をいただいたのですが、自分の体から何度も発火したインドの少女、というのは実在します。
秋人はその記事で得た情報から生まれました。

そして、エピローグ。
私の過去作品を読まれた事のある方は、もしかしたら「あ」、と思われたのではないでしょうか。

この事件のあったのは9月30日。
そして『NOISE』の第1話が、10月1日です。 (*´ω`*) はい。

さてこの物語……、本当に鬼だったのは、誰なのでしょうね。……(゚ω゚:)

最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!

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流鬼 第29話 遅すぎた想い 

流 鬼

母親ほどの歳であるにもかかわらず、飛田は思わずキヨに声を荒げていた。
怒号に似た問いかけになったのは、その、貧相な女の口から出て来るであろう回答に、言い知れぬ恐れを抱いていたからに他ならない。

有ってはならないその推測が杞憂であることを、飛田はどこかでずっと願いながら、この数日を過ごしてきたのだ。
けれどその願いはあっけなくキヨに砕かれることとなった。

「14年前、あの男は12歳の小菊に興味を持ち、写真を撮り、翌日つけまわした揚句、この場所で小菊を襲ったのよ」

キヨはあまりにも平然と、そう言ってのけた。
訊いたのはあんたよ。そうでしょ? 言葉を失くして目を見開いた飛田に、キヨはそう言いたげな視線を投げた。

「まさか……そんな……」
飛田はやっとの思いでそれだけ絞り出したが、それに続く言葉は出て来なかった。
キヨは膝に付いた枯れ葉を払いながら、続けた。

「小菊はこの祠から拾われたってだけで、村の連中から流鬼と呼ばれていたからね。気分次第で人を喰らい、殺し、カラスの供物にする鬼。その根岸って男も流鬼の事を少しは聞きかじってたんだろうよ。小菊が流鬼だって噂を知ってた。その上で小菊に興味を持って、つけまわしてたんだ。そして、喰らった。
自分が犯すのは人間の女なんかじゃない。鬼だ。お前は人を殺めたことがある鬼なんだろう? って。実際そんなことをほざいていたらしいよ。小菊を襲いながら」

キヨの言葉は耳を覆いたくなるものだったが、それを真っ向から否定する言葉は出て来なかった。
飛田の脳裏にあったのはただ、自分の推測が当たってしまったのだという苦い衝撃だ。
思えばそれは、この村に来る前から飛田の中に生まれていた。

飛田の事務所で初めて根岸が残した小菊の写真を見た時、根岸の欲情の視線はその画角の中に鮮明に浮かび上がっていた。
もしかしたらそれは、13年前に飛田自身が撮った、小菊の写真と同じ類のものだったのかもしれない。

飛田も根岸も、同じ理由で小菊の写真を撮ったのだ。
そして根岸は実際の小菊を目の当たりにし、その衝動を抑えられなかったのだ。小菊の魅力に捕り込まれた。

考える事すら卑劣なそんな思考が飛田の中に瞬時に浮かび、慌ててかき消す。
身勝手なのは男の方だ。それなのに一瞬、その非が小菊にあるように思ってしまった自分に寒気がした。

「小菊が根岸に襲われたことを私に打ち明けたのはもう腹の子が簡単には堕ろせないところまで育ったころだったから。気付かない私も私だけど、小菊も忘れようと必死で隠したんだろうね。
その男が死んだのは自分とは関係ない、カラス達が勝手に食ったんだろうって、最初の頃ずっと言い張ってたけど、腹の子の事を打ち明けて来たとき、全部一緒に話してくれたのよ。自分が殺したって。もっと早く殺しておけば良かったって」

「……でも、……殺したって、どうやって」
飛田の問いに、キヨはフッと嘲るような笑みを漏らした。
「小菊が恐ろしい力を持って生まれた子だからに決まってるだろ」
「じゃあ」

「あの子は赤ん坊の時から癇癪を起すと周りのモノを手も使わずに飛び散らせる妙な力があったよ。最初こそ私も手を焼いたし、本当にこの子は鬼なんじゃないかと思ったけど、私が言う事は素直に聞いたし、物心つく頃にはその力も引っ込めて、よそ様に怪我を負わせたりするような事は一切なかった。
けど村の年寄りたちは、須雅神社で拾われ、人形じみた容姿の小菊の事を流鬼だと噂し、毛嫌いしたんだ。そんな噂をガキどもが放っておくわけがない。村八分ってのは知能の低い獣どもの本能だよ。異端を迫害することで自分たちを優位に立たせようとする。鬼なんてものが現代に居るか居ないかなど関係ない。奴らはただそうやって毛色の違う小菊を迫害することで団結し、楽しんだんだ。
でも、相手が悪かったよね。小菊はただのひ弱な捨て子なんかじゃなかった。私が苦労してなだめたあの力は、あっけなく自分を愚弄し攻撃する他人に向けられたよ。
殺すのなんて簡単さ。相手の脳の血管をいくつか引き裂けばいい」

眉間に皺を寄せながらも、口元に奇妙な笑みを浮かべながら喋るキヨを、飛田は今度こそ言葉を失くして凝視した。
喉はヒリヒリと痛むほど乾き、倒木のむこうの小菊や秋人の事を気にしつつも、話に聞き入り、続きを切望した。

「流鬼が復活した、子供が4人も崇り殺された。村の連中は恐れると同時に、そら見た事かって歓喜して村の外までそんなバカげた噂を流してさ。それを聞きつけて、興味本位でこの村に来たのが根岸って男さ。あれが小菊を襲ったのが14年前の今日ってのが、偶然過ぎて馬鹿らしくて反吐がでるよ。
小菊が、初めて泣きながら自分の腹を見せたのが翌年の春先だ。12歳の子に産むか堕ろすかなんて冷静な判断はできっこないよね。ちゃんとした知識もないし。
大丈夫、自分は産婆だし、産み月になったらちゃんと取り上げてやるし、その赤子はすぐに絞めて土に埋めてやるからって、言ってやったんだけどさ。小菊は次第に膨れる腹に怯え、学校にも行けず引きこもるようになった。
そこからだよ。小菊が鬼になる事を決めたのは」

―――鬼に、なる。
その言葉が意味することの残酷さに、飛田は脳天を殴られたような衝撃を覚えた。

キヨはタガが外れたように、そのまま喋りつづけた。

「流鬼って言う化け物は13年ごとに増殖し、自分の力を伝えていくんだって子供の頃に聞きかじってたもんだから、そこに何の矛盾も無くて、むしろこの流れは必然だったのよ。流鬼を封印した祠で生まれ、人を想いのままに殺める力を持ち、そして13で子を産む。あれは辱めを受けたわけではない。神薙ぎなんだ、自分は新たな流鬼を生むために男を利用し、貪り、使用済みの目障りな男は頭をかち割り、カラスに食わせてやった。そう思う事で小菊は自分を保ち、そして生まれて来る秋人を自分の血を受け継ぐ鬼だと受け入れようとした。
小菊の強情っぷりは育ての親の私でも恐ろしいくらいでね。本当に小菊は流鬼なんじゃないかって思いながら、今日まで傍で見守って来たわ。ある種の自己防衛本能何だろうけど、呆れるほど完璧な流鬼だったよ。
だけどやっぱりね。秋人を受け入れるのは難しかったみたいよ。その辺やっぱり人間は脆いね。小菊が子を産み落としてすぐに秋人の首に手を掛けたりして暴れて、なだめるのに大変だった。秋人を殺すのは簡単だったけど、そこで自分を流鬼に仕立てる小菊の欺瞞も終わってしまうでしょ。秋人は、小菊が望んでこの世に生み出した、流鬼の末裔でなけりゃならなかった」

飛田は淀みなく平然としゃべるキヨの言葉を聞きながら、なすすべもなく打ちのめされた。
信じられない話してはあったが、今この女が嘘を語っているとは微塵も思わなかった。ここにすべての真実があるのだ。
そして改めて途方に暮れる。あまりにも多くの感情や疑問や怒りが、自分の中に煮えたぎって来るのをどう処理していいか分からなかった。

数メートルほど横で健造の傍にへたり込んでいた和貴も、キヨの言葉が耳に届いたのだろう。気付くと血走った視線をこちらに向けていた。和貴が睨んだ先にいるのはキヨだったが、怒りをぶつけたい相手は他に居るように飛田には思えた。

倒木の向こうは煙幕で隠され、小菊や秋人の様子は全く分からない。
そしてこちら側は依然として炎の恐怖にさらされていた。

退路を塞ぐ炎はまるで煙のむこうの秋人たちの感情を表す様に、広がりもせず衰えもせず、こちらを伺ようにそこに留まっている。
一発触発の気配を感じたが、身動きが取れない。そして動くつもりもなかった。
まだもう少し余裕があるなら、今この時に、キヨの中にある情報を全て引き出したかった。

「秋人はどう思ってるんだ。本当の事を知ってるのか?」
キヨは話し疲れたのか、少し面倒くさそうに眉根を寄せた。

「秋人を出産したのも12歳まで育てたのもこの村じゃなかったけど、母親が鬼だってすり込まれて育ってるから、自分は神薙によって生まれたんだと信じ込んでる。小菊に恐ろしい力があるのを知ってるから、微塵も疑っちゃいないよ。
小菊自信も、早い段階ですっかり自分を洗脳して流鬼になり切ってるし、秋人にも、なぜお前には私のような能力が無いのかと罵ったこともあるよ。人を殺せるくらいの力がないと出来そこないだってね。人間にない強い力を持ってこそ価値のある流鬼だと小菊は思い込んでるから」
「でも秋人には……」

「そう。秋人には小菊とは違って、炎や熱を放つ力がある。これがいったい何の因果なのか、あるいは本当に小菊が伝説の移民の末裔なのか。その辺は調べようがないんだけどね。とにかく、小菊が流鬼なら、秋人にはまるで須雅神社の主神、カグツチのような力があった。
でも、あの子の性格なのかね。その力を必死で隠し続けて来たから小菊は気づいてもいないよ。秋人を育てた私しか知らない。秋人は鬼にはなりたくないってよく泣いてたよ。普通に人として学校に行き友達を作って大人になって仕事をして。当たり前な、普通の願いだけど、切実だったんだろう、秋人には。

実際新しい土地でも、近所で何人か小菊の仕業かもしれないと思う不審死が幾つかあったし。今までどこに行っても母親の奇行や噂に妨害されて、街の学校でもいじめられ続けてきたからね。
だからこっちに越してきた春、和貴が友達になってくれたんだって言って凄く喜んでたよ。この村を好きになりたいって言ってね。
更に強靭な流鬼を生むべく、腹には秋人の子を孕んでいたし、小菊もしばらくは大人しく引きこもって、秋人が願うように穏やかに過ごせるって思ったんだけど。
そうもいかなかったね。何の因果か、和貴は健造の息子だって言うじゃないの。運の無い子。ほんと、笑うに笑えない」

「何でだよ。何で今更そんなこと言うんだよ!」
和貴の吐き出すような怒号が飛んできた。いつの間にか仁王立ちしてキヨを睨みつけている。

「鬼だって! そう言うから俺だって父さんだって! それに父さんは本当に14年前その男と小菊の一緒にいるところを見ちゃって、それで怯えておかしくなっちゃったんだ。仕方ないじゃないか! 男が殺されて血まみれになるところ見ちゃったんだから! 仕方ないじゃないか! 今更鬼じゃないなんて、襲われた被害者だなんて言われたって!」
和貴が喉が張り裂けんばかりの勢いでキヨに叫ぶ。

けれどやはりキヨは戸惑う素振りもなく、冷笑さえ浮かべて事も無さげに言った。
「健造は全部分かってたわよ。気づかないはず無いでしょ」
「うそだ!」

「小菊は心ん中で必死に健造に助けてって言ったの。けれど健造はその男と一緒に小菊を犯したのよ。ずっと視姦しながらおっ立ててよだれ垂らして。小菊はすべてをまだ覚えてるはずよ。体が解放されて、恐怖心が怒りに代わってようく男だけは始末したけど、もう健造に構うほどの余力も気力も残っていなかったらしい」
「ウソだ!」

「あんたらはみんな都合のいいように見たものや記憶を書き換えるからね。本当の事だからこそ今まで後ろめたくて健造は誰にもこのことを言わなかったんじゃないの? その癖、小菊の恨みを買ってる事だけは認識してて、復讐を馬鹿みたいに恐れてさ。醜いッたらありゃしない。根岸を殺したのは小菊だけど、あの時小菊を鬼に変えたのは、その男と健造なのよ」

その時ゴッという音が響き、カラスが数羽、秋人たちがいるはずの祠の裏手の繁みから湧き立つように飛び立った。
今まで耐えるように佇んでいたご神木のクスノキの一部分が突如、勢いよく火柱を吹きあげたのだ。

「秋人! 小菊さん! ……なんであっち側に火が上がるんだよ。秋人は火を操れるんじゃないのか?」
飛田がキヨに詰め寄った。
「未熟だったね。制御はできなかったか」
キヨが嗤う。気でも違ったのかと爆発寸前の怒りを抱えながら、飛田は無我夢中で先ほど倒れたクヌギの方へ駆け寄った。その向こう側、クスノキの近くに二人は居るはずなのだ。密集した藪と崖に囲まれて、退路があるとは思えない。

「秋人! 小菊さんを連れてこっちへ来い! もう何も心配いらないから!」
叫びながら飛田は進もうとするが、しかし何をトチ狂ったのか、それとも守る気でいるのか、次々襲い掛かるカラスどもに阻まれて一歩も進むことができない。

「秋人! こっちに来い!」
再び叫びながら手でひたすらカラスの攻撃を防御したが、その暴徒の数は更に増えていく。

「くそっ!」そう叫び闇雲に手を振り回したタイミングで、当たった感触もないのにギャアと声を上げてカラスが弾き飛ばされた。
飛田が振り返ると、カラスを太い木の枝でめった打ちに追い払っている和貴が目に飛び込んだ。
顔は先ほどの炎で焙られ赤らんでいたが、少年の目は今初めて正気を取り戻したかのように見開かれ、ギラリと異様な光を宿していた。
そして力の限り叫ぶ。
「秋人! 秋人、大丈夫なのか? 動けないんなら待ってろ。俺、そっちに行くから!」

けれど和貴の声をかき消す勢いでカラス達は鳴きわめき、飛びかかり、祠の近くに行く人間を阻んだ。
「やめろっ、このクソガラス! お前らいったい何がしたいんだよ!」
喚き散らしながら飛田も手でカラスの攻撃を払いのけていく。飛田の手はすでにひっかき傷だらけで、視線を移すと和貴は更に腕からも額からも血を滴らせていた。

「和貴、お前はいい。俺が行くから」
そう言う端から飛びかかってきた一羽の足をひっつかみ、地面にたたき落した。その時だった。
和貴が祠の方を見ながら叫んだ。
「秋人!」

倒れた大木を乗り越え、煙幕のむこうから秋人が姿を見せたのだ。
自分と同じくらいの背格好の、身重の小菊をしっかり支えこちら側にゆっくり歩いて来る。

「ああ……。秋人。良かった」
和貴が心からの安堵の声を漏らした。カラスはまだ行く手を阻んで激しく飛び交うが、もう急ぐことは無い。飛田は全身の筋肉が弛緩し、その場にへたり込みそうになった。この2人を確保できれば、あとは何とかなる。いや、何とかして見せると思った。

カラスを払いのけながら我慢できずに秋人の元に走り出した和貴も叫んだ。
「秋人、秋人ごめん!ほんとにゴメン! 帰ろう、小菊さんも一緒に」
語尾が震えている。心なしかクスノキの炎がスッと勢いを緩めたように飛田には見えた。

小菊を支えながら、秋人がゆっくり顔を上げる。
その表情は蒼白かったが、両の目は真っ直ぐに和貴を見つめ、そして秋人もまた言葉に言い表せない安堵の表情を見せた。

―――もう大丈夫だ。そうだろう、秋人。 きっとすべて修復できる。やり直せる。ここから。
嗚咽に似た熱い塊が喉元まで込み上げ、飛田も鉛のような足をゆっくり2人の元へむけ、踏み出した。

けれどたった一発の乾いた銃声が、それらすべてを一瞬にして掻き消した。

カラスが一斉に狂ったように鳴き、視線の先にあった白い服が瞬間赤い飛沫を噴いた。
小菊を支えていたはずの少年の姿は気づいた時にはもう地にうずくまり、その横で膝を折る小菊の服や頬は鮮血に染まっていた。

和貴も飛田も刹那戦慄し固まった。直後その空間に響いたのは、狂ったように怯えて叫んだ絹を裂くような小菊の声だ。

いったい何が起きたのか瞬時に理解できぬまま動かした飛田の眼が捉えたのは、口から泡を吹きながらも仁王立ちになり、猟銃を構えている健造だった。
すでに常軌を逸していた健造の血走った眼は、狙ったはずの小菊が無傷なのを確認すると手慣れた様子で弾を充填し直し、再び構えた。
小菊は腹を押さえ、数歩その場から退いたが、銃口は小菊を捉えて離さない。

「やめろ!!」
力の限り叫んだ和貴の声は無情にも無視され、発射された散弾の一部が今度は小菊の耳を貫き、弾き飛ばした。
小菊の悲痛なうめき声があたりに響く。
「やめろ!父さん!!」
再び和貴が血を吐きそうな声で叫んだが、動くものは息子でさえ撃ち尽くす勢いの狂人に、その言葉は通じるはずも無かった。
健造はまるで何かに憑りつかれた様に尚も弾を込めていく。

けれど耳から血を流した小菊に再び銃口が向けられる前に、影が動いた。
シャツの肩から腹までを真っ赤に染めながら、信じられない余力で立ち上がった秋人が、泡を吹きながら猟銃を構えようとする男を渾身の力で睨みつけたのだ。

ボッという音と共に健造の上着が火を噴き、うめき声を上げてその屈強ながたいが地面に転がった。
放り出された銃は暴発してカラス一羽を撃ち落とし、健造の火に引火して燃え落ちて行った。

「秋人!」
飛田と和貴が再び地面に倒れ込んだ秋人の元に駆け寄ろうとしたが、今までトロトロと燃えていたかがり火が4台とも突如火柱をあげ、まるで秋人の意思のように他者を拒んだ。
ついにその火柱は龍のようにうねって須雅神社の祠に引火し、その上空を覆うクスノキの葉を燃え上がらせた。けれど、もう秋人はピクリとも動かない。

「あきと」
消え入りそうな声で泣きながら、小菊は秋人に歩み寄ろうとするが、祠からの熱風に吹き付けられ、秋人の体から数歩後退していく。
飛び出した飛田が、火の粉を浴びながらそれでも秋人に近づこうとする小菊を抱き留め、その場から一気に引き離した。飛田の中に小菊への恐怖心などもう微塵も無かった。

「和貴、小菊さんを―――」
そう言って和貴に託そうとしたが、飛田より先に和貴は秋人の元に駆け出していた。

「秋人! 秋人! 一緒に帰ろう、秋人!」
声にならない声で叫ぶが、かがり火台も祠もまるで聖域を守るかのように激しく炎を噴き上げ、そしてやがてもう動かなくなった秋人の体をゆっくりと呑み込んで行った。

「秋人!」
尚も飛び込もうとする和貴の体を飛田は胸の張り裂ける思いで抱き留めた。和貴まで死なせるわけにはいかない。

秋人の体はもう完全に炎に包まれ、どうすることもできなかった。
何度も何度も和貴が秋人の名を呼ぶ。
その声はあまりにも悲痛で、飛田自身、体の震えと怒りと悲しみで気が狂いそうだった。
自分の父親の事はもうその存在を意識から捨て去ることで最悪の制裁を下したように見えた。
その証拠に、燃えてしまっただろう健造の事を和貴は振り返りもしなかった。
あまりにも悲壮で救いの無い現実だった。

けれどただ一つ。目の奥に焼き付いた光があった。
炎に包まれる前に、横たわった秋人の頬が、僅かに微笑んだように見えたのだ。
それは錯乱して気がどこかおかしくなっていた自分の目の錯覚だったのだろうか。けれど確かにそう見えた。
小菊が秋人の名を泣きながら呼んだ、その少し後だったろうか。

この瞬間も、秋人の元へ行こうともがく和貴の体を、飛田は力づくで抑え込む。
目の前のあまりにむごい光景に目を向けることなど出来ず、自分こそこの惨劇と怒りに震えながら、飛田は和貴を組み伏せる腕に、渾身の力を込めた。

目の端で小菊に歩み寄るキヨを確認し、ひとまず安堵はしたが、息もできないほどの熱と煙が押し寄せてくる中、やはり動くことも力を抜くこともできない。
そのうち、狂ったように暴れていた和貴の体がふっと動きを止め、そしてそれは痙攣に代わった。

「ひもが……」
和貴が打ち震えながら、茫然とした声で言った。
「足に、あいつ、まだしてた……」

秋人のいたほうを振り返ったがもうそこに生前の秋人の姿を見ることはできず、飛田は力なく崩れ落ちる和貴をただ抱き留めた。

和貴は目をそらさずに見届けていたのだろう。秋人が燃えていく様を。
そしてその足首に、和貴が友への戯れとして結えた紐を見つけてしまったのだ。
友情の証だとして、秋人が外さずにずっとつけていた、赤い組み紐。

どうして今なのだろう。もっと早く、秋人たちの本当の姿を見つめることができていたら。

けれどもう何を思うのにも遅く、そして飛田の気力も限界に来ていた。
煙を吸い込んだ体は思うように動かず、震え続ける和貴の背を抱いていてやることだけで、精いっぱいだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
長い長い29話にお付き合いくださって、本当にありがとうございます。

あまりにも短い時間に、5人の人間の感情を凝縮したので、取りこぼした説明(表現)があったかもしれません。
(この部分は、今後も修正を重ねると思います(;'∀'))

今回は重要な部分でしたが、とても中途半端なところで終っています。
だから、コメント欄を閉じておこうと思います。
(拍手コメは開けておきますので、もし何か、分かりづらい所とか、疑問がありましたら、教えてください(*´ω`*))

次回が最終話になります。
エピローグと合せて更新しますので、かなり長いと思いますが、お時間のある時に、お立ち寄りくださると嬉しいです。

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流鬼 第28話 業火 

流 鬼

「和貴!」
低木の藪を曲がったところでようやく追い着いた飛田が和貴に触れると、その肩はガチガチに固まり、震えていた。

「和貴、どうした。健造さんの声がしたように思ったけど」
「父さんが……」
「どうした」
「俺に銃を向けた」
「まさか」

「俺の事が分からなくなったみたいな顔して、俺の顔に銃口を向けたんだ。カラスに襲われて頭も顔も血だらけで、……もう普通じゃなかった。小菊に何かされたのかもしれない。もう頭を掻き壊されて、狂っちまったのかも。だってあんなの、父さんじゃない」

半泣きで震える和貴を落ち着かせるために一度強く肩を抱き、ここに居ろと言い含めて飛田は走り出した。待って、と叫ぶ和貴に構う余裕もない。

息子の顔面に猟銃を向けるほど理性を失った男が、小菊や秋人に何をしでかすか、考えただけでも恐ろしかった。
今ばかりはカラスの暴徒化を有難く思った。カラスはどうやら健造を敵と認識して襲っているようだった。
あの男を食い止めてくれ。そう祈りながら飛田は足場の悪い山道を登った。

あと少しで祠のある平地だ、という所で突然、複数のカラスの激しい声と一発の銃声が轟いた。
駆け上った飛田が目にしたのは頭や顔を血まみれにして銃を構えている健造だった。
その足元にはどうやって叩き落としたのか、5、6羽のカラスの死骸が転がっている。

小菊やキヨや秋人は近くに身をひそめていると思われるが、身を隠せる場所と言えば祠か、その数メートル後ろのクスノキくらいしか見当たらなかった。
健造は忌々し気にカラスの死骸を蹴散らし、銃口を祠の方に向けてにじり寄っていく。
飛田は青ざめて叫んだ。
「健造さんやめろ! あんた自分が何やってるか分かってんのか」

けれど叫び終わらないうちに健造の銃口はくるりと飛田の方を向き、何を思う間もなく銃声が轟いた。
どっと全身から発汗し、飛田はその場にへたり込んだ。
脇腹を風圧がかすめていった感覚が鮮明に感じられ、無傷なのは分かっていたが急に体に力が入らなくなった。
心臓が無意味に激しく鼓動し、そのくせ足腰は萎えてガクガクと震え、立つことも叶わない。
完全に恐怖に支配されていた。

健造はすぐさま弾を詰め替え、もう飛田のことなど眼中にない様子で祠の方ににじり寄っていく。
一瞬見えた健造の目は血走り、視点が定まっていなかった。理性など消し飛んでいるに違いない。
―――秋人! 
飛田は叫ぼうとするが声が出ない。
けれど突如、健造は激しく唸り声をあげ、頭を掻きむしり、その場に倒れ込んだ。カラスが襲ってきたわけではない。

「母さん、やめて!」
祠の後ろから飛び出した秋人が、クスノキの影に向かって叫んだ。
祠から数メートル離れたご神木から姿を現したのは、キヨに寄り添われた小菊だった。見ようによっては怯えたキヨが小菊の影に身を隠しているようにも見える。
小菊のその表情は怒りのためか身重(みおも)の体調ゆえか、紙のように白く、血の気が感じられなかった。

ゆっくり歩み出た小菊は銃の横でのたうち回る大男を蔑むように眺め、小さく吐き捨てるように言った。
「お前など早くに潰しておけばよかった」

「母さんやめて。その人は和貴の父さんなんだよ!」
「だから?」
「だからやめてあげて、お願い!」
小菊は馬鹿らしいとでもいうように鼻で嗤った。
「母さん!」

秋人の叫びと共に祠の傍で僅かに揺れていたかがり火台の炎が突如ゴウと勢いよく火柱を上げ、祠周辺に火の粉を散らした。
「秋人! やめなさい!」
叫んだのはキヨだった。
今まで小菊の影で気配を消していたキヨが顔を引きつらせ、秋人を諌めたのだ。

飛田は体を硬直させたまま、呼吸も忘れてその場に立ち尽くした。
このほんの20秒足らずのやり取りは、今まで由良家の周りで起きたすべての事件の憶測がもはや妄想ではないことを示唆し、飛田は背筋の強張る思いがした。

口から泡を吹きながら顔をゆがめ、狂ったように呻く健造を間近に見、胃液がせり上がる。
この健造の姿は、14年前の根岸の姿なのだ。
ひとつ呼吸をしたあとようやく我に帰った飛田は、ぐっと腹に力を入れ、後先考えずに大声で叫んでいた。

「小菊さん、やめろ! もうやめてくれ。あんたはそうやって14年前の今日、同じように根岸を殺したのか。儀式の供物にしたのか? なんで根岸だったんだよ。この村とは何の関係もないじゃないか。あんた分かってんのか? 自分で自分の首を絞めてんだよ。そうやって簡単に人を殺したりするの、もういい加減やめろよ。いくら言ってももう根岸は帰ってこないけどさ、でももうやめろよ。どこ行ったって苦しいだけだろ。あんたが鬼だってなんだっていいよ。それはもう仕方のない事なんだろうし。でももう人を狂わせたり供物にしたり殺したりするのはやめてくれよ。この時代に生きていくんだったらさあ。自分のためにも、秋人のためにも――」

「飛田さん……」
秋人が祠の横から歩み出て、神妙な表情で立ち尽くす。

飛田は人形のように表情を失くして佇む小菊をそれでも睨み続けたが、にわかに顔をゆがめたと思った小菊の口から漏れてきたのは甲高い笑い声だった。

「何がおかしい! 俺の言ってることが可笑しい事なのか?」
抗議の声をあげた途端、唐突に耳の奥に激しい衝撃を感じ、飛田はそのまま平衡感覚を失って地面にもんどりうった。
肩、ついで額を地面に打ち付け、鼻の奥にきな臭い匂いが広がった。
カラスでも飛びかかってきたのかと眼球を動かすが周囲には何も変化がない。左耳の奥が激しく疼き、幕が張ったように周辺の音がくぐもる。
秋人が「やめて!」、と小菊に懇願する声が遠くに聞こえた。

―――そうかこれが小菊の力なのか。
死の恐怖を漠然と感じたが、ここでくたばるつもりは無かった。

もういい。秋人だけ連れてここから離れよう。相手は人間の感情を理解できない鬼だ。
力を振り絞って立ち上がり、秋人の方に歩み出た時だった。飛田の後方に視線を走らせた秋人が目を見開き、固まった。

殺気を感じて振り向くと、転がったままの男の脇に和貴が立っていた。和貴が父親譲りの逞しいその腕に構えているのは、健造の散弾銃だった。
構え方は健造のものと寸分たがわず、どこかでしっかり教え込まれたのだと瞬時に感じた。
その指はしっかりと引き金にかかり、そして銃口が向けられているのは秋人の斜め後方に立つ小菊だった。
あまりに信じがたい光景に飛田は咄嗟に固まった。動いたのは秋人だ。

「和貴!」
ひと声叫んだ秋人が小菊の前に飛び出して立ちはだかり、飛田は全身が総毛立った。
もうやめてくれ!
声にならない叫びと共にバサリと羽音を響かせた黒い影が飛田の前をよぎった。

短く鋭い和貴の声と共に乾いた銃声がさっきまでくぐもっていたはずの鼓膜を激しく震わせた。無数に中空に舞い散る黒い羽根。
そして数メートル弾き飛ばされバサリと地に落ちてきたカラスの足には、血かと見まごう鮮やかな赤い紐が巻かれていた。
無数の散弾を呑み込んだ体はもうピクリとも動かない。

「ロク!!」
喉から絞り出した秋人の叫びが聞こえた瞬間、地面がゴウと揺れた。
同時に目もくらむ光がその空間を満たした。否、光だと思ったのは突如噴き出した炎だった。和貴の後方のクヌギの枝が数本、爆発するかのように燃え上がったのだ。

訳も分からぬまま熱風に襲われ、銃を取り落した和貴はふたたび叫んでその場から退いた。
その和貴を秋人の視線が追う。それはつい数時間前までの穏やかな少年のものではなかった。
いきなり理不尽な戦場に放たれ、絶望を突き付けられた人間の目だ。

「和貴! なんでだよ!」
秋人は喉が裂けるのではないかと思うほど悲痛な声で叫ぶ。
激しい火柱におののき、木の根に躓いて倒れ込んだ和貴のすぐ横の木が、次なる秋人の叫び声と共に、一気に燃え上がった。
今度こそ飛田はその瞬間を目の当たりにした。青々とした木の葉が突如着火し、唸りながら激しく燃え上がる様を。

秋人の叫びと同時に蒼白い閃光が見えた。それはまるで落雷の前の放電のようでもあり、莫大なエネルギーの放出のようでもあった。

伝説の鬼? ―――本当にそうなのか? 
あまりに壮絶な光景を目の当たりにして飛田は、逆に頭の芯が冷え、冷静になるのを感じた。

今目の前で起こっている説明のつかない現象を、不可解だからと安易に昔話の中に投げ入れてしまってもいいのか。
いや違う。そんなことではないのかもしれない。
そしてそう思うと同時に、ある記憶が目の前の現象と重なった。

激しい感情を制御できず、その体からエネルギーを放出させてしまう人間―――。
そうだ、十年以上前、自分の体から発火して、家を全焼させてしまった幼児がいた。あれはインドの少女だったか。
その不可解な火事を報じる記事をきっかけにその手の能力者の話に興味を持ち、飛田は科学雑誌を読み漁った事がある。
もう10年ほども昔の話であったため、記憶の隅に追いやられていた。

パイロキネシス。
まさしくその力に酷似して見えた。秋人はサイキックなのか。それならば小菊は何なのだ。この母子は一体……。

飛田は地を這う木の根に足を取られた和貴を、火の粉の中から引っ張り出し、秋人に向き直った。
「秋人、話をしよう。違うんだ、きっと何かがどこかで狂ってしまったんだ。俺たちは、なにかとんでもない間違いをしているのかもしれない!」

けれど秋人は何も耳に入らぬ様子で、地に落ち、ただの黒い塊になったカラスの死骸を震える手で掴み、ひしと胸に抱いた。
秋人の腕を赤い血が伝い落ちていく。

「和貴、なんで? なんで母さんに銃を向けた? なんでロクを撃った?」
「うるさい! 父さんを殺そうとしたバケモノのくせに! お前も小菊も腹の子も、みんな流……っ」

飛田は和貴の口を咄嗟に手で封じ、地面に押さえつけたが、その言葉が秋人の逆鱗に触れたのは明らかで、今しがたのぼってきた参道脇の木立にも閃光が走った。
乾燥していた初秋の木々は音を立てて炎を広げ、緑一色だったその境内を瞬く間に煙で包み、見る間に変容させていく。

先刻は秋人だけを連れて山から下りるつもりだった飛田も、もはや次にとる行動を見失った。
和貴だけを引きずって山を下りるか。怒り狂う秋人、そして煙のむこうに身を隠してしまった小菊たちに気を回す余裕は無かった。下手をすれば自分の逃げ道も断たれてしまう。

少し痛みのおさまった頭に手を当て、飛田が周囲を見渡した時だった。
飛田の十数メートル離れたクヌギの木立に火の玉となった枝が落下し、ぎゃあという声とともに、身をひそめていたキヨが煙の中から飛び出してきた。
そしてその直後、まるでタイミングを計ったかのようにクヌギの大木が根元から倒れ込み、どさりと音を立てて境内を二分したのだ。
小菊と秋人の姿は激しく燻るクヌギの煙幕のむこう側に一瞬にして消えてしまった。

飛田は反射的に地面に倒れ込んだキヨだけを抱き起こし、まだ火の回っていない崖の斜面に避難させた。
和貴は飛田の元から一旦離れ、健造の元に駆け寄った。グッタリしてはいるもののまだ呼吸は確かな事を確認した後、同じく斜面の方までその体を引きずり、炎から遠ざけた。
けれど体は限界のようで、和貴自身もその場にへたり込んだ。飛田の10メートルほど先だ。

「小菊さんは? あっち側に火は回ってないのか?」
まだわずかに息の弾んでいるキヨに飛田が大声で訊ねると、キヨは奇妙な事にさほど驚愕したふうでもなく、膝の土を手で払った。
その様子はまるで、迷惑をかけられたことに憤慨している通りすがりの他人のようにも思えた。

「さてね。火は秋人が制御するだろうけど、小菊は随分取り乱していたから、生きてたところであんたが下手に近づくと今度こそ取り殺されるよ」
そのキヨの言葉はギリギリのところで保たれていた飛田の冷静さを、瞬時に叩き壊した。

「キヨさん、あんたいったい小菊さんの味方なのか敵なのかどっちなんだ! 俺、今思ったんだが、あの二人はもしかしたら鬼とかそんなバカげたものじゃないような気がするんだ。なあ、違うのか? あんたは本当の所どう思って―――」
「ええ、分かってますよ。全部分かってますとも」
飛田に肩を掴まれたままキヨは薄く嗤う。

「分かってるって、いったいどういう事なんだよ!」
「怒鳴らないでよ、野蛮だね、男ってのは。どうもこうもないわよ。こうなったのはぜんぶ村の人間たちのせいよ。そして何処からか湧いて出た根岸って男のせい」

思いがけず出てきたその名に、飛田はゾクリと体が粟立つのを感じた。

「なんだよそれ。どういう事だよ」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今年中にこの物語を終わらせようと思い、すこし1話が長くなってしまいました。
残すところ、あと2話。
次回は更に長くなります(>_<)  そして最終話はもっともっと長くなりそうです。ごめんなさい。(≧Д≦)  

次回はこの物語のクライマックスといえる部分になります。
そして最終話で、この物語が何だったのかを語ろうと思うのですが、……クライマックスの後が長いのがネック( ´ ^ `。)。
皆さんが飽きずにお付き合いくださるといいのですが。

今回も、長い一話にお付き合いくださって、ありがとうございました。(´▽`*)
※1日午前中に、かなりの個所を修正しました。

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流鬼 第27話 畏怖の正体  

流 鬼

方向は分からなかったが、銃声は早い間隔で2発、3発と続いた。

「違う。父さんの2連銃じゃない。宮野のじいちゃんたちだ。……今更。遅いのに」
苦々しげに和貴は言い捨てた。

確かに飛田も、こんなに増えすぎ、気の荒くなったカラスに銃で対処するのは焼け石に水だと感じた。
頭上ではでは高く低く、黒い煙のようにカラス達が乱舞している。

「カラスを祀る神社の本祭で、守り神のカラスが暴れ出して氏子に狩られるなんて、笑えない惨事だな」
「よそ者は笑っていればいいよ」
和貴は再び不機嫌そうに言い、坂を上り始めた。飛田はその後に続く。

「けど、こんな参道近くで銃をぶっ放したら危ないだろう。小菊さんたちや秋人だってこの周辺にいるかもしれないし」
「小菊は鬼だから平気なんじゃない?」
もう10メートル先に行っていた和貴が振り向く。
あくまでも小菊を呼び捨てにする和貴の目には、『人間以外』の血族への敵対心が強く浮かんでいた。

「和貴、それって本気で言ってるのか? ちょっと落ち着けよ。秋人のお母さんだぞ」
「あんたこそいったい、俺の話の何を聞いてたんだよ。あんたの友達は小菊に殺されたんだぞ。小菊は流鬼で、秋人はその子供なんだ」
「じゃあ、100歩譲ってその話が本当だとしてだ、和貴は小菊さんも秋人もカラスと同じように駆除すればいいと思ってるのか?」

思わず口を突いて出たその質問に、和貴は黙ったままじっと飛田を見つめる。
飛田は胸の冷えて行くのを感じた。すぐさま否定すると思っていたのだ。

父親から聞いた、根岸の最期の様子はそれほどまでにすさまじく、相当なショックだったのかもしれないが、それでも秋人はほんの少し前まで一緒に通学していた友人だ。その友人や家族に、そんな冷徹な決断を下せるのだろうか。

飛田は小一時間前まで車のシートの助手席に座り、足首に赤い紐を巻きつけたままにしていた秋人を想った。親愛の印なのだと少年は言ったのだ。
例えもし14年前にこの山で起きたと言われることが事実だったとしても、秋人には何の罪もないではないか。

「和貴、待てよ」
すぐ後ろで2発、3発と銃声が響く。空へ向けられたものだと分かるが、背筋が冷たくなった。
「父さん、今日はこの周辺でカラスを撃つって言ってた。小菊たちもいるんだよね。鉢合わせるかもしれない。俺、行かなきゃ」
和貴はそう言うと細い参道を一気に駆け上がって行った。
健造に加勢をしなければ、という意味だったのだろう。

頭上のカラスたちは更に群れを成して飛び、せわしなく鳴き続けている。風がゴウとうなり、昼中だというのに黒い雲が垂れ込みまるで夕刻のようだ。
根岸が死んだ同じ日に、一体何が起ころうとしているのだ。
飛田はひとつ大きく息を吸い込み、不安を押し殺しながら和貴の後を追った。

              ◇

カラスが須雅山の上空で群れを成し、厚い雲の下を旋回し続ける。
古ぼけた祠を照らすのはとろとろと燃える4台のかがり火。そしてその前には生成りのワンピースを着た小菊が佇んでいた。

健造は14年前と同じくクスノキの影に身を隠し、祠の前の小菊を見つめていた。
小菊の傍にはキヨも寄り添っていたが、健造の目は小菊しか捉えていなかった。

小菊は12歳の少女ではなく、腹に子を孕むが故に不完全なシルエットを浮かび上がらせていた。けれどその美貌は目を反らせぬほど妖艶で見る者の気持ちを揺すぶり、腹の膨らみさえも隠微に思えた。
健造の目にはこの間も、あの14年前の、男とまぐわう小菊の姿が二重写しとなって網膜に映り込み、しだいに息が上がった。
猟銃を握る手が汗ばみ、滑り落ちぬように手に力を入れる。

息子の和貴に話したことに嘘偽りは無かった。けれどその時自分が同時にその光景に魅せられ、欲情してしまった事には一切触れなかった。

―――目の前で組み敷かれている少女は流鬼だ。流鬼が旅の男を喰らっているのだ。その捕食を見た俺がどんな感情を抱こうとも小菊に対して背徳を覚える必要ははない。
悪さをせぬように祠に閉じ込められたにもかかわらず、再びこの世に湧き出て悪さをし始めた流鬼の末裔、小菊。お前などに蔑まれる筋合いはない。化け物め。

由良家が越して来て以来夜ごと見る悪夢が、次第に自分を狂わせていくのを感じていた。悪夢が自分を殺す。小菊が怒っているのだ。
小菊と対峙する勇気など健造には無く、ここ半年無意味だと知りつつもひたすらカラスを狩った。
けれども、答えは出ている。災いの元は消すしかないのだ。村のためにも悪しき鬼は狩らねばならないのだ。


小菊もキヨも健造には気付く様子もなく、ゆっくりとかがり火に照らされながら祠に近づいて行く。
まるで何か特別な決まり事でもあるかのように小菊が祠に向かい両の手を差し出し、抱く様に広げる。
12歳のあの日とさほど変わらない細くしなやかな肢体でありながら、胸は生まれ出る子のためにふっくらと膨らみ、その腹と共に、白く薄い衣を突き上げている。その奇妙なバランスがさらに妖艶で、美しければ美しいほど恐ろしさも増し、健造の体を震わせた。

ガンベルトから弾倉を抜き取り、銃に充填すべくトップレバーを倒す。
カラスを撃つのと同じ手順で、それは無意識に行われた。

けれど先台を戻す衝撃音は無情にも木々に反響し恐ろしいほど大きな音を立ててしまった。全身が痛みを伴って発汗した。
小菊とキヨがこちらを振り向く。

しかしそれより早く健造めがけて威嚇を仕掛けたのは、上空を舞っていた無数のカラス達だった。
鋭いくちばしや爪が次つぎに頭をかすめて行く。
健造は痛みと恐怖で声を上げながら木の影を飛び出し、小菊たちの5メートル手前に転がった。

「健造!」
鋭く叫んでキヨが小菊の肩を抱き、退くのが見えた。けれども健造は絶え間なく襲い掛かるカラス達を銃で追い払うのに必死で、対峙どころではなかった。
銃身を振り回し、情けない声を張り上げながらその場からヨロヨロと走り出し、そのまま参道を下った。

目にする何もかもが恐ろしく、もう何を考える余裕も無かった。
よろけて走りながら引き金を引いたが、一発目は何ものにも当たらず、2発目は塊の中のたった一羽を撃ち落としただけだった。
ほんの一瞬カラスがひるんだ隙を見計らって弾を充填する。けれど埒があかない。こんなことをしている間に食い殺される。
絶望を感じたその時だった。聞きなれない子供の声が健造を呼んだ。

「おじさん。和貴のおじさん!」
秋人だった。

小菊にどこか面影の似た顔を青ざめさせ、走り寄って来るその姿は紛れもなく小菊の息子、秋人だ。
けれど健造にとって救世主などではなかった。

「くそっ! カラスをどけろ。こいつらを何とかしろ秋人!」
「でも、僕にはとても……。ねえ母さんは? おばあちゃんと母さんを見なかった?」
健造の頭上に群がるカラスを手で追い払う仕草は見せたが、あの鬼の身を案じるこの子供が猛烈に憎らしかった。

「知るかそんなもん! あいつらこそこのカラスどもに食われちまえばいいんだ! くそっ!」
カラスを払いのけていた秋人の手が止まり、その表情が泣きそうに歪んだ。唇をかみしめてひとつ健造を睨むと、そのまま何も言わずに坂の上へ走りだした。

絶え間なく襲い掛かるカラスに再び狙いを定めたはずの銃身が、無意識に走り去る少年の背を捉える。
けれど引き金に指を掛けた瞬間、その手にくらいついてきた小柄なカラスがあった。
力任せに払いのけると、その手は空を切ったが、バサリと飛び立った鳥の足に巻かれた赤い紐が僅かに見えた。
あの少年のカラスだ。赤い紐をつけたカラスは撃たないようにと、和貴に言われたことがあった。

「くそったれめが!!」
手の裂傷から流れる血を舐め、健造は再び血走った目を少年が走り去った参道に向ける。
思考は錯乱し、自分が今から何をしようとしているのかも分からなくなっていた。
ぐらぐらと視界がゆがむ。あるのはただひたすら体中の穴から噴き出しそうなほどの怒りのみだ。

「父さん!」
興奮した声で何者かが自分の腰に激しく抱き付いてきたが、ただそれが自分の子供だったかもしれないと思ったただけでそれ以上の感情は湧いて来なかった。
カラス同様、その子供の手も力任せに払いのけて健造は歩き出した。
人間を常に脅かし、自分勝手に殺していく鬼どもを消さない限り、この狂った日々は終わらないのだ。

「もう血だらけじゃないか父さん。もういいよ、死んじゃうよ、帰ろう! ねえ!」
そう言って再び腰に抱き付き引き止めてくる声が煩わしくて、その鼻先に銃口を向けると、その餓鬼は途端に大人しくなった。
青ざめて自分を見上げるその餓鬼が次第に誰なのか分からなくなり、耳鳴りと眩暈が酷くなった。

小菊のせいだ。そして小鬼のせいだ。
この村が狂って行くのはぜんぶあいつらのせいだ。

健造は腹の中で罵りながら、秋人が向かった方向へ再びヨロヨロと歩き出した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
慌ただしくなって来ましたが、またコメント入れにくい回でごめんなさい(;´Д`)
(あ、コメントは気になさらないでくださいね。読んでくださるだけで有難いのです)

さて。ここはきっと耳が痛くなるほどカラスがうるさいと思います。
効果音を流せないのが悲しいけど……そんな効果音、いりませんよね(;'∀')



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流鬼 第26話 納得できない真実  

流 鬼

健造の銃声が聞こえなくなった。
移動しているのか、休憩しているのか。別段不思議ではないのに、和貴はなぜか胸騒ぎがした。

空を覆うカラスの乱舞が、和貴を更に不安にさせる。
夜千代村のカラスは常に群れ、そして気が荒かったが、これほど低空で騒ぎながら飛び交う姿を見たのは初めてだった。
健造が殺気立っている様子が目に浮かぶ。

目を凝らすと、特に黒くけぶっているのは須雅山の上空だ。
胸騒ぎはおさまらず、和貴は家へ向かっていた足を須雅神社に向け、走った。

山裾の鳥居を少し入ったところで和貴は、1人で喚いている老人に出くわした。猟友会部落長の宮野だ。
「何じゃこのカラスは。どっから沸いてきた」
老人は飛びかかって来る数羽のカラスを木の枝で追い払っている。

「宮野のじいちゃん!」
助けようとした和貴にも2羽のカラスがとびかかって来て、慌てて拾った小枝で応戦した。須雅神社に近づくほど、カラス達は攻撃的になっていくように感じた。

「おお和貴。これ見ろ、空にも腐るほど沸いて出た。ここのカラスはついに狂ったか?」
「ここのカラスはとっくに狂ってるよ。だから父さんが撃ちまくってるんだ。ここのみんなが父さんを変人扱いして、自分らは何もしなかったからだ」
「けど去年まではこんなことは無かったぞ。こんな虫みたいに湧いて出て凶暴になりおって、いったいどうしたってんだ」
「由良の3人が引っ越して来たからだよ」

和貴は自分の言った言葉に自分が驚きながら、その事実を噛みしめた。
自分の奥底に「言ってはいけないと」無意識にしまい込んでいた本心だったのかもしれない。けれどタガは容易く外れてしまった。

「流鬼が帰って来て力を増したからだよ。そうなんでしょ? そう最初に俺に言ったのは、ヨシ江さんや宮野のじいちゃんや、村の人たちだよ。ただ根拠のない噂話を言いふらしていたわけじゃないんでしょ?」
「いや、……そうなんだが。まさか、本当にここまで奇妙な事になるとは……。なあ。とにかくワシは銃を取りに家に戻る。このあと神主連れに行って本祭の締めの準備するつもりだったが、こりゃあカラスを先に何とかしないとどうにもならん。和貴は家に戻れ。これから役場に声かけて猟友会のもん集めるし、畑や田圃で誰か見かけたら危ないから山には近寄るなって声かけてくれ」

宮野は泡を食って家の方へ走って行ったが、和貴は引き返す気などさらさらなかった。
飽きずに騒ぎ立てる夥しい数のカラスを睨みつけ、更に頑丈そうな木の枝をひとつ拾うと、神社に続く参道を登って行った。

銃声は途絶えているが、父親はこの山のどこかにいる。
祭りの当日なのに、須雅山付近で駆除をすると言って出かけて行った健造の気持ちが和貴には分かる気がした。

健造の目の前で、少女の姿をした鬼が、交わった男を惨殺し、カラスにその体を食わせたのは14年前のこの日なのだ。
鬼は無理でも鬼の傘下にある血に飢えたカラスを、この祭りのさ中に殲滅したいと思ったのだろう。不可能なのを承知で。

―――鬼は無理でも。
その言葉を噛みしめた瞬間、自分の中にある種の悔しさが滲んだことに、和貴は密かに身震いした。

              ◇

低く呻いて、健造は体を起こした。

体は斜面に生えた細い木の幹で、かろうじて食い止められている。ここで止まっていなければ、今頃ははるか下の岩の上に叩き付けられていただろう。
幸い猟銃は体の傍に転がっており、健造はそれを握って落ち葉で滑る斜面を登り始めた。

けれどもじっと木の上から様子を伺っていたらしいカラス達は、まるで何かに号令を掛けられたかのように再び健造の頭めがけ、飛びかかってきた。
「くそっ!」

健造を崖から突き落としたのも、この暴徒と化したハシブトガラスたちだった。須雅山に健造が入るのを拒むように、鋭いくちばしと爪で襲い掛かってきたのだ。

カラスを振り払いながらなんとか細い山道まで上り、銃を構えるふりをするとカラスは一斉にあたりの木々の中に隠れた。
まさかカラスが祭りの日を知っているとは思わないが、この狂い方は異常だった。
肩で息をしながら一旦茂みに身をひそめ、健造はミロク銃に弾倉を込めた。

恐怖心が怒りに変わっていくのを感じながら、健造が茂みから出ようとした時だった。緑の中に、白く揺れる影を見た。体中の血がゾクリと湧き立つ。
小菊。そしてキヨだ。

実のところ、恐れるあまりに村に帰って来てからの小菊をその目で見るのは初めてだった。
けれど小菊はすぐにそれと分かった。その容姿は12歳のあの日からさほど年月を感じさせず、まるで少女のままに見えたのだ。
その可憐さは逆に魔物じみてさえいた。

しかし、健造を心底驚愕させたのは、その可憐な細身の女の、不自然なまでに突き出た腹だ。
帰ってきた小菊が子を孕んでいるという噂は訊いたことが無かった。

ひと月ほど前に息子の和貴が、あの旅行者の二の舞にされるところだったと語ってくれたのは今朝方の事だが、その時の子のはずは無かった。
その腹はもう、いつ生まれてもおかしくないほどに膨れ上がっている。
和貴はただ遊ばれただけか、それとも自分への挑戦状のつもりだったのか、そのどちらを思っても震えるほどの怒りが再び込み上げて来た。
そしてそれと同時に健造は、なぜ今頃また小菊たちが夜千代村に戻ってきたのかをようやく理解した。

奴らは新たな鬼をこの地で産み落とそうとしているのだ。『帰巣』なのだと。
身の毛もよだつ嫌悪と不気味な興奮に打ち震えながら、健造は銃を握り締め、足音を忍ばせて小菊とキヨを追った。

                 ◇


半分だけ開けていたサイドガラスから、身を絞り出すようにして車の外に出た飛田は、秋人を追って山道を辿った。
雲の流れは更に早くなり、山の上空を飛び交うカラス達の声は凄まじかった。
クスノキの炭や薪を焚く祭りの期間は、その成分に触発されてカラスが騒ぐと聞いたが、この状況は異常としか思えなかった。

なぜ自分が秋人を追うのか分からぬまま飛田は、山のふもとの鳥居を抜け、緩い坂を登っていく。
参道に入ったあたりから、カラス達が数羽、威嚇するように頭をかすめて飛んでいった。足元の石を拾って投げてみたり、小枝を振り回すうちに、しばらくはその気配が遠ざかった。ホッとして、額の汗をぬぐいながら更に進む。
カラスの異常行動が不気味ではあったが、ここで引き返す気にはなれなかった。

見通しのいい曲道に出た時、遠くに少年らしい人影を見つけ、飛田は叫んだ。
「おい秋人! 待てったら」

けれど振り向いた少年は秋人ではなかった。
「あんた……飛田さん。なんで秋人を?」

飛田が追いついて来るのを待って、和貴は鋭い目つきのまま訊いてきた。手には頑丈そうな枝を握り締めている。
「さっきまで秋人と色々話をしてたんだけど、突然山に行くって走って行ったから。小菊さんやキヨさんを探すんだって言ってたし、俺もちょっと心配になってさ。小菊さん臨月だし」
「臨月って……小菊が?」
弾かれた様に目を丸くする和貴に、飛田は違和感を覚えた。

「知らなかったのか? 秋人に聞いてない? もう、すぐに生まれてもおかしくない」
「鬼って……2か月くらいで子を産んだりしないよね」
「は? なんの冗談だよ」
微妙な笑いを浮かべて飛田は和貴を見たが、その目はふざけている様には見えなかった。友人の親を迷わず鬼と断定した言い方が、やけに辛辣に響く。

「小菊さんは1か月や2か月で子を産んだりしないよ。どうした? 和貴」
「そうだよね。……いや、8月に見た小菊さんは、全然そんな風に見えなかったから。……ああ、そうだよ。秋人だって生まれたのは9か月後の6月だし」
記憶を辿るようにしきりに目を動かしながら、和貴は自分を納得させるようにつぶやく。その言葉に飛田は反応した。
「何から数えて9か月後?」

和貴が飛田を見つめる。空を覆う雲とカラスの影を映したように顔面は青黒い。飛田の鼓動が早まった。

「なにが。……何でもないよ」
「9月30日。ちょうど14年前の今日、俺の友人が須雅神社の下の崖で死んだ。これは前言ったよね。その体はカラスに食われた。祭りのかがり火が焚かれていて今日みたいにカラスが興奮してたから、カラスが根岸を襲って殺したんじゃないかって俺は思ってる。根岸が小菊さんの写真を撮ったのは前日だし、小菊さんとは何の関係もないよな」

和貴に「そうだ」と言ってほしかった。たとえ推測でも。秋人が語った事はすべて妄想だと思いたかった。

『根岸は神薙ぎに利用され、用済みになったから殺された』と秋人は言ったが、小菊がそんな鬼だとも、秋人がその果てに生まれて来た子鬼なのだとも思いたくなかった。
そんな事はあり得ない。狂っている。なにより根岸が哀れすぎる。

「飛田さんは、どっちの味方なの?」
和貴が、ひどく静かな声で飛田に訊いて来た。その目は今までにないほど真剣で、覚悟を決めようとしているようにも見えた。
「俺は何が真実なのかを知りたいだけなんだ。伝説とか根拠の無い噂とか誹謗中傷とか、もうたくさんなんだ。本当の事が知りたいし、知らなきゃならないと思ってる」
和貴がにやりと笑った。
「じゃあ教えてあげる。父さんが14年も黙っていた事だけど、本当の事は伝えなきゃならないと思うから」
「……なんだそれ」

「父さん、14年前の今日、ぜんぶ見ちゃったんだ。小菊が旅行者の男をたぶらかして誘って、用が済んだら頭ん中吹き飛ばして殺して、カラスの餌にした。流鬼は13歳で増殖するんだ。そのためにあの根岸って人は利用された。考えてみたらこの村で小菊と交わろうなんて思う男はいないもんね。かわいそうに。その結果生まれたのが秋人なんだ。秋人も人間なんかじゃない。鬼だよ。学校で秋人をからかった先輩が殺されかけた。あいつを怒らせると殺されるんだ。
小菊はまた子を産むんだろ? 化け物が増える。そしてまた人が死ぬ。この村はきっとそのうち鬼以外、居なくなるよ」
和貴は喋りながら、怒りなのか恐れなのか拳を握って小刻みに震えていた。

「和貴はそれを信じてるのか? 秋人は友達だろう?」
けれどこの状況で、その言葉はただ白々しく響いた。
和貴にしても、面白半分で語っているわけではないのだ。そして飛田自身も、それを一掃する言葉など持たなかった。

なにより、秋人の言葉とすべてが一致している。
やはりそうなのだろうか。小菊は流鬼で、根岸は供物になり、そして秋人が生まれた。
けれど小菊は秋人の力の弱さに落胆して、更なる力の流鬼を生み出そうとしている。
愛の結晶などではない、これはおぞましい血族の増殖なのだ。

暗澹たる思いの中で、飛田の脳裏に疑問が一つ生まれた。

「和貴。一部始終を健造さんは見たって言ったよな。なんで今まで黙っていたんだろう。そんな恐ろしいことが起こっていたんなら、まず誰かに言うだろ。根岸の死体が見つかった時、なぜすべて話してくれなかったんだろう。警察では信用しなくても、村の人なら理解してくれただろうに」
「そんなの、報復がこわかったのに決まってるだろ。小菊の恨みを買うことがどんなに怖い事か、あんたには分からないんだ」

本当にそれだけだろうか。
「だけどさ……」
飛田が続けた言葉を遮るように森の中で銃声が響いた。上空を覆うカラスが波打つようにうねり、口々に鳴く。

「今のあれ、健造さんだよな」
飛田が問うと、和貴は獣のように耳をそば立てた。




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今回はいわゆる、照合の回でしょうか。
和貴が鬼の妊娠期間を聞いた裏には、いろんな不安があったわけですが。
飛田視点なので全部説明できなかったのが残念。
(あの時は未遂だったから心配するような事じゃないのに、鬼だからもしかして……とか、脳裏によぎった和貴のおぼこい焦りとか^^)←妙に細かく説明したい衝動に駆られる作者

物語はじわじわと、佳境に入っていきます。

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(雑記・イラスト)そしてハロウィン 

☆雑記・四方山話

みなさまこんばんは~。
本当に雨や台風ばかりの10月ですね。週末もお天気が心配……。

そんな荒れ模様の10月。
私の中でも、すごく悲しい事があった半面、ずっと夢見てたコンサートに行けたりと、感情揺さぶられて大変な月でした。(あ、まだ終わってないけど)

今日は、楽しかった思い出をちょこっと載せてみます(*'‐'*)←バカだなあ~って笑ってやってくださいw

14日、すっかりハマってしまったヒップホップグループ、BTSの京セラドームコンサートに行ってきました^^
最高のダンスパフォーマンスと楽曲で世界中に愛されているK-POPグループなのです。
どれだけ彼らに心酔してるかを書くと、きっと引かれてしまうので、ここではぐっと我慢 ( ;`Д´)

でも、本当に夢と涙と感動の、最高の2時間でした。
10代~20代のファンの女の子たちに混ざって、いっぱいはしゃいで来ました。
終わった後はまた抜け殻になっちゃいましたが、行けてよかった(*´ω`*)

ドーム1

ドーム2
最高の歌とダンスと愛をありがとう (゚´Д`゚)゚。



さて、それでは10月末恒例の、ハロウィンイラストを置いて行きますね(´▽`*)

久々の水色ネコ。今日は黒猫コスプレで、ちょっと不敵な笑みww

あ~あ、緑ネコが、あんなことに…… (´゚∀゚`;)


ハロウィン水色ネコ1200






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流鬼 第25話 神薙ぎ 

流 鬼

「根岸が父親。……小菊さんがそう言ったのか?」

飛田はやっと手に入れた真実をどう受け止めようか狼狽えながらも、あくまで静かに秋人に尋ねた。
本題はここからだ。訊きたいことは無数にあった。

「つまり14年前小菊さんが根岸と出会って、その……」
「神薙ぎなんだ」
「え?」
「必要な神事なんだって。母さんが母さんであるために。……だって13歳になっちゃうから。新しい力を生んで繋げなきゃいけない。一人だと、とても弱いから」

「なあ秋人、13歳になるまでにって、何なんだ。それは流鬼だからなのか? そういう決まり事なのか?」
「そうだよ。村の人もキヨもみんなそう言う。母さんだってそう言った。でも何の決まり事なのか僕にはわからない。もしそんな決まり事があったとしても、じゃあなんで神薙ぎの相手を殺さなきゃならないの! なんで母さんは僕を嫌うの!」

秋人の膝のロクが主の興奮を受け取ったかのように、ひと声鳴いた。

妙な納得と共に、ある種の嫌悪が体中に広がり、じわりと発汗した。
車内の温度が異常に上がっているように感じられた。

「秋人。14年前のその儀式の一部始終を君は聞いたんだよな。それは確かなのか? 誰が言った?」
秋人の膝のカラスが瞬幕を瞬き、口をあけて威嚇の体勢を撮ったが、秋人はすぐさまそれを抑え込み、大きくひとつ呼吸をした。

「人間は不浄だし、不浄なものに神薙ぎの記憶を持たせたまま生かしては置けないって。……母さんとキヨがそう言った。でも、じゃあなんでそんな人間を儀式に使うんだよ。不浄な人間なんか使わなきゃいい。僕なんか産まなきゃいい。
そんな人間なんか使うから僕みたいに何の意味もない子が生まれるんだ。僕だって流鬼なんかなりたくて生まれてきたわけじゃない!」

ロクが今度こそ制御不能に暴れて羽ばたき、フロントガラスに体を打ち付けた。車内には何故か焦げたような匂いが充満し、滝は慌てて窓を全開にした。ロクはそれでも車外に出て行かず、またすぐに秋人の膝の上で飛田に威嚇ポーズをとる。

心臓がバクバクする。情報を処理しきれずに、次第に胃のあたりが不快になって行くのが分かる。
この少年に対する恐れなのかもしれない。

「落ち着けって。秋人くらいの子供は大なり小なりみんな親からの愛情に疑問を持つもんなんだって。きっとどこかに間違いがあるんだ。もしかしたら全部が間違ってるのかもしれない。
いいか、この科学の時代にそもそも鬼なんてものが存在するって思う方がおかしいんだ。昔話や都市伝説なら面白いかもしれないが。どこかの時点で間違ってるんだ。全部迷信で、思い違いなんだよ」

そうだ。きっとそうなのだ。そんな残酷お伽噺に紛れて、根岸の死が処理されていいはずがない。これはやはり、殺人事件なのだ。罪があるならばきちんと法に従い償わなければならない。

けれど、現世から切り離されたこの村で、それはどこまで可能なのか飛田には分からなかった。
震える手でクーラーのスイッチを入れ、とにかく呼吸を整えた。
秋人は汗ひとつかいていない。その蒼白い顔を左右に振って、ゆっくり否定の仕草をする。

「母さんは人間じゃ無いんだと思う。簡単に人を殺すんだ。手も触れずに」
「……そんな」
「それが流鬼の力なんだって、キヨが言った。子供の頃に酷いいじめっ子を4人殺した。噂が鬱陶しくて住みにくくなってきたから、僕がお腹に居る間に、キヨが昔いた街に引っ越したけど、行く先々の学校で母さんは他の人と問題を起こして、やっぱり何人も死んだ。だんだんその街でも怪しまれ初め、住みにくくなって……」

「あ……秋人、ちょっと待ってくれ! それって……。そんなことってあるのか? いや、ありえないと思うんだけど。手も触れずにって」
「簡単なんだ。母さんには。頭の中の血管をちょっと裂けばいい」

飛田は絶句するしかなかった。
確かに根岸の時も耳から酷い出血があったと聞いたが、転落の衝撃なのだと誰もが疑わなかった。
納得するどころか逆に今、横に座る少年の言葉すべてが飛田への悪い冗談にしか聞こえなかった。
信じろと言う方が難しい。

「秋人。お前はいったいどう思ってるんだ。自分の家族のこと」
「変な事聞くよね」
秋人は一瞬、泣きそうな顔をして笑った。
「どう思ってたらいいの。二人は、僕の家族だよ。母さんは……母さんでしかない」
「……ああ。うん、そうだよな。悪かった。つい」
咄嗟に飛田は声のトーンを落とした。確かに酷な質問だ。

「僕にも分からない。これからどうしたらいいのか。この村と関係のない飛田さんに、本当の事を調べて教えてほしかった。僕は何者なのか。どうすればいいのか。だから話したのに」
「そうだった。それは分かってる」
「まだ足りない?」
「……そうだな。まだ出会ったばかりだし。秋人とも、小菊さんとも」

ゆっくりと深呼吸しながら飛田は言葉を選んだ。
自分はもしかしたら、とんでもないものに首を突っ込んでしまったのではないかという不安を鎮めるために。

「でももう、悩むこともないのかな」
ふいに秋人は静かな声で、フロントガラスの向こうの曇天を見ながらつぶやいた。

「今夜が須雅様の本祭なんだ。ほら、カラス達が騒ぎ始めてる。母さんのお腹の子も、もう生まれるかもしれない。そしたらきっと僕はもう、用済みになる」
「用済みってどういう意味だよ。一体誰がそんなことを。秋人は小菊さんの子だぞ?」

「根岸さんは殺されたよ」
「でもそれは……。え……」
飛田の中にひらめいた、およそ信じられない考えが体を電流のように貫いた。

「小菊さんのお腹の中の子って、まさか」

バシンと大きな音を響かせて、空からフロントガラスに黒い影が体当たりしてきた。飛田はビクリと体を跳ね上がらせた。
カラスだ。
ロクが狂ったように暴れ、車内で羽ばたいた。

「なんだ!」
ふと空に目を向けると台風接近の余波のせいか、どす黒い雲が恐ろしい速さで流れ、そしていつの間に集まったのか何百何千というカラスが遙か上空を飛び交い、空を更に黒く煙らせていた。
あまりのおぞましい光景に、飛田は喉の奥で低く唸った。

「認めてもらいたかった」
秋人が空のうねりを見上げながら小さくつぶやく。
先ほどの飛田の質問の答えなのだ。飛田は息を止めて秋人を見た。

「強い力がいるんだ。濃い血が必要なんだって、13の冬に母さんが僕に言った。お前の血が必要なんだって。だから」
「だから? 秋人それ……お前正気か? そんなことまでして」
「そんなことまでしても、僕は自分が存在する理由が欲しかった」

「馬鹿げてる。それこそ狂ってる。お前は根岸の子だ。人間だ。そんな真似しなくたって普通に生きればいいじゃないか。婆さんや母親が狂ってるんだったら出て行けばいい。俺でいいなら面倒見てやる!」
「ぼくは人間?」
「当たり前じゃないか! 他に何だってんだ」
何の迷いもなく吐き出した飛田の言葉に、秋人はニコリと笑った。

それは呆れるほど幼くて純粋な、ごく普通の中学2年生の笑みだった。
躊躇う様子も無く秋人はドアレバーに手を掛ける。

「ありがとう。最後に全部話せて良かった」
「……え、おい、どこ行くんだよ。これからちゃんとお前の身の振り方を考えよう。そういう相談所あんじゃん。それなりの手続き取って、生活変えて行かなきゃ……。おいって―――」

けれど秋人はドアを開けてロクと共に外へ飛び出した。
夥しい数のカラスの声と湿った風が流れ込んで来る。

「母さんとキヨが朝、山に入ったまま帰って来ないんだ。僕、探しに行ってくる。母さん、よく貧血で動けなくなったりするから」
「なあ秋人、待てったら。まだ話が終わってない」

「もうすぐ祭りが始まる」

秋人がドアを閉めた途端、風の仕業かカラスの仕業か、フロントガラスに折れた木々の枝や葉が無数に落ちて来て、まるきり前が見えなくなった。
外に出て排除しようとしたが、どういう訳かドアが開かない。
助手席のドアも同じで、まるで溶接したように、びくともしない。

「どうなってんだよ、くそっ!」
飛田は大きく叫び、ハンドルにこぶしを叩きつけた。
                       
            ◇

木の葉の隙間から空を覆いつくさんばかりのカラスを見上げ、さすがのキヨも背筋を凍らせた。

重そうに腹を抱え、ゆっくりと須雅神社への坂を上っていく華奢な背に、キヨは話しかけた。
「もう引き返した方がいいよ、小菊。銃声は聞こえなくなったけど、どこかで健造に出くわす気がする」

かがり火の当番のいない時間を狙って登り始めたものの、すぐそばで健造の散弾銃の音が轟き、二人は暫く参道を外れ、長い時間木陰に身をひそめていた。
けれど少し前に不意に音が止み、そのとたん当たり前のように小菊は山の中腹にある須雅神社を目指して登り始めたのだった。

まるで自分がさも神社の主であるように祭場へ向かう姿にキヨは苛立ちを覚えた。
須雅様に足しげく通ったからと言って、その腹の子が神格化するわけでもあるまいに。どうせ穢れた鬼の子だ。

キヨにしてみれば、小菊に関する感情のほとんどは、ただ空恐ろしい未知なる力に対する、好奇心でしかなかった。
運に見放され、何の富も幸せも縁のなかった自分の、唯一の優越感に他ならなかった。

小菊が秋人を抱いて子を孕んだと気づいた時も、最初はそんな濃い血が腹で育つはずもないと静観していた。
もしもそんな背徳の胎児が育ったとしたら、もう、それこそ計り知れない古の鬼の力の備わった化け物でしかないと。
けれど小菊の腹は小ぶりながらもしっかりと膨らみ、キヨは覚悟を決めるしかなかった。

秋人を育てていて、キヨは薄々気が付いていた。人に非ずは小菊だけではない。
秋人はその身の内に大きな力をひそめている。彼が宿すのは火と熱だ。流鬼を合祀し鎮めていた際神、カグツチのように。

ただ秋人は小菊のように馬鹿ではない。理性を持って今のところその力を抑えている。
その力の恐ろしさをキヨは誰よりも感じ、そして誘発しないように気にかけてきたのだ。

「ほら小菊。かがり火のせいでカラスが興奮してる。空が真っ黒だ。健造は今日はきっと狂ったように狩るよ。鉢合わせするのは嫌だし、やっぱりもう帰ったほうがいい」
けれど小菊は首を横に振った。ゆったりとしたワンピースが汗ばんでいる。

「健造はきっとどこかにいる。わざとどこかに潜んで待っているのよ、キヨ。だから行くの。あの男を、カラスの供物にする」
少女のような唇からこぼれた言葉は、どこまでも冷ややかで残酷だった。

「だけど小菊。健造を殺したら、秋人が悲しむね。仲のいい友達の父親だから」

「わたしには 関係ない」

小菊の声は怒気を強く孕んでいて、キヨはすこしばかり身震いした。



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