小説ブログ「DOOR」

いらっしゃいませ。右側の目次はシリーズ毎に帯の色分けがしてあります。【あらすじ】だけでも覗いて見ませんか?★切なくスリリングに登場人物たちの心の葛藤を描いて行きたいと思っています★イラストや漫画も時々更新♪

お題掌編 『もう半分の君と』(後編)  

10000文字までのショートショート

2019年、皆様、明けましておめでとうございます。 
……って、もう10日ですが (*'‐'*)

こんな感じで、今年ものんびりマイペースでやって行こうと思います。
秋ごろから、小説を書くことに、なかなか集中できない日々が続いていたのですが、徐々にまた、ペースを元に戻そうと思います。(戻ればいいな……)

では、前回、前半までしか更新していなかった短編を、ラストまでUPしたいと思います。
かなり長いと思いますが、もしよかったらどうぞ、少しずつ読んでやってくださいませ。

感想コメなどはお気になさらず、お気軽に、お立ち寄りください^^



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『もう半分の君と』 【後編】


「目玉焼き半熟じゃないからヤダ。野菜はいらない」
「黙って食べなさい。あんたじゃなくて朔の体のための朝食なの」

翌朝も、やっぱり悪魔だった。

けれど朔の顔をした生意気な生き物とのやり取りは、不思議な事に、私の中にしっくり来ていた。邪悪な感じのしない悪魔を、少し可愛いとすら思えてしまう。

「担任の中沢は冴えないオッサンだが女の子のレベルは高くて、3年2組はなかなかいいコミュだね」
「絶対に妙な事しないでね。朔の体なんだから」
「JKとイイ事するのも?」
「当たり前でしょ」
「1回くらい」
「だめ」
「それってジェラシー? JKに」
「悪い?」
思い切り睨みつけると悪魔は眉尻を下げて笑った。

「ちょっと僕の恋心が疼いちゃったけど。そっか、まさかあんなガキをね」
「朔に言わないでよ」
「そんな事に悪魔は時間を割かないからご心配なく。じゃあ学校行ってくる」

「ねえ、待って、あんたは朔の記憶とかは読めるのよね。あの子は……」
ああ、と振り向いて悪魔は笑う。

「葉月ちゃんの事、朔がどう思ってるか知りたい? じゃあ今夜は早く帰っておいでよ。たっぷり教えてあげるからさ」

悪魔を見送った後も鼓動のざわつきが止まらなかった。仕事中もずっと。

―――朔の本心。

ジワリと不安が募る。

けれどその日も予定外の残業になってしまった。
遅くに帰宅すると昨日と同じく不安そうな表情の朔が待っていた。

「SNSでみんなが、昨日から朔はテンション高いよなって……。でも学校の記憶がない」
「大丈夫。すぐ元に戻るから」
「なんでそんな事が分かるの」
「経験値よ。ほら、ご飯作るから、先にお風呂入って来なさい」

納得いかないながらも、素直に従う弟の背中を見送った。そして思わずため息がこぼれる。
何故だろう。今日、日没までに帰れなかったことを悔やんでいる自分がいる。
いや、私が悪魔に会いたかったのは、ただあの答えを早く知りたかっただけ。

―――きっとそれだけだ。

「なんで昨日、日没までに帰って来なかったのさ。待ってたのに」

翌朝、悪魔は不服そうに言った。けれどなぜか今日は朝食に文句を言ってこない。
和食が好きなのだろうか。朔が苦手な長ネギの味噌汁を美味しそうに飲んでいる。
「ごめんね」
「やめてくれよ、マジで謝られると面食らう」
「ねえ、悪魔さん」
呼び方が変だったのか、悪魔が笑う。

「そっか、葉月ちゃんは朔の気持ちが知りたいんだったよね。聞きたい?」
箸を置き、面と向かって来た悪魔に、私は胸がぎゅんと痛んだ。

今やろうとしてることは、とんでもない事なのかもしれない。
朔の隠された本心を、悪魔を使って聞き出すなんて。
信頼関係を崩す背徳行為だ。

「やっぱりいい。言わないで!」
咄嗟に悪魔の腕をぐっと掴んで止めた。
「なんで?」
「朔に申し訳ないもん。こんな事で気持ちを探るなんて卑怯よ」

大きくて綺麗な瞳がじっと至近距離で私を見つめてくる。不意にじんわり涙が滲んで視界がぼやけた。

「朔とは、ちゃんと面と向かって話がしたい。卑怯な事、したくない」
ヤバイと思った時にはもう遅かった。涙が座った悪魔の膝にこぼれる。
制服のズボンに黒いしみが出来た。

「葉月ちゃんに、また濡らされちゃったな」
悪魔は手を伸ばして私の頭をそっと撫でた。

驚いて首をすくめたが、胸がジンと熱くなり、あまりの安心感に、そのまま動けなくなった。

「葉月ちゃんってさ、ちょっと頑張り過ぎじゃない? 年上だからしっかり弟を支えなきゃとか、そんな事ばかり思って自分を追いつめてるでしょ。もう自由になればいいのに。朔だってもう子供じゃないんだ」
フッと手を離して、悪魔は立ち上がる。

「今日で僕の契約は終わる。明日からは大富豪の67歳のおっさんが僕の宿主だ。因果な研修期間だよ、ほんと」
ネクタイをほんの少し緩め、視線をまた私に向ける。

「仕事が終わったらなるべく早く帰っておいで。君と、ゆっくりお別れがしたい」
悪魔はそう言い残して、出て行った。

悪魔がそんな優しいなんて、どんな書物にも書いてなかった。ずるい。
今日は早く帰って、その正体を突き止めてやるんだ。

「そのために……早く帰るんだから」

ぽそりと、言い訳のように呟いてみた。


        ***

けれど今日も予定通り仕事は終わらず、結局自宅前にたどり着いたのは、陽がずいぶん陰った頃だった。

もうアウトだろうか。それともまだ悪魔は待ってくれているのだろうか。
息を切らせて玄関に飛び込むと、弟が廊下まで出て、私を待っていた。腕組みをしてニンマリ笑う。

「遅い」

――悪魔だ。

私は気が緩んでその場にへたり込みそうになる。その体を悪魔は支えてくれた。

「なんとも劇的なラストシーンじゃない。でも気絶しないで。日没まであと3分だ」
「残念。もう行っちゃったと思ったのに」
「その憎まれ口、もっと聞きたかったなあ。葉月ちゃんに惚れてもらえなかったのがほんと、唯一の心残り。やっぱ朔には勝てなかったのかな」
「当たり前でしょ。なんで悪魔なんか」
「残念。やっぱり3日じゃあ、このイケメンでも無理かぁ」
「この顔は朔のものよ。借り物で、都合よすぎる」
「あと3日あれば、きっと僕の気持ち届いたのに」
「何日だって一緒よ。さっさと消えちゃって」

言う端から、鼓動が騒ぐ。自分が何に混乱しているのか分からない。
ホッとしてるのか、悲しいのか、寂しいのか……。

悪魔が立ち上がり、握手を求める。

「お別れだ。3日間ありがとうね。君と出会えて嬉しかった。元気で」

「あなたは……もっと悪魔らしくなった方がいいよ」

しなやかな、けれどしっかりと力強いその手を握り、私は胸が張り裂けるような寂しさを感じた。

―――そう寂しいのだ。もう、この生意気で優しい悪魔とは、お別れなのだ。

「さよなら」

手を離さなければ。もう、この手は……。


「……え。葉月? ……俺、ここで何してたんだろ」

張りつめた不安げな声にハッと私は飛びのいた。
悪魔と入れ替わった朔が、自分の手と私を困惑気味に交互に見つめている。

「何って、今帰って来たところでしょ? さ、早く着替えて来なさい。ご飯すぐしたくするから」
「手、握ってなかった?」
「やだ、なんで。そんな事しないわよ。ほら早く……」
「葉月は何でいつもそうなんだよ」

思いがけない尖った朔の声に、私は思わず振り返った。

「俺はここ最近葉月と、ご飯の話と進路の話しかしてない気がする。今、確かに手を握ってたよね。なんで誤魔化す? ここ数日、おかしなことばかりでタダでさえ混乱してるのに。飯なんて何だっていいよ。俺は葉月に母親になってもらいたいわけじゃないんだ」

ぐっと眉根を寄せて見つめて来る朔は、今までとは別人のように感じた。
従順で優しい彼のイメージが、ふっと遠のいた。

「……ごめん。でもまだ朔は17歳で。普通の家庭の子のようにしてあげたくて」
「普通の家庭じゃないからいいんだよ。俺も葉月も親を亡くして悲しいのは一緒だし。血だって繋がってないんだ。葉月にずっと世話になるつもりもない」

朔の声は、内容とは裏腹に、とても優しかった。それが余計に私の心をえぐる。

「卒業したら義理の姉弟を解消しよう。そしたら葉月はもう、変な責任を感じなくて済むだろ。俺も自由に進路を決めるから」

「そんなに嫌だったの? ここで家族として暮らすのが。朔には苦痛だった?」

泣くまいと思った。泣いたりせずにちゃんと朔の言葉を聞こうと思った。
これは昨日の夜、悪魔に聞くはずだった朔の本心なのだ。
ちゃんと朔の言葉として聞けただけ、よかったじゃないか。少なくとも私は卑怯者にならなくて済んだ。ただ、胸が痛くて苦しくて、ひたすら悲しかった。

悪魔の口を通して聞いたなら、もしかして悪魔に縋りついて泣いたのかもしれない。
でももう、あの優しい悪魔もいない。

「ごめんね。葉月にはすごく感謝してる。……今日はもう、ごはんいらないから。おやすみなさい」

「朔……」

朔はそのまま部屋に消えてしまった。
私も食事などする気にもなれずそのまま冷たいシャワーを浴びながら泣いた。

―――これから、わたし、ひとりぼっちなんだ。


翌日は土曜日で、私も朔も休日だった。けれどそのことが余計に気を滅入らせた。あんなに大切な存在だった朔なのに、顔を合わせるのが辛い。

いつものように朔に朝食を作っていいものかどうかも分からないまま、リビングに行くと、休日は遅くまで寝ているはずの朔が、なぜか庭に立っていた。私に気づいたのか、まぶしい光を浴びながらゆっくり振り向く。

戸惑いはすぐに驚きに変り、私の鼓動は馬鹿みたいに高鳴った。

「悪魔?」

朔の姿をしたそれは、あの人懐っこい笑みで私を待っていたのだ。
「起きるの遅いよ葉月ちゃん」

「なんで? どうして? 大富豪のおじさんは?」
私は思わず庭に走り出てその腕を掴んだ。頭が混乱し、心臓がバクバク音を立てる。

「ここの3日間は今までで一番刺激的だったから戻って来た」
「戻ってって……契約は?」
「あれ? 葉月ちゃんは悪魔がちゃんと約束を守る輩だと思ってた?」

「……あ」

そう言えばそうだ。なぜこの悪魔は嘘をつかないと思ったのだろう。人間には非情でわがまま放題のはずの種族だ。

悪魔は言葉を失くした私に視線を合わせ、そっと肩に手をのせて口を開いた。

「昨日の夜、朔は酷い事を言ったみたいだね。こんなに一生懸命な君を悲しませる奴を僕は許せない。だから戻って来た。これまで通り昼間は僕、夜は朔に体を返す。……ね? いいだろう? 朔が夜、君に素っ気なくしたら、昼間の僕が慰めてあげる。朔がここを出て行こうとしたら。僕がくい止める」

「でも……悪魔は約束を守らないんでしょ? いつか夜の朔もあなたが乗っ取ったりしない?」

「そうだね、なかなか鋭い。でもどうだい、あんな恩知らずで素っ気ない朔なんかより、僕と暮らす方が楽しいと思わない? 僕は好きになった人は真剣に守る。これだけは嘘じゃない」

悪魔の言葉は真剣だった。朔と同じ眼差しで、じっと私を見つめて来る。

この悪魔の優しさはきっと本物だ。
きっと辛い時、慰めてくれる。甘えさせてくれる。

もう、朔の中に私はいない。どんなに私が想っても、その気持ちは届かない。

だったら……。でも。それって……。

「悪魔さん」

「答えは出た?」

「お願い。この体を朔に返してあげて」

「……え? なんで」

予想外だったのか、悪魔の声が裏返った。

「悪魔も、朔も、朔の体もみんな好き。でもどれひとつ私のモノじゃないの。朔の事が大好きで、ずっと一緒に居たいけど、そんなこと私が決めることじゃない。朔の事が大事だから、朔は朔として幸せになってもらわなきゃ困る。私の我が儘を通していいわけないのよ。
だからお願い。この体から出て行ってあげて。全部朔に返してあげて。お願いします」
私は万感の思いで深く頭を下げた。

「大事な朔……か。ねえそれは、弟として?」
悪魔の質問に、顔を上げて、首を横に振る。

「愛してる。一人の男の人として」

悪魔相手になら何でも言えた。きっと笑い飛ばさずに聞いてくれると思ったから。
この優しい悪魔ともお別れ。朔とも。―――もう全部終わったんだ。


「わかった。じゃあ悪魔は消えてあげる。これからは、君だけの朔だ」

優しく抱き寄せられ、胸の氷がじんわり溶けていく。もう少しだけ、このままでいたかった。もうこれからは、愛おしい朔も、優しく頭を撫でてくれる悪魔も、いなくなるんだ。

「私だけの朔なんて、いないよ。私、ひとりぼっちだ」

「葉月の朔だよ。これからもずっと」

「……え」

声質が変わった。悪魔じゃない。けれど、いつもの朔でもない。

私は顔を上げた。すぐ間近に朔の恥じらうような笑顔があった。

「朔?」
私が口を開くと同時に、背後から聞き覚えのある男の声が響いた。

「僕の完敗だ。朔くん、君にはウチに来てもらうよ」

手を叩きながら生垣の裏から現れたのは、4日前、私がコーヒーをかけてしまったあのアゴ髭男だ。

「あなた! 悪魔!」
一体どうなってるの? 朔は驚くでもなく、「よろしくお願いします」と男に頭を下げている。私は口を開けて呆けたように立ち尽くした。

「葉月さん。朔君の夢を知ってる?」
アゴ髭男が朔の傍まで来て問う。私は首を横に振った。

「朔君はずっと役者志望だったんだ。うちの劇団に何度も押しかけてね、高校を出たら正式に役者にしてくれと言って来た。ずっと迷惑を掛けてる人がいて、その人を解放してあげたいんだと言って」
「あ、その話は」
朔が顔を赤らめたが、男は続けた。

「うちも使えない役者を取る余裕は無いんでね。既定の入団試験を受けてもらった。“悪魔に半分乗っ取られる男”を演じ、一番近しい存在の人に信じさせられるかどうか。という難題。
そして、彼は見事に合格。最高得点だ。いい拾いものをしたよ。彼はきっとうちの看板スターになる」

「入団試験……」

私はどこか感情と切り離されたところで、ふわふわ浮いていた。

「葉月、騙してごめん。この試験をクリアするために、俺の夢を言い出せなかったんだ。昨日も言葉足らずで不安にさせちゃったよね。でも葉月に自由をあげたいと思ったのは本当なんだ。守られる立場じゃなくて、これからは一人前の男として、君と一緒に居たい。……だめかな」

あの照れた、私の大好きな朔の笑顔だ。

不意に劇団の座長が役者のように一礼し、気を利かして植え込みに消えた。
ここからは二人の舞台だ。

「だめかな……って。ずるいよ朔。私、さっき本人相手にめちゃくちゃ恥ずかしい告白したし」

視界が歪む。安堵と疲れと嬉しさとで、気持ちのコントロールが利かない。

「いろいろごめん。でもこの試験は俺の一生を左右する難関だったから、バレないように悪魔パートのテンションハイに持って行くのに必死だったんだ。悪魔は、言わば俺の理想。もう半分の俺」

「……もう半分の?」

「葉月への気持ち、ずっと隠して来て辛かった。ばれないように、わざと素っ気ないふりをした。でも気持ちは膨らむし、葉月の気持ちも気になるし。……だから、あの悪魔のキャラが生まれた。あいつは俺。馬鹿だけど正直な、もう半分の俺。卑怯だと思ったけど、このチャンスに葉月の俺への気持ちを確かめたかったんだ」

言葉が出なかった。涙がこぼれないようにするのが精いっぱいで。

「試験のために葉月を巻き込んで、嫌な思いをさせちゃったけど。でももうこれからは絶対騙さない。今まで閉じこめてた気持ちも全部出していく。だから……」

腕を伸ばし、ぎゅっと抱きしめてくれたのは、まるであの悪魔。そうだ。この朔の中には、ちゃんとあの悪魔も住んでる。

ユーモラスで優しくて、ふんわり守ってくれる大きな存在だ。

ああ。なんだか悔しい。悔しくて、そして嬉しくて、愛おしくてたまらない。


「ずっと一緒に居てくれる?」

朔が、こくんと力強く頷く。

私は心地よい日差しの下、しなやかでたくましい体をギュっと抱きしめた。



 -fin-


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お題掌編 『もう半分の君と』(前編) 

10000文字までのショートショート

ご無沙汰しています! 久々の短編コーナーです。
今回の短編も、お題を貰って書いたものなんですが、1万字近くあるので、前編と後編に分けて、載せさせてもらいますね。
(それでも5千字ずつあるんですが(;'∀'))

今回のお題は「半分」。
私には珍しい、恋愛ものです。
不慣れなので、ちゃんと恋愛ものになっているのかどうかすら、分からないんですが……。

後半は、10日後くらいに更新します。
ほんの少しトリッキーなので、前半のコメント欄は閉じさせてもらいますね^^
(次回の更新で、一気に読んでもらったほうが、いいのかな?)←え、今回のはスポンサー広告対策ですか(;'∀')
年明けの、後半の更新は、コメント欄を開けて、年明けのご挨拶も兼ねたいと思います。

あ、拍手コメ欄は開けています。雑談とか、なんでもウエルカムです(*´ω`)


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(あらすじ)
ひとつ屋根の下に住む、血のつながらない姉、日向 葉月(ひゅうがはづき・22歳)と弟、日向 朔(ひゅうがさく・17歳)。
密かに弟に恋心を抱く姉の葉月は、想いを隠しながら、ひたむきに弟の生活を支えるのだが、ある日ちょっとしたハプニングの末、悪魔と奇妙な契約を結んでしまう。
意外に紳士な悪魔が広げた波紋に、葉月の恋心は大きく揺れるのだが……。


 もう半分400


『もう半分の君と』


――また少し背が伸びた? けれど体の線は相変わらず細く、しなやかだ。
長いまつげが影を落とす瞳は物憂げで、見てるだけで溜め息が漏れる。

高校3年生の弟、朔が制服のネクタイを結ぶ姿を眺めながら、私は彼の朝食の後片付けをする。見てる事に気づかれないように、私はいつも意識して視線を逸らした。

「葉月。じゃ、行ってきます」
そして弟はいつもと同じように伏し目がちに私に礼を言い、登校していくのだ。
「気を付けてね」母親のように声を掛ける。

実際私たちにはもう2年前から両親はいない。そして私と朔は、血の繋がりもない
私の父と朔の母が再婚したのは5年前。そしてたった3年、家族ゴッコのような日々を過ごした後、二人は車で出かけた先で事故を起こしたあげく、あっけなく他界してしまった。

残されたのは小さなこの家と、物静かな15歳の少年と、短大を出たばかりの20歳の私。資産など無く、僅かな保険金も事故の賠償で消えてしまった。

『私が働いて高校と大学は出してあげる』
葬儀の後、途方に暮れた目で私を見つめて来た朔に、私は力強く言った。姉としての責任もあったが、けれどいっしょに暮らし始めて改めて気づいた。

私は単純に、朔が自分の元から消えてしまうのが嫌だったのだと。


「もう、なんでバイトの子、急に休むかなあ」
私はむかつきながら、カフェのテラス席の後片付けを急いだ。
自宅に近いこのカフェで仕事を始めたのは、なるべく早く帰宅し、朔に食事を作りたいからだったのに、今日も定時には上がれそうに無い。

そして悪い事は重なる。
飲み残したっぷりのコーヒーや積み重ねた皿を抱え、日の暮れていく空を仰ぎ見た刹那。イスの脚に躓き、座っていた黒づくめのスーツの男に、見事にコーヒーをぶちまけてしまった。

ああ、終わった。テーブルの上の書類までぐっしょりだ。

店中のダスターとタオルをかき集めて拭き、思いつく限りの謝罪の言葉を並べてふっとその男の顔を見ると、驚いたことに微笑んでいる。
精悍な浅黒い顔にあご髭。どこか堅気でない雰囲気の男の意味不明の笑みに、体が粟立った。

「君、日向さんって言うんだね。下の名前は?」
私の名札を見つめ、男は更に微笑む。私は嫌な汗が止まらない。
「葉月です。すみませんでした、あの、お洋服はクリーニングさせていただ……」
「その必要はない」
「え?」
「君、どうやら弟がいるみたいだね。高校生?」

いったい何。なぜ弟の存在と歳を? 不気味過ぎて返事もできず引きつる私に、その男は更にあり得ないことを言って来た。

「3日だけでいい。君の弟の体を半分僕に貸してくれないか? 日が昇ってる間だけ僕が体を支配する。夜はちゃんと返すから。いいだろ?」

「意味がわかりません」
そうか、この人ヤバい人だ。店長を呼ぼう。そう思った端から男が畳みかける。

「このスーツと重要書類の弁償として3日だけ昼間の弟の体を貸してほしい。他に選択肢はないよ。弟はちゃんと学校も行けるし、何も問題は起こさない。中身が僕に変ってるってだけで」

不気味すぎて泣きたくなるのをぐっとこらえる。そう言えば今、店長は不在だ。
「ますます分かりません」

「僕は今、人間というものをいろいろ試着してる研修員なんだ。人間には悪魔なんて呼ばれてる種族なんだけど、こうやってちゃんと交渉してるところが紳士だろ?」
「わかりました。今日は店長が不在なので、後日また…」
「了解なんだね?」
「いえ、そうじゃなく……」

けれど自称悪魔は笑みを浮かべたまま、濡れたスーツを気にすることも無く、宵の雑踏に消えてしまった。


「お疲れ様。今日は少し遅いね」
帰宅すると朔が穏やかな笑顔を向けてくれた。それだけで一気に疲れが吹き飛ぶ。

「うん、ちょっといろいろあって……。あ、それよりすぐご飯作るから!」

けれど朔は相変わらずの遠慮がちな笑みを浮かべ、「適当に済ませたから平気。俺の事、あまり気にしないで」と、部屋へ引っ込もうとした。手には大判の冊子のようなものを丸めて持っている。

「大学の入試案内?」
「え……違う」
「ちゃんと入試受けてね。朔を大学に行かせるくらい、何とかなるから」
「言ったろ。高校を出たら働く。葉月の金は葉月が使ったらいい」
「もったいないよ、朔は頭いいのに。高卒じゃあろくな就職口は……」
けれどこの話は打ち切りとばかりに朔は視線を逸らし、自室に引き上げて行った。

堂々巡りだった。朔をちゃんと一人前の大人にしたいのが私の願いなのに、どこか朔は遠慮し、何かを諦めているように見える。
その夜もそれっきり朔は姿を見せず、私は悶々と家事を片付けた。

――けれど次の朝。
リビングに居た制服姿の青年は、朔であって、朔ではなかった。

「葉月ちゃん、昨日は契約ありがとう~。いいねえ高校生の体。制服っていっぺん着てみたかったんだ。どう?」

「どう……って。なに」

認めたくなかった。けれど到底ありえない出来事が起きてしまったのだ。
朔の口から出て来た言葉はまるっきり昨日の男の口調だ。でもまさか。そんなバカな。

「ちゃんと理解してくれてる顔だね。心配しなくていいよ、朔の記憶はちゃんと引き継いでるし、僕は普通に朔として学校に行って、楽しくお勉強して帰って来る。日が沈んだらちゃんと抜けてあげるし、たった3日間だ。安いもんでしょ」

「いったい何が目的で」
「研修をクリアしないとボスに認めてもらえないんだ。悪魔だって規律があってさ。かわいいJKと不埒な事しようとか思ってないから安心して」

「当たり前でしょ! その体で何か問題起こしたらただじゃ置かないから!」
頭の血管切れるんじゃないかと思うほど叫んだが、朔の顔をした悪魔はニヘラっと交わす。

「殴っても刺してもいいけど、体は朔だからお忘れなく。ねえ葉月ちゃん、3日間は日没までに帰っておいでよ。悪魔な弟と話をするのも、ちょっと楽しいかもよ?」

そう言って不意に肩を抱き寄せて来た。ふわりと朔のコロン。心臓が跳ねる。中身は朔じゃないと分っているのに振り払う事が出来なかった。

「じゃあね。また夕刻」
色気をたっぷり含んだ視線を投げ、朔の体を乗っ取った悪魔は玄関を出て行った。

けれどしばらく私の体の硬直は解けなかった。
選択肢がなかったとはいえ、私はとんでもない事を許してしまったのかもしれない。

心臓がザワザワと騒がしい。触れられた肩が、いつまでも熱かった。

その日私はきっちり定時に職場を出て、買い物もそこそこに家路を急いだ。

今朝のはもしかしたら自分の勘違いか、もしくは朔の悪ふざけなのかもしれないと、仕事中ずっと考えた。
大体悪魔とか、馬鹿げている。早く帰って真相を確かめたかった。

西日が差す玄関を開け、リビングに飛び込むと、ラフな私服姿の朔がソファに座り、テレビを見ていた。普段観ることも無いスプラッターホラー。

「葉月ちゃんお帰り。一緒に見ようよ。スッゲーよくできてるよ、このゾンビもの。肉片すごい」
人懐っこい笑顔で手招きする。あんなに砕けた朔の表情を、私は見たことが無かった。

「学校で変な真似しなかったでしょうね。朔は受験控えてるんだから、内申点下げるようなことしないでよね」

「ん? 朔は大学行く気無いよ。卒業したら独り立ちしたいみたい。姉の世話になるのが苦しいみたいだね」
「え」
ドキリとした。まさか……。何かの間違いだ。

「ねえ、そんな事よりもっと楽しい話しようよ。朔の高校生活興味ない?」

しなやかな筋肉を感じさせる腕を伸ばして私の手首を掴む。
力に委ねて横に座ると、すぐそばに、血のつながらない弟の端正な顔があった。

途端に息苦しくて、逃げたくなる。

私が見守って来た朔は控えめで礼儀正しく、少し触れただけで顔を赤らめるシャイな少年だった。そんな朔に、私はどこか惹かれ、そして守らなければと思った。
けれど目の前に居る青年はそれとは違う、言葉で形容できない感情を私に抱かせる。
ドキドキするとか有り得ない。これは朔じゃない。なのに……。

この状況をどう理解しようと、戸惑いつつ座っていると、悪魔はフッと立ち上がった。
「いいとこなんだけど僕トイレ行ってくるわ。そして残念ながら交代の時間。また明日ね、葉月ちゃん」

悪魔がドアの向こうに消えたあと窓の外を見ると、いつの間にかすっかり日が暮れていた。
そしてしばらくして戻って来たのは、私の良く知る、いつもの朔だった。

「葉月……、どうしよう。俺、……朝からの記憶がないんだ」

ホッとすると同時に、なぜか涙が滲んだ。そう、この純粋な青年が、本当の朔。
触れることの出来ない、大切な弟。

「きっと疲れてるのよ。心配しなくて大丈夫。ぐっすり寝れば……2日後にはすっかり元に戻るから」

人懐っこい笑みを浮かべる、触れたがりの悪魔は、もう2日で居なくなる。


        ***

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(雑記)運動会 

☆雑記・四方山話

あと30分で広告が出てしまう事に気づき、慌てて記事を更新しています。(←なにやってんだか)
本当に、更新が滞ってしまってお恥ずかしいです。

とはいえ、先日、オフ会にて、いつも仲良くしてくださっている皆さまとお会いして、とても楽しい時間を過ごさせていただいたので、なんかそんなにご無沙汰していないような感覚になっていて(;´Д`)
その節は、幹事さんはじめ、皆さま、本当にお世話になりました。
もう初対面からみんな顔見知りのような、長年のお友達のような感覚で、すっかり馴染んでしまいました。
(馴染み過ぎて、なんかいろいろ恥ずかしい事を喋った気がしますが。てへ(*´ω`))
楽しい時間を、ありがとうございました!

最近創作の方にあまり時間を割けていなくて、ちょっと停滞期だったのですが、皆様とお話しているうちに、また頑張ろうと思えるようになってきました。
ブログの方にもまた、少しずつ、書き溜めたものを載せて行こうと思います(*´ω`)
読み逃げばかりで、コメントもなかなか書きに行けていなくて、申し訳ないです。
また、のんびりとお付き合いください。


今日は、飼い犬の運動会でした。

去年の末に飼い始めたワンコがいまして。その子がね、とってもおバカな子で、悩んだ末、半年ほどしつけ教室に通わせたんです。
ワンコのしつけって、先生がワンコをしつけてくれるのかと思ったんですが、まったく違いました。
先生が、飼い主を、ちゃんとした飼い主になるように、レッスンしてくれるんです。
先生曰く、「本当におバカな犬って、いないんですよ。飼い主が、その犬の尊敬に値する存在になれば、ちゃんと飼い主の気持ちを汲み取ってくれるようになります」
なんだかね、本当にいろいろ目から鱗でした。まずは飼い主がちゃんとしたリーダーにならなければいけないんですね。

傍から見てると厳しすぎるようなしつけも、実はワンコの安全を守り、ワンコの充実した日々を手助けするものなんだなあって。

その先生の教室のワンコたちを集めてね、今日ちょっとした競技大会が行われたんです。
うちのワンコ(ミニチュアダックス1歳)は、家の中ではやんちゃ坊主なんですが、外ではてんでヘタレで、18匹の初対面ワンコ達にぶるぶる震えっぱなしでした。

でもだんだん馴染んで来て、ベテランワンコに交じって、一生懸命教わった事を頑張ってこなしました。
なんか、幼稚園児の運動会を見守る親の気分(笑) 

ワンコも私も、今日はくたくたですが、とても充実した楽しい時間を過ごせました^^

……って、すみません、なんか親ばか日記みたいになっちゃって(>_<)


運動会 1

運動会 2

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過去の共著作、『曇りのち雨、ところにより猫』 

☆雑記・四方山話

わあ、もう10月もあと少しですね。
創作から離れてバタバタしてるうちに、一年が終わってしまいそうで怖いです。

月に一度は、今までエブで書いた短編をこちらに載せようと思ってるんですが、今回は共著作のため載せられないので、リンクを貼ってご紹介します。

エブの方で以前、仲良くなったクリエさん(Sさん)と組んで、お題小説に挑みました。(以前チラッと書いたかもしれないんですが)

お題は「猫」。2人とも猫好きなので、ぜひこれは書いてみようと言う事になって。
いろいろ案を出し合い、私の案を採用にすることになりました。
でも、私が立てたキャラ2人では、物語の帰結点がぼんやりしてうまく行かない。そこでSさんが新たに強烈なキャラを提案して来てくれたんですが、その二人を加えることでストーリーがスッと整い、面白味が出てきました。

書き始めた作品はグーグルドライブにあげて、同じ画面を見ながら双方向で書きこんで行きます。
キャラのシーンごとにバトンタッチして、作り上げていくんです。

私が持っていないものを、その方はばっちり持っていて、そして目指す方向性や、萌えポイントが同じなので、とても安心して作業して行けました。
それでも感覚の違いや、セリフに違和感がある場合は遠慮なく言います。
「ここ、いらなくない?」、「この心理だと、こういう行動にはならないよね」、と。
それによって、今まで気づかなかった客観的な見方も体験出来て、すごくいい経験になりました。何気なく書いてる事が、視点を変えれば「ん?」ってなるってこと。結構あるんですよね。

お互い空き時間が少ないんだけど、なるべくチャットしながら、書き進めていきました。
一方が表現に困ると、もう一方が「こういうのはどう?」と、書きこんでいく。
「わあ、すごい、勝手に物語が出来上がっていくw」と、笑いあったり。
ザザット書いて行った結果、10000文字指定の所を、11000文字になり、余分な部分を泣く泣く削る作業に1週間かかりました。

3週間以上かかってやっとできた短編は、私の一番のお気に入りになりました。
笑えてはらはらして萌えてキュンとするサスペンスです、たぶん。

この作品はそのSさんのページに置き、Sさんの名で発表し、そして、コンテストで入賞させていただきました。

リンクを貼っておきますので、もしお時間がありましたら、お立ち寄りくださいませ(*´ω`)

→  『曇りのち雨、ところにより猫』 




ちくわ260


猫萌え、たっぷりあります♪

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(イラスト・雑記)流鬼の表紙絵 

☆イラスト・マンガ・水彩画

9月。 ……が、うっかりしてる間に終わりそうです。

9月はプライベートでいろんなイベントごとがあって、本当にいろいろ忙しい月でした。
ようやくひと段落したのですが、ちゃんと役目を果たせたのかどうか、後でひとり反省会しちゃって、ひとりで凹んだり(笑)
幾つになったら、ちゃんとした大人になれるのかなあ(*´Д`)←外がわの歳に追いつけない中身……。

さて、最近の執筆活動ですが、今、投稿小説サイトのほうで、拙作『流鬼』を、修正しながら更新しています。

一度じっくり読み直したんですが、文章やセリフや描写の酷さに頭を抱えました。
あんな出来そこないを読ませてしまって、ほんとうに申し訳ないです( ;∀;)
ずいぶんと修正を重ねて、なんとか文章的には恥ずかしくない程度にまで持って行けていると思います。

ブログの方は、あちらの修正がすべて終わった後、修正するか、それとも非公開にしてしまうかのどちらかになると思います。
ここで仲良くしてくださっている皆さまは一度読んでくださってるので、大丈夫ですよね(*´ω`)

皆さんを困惑させたラストの展開ですが、その部分は(セリフ等は変えつつも)、概ね変えずに行こうと思います。
スッキリしなくて悲壮なラストですが、そこにテーマが組み込まれているので、あれはあれでいいかな……と。
(でも何年かたって、ころっと違うラストを書いてみたくなるかもしれません( `ー´)ノ)

修正版用に流鬼の表紙絵を二つほど描いたので、ここに置いてみますね。

初期の数話はカラスが表紙。

中盤になって、秋人と小菊が表紙に登場です。

小菊…………本当にイメージ通りに描けなくて、何時間も苦戦しました。
まだ完ぺきではないんですが、少し近いイメージで描けたので、妥協してみました。
うまい絵師さんに描いてもらいたいな~と、初めて思いましたが、きっと、脳内のイメージを伝えることが出来ないんだろうな(;´Д`)


〈初期〉流鬼2ブログ

〈中期〉流鬼1ブログ




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(雑記)9月。書き疲れてカムバです。 

☆雑記・四方山話

丸まる2週間、ご無沙汰していました。

もう、こんなに追い立てられて物語を書いたのも初めてですし、下書きどころかプロットも立てずにPCで公募作品を書き始めたのも初めてでした。

ライブ執筆と言う感じで、いったいこの後どうなるのか、1人リレー小説のような感じで物語を膨らませて行きました。
一言一句計画的に書いていた今までとはまるで違って、すごく面白かったんですが、本当に2週間でまともなものが書きあがるのか、すごく不安でした。

でも、何とか昨日の締切日、ギリギリに仕上がりました。
2万文字くらいで終ったらいいな……と思っていたのに、結局5万文字。
仕事やそのほかの用事をしながら、空き時間はとにかく書いていました。
もう二度と出来ないな。肩や手首が痛くてシップだらけです。(笑)

でも不思議なものですね。書く端から物語が構築されていく感じ。
とんでもない奇想天外現代ファンタジーなので、「なんだそりゃ」と、自分で突っ込みながらも、最後ウルっとしてしまったり。

とても賞には絡めないドタバタファンタジーなんだけど、いい経験でした。
今までと全く違うものも、書き始めてみれば何とかなるのかもしれないと思えたりして。

これからはまたのんびり、皆さんの所にお邪魔して、作品を読ませてもらいますね。
コメントは遅くなるかもしれませんが、またよろしくお願いします(*´ω`)


==========
全然関係ないのですが(;'∀')、この2週間、唯一遊びに行ったイベント。
私の大好きなヒップホップグループ(BTS:防弾少年団)が、自らデザインしたLINEキャラクター(BT21)が、日本上陸!
期間限定のBTカフェを必死に予約して、行ってまいりました。(←本当にどうでもいい話題でゴメン)

予約でもなかなか席が取れず、1時間半総入れ替えの満員御礼。
BTSの人気の凄さ、改めて感じました(*´ω`)

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タタ5066
私の大好きなテテがデザインしたキャラ(タタ)が一番ブキミ(笑) 2000円のバーガー。

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リーダーのデザインしたコヤのパフェ(*´ω`) 

テーブルチャージもいるし、めっちゃ高いのですが、BTSの曲を聞きながら、ファンと同じ空間で過ごす時間は、何とも幸せでした。(ほとんど周りは10代~20代だけど、くじけないんだもん(/_;))




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(イラスト・雑記)2週間お留守にします 

☆雑記・四方山話

このところすっかりご無沙汰してしまって、ごめんなさい(>_<)

今年のお盆はとにかく親戚関係のお客様が多くて、バタバタしっぱなしでした。
実家に帰るタイミングも逃し、のんびりする間もなく、今日からまた平常運転です。

そんな中、2日前から、8月末が締め切りの公募に取り掛かってしまいました。
書けたらいいなあと思っていた公募なんですが、2カ月くらいなんのプロットも立たなかったんです。
今回は諦めるか、いや、でも書き始めたら何とかなるかも……と、今までにない暴挙に出ました←そんな大げさな^^;

あと2週間。仕事も休めず、休日はまたお寺に何度か行かなければならずで、時間が……。

今までもご無沙汰ばかりだったのに、また8月いっぱいご無沙汰してしまうと思います。(/_;)
作品は、まともなものが仕上がる気がしないんですが、とりあえず時間いっぱい書いてみようと思います。
9月になったら、皆様のところにガッツリおじゃましますね。

ご無沙汰のお詫びに、巨大かき氷を緑ネコといっしょに食す水色ネコを、置いて行きます( ;∀;)←え、何のお詫びにもなっていない?(笑)

たまに、足跡を残すかもしれませんが、皆さま、また9月にお会いしましょう~。



かき氷3

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(イラスト)水色ネコの夏 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ああ~、うっかりまたスポンサー広告を出してしまいました。
ひと月が過ぎるのが、なんと早いことか。
自分は何も進歩していないのに、なんだか焦るこの頃です。

本当に命にかかわるほどの猛暑が続きますね。
仕事で週に一回、屋根裏倉庫で品出しをすることがあり、かなり危険を感じているこの頃です。
先日は涼しい部屋に戻った後、両手が攣って、しばらく何もできなくなりました。
それも水分不足が原因なのかなあ……。
お盆を過ぎるまではこの暑さ、続きそうなので、皆さん本当に気をつけましょうね。

あ、以前に見逃した映画、『恋は雨上がりのように』を、この前ようやく観て来たんですが、期待以上に面白くて、青春恋愛ものにもかかわらず、涙ぐんでしまいました。
「泣かせよう」として作られた映画やアニメにはほとんど泣けない私なのですが、なんだかあの純粋さに泣けてしまいました。
役者がみんな良かったからでしょうね。
チョイ役がみんな、光っていました。
(大泉さん最高( ;∀;) そして戸次さんとの共演に別の涙)←NACSファンはきっと分かる。
主題歌がまたいいんですよね。
↓映画の総集編にもなってて、このMV最高!
「フロントメモリー」

最近、青春ものを書く際、こんな感じの気分的に高揚できる曲を探しているんですが、なかなか見つからなくて、悲しいです。

「青春」「ポップ」なんかで引っかかるのは最近出て来た女性ボーカルのバンド曲が多いんだけど、個性が強すぎて、イメージが膨らむのを殺してしまう。

もっと、創造力を膨らませるような曲に出会いたいなあ……。
今のところ、一番創造力を膨らませてくれるのは、池田綾子の「プリズム」かな。
観たことないけど、アニメ『電脳コイル』の主題歌だったそうです。

うーーん、でも、曲に頼らずにサクサク書けたほうが一番いいんですけどね(*´Д`)
引き出しの数も少ないし、いろいろ悪戦苦闘しています。


さて、暑い夏には冷たいものがやっぱり欲しくなります。

水色ネコ、初めてソフトクリームに挑戦。きっとおいしくて夢中になると思うんだけど、その数分後が心配……(´゚∀゚`;)


そふとburogu




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日常ファンタジー 『妖狐な日々』 

10000文字までのショートショート

ご無沙汰しています! 久々の短編コーナーです。

今日更新するこの短編も、エブさんの方で、「そして○○年後……」という言葉を入れて短編を書きなさい、というお題を出されて書いたものなのですが、賞には至りませんでした。
愛着のあるコメディだったのですが、やっぱり少し遊びすぎたかなあ……と、反省。

でも、1年後、加筆修正して「日常を扱ったファンタジーを書こう」というコンテストに出したところ、佳作を戴きました。

自分が面白いと思ったストーリーをスルーされる悲しみと、それを評価してもらった喜び、両方を体験させてもらえた作品でした。

今思うと、評価の基準はやっぱり、『テーマをちゃんと生かせているかどうか』、なんですよね。
同じ作品でも、それが出来ているかどうかで評価が変わってくるし、求められたものを書く力があるかどうかを最終的には見られているんだと、最近分かってきました。

逆に言うと、作者が面白いと思っても、求められていない内容なら、評価はできないよ……という事なのでしょうね(゚´Д`゚)゚。
とてもシビアだけど、これが現実なんだなあ……。

この日常ファンタジーの審査員は、書評家の、三村美衣氏。
(著書『ライトノベル☆めった斬り』(太田書房/共著)、『SFベスト201』(新書館/共著)など。)
現在、創元ファンタジイ新人賞の最終選考を務めている方だそうです。

三村さんには、紹介文と、後ほど個別に、とても温かい選評をメールで戴きました(/_;)

↓では、三村さんが書いてくださった紹介文で、物語を始めたいと思います。

*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..

ひょんなことから、京介と妖狐のカイは魂を半分ずつ分け合うことになり、離れると京介の命に危険が及ぶ。おかげで初デートにまで、狐の少年を連れていくことになるのだが……。
人間と妖狐の少年との友情を描いたほのぼの癒し系。キャラも展開もとにかく可愛い!


妖狐表紙300


『妖狐な日々』


―――いったい、どうしてこんなことになったんだろう。

京助は、カチカチに焦げた朝食の目玉焼きを箸の先でつついた。

「お前、料理ぜんぜんダメじゃん」
そして目の前に佇む人物を、ため息まじりに非難してみる。

昨日まではたった一人で朝食を食べていた26歳、しがないサラリーマンの京助に、突如できた同居人だ。
けれど、この状況はまったくちっとも嬉しくない。

「……ごめんなさい」
彼はシュンとし、女の子のような声で言った。

同居人は、昨日までは全く見ず知らずだった、まだ小・中学生くらいにしか見えない小柄な少年だ。
サラサラヘアに顎のほっそりした色白で、目は大きく、琥珀色に澄んでいる。

半袖Tシャツにジーンズ。本当にその辺から浚ってきましたと言う感じの、見た目は可愛らしい少年だ。

事情を知らない人が見たら、こんなあどけない子供をマンションの一室に閉じ込めて、朝っぱらから召使の様にこき使うなんて、一体何を考えてるんだこのド変態め……と非難されかねない状況だが、実際途方に暮れているのは京助の方だった。

「でも大丈夫だよ京助さん。オレ、こう見えてもけっこう呑み込みが早いんだ。すぐにいろいろ勉強して、毎日うまいもん作って食わしてやるから! だから安心して!」

少年はニカッと人懐っこい表情で笑い、髪の間から生えた、三角の茶色い耳を掻く。
更に、シャツの裾からポワンと垂れる、モフモフの亜麻色しっぽをフルンと揺らした。

―――人間だったら、まだ救いがあった。
ママの所へ帰りなさいと、その奇妙な付属品をくっつけたコスプレ少年を追い払えば済んだ。

けれどどんなにその耳と尻尾を調べても、体温と絶妙な柔らかさを持つそれらモフモフは、ちゃんと血の通った本物だとしか思えなかった。
無理に引っ張ってみてもポロリと取れる事は無く、痛みに堪えて少年が涙目になるだけなのだ。

確かに出会ってすぐにこの少年は、いまだかつてないほど潔く自分の自己紹介をした。『オレ、狐です! と』
嘘では無いのは認めよう。けれど……。

―――ああ、何てついてないんだ。ようやく総務の雅《みやび》ちゃんを初デートに誘えたというのに。

よりによってそのデート前日に、こんな疫病神……いや、キツネに憑りつかれてしまうなんて。

     ***

この狐に出会ったのは昨夜の9時ごろだ。

自転車で10分のところにあるコンビニエンスストアに、タバコと夜食を買いに出た、その帰りだった。
開拓予定地の雑木林の傍を走っている最中、京介は急に心臓が痛くなり、さらに呼吸まで苦しくなって路肩に自転車を止めた。

このまま死んじゃうのかな。などと真剣に思うほど具合が悪く、地面に転がった途端、意識が朦朧とした。

―――明日はようやく出来た彼女、雅《みやび》ちゃんとの初デートだって言うのに。なんて可愛そうな俺。最後までツイてない人生だったな……。

そんなことを思いながら無意識に空に手を伸ばした京助だったが、ふわりとそれを別の小さな手で包み込まれた。
「みやびちゃん?」

思わずそうつぶやいたが、心配そうに京介をのぞき込んでいたのは、まだあどけなさの残る、少年の小さな顔だった。頭に三角の耳をつけている。

「ごめんなさい、オレのせいで! オレが自転車の速さに走れなかったばっかりに! でももう大丈夫。苦しくなくなったでしょ。二度と離れないから!」

まったく意味不明な言葉を叫びながら、狐もどきは大きな瞳を潤ませた。
だが確かにこの少年が近づいた途端、京助の胸の苦しさはすっかり消え去り、気分はすこぶる良くなった。

「ねえ、君はいったい何? ちっともわからないんだけど」

「狐です。名前はカイ。本当にごめんなさい、オレ、さっきトラックに跳ねられて死にそうになって、とっさに傍を通ったお兄さんの魂を半分貰っちゃったんだ。だからお兄さんの魂は半分になっちゃって、オレから離れたら苦しくなるんだ。
オレは人間の魂を半分もらっちゃったから、こんな姿になっちゃったけど、驚かないで。珍しい事じゃないんだ」

―――いや、充分珍しい。
けれども京助はツッコみそこねた。

「ねえ、お兄さん、名前は?」
こっちには質問させる隙を与えず、耳をぴんと立ててカイは訊いてきた。

「きょ、京助」
「きょきょすけ」
「ちがう、京助」

京助の名を覚えたところでカイは、引き続きその場でいきなり絶望的な発表をした。

「本当は一個だった魂だから、遠く離れてしまえばお互いに苦しくなる。ほら、今みたいに。だからもうオレたちは遠く離れられない。
本当に申し訳ないけど、これからオレはしばらく京助さんのそばで暮らすよ」

「意味わかんないんですけど。……離れたら苦しくなるって……距離にしてどれくらい?」
散らかった頭で、まずはそう訊いてみた。他に訊くべきことはたくさんあるはずだが、まだちゃんと思考が働かない。

「たぶん30メートル以上は離れられないと思う」
「それ、……いつまで?」
「術がとけなきゃ、オレが生きてる限り」

―――生活できやしないんですけど、それ。

「で、狐の寿命って何年?」
「普通のキツネは5年だけど、オレの両親はキャリアな妖狐《ようこ》で、オレもその血をひいてるから頑張れば500年は生きると思う」
じわりと奇妙な汗と嗤いが込み上げて来た。これはヤバい子に出会っちゃったかもしれない。逃げたほうが得策だな、と。

すぐさま自転車に飛び乗り、猛スピードでコスプレ少年を振り切って逃げ、マンションの2階にある部屋に帰り着いた。
けれど再び信じられないほどの胸痛が京介を襲い、呼吸が苦しくなってそのまま玄関に崩れ落ちた。ガクガクと体中の震えが止まらない。

―――もしかして、あの少年の説明は全部本当の事だったのだろうか。

肩で息をしているといきなり足音が響き、ドアから飛び込んできたカイが蒼白になって京助に縋りついた。「ゴメンなさい」と何度も言いながら、目を潤ませる。
まるで夢だったように呼吸がすっと楽になり、元凶がこの狐であるにもかかわらず、ほんの一瞬天使に見えた。パブロフの犬状態だ。

「こんなことになったのもオレのせいだし、オレ、ここで掃除でも洗濯でも何でもするよ。父さんと母さんは善狐《ぜんこ》だけど、もうすぐ仙狐《せんこ》に昇進するんだ。そしたら京助さんの魂も元に戻してくれるように頼むから。
だからそれまで、オレを傍に置いて。ぜったい邪魔にならないようにするから」

京助はまだくらくらする頭で、「わかった。とにかく、邪魔にならないところにいてくれ」と、それだけ言い、這うようにしてベッドにもぐりこんだ。

もう何を考える気力も無かったし、とにかくその子が傍に居れば苦しくはない事だけは分かった。
朝になったらもしかして、全部夢だったって事になるかもしれない。そんなことも思いながら、風呂も入らずに眠ってしまった。


けれど朝になっても狐はいた。

洗濯をし、掃除機をかけ、焦げた目玉焼きを焼いて、「シャワー使わせてもらいました」と、つやつやしたほっぺで言う。やけに文明慣れした狐だった。
しっぽと耳がまだ少し濡れていて、その表情はあどけなくて、なんだかもう京助は怒る気力もなくなり、逆に愉快になった。

できの悪いメイドをひとり雇ったと思えばいい。狐だけど。
今後の狐携帯生活をどうするかは、また後日考えることにしよう。
とにかく、そんな事より今日は大切なイベントがある。

「いいか、今日は彼女と初デートなんだ。絶対その奇妙な姿を見せるなよ。30メートルギリギリを常にキープすること」
「了解です、京助さん。つかず離れず見失わないようにします。人ごみに行くなら、ちゃんと変装しますから」

そう言うとカイはどこから見つけて来たのか昔京助が使っていた野球帽をかぶり、ジーンズの中にしっぽを器用に押し込み、普通の男の子の恰好をしてみせた。

「へえ、やればできるじゃん。それなら電車に乗っても平気だな。お前、電車乗れるのか?」
「お金さえ頂ければ。あ、子供料金で大丈夫です」

なんでおまえそんなに人間社会に精通してるんだ、と突っ込むと、妖狐は人間社会の事を学ぶのがステイタスなんですと、カイはにっこり笑った。
それよりもしっぽと耳を消す術を学べよと思ったが、可愛そうなので言わずに置いた。

テーブルを挟んで朝食を食べながら、京助は時間いっぱいカイの事を質問してみた。
耳をぴくぴくし、シリアルをぱくつきながら、カイは自分のことを何でも話した。

狐が妖力を持って100年生きて妖狐になり、普段は狐の姿で生活しながら更に修行して善狐になり、仙狐になり、1000年生きてついに天狐となる。
天狐は神であり、狐みんなの憧れだ。それを目指して精進する。

でも中には人を騙して快楽を得ようとする野狐《やこ》になる妖狐もいるのだという。
人に成りすまして人の善良な魂を喰らい、善良な人の心を灰にしていく悪狐《あっこ》なのだ、と。

シリアルを3杯もお代わりしながら、カイは熱く語った。
その様子はけっこう可愛いらしく、しだいに京助はこの半妖への嫌悪感や不信感が薄れていくのを感じていた。弟がいたら、こんな感じなのかもしれないと。

この子の親が、京助の魂の補充をしてくれる日もそんな遠くないという事だし、まあしばらくこの狐を飼ってみるのもいいかもしれないと、妙に楽天的な気持ちになっていた。
たぶんこの気楽さも、今日の楽しいイベントのせいだろう。

彼女の指定した自然公園で、彼女のお弁当を食べ、そして語り合い、その後は「ちょっとホテルで休憩しませんか」という言葉を自然に出せさえすれば、完璧だ。

などと妄想を膨らまし、頬を緩ませて着替えをしていると、カイが目を輝かせながら近づいてきた。

「京助さん、この服を着ませんか?」
手には、京助の着古した黒いTシャツが握られている。

真ん中に大きな髑髏《スカル》のイラストが入っている、某ロックバンドのロゴ入りTシャツだ。
着やすい事もあって週に一回はこれを着ているが、さすがに今日、髑髏を着る気にはなれない。

「あのな、デートにそれはないよ。でも気に入ったんならカイが着てもいいぞ。お前、服は他に持って無さそうだから」

その言葉の何に感化されたのか、カイは目を潤ませてニコッと笑い、オレはいいんです、ありがとうと、そのTシャツを元あった引き出しに片付けに行った。

           ***

時刻は10時。
緑地公園前駅で先に電車を降りた京助は、少し距離を置いて降りて来たカイの姿をチラッと確認した。

カイはすっかり耳と尻尾を隠し、どこにでもいる中学生くらいの少年にしか見えない。
ほっとして改札を抜け、今度はデートの約束をした山田雅《やまだみやび》の姿を探した。


「京助さん~」

雅はむっちりとした体を弾ませ、手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。

身長は160前後だが、かなりごっつい。ぽっちゃりならば可愛らしが、それを通り過ごして、固太りのダイナマイトボディだ。

仕草も言葉もどこか荒っぽく、昔から華奢でシャイな女の子に片想いすることの多かった京助が、なぜこの1か月前に入社してきたばかりの雅に夢中になったのかは、自分でもよくわからない。

気が付くと、脳内はいつも雅の事で満たされていた。
だが恋とはそう言うものなのだと、よく聞く。きっと理由なんてないのだ。

仕事中に、ふとした瞬間触れる指先、視線、吐息。同じ部署ではないのに、なぜか雅と事ある毎に触れあう。
その度に過剰に分泌されていくアドレナリン。
日を追うごとに、まるで思春期のような、そわそわムズムズが膨れ上がっていくのを止められない。

ついに意を決して雅に告白したのが今週の月曜日だ。

雅は「うれしい! 私も京介さんが大好きよ」と言いながらムギュッとハグをしたあと、すぐさま今日のデートを予定してくれた。
丸山湖のそばの自然公園にいきましょう。お弁当を作っていくわ。二人だけの最高のランチにしましょう、と。


「お待たせ!」

雅は満面の笑みで京助の腕に抱き付いてきた。

もしかしたら似合っていないんじゃないかと思うピンクのワンピースと、乙女チックな白い帽子については触れず、京助は「ちっとも」と返す。
楽しい気分をぶち壊す言葉は禁物なのだ。

「さあ、どこに行こうか」と京助が言うと、雅は三白眼のつり目を細くして笑い、グローブのような手で京助を、森のある方へ引っ張って行った。

ああきっとこの力強さに惹かれたんだろうな、などと改めて思いながら素直に手を引かれて歩く。
駅からどんどん離れ、人通りも少なくなり、自然公園の中程の丸山湖に近づいていった。

エメラルドグリーンの水面がキラキラ光り、遊歩道にはベンチやテーブルもあって、ちょうどいい休憩スポットに差し掛かったのに、そこを通り過ぎてもまだ雅は足を止めない。
それどころかどんどん京助を掴む手に力が入り、歩く速度も速まっていく。

「ねえ、どんどん山の奥に行っちゃうよ。遊歩道も無くなっちゃうし、ここでちょっと休んで行かない? 雅ちゃん。ベンチもあるし……」
けれどすぐさま返ってきた声は、けっこう凄みの有る低い声だった。

「さっきから癪に障るガキがコソコソ追いかけてくるのよ。鬱陶しいからもう少し引き離すの」

ガキ……。その時ようやくカイの事を思い出し、京助は後ろを振り向いた。
あの激しい胸の痛みが無いという事は、ちゃんと付いてきてるという事だが、見つかってしまってはせっかくのデートが台無しだ。
振り返った先には木々の緑しかなかったが、雅には見えたのかもしれない。

「な、なんだろうね。僕には見えないけど……この辺の子かもしれないね」
額の汗をぬぐいながらそう言うと、雅が返した。

「クソ忌々しい。もう少し近づいて来たら喰ってやる」

喰ってやる。……喰ってやるって聞こえたけど、気のせいだろうか。
それとも雅はそういう冗談が好きなのだろうか。
京助はぐいぐい引かれるままに歩きながら、やや霞のかかった頭で考えた。

食うと言えば、雅は荷物を何も持っていない。昼の弁当はどうしたのだろう。

「ねえ、雅ちゃん、そう言えばお弁当を持ってないよね」
もう遊歩道からも逸れ、道なき道を進んで行く雅の歩みがふと止まった。

「あ、いや別にいいんだよ。気にしないで。お昼なんてどうでも……」
あわてて取り繕う京助の手首をグイッと血が止まるほど強くつかんだまま、彼女が振り向く。

その目は興奮したように血走り、虹彩はひどく不気味な金色だ。
赤い口紅を塗りたくった唇を大きく引き伸ばし、尖った犬歯を見せて雅は嗤った。

「お昼ごはんならあるじゃない。ここに」
雅《みやび》は不気味な形相のまま笑う。

「え?」

けれどすぐさま表情を凍り付かせたのは雅の方だった。

ガサリと音を立てた木立の間から、目にもとまらぬ速さで何かが飛び出し、雅の体めがけて体当たりしてきたのだ。

ギャッと人間とも思えない声を上げて雅は地面に弾き飛ばされた。さっきまで雅が居たその場には、獣のように四肢を踏ん張って構え、精悍な顔つきで雅を睨むカイの姿があった。

「このガキ!」
「カイ!」
「京助さん、ねぇしっかり見て! 騙されちゃだめだ」

三人がほぼ同時に叫ぶ。

京助が事態を把握できずにいる間に、ズサっと体を起こした雅が同じく四つん這いの姿勢からカイに飛びかかり、大きな口でその喉元に喰らいついた。

カイがひと声あげる間もなく、雅はそのままその小柄な少年の体をブンと首を振るようにして力いっぱい投げ飛ばした。
カイの体はまるで綿を詰めた人形のように軽々と宙を舞い、手すりを超えて丸山湖の中にバシャりと落ちてすぐに見えなくなってしまった。

「あ」

「本当にもう。折角のデートが台無しだわ。行きましょう、京助さん」
何ごともなかったように雅はワンピースの裾をパンパンとはたいた。

口元に滴った赤い血をスッと手の甲で拭うと、ふたたび雅は京助の手首を掴んで引っ張る。

―――いったい今、何が起こったんだろう。何か大事なものを失くした気がする。

再び雅に掴まれて歩き出すが、その手首が今になってジンジン疼く。
自分は今、なぜ歩いているのだろうという疑問がチラチラと頭の隅に沸く。けれど思考がちゃんと戻って来ない。

ただ、胸が酷く苦しかった。心臓の痛み。そしてまともに呼吸ができない。
なぜだ。何かやっぱり―――忘れて来た?


“オレから離れちゃだめだ”

そう言った少年。―――そうだ、キツネの少年だ!


「雅ちゃん、ごめん、俺戻らなきゃ! カイが……」
そう言って雅の手を振り払った途端、目の前の女は振り返った。

けれどもはやそれは見知った事務員の女ではなく、耳元まで避けた口から赤い舌をはみ出し、目を血走らせて京介を見据える化け物だった。

頭には、今まで気が付かなかったが三角の大きな赤茶の耳が突き出している。
おののいて後ずさった京助の目に更に飛び込んだのは、長さ1メートルはあろうかと思える2本の太いしっぽだった。
憑き物が落ちたように頭がクリアになり、途端に全身を恐怖が貫いた。

飛び跳ねるようにその場から逃げ出した京助だが、すぐさま首根っこを引っ張られ、ものすごい力で地面に引き倒された。

「ちょうどお昼ですねぇ京助さん。全部とはいいません。半分だけいただきますよ」

目は固く閉じても、生暖かい吐息と、物騒な“いただきます宣言”はハッキリと感知できた。

―――ああもうここまでなのか。喰われるのは痛いのだろうか。

その様を想像し、恐怖で体を硬直させた瞬間。
サッと頭の上を湿気を帯びた風がよぎった。

同時に体の上から雅の気配が消え、そしてすぐさま足元で獣が格闘するうめき声が甲高く響いた。

まさか! と跳ね起きて目を凝らすと、赤茶色の巨大狐が何かを腹に巻き付けて七転八倒しもがいているところだった。

何度も回転し、激しく背を木々に打ち付けて喚き、金色だった目は白目になり牙の間から舌が力なく垂れ始めた。
腹に巻き付いたものは、ずぶ濡れのままのカイだった。

巨大狐が精彩を欠いたところでカイは足を踏ん張り、二本のしっぽをむんずとつかんで、ありったけの力で手すりのむこうに投げ飛ばした。
さっきやられたのと同じ方法で彼は、巨大狐《みやび》を湖の中に放り込んだのだ。

ザッバーンと大きな音と水しぶきが上がり、虹が弧を描いた。
そしてそのあとには、それまでと同じ、ごく普通の静寂が池とそれを囲む雑木林に戻ってきた。


京助はひとつ大きく呼吸をすると、ゆっくり立ち上がって、体中木の葉やひっかき傷だらけになっているカイのもとに近づいた。
巨大狐が消えた池の波紋を見下ろしていた少年の頭の薄茶の耳が、京助の気配にぴくりと動き、そしてこちらに顔を向ける。
その琥珀色の目が、酷く寂しそうに見えた。

「雅は、バケモノ狐だったのか?」
そう訊くとカイがひとつ頷く。

「あいつは野狐の中でも特にたちの悪い悪狐《あっこ》で、隙の有る人の魂を喰らって自分の妖力にする。修行する気がないんだ。全部食べられると人間は廃人になっちゃって、とても危ないんだ」

半分喰うとは、そう言う事だったのかと、京助は妙に納得した。

「俺に隙があったから引っかかっちゃったんだな」
京助は認めてつぶやいたが痛手は無く、逆に何か気持ちが晴れたような清々しさがあった。
同時にこの半妖が傍に居てくれたことに、改めて感謝した。

「とりあえず帰ろうか。そのまんまじゃ風邪ひくぞ」
そう言ってカイの濡れた耳を軽く引っ張ったが、カイは憂いた顔のままだ。
そして辛そうな表情で京助を見上げて来た。

「オレも、もう帰らなきゃ。目的は果たしたから」
「え? 目的って……。なに」

「今の野狐が京助さんを狙ってるって気づいたから、オレ、昨日からあんなウソついて傍に居たんだ。本当は車にはねられたとか、京助さんの魂を半分盗ったとか、嘘なんだ。妖狐って言うのは本当だけど、それ以外は全部嘘で……。距離が離れると胸が痛むのも、オレがかけた術で……。それも、本当にゴメン」

京助は、また視線をそらしてしょんぼりした少年を、奇妙な気持ちで見下ろした。

「うーんと、よく分からないんだけどさ。じゃあなんでそんなウソまでついて俺の傍に来て、こんな危険な目に遭ってまで俺を助けたんだ? カイは」
「だって、それは……。やっぱり京助さんは、忘れちゃったんだね。5年前の秋の日の事」
「5年前?」
「人間の捨てた鉄くずの中にハマって動けなかったオレを助けて、頭撫でて去って行ったじゃない。顔はよく見てなかったけど、あの髑髏の黒いTシャツを着た、背の高い男の人だったって事は覚えてたんだ。
ずっと気持ちの中にその時の事があったんだけど、顔を覚えてないからどうしようもなくて……。でも、つい一か月前に、あの近くで、あの同じTシャツを着てる男の人をを見かけたんだ。オレ、すごくうれしかった。
本当はそっと、マンションを出入りする姿を眺めてるだけにしようって思ってたんだけど、あの野狐と一緒にいるところを見かけて、何とかしなきゃって思ったんだ。あの頃はまだただの子狐だったから何もお礼が出来なかったけど、今ならできる!って」

「……それでわざわざ嘘までついて……? いや、そのカイの気持ちはすごく嬉しいんだけどさ、そもそも俺、5年前に子ぎつねを助けた記憶が全く無いんだけど」
「忘れてるだけです。大きな丸いふたを開けて、助けてくれました」

「あ! もしかして洗濯機の中から拾った犬!?」
「そう洗濯機! でも狐です」
「そうかあの時の……。でも、残念ながらそいつは俺じゃないよ。カイを助けたのは三郎って言う俺の友達さ。今思い出したんだけど、そう言えば大学時代に洗濯機にハマった茶色い子犬を助けたって言ってたことがあった。
あいつも同じロックバンドのファンで、あのライブ限定のTシャツ、毎日のように着てたしな」

「京助さんじゃ……無かったんですね」
カイは水を滴らせながら、辛そうな顔をした。

「なんか、ごめんな。助け損で」

カイは大きく首を横に振り、こちらこそ、出しゃばってごめんなさいと小さく頭を下げた。
そのまま、とぼとぼと森の方に歩いて行く。

―――このまま狐に戻るのだろうか。


「……ありがとな。妖狐の父さんと母さんによろしくな」

少し感傷的になってかけた言葉に、カイはちょっとだけ振り返り、「それも嘘。オレの親は早くに亡くなりました」とだけ言って、もう一度頭を下げた。
耳もしっぽも濡れたまま、肩を落とした少年の姿は、やがてゆっくり森の木立の中に消えて行った。

―――山に帰って、狐に戻って、そしてカイは一人で暮らすのか。

掃除も洗濯も、嬉々としてやっていたカイの姿が再び思い出された。
おいしそうに食べていたシリアルも、もう森では食べられないのだろうな……。


とたんにさっきと同じ、心臓をギュッと掴まれる様な痛みが走った。
呼吸は出来るが、胸に風穴があいてしまったように空しく、どうにも気持ちが落ち着かない。

「カイ! ちょっと待て。術が消えていない! 戻ってこい!」

大声で森に向かって叫ぶと、小さな薄茶の小柄な狐が、そろりと木の葉の間から顔を出した。

「お前がいないと、なんか苦しいんだ。術が消えていない」

もう一度京助が叫ぶと、狐はそんなはずはないと、首を横に振る。

「お前の森での予定がないんなら、また俺んちに来い。掃除洗濯し放題だし、テレビも見放題だし、シリアルだって食い放題だぞ。ただし、狐の姿じゃだめだ。あのアパートはペット厳禁だから!」

「ほんと!? 居てもいいの?」

くるりと飛び跳ねて狐は再び少年の姿に戻り、目を潤ませて京助の元に駆け寄ってきた。

しっかり抱き止めて、三角の耳ごと頭をワシワシと強く撫でてやったあと、京助は言った。

「ああ、本当だ。でも、まずは森の中からさっき着てた服を取って来い。素っ裸で尻からしっぽ生やした少年を連れてたら、俺は家に帰る前に逮捕されちまう」

      ***

―――あれから1年後。

カイは上手に目玉焼きを焼けるようになった。


それ以外の料理はよく失敗するが、嬉々として家事をこなし、シリアルをうまそうに食べる表情は、こちらをも元気にしてくれる。
おしゃべりも大好きで、毎日森に遊びに行っては、そこで出会った生き物の話をしてくれる。


“犬や猫を飼うと、婚期が遅れるんですよね”
今朝の情報番組でアナウンサーが言った言葉を思い出しながら、京助は、満員電車に揺られていた。

じゃあ、妖狐を飼うとどうなんだろうと、ちょっと考えてみて、可笑しくて笑ってみる。
きっと誰にも分からないだろう。

妖狐の寿命が50年から500年だと聞いて少し腰が引けたが、ペットレス症候群になる事だけはなさそうだし、カイが森へ帰りたいと言い出したら、自由に帰ればいいと、気楽に考えることにした。
その時はまた少し、胸が痛むかもしれないが。

京助はいつものように出社し、いつものようにタイムカードを押した。

そしてチラリと覗いた総務のデスクに、いつもと同じように雅《みやび》が座っているのを見つけ、ため息を吐く。

「ああ、おはようございます、京助さん」

ニコリと笑うその顔は、ますます血色がよく、生気がみなぎっている。

窓際に座るひょろっとした新人が、熱いまなざしでこちらを見ている。
雅は新たなターゲットを試食中らしい。なかなか懲りない悪狐だ。

―――半分だけにしとけよ
目だけでそう語り、京助は歩き出した。

窓の外は晴天。
人間界に紛れ込んで暮らす妖狐たちも、すこぶる元気。

今日も忙しいが、平和な一日になりそうな予感がした。


     了

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(イラスト)しずく 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ご無沙汰しています。
いつの間にか1か月が過ぎてしまっていて、今朝初めてスポンサー広告を出してしまいました。

わあ……、見づらい! やばい! (;・∀・) 慌てて更新することにしました。
何も内容を考えていなかったので、とりあえず季節に合ったイラストを載せておきますね。
以前描いたイラストなんですが、時期を逃してしまったので、眠らせていました。

そう……6月。梅雨です。洗濯物が乾かない、気持ちまでジメジメしてしまう梅雨です(;_;)

少しでも気持ちが爽やかになればいいなと思いながら描いたので、キラキラ感が多めかもしれません。

昨日も一昨日も雨(つか、雷雨!)。そして明日からもずっと雨予報……。
だけど、今日だけは奇跡的に晴れです。

これから久々に映画、見に行ってきます。
『恋は雨上がりのように』。たまにはね。こういう歳の差キュンも、いいもんです(^^♪

ではまた! もう広告出さないように、どうでもいいネタで雑記書きに来ます!!



しずくブログ用1200




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お題掌編 『モラトリアム・ノアール』  

10000文字までのショートショート

また、久々の更新になってしまいました。
今回も、エブでお題を貰って書いたSSを載せてみようと思います。(*'‐'*)

今回のお題は、「子供の頃のあの約束」。
いろいろプロットを立ててみたのですが、結局出来上がったのは、優しさのかけらもないダークな物語でした。

以前、可愛い女の子が書けないと嘆いたのですが、今回の主人公の女も、結構ひどいです(笑)
けれど、私が本当に書きたかったのは、もう一人の登場人物の青年の方だったかもしれません。
私なりの歪んだ美学を取り込んでみました。

「いい人」の出てこないビターテイストのSS。皆さんは、どんな感想を持たれるかな。

今回も6千文字以上あるのですが、一気に掲載します。
(長くてすみません>_<)

タイトルは『モラトリアム・ノアール』。
『悪趣味』と同じく、優秀作品(ベスト30)に選んでもらえた作品です。


*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..


―― もう一度  震えるキスをしよう…。

2ノアール小


まるで淀んだ闇の中に、ギラリと光る、カラスの濡れ羽色。

深夜の高架下で彼を見つけた時、私の胸に湧き上がったのは、愉悦と興奮と切なさの混じった、言葉に言い尽くせない感情だった。

間違いない。小学の頃の同級生、高柴 由貴哉だ。
進むべき道を断たれ、惨めな気持ちを抱えた今の私が、ここ数カ月会いたくてたまらなかった男。

最後に姿を見かけたのは高校生の頃だった。もう10年以上になるだろうか。

身長はまた更に伸びていたが、細身のしなやかな身のこなしは昔のままで、光沢のあるジャケットもスリムなジーンズも黒で統一され、彼が彼であることを隠そうともしていない。
見間違うはずもなかった。

27歳になった彼からにじみ出るオーラは、”あの12歳の時”も、そして ”私のものになったはずの”それ以降も、まったく変わることのない「黒」のままだ。

そうだ。
この高慢ちきで鋼鉄のような冷ややかな美しさをもつ男は、私のものだったのだ。
きっちり手の届くところに繋いでおかなかったばかりに所在を見失い、ここ数カ月、どうやって探し出そうか考えあぐねていた。
まったく迂闊だった。


思い返せばこの15年間、私には由貴哉のほかに、夢中になれるものがたくさんあった。

3歳から始めたピアノは数々の国際コンクールで賞を取り、高校を出てすぐに英国王立音楽大学に留学した。
帰国後も、歌劇団の伴奏ピアニストの仕事を得て、順風満帆だった。
由貴哉のような美しさは無かったが、劇団の若い演出家との恋はそこそこ刺激的で、経済的にも何の不足もない日々だった。

野放しにしていても、私は由貴哉の弱みを握っている。その気になれば、彼はいつでも私にひれ伏す。そんな安心感から、いつしか私は由貴哉の綱を手から離してしまったのだ。
互いに転居し、連絡がつかなくなってしまったが、その時はそれほど大きな痛手は感じなかった。

けれど今の私は違った。

1年前酷い腱鞘炎になり、手術の甲斐もなく指が思うように動かせなくなった。
演奏の仕事はなくなり、演出家も私の元を去り、そしてこの陰気で騒がしいだけの街で、幼児向けピアノ教室の教師として日々を送っている。

1人やけ酒をして、終電に見放されたこの深夜、闇夜から羽音もたてずに、この獣は舞い降りたのだ。

「由貴哉。久しぶりじゃない。元気にしてた?」

振り返った黒い瞳がじっと私を見つめる。

さあ、その狼のような目を、子ウサギのように怯えさせ、私に微笑みなさい。
あの12歳の日から、あなたは私のものだったはず。忘れたなんて言わせない。

けれど由貴哉はしばらく私を見た後、白けたようにフッと笑った。
「ああ。なんだ、森下か」

そうして、もう用事は済んだとばかりに、ゆらりと背を向けようとする。眩暈がしそうなほどの苛立ちが私を襲った。 
そんな態度はあり得ない。

「なによそれ! まさかそれでさよならって訳じゃないわよね由貴哉。なに全部終わったみたいな顔してんのよ!」

由貴哉は面倒くさそうに振り返り、ゾッとするほど冷ややかな目で私を見つめた。

「終わったみたいな顔って……。あんたと何か、始まってたっけ」

「何言ってんのよ! まさか忘れたわけじゃないよね。わたし全部覚えてるから。あんな事忘れられるわけないじゃない。あの時の約束、ちゃんと守ってあげたのよ。そんな態度取るんだったら、私……」

「ああ……。約束ね」
由貴哉は笑った。

「あの約束はもういいよ。忘れて。それに、たしか約束の代償はもうあん時あんたに払ったじゃん。あれっぽっちじゃ足りない?」

「あ……あんなの! あんなの代償じゃない!」
怒りと恥ずかしさで、私は全身が震えた。

そんなはずはない。あの時の由貴哉は私の手の中にあった。震える唇も戸惑う吐息も、ちゃんと覚えている。
目の前にいる黒い魔物は一体何なのか。15年の時が、すべて風化させてしまったとでも言うのか。

私は込み上げる怒りに耐えられず、叫びそうになった。



小学生のころから、高柴由貴哉は、とても異質な存在だった。
6年生になって初めて同じクラスになった由貴哉を、私は興味深く観察していた。

占星術師をしている母親と、大きな屋敷に二人暮らしだという事にも興味をそそられたが、クラスで一番背が高く、そして均整の取れたしなやかな体つきは、どこに居ても目をひいた。

彼は決して他の男子と群れない。

けれどそこに、仲間はずれにされているよいうな弱さは微塵も感じさせず、まるで強くなり過ぎた狼がそっと群れから外れ、高台で弱い者たちを見下ろしているような風格を感じた。

着る服はいつも黒。
彼の選ぶ黒は整った顔立ちを余計に際立たせ、更に近づき難くさせていた。

「こわ。またさっき睨まれたよ~。なんか黒ばっか着てるし、家でお母さんと黒魔術でもやってんじゃない?」
「あのでっかいお屋敷で二人暮らしでしょ? 絶対なんか洗脳されちゃって、一緒に水晶とか覗いてるよ」
仲の良かった友人たちは、とにかく由貴哉を不気味がり、同時に陰口で楽しんでもいた。

「そうかなあ。占い師のお母さんって、なんかカッコいいじゃん。いっぺん占ってもらいたいよ、友達価格で」

強がってそんなことを言ってはみたが、内心私も、どこかで由貴哉に怯えていた。
なにかの弾みで目が合った時に全身に走る衝撃は、トキメキなどとは程遠いものだった。
それでも、由貴哉が動くと、それを目で追ってしまう。

誰にも媚びず、安易に笑い掛けず、冷ややかで他を寄せ付けない、孤高な黒い瞳。
教師ですら、由貴哉に話しかけるときはどこか緊張してるように見えた。

毎日、目で追う。ピアノコンクールの事を考えていない時は、いつも由貴哉の事を考えていた。
12歳の私の中で、その存在は日に日に大きくなっていく。
頭の中では、黒く綺麗で獰猛な獣が、絶えず蠢いた。

卒業式を間近に控えた冬の日。
あまり欠席をしたことのない由貴哉が、連絡なしに学校を休んだ。

「家に電話を入れても繋がらないんだ、誰か何か聞いてるか?」 と、担任は訊くが、そんな親しい友人がいるはずもない。
たまたま日直だった私が、彼の家にプリント類を届けることになった。


校区の端の高台にある由貴哉の家は、鉄柵に囲まれ、寒々しい城のように見えた。
この家で由貴哉は母親と二人で暮らしているんだ……。

私はプリントをポストに入れたあと、そのまま帰るのがもったいなくて、しばらく周囲をぐるりと探索してみた。
その家は角地にあり、裏は雑木林に繋がっている。

病気なのだろうか。呼び鈴を押してみようか。
そう思いながら屋敷を見渡していた私の目が、そっと裏口から出て来た由貴哉の姿を捉えた。私は咄嗟に物陰に身をひそめた。

手にはビニールに入れた何かと、スコップのようなものを、隠すように握り締めている。学校で見る彼とは違い、どこか怯えたようなそぶりだ。
彼はそっと裏門を抜け、少し勾配のある道を上り、その向こうの雑木林に向かう。
私は足音を忍ばせ、充分に距離を取りながら彼を追って行った。

枯れ葉の少ない針葉樹の林は、足音を消し、そして太い幹で私をかくしてくれた。
立ち止まり、一心不乱に穴を掘り、その中にビニール袋ごと放り込もうとする作業をじっと見つめた。

彼らしくもない、慌てた動きにビニールが破れ、中から出てきたのは黒ずんだナイフと、赤い液体の付着した服。タオルなのかもしれない。

それはとても現実のものとも思えない不思議な光景で、私は映画の中に吸い込まれるように、一歩、二歩、由貴哉の傍に歩み寄った。
足元で小枝が爆ぜる。ビクリと由貴哉は振り返り、目を見開いて私を見つめた。

―――あの由貴哉が、そんな風に怯えた目で私を見ることが起こるなんて……。

恐怖心はどこかに消し飛び、そのことが私を興奮させた。そしてその時点で私が彼より優位に立ったことを確信した。
理由なんて分からない。直感だった。

「それ、なに? 血?」

私の静かな質問に、由貴哉は固まったまま答えなかった。反論してももう遅いという諦めからか。
肌は紙のように白いのに、唇は燃えるように赤かった。

「誰の血? 怪我でもしたの?」

彼の声が聞きたくて、質問を変えてみる。けれどその唇は薄く開いて震えたまま、何も語らない。昨日までの、まるで私たちを見下ろす王者のような風格は、微塵もなかった。
その代り、怯えるその姿がやけに健気で、可愛らしくも思えた。

彼は今日、一体どんな罪をこしらえたのか。

「森下……」
由貴哉が小さな声で私の名を呼んだ。その時が初めてだった。名前を呼ばれたのは。
一年も同じクラスに居て、初めて彼は私の名を呼んだのだ。 
怯えながら。

「何?」

「誰にも言わないでほしい……。頼む」

「何を? 高柴くんが土の中に変なものを埋めようとした……ってことを?」

「頼む……」

由貴哉は反論も言い訳もせず、ただそう言って項垂れた。誰かの飼いネコでも殺してしまったのだろうか。それとも、犬?
その時はそんなこと、大して気にならなかった。ただその時私を満たしたのは、この少年はもう自分に抵抗できないんだという、愉悦だった。

「いいよ」

「……本当に?」

「本当よ。誰にも言わない」

「約束してくれるか?」

「うん。してあげる。その代り」

「……?」

「キスしてよ」

その時の由貴哉の顔は、今でも忘れられない。驚きと困惑と諦めと。そんなものがすべて混ぜ合わさった、愛おしくなる様な表情。

拒否されたら、すぐに「ばーか、冗談よ」と笑うつもりだった。
けれど彼はゆっくりと私の傍まで歩み寄り、冷え切った唇を私の唇に重ねて来た。

時間も、音も、止まった。

由貴哉の唇はまるで許しを請うように、私の唇にそっと重ねられ、そして戸惑うように震えた。
いったい今自分たちは何をやってるのかも、言い出した私の方が、分からなくなった。

息が苦しくなって、私が体を放すと、由貴哉はやっぱり同じように縋る目で、私を見つめた。

「俺がやったんだ。もうじきニュースになると思う。でも……やらなきゃやられてた。頼む。内緒にしてほしい」

由貴哉は深く私に頭を下げた。

ああ……そうか。 とんでもないことが起きたんだ。私に屈辱的な事を要求されても、応じるほどの。
全身に行きわたるほどの納得と、恐怖と、そして得も言われぬ安堵があった。

「約束する」

私は彼の作業を見届けることもせずに、眩暈にも似た感覚を引きずりながら、家に帰った。


事件が報道されたのは、翌日の早朝だった。高柴由貴哉の自宅近くの側溝で、中年女性の遺体が発見された。

刺し傷は脇腹を一か所のみ。それが致命傷となったらしい。
その女性は由貴哉の母親、高柴美麗の顧客で、過去の占いを信じて大損害を被ったと、以前から憤慨していたらしい。
当日、”高柴美麗の所へ行く。殺してやる” と言って家を出たことを、家族が語っていた。

『でも……やらなきゃ、やられてた』
由貴哉の言葉が鮮明に蘇る。震える唇の感触が、今でも愛おしい。

―――大丈夫。誰にも言わないから。私が秘密を封印する。


高柴美麗の事は数日間、ニュースにも度々取り上げられた。屋敷には警察の捜査も入り、当然学校中がその話題で持ちきりになった。
結局由貴哉は卒業式にも出席することなく、そのまま小学校を去った。

遺体で発見された女と、高柴美麗の当日の接触の証拠も、凶器や血痕の痕跡も見つからず、高柴美麗への疑いや悪い噂も、次第に晴れて行った。
由貴哉は、様々な黒い噂だけ残し、遠い私立の中学校へ行ってしまった。

だけど私からは逃げられない。
彼を守ってやりたいという庇護の気持ちと、自分の手の中に居る、とういう愉悦は、中学生になった私の中に、常に同居した。

彼の家の前で待ち伏せして、ただ目を合わせただけで、「じゃあね」と帰る。
野性味のある精悍な顔つきの彼の表情が、私の前でだけ、従順なウサギになるのが見たかった。
ただそれだけのゲームを、月一くらいの頻度でしばらく続けた。

そして、そのうち、それにも飽きた。

ピアノを弾くことにのめり込み、コンクールで賞を取ることで自分の価値を高めていく興奮のほうが、ほんの少し由貴哉への愉悦に勝ってきたのだ。

大丈夫、あの男は私から逃れられない。私が守り、私がずっと捉えておくのだ。
楽しみの保険。どこかでそんな風に思っていた。

……それなのに。

            ◇

「いいの? 私にそんな態度取って、いいと思ってるの?」
私は目の前に佇む、すっかり大人の男になった由貴哉に凄んだ。けれど何の感触もない。

黒という色は、すべての色を吸い込むことで存在する色なんだと聞いたことがある。
私の怒りも混乱も、目の前の黒づくめの男にすべて吸収されてしまい、代わりに跳ね返ってくるのは、空しい屈辱だけだった。
いったい、15年前交わした約束は何だったのだろう。

「なあ森下。あれからもう15年経ってるんだよ。子供の頃の事なんかで、なんでそんなにムキになってんだよ」

「私はずっと約束を守ってあげたのよ? 言えばあなたの人生はめちゃくちゃになったはずでしょ? 私が誰にも言わなかったら、人殺しの事知られずに生きて来れたんでしょ。恩人のはずよ! それとも、あの時バラシちゃっても良かったって言うの? 子供だから罪に問われないって? 何なら今から警察に行ったっていいのよ。時効なんて無くなったんだから!」

自分でも支離滅裂だという事は分かっていた。もう今更、この男を罪に問う事は難しいだろうと頭の隅では分かっていた。
ただ悔しかったのだ。15年の日々が、この男につけたはずの鎖を風化させてしまったということが。

なぜもっとしっかり、捉えておかなかったのだろう。こんな勝ち誇ったような目で、私を見るなんて許せなかった。
私にだけは怯え、感謝の目を向けてくれなければならないのに。

「ああ、そうだよね」
由貴哉はまた、気だるそうな口調で言った。どこか、嘲笑うような溜息と共に。

「森下にはとても感謝してるよ。おかげであのあと、俺があの中年女を殺したなんてことが噂になったりしなかった。あんたが、凶器を埋めるところを見たなんてしゃべったら、俺も母さんも人生終わってたかもしんないし」

「ほら! 感謝しなさいよ。私は由貴哉の……」

「あんたなら、口止めするのはちょろいと思ったんだ。俺に惚れてたろ」

その言葉は私の脳天を殴りつけた。

「な……」

「秘密にして、約束してって神妙な顔で言えば、あんたはホイホイ言いなりになると思ってた。キスしてって言われた時は正直面食らったけど。まあ仕方ないなって。どう? 俺役者だったろ? 哀れな仔犬みたいに上手くキス出来たろ?」

「由貴哉……。調子に乗るんじゃないわよ! 今からだって私、喋るわよ。警察にでも、週刊誌にでも、何だって喋ってやる。この恩知らず! 私があなたの秘密を守ってあげたのに。あなたを守ってあげたのに!」

「違うね。あんたは俺を守ったんじゃない。俺を自分の所有物にしたつもりだったんだろう。思い出したように自宅を訪ねて来ては、忘れるなよってガン飛ばして。ウザいッたら無かった。抱いてくれなんて言われなくてまだ助かったけど。まあ、品行方正のお嬢様で通してたあんたが、そんな品位を落とすようなへまはしないよな。将来に傷がつく」

「な……何言って……」

「でもさあ。俺も感謝してないわけじゃない。約束を守ってくれた森下に、お礼の気持ちを込めて、本当の事を教えてやるよ」
由貴哉は黒光りするジャケットに手を突っ込んだまま、わたしを見下ろし、言った。

「あの中年女を殺ったのは俺じゃない。俺が心から愛して尊敬していた女性だ。証拠になるものはすべて俺がかき集めて処分した。もし見つかったら全部俺が罪をかぶろうと思ってた。12歳なら罪はそんなに重くはないし。あんたに見つかったあの時も、この面倒な女を黙らせるにはどうしたらいいか、それしか考えてなかったよ。俺の中には常にあの人がいた」

由貴哉はもう笑う事もせず、まっすぐその言葉を私に突き付けた。
「あんたの下僕になったと思った瞬間なんて、これっぽっちもない」

私は痺れる脳で、ただ目の前の黒いケダモノを見つめていた。
たぶんもう、これ以上砕けることもできないほど、心臓には醜いひびが入っていることだろう。

「その人って……。お母さん?」
それだけ言葉にするのが精いっぱいだった。

「母さんは、2年前に亡くなった。もう、あんたが何を訴えても、罪を償うことはできないよ」

由貴哉の顔はその時初めて人間らしい憂いをにじませた。恋しい人を亡くした男の顔だ。

惨めに打ち砕かれた後だというのに、その男の表情は私の胸をえぐった。
どうせなら最後まで憎らし気に嗤っていればいいものを。

彼が着る黒は、敬愛する占星術師である母親への、契りの色だったのかもしれない。
もとより、一瞬だってこの美しく冷徹な男は、自分のものではなかったのだ。

猶予を与えてこの高慢ちきな獣を、自由に泳がせているつもりだった。
でも違った。私の手の中には、最初から何もなかった。

そしてこれからも、何もない。

私は感情をそぎ落とし、ただ目の前の男を見上げた。
大声をあげて泣く代わりに。

由貴哉が、唇の端を少し持ちあげて、私を興味深げに見つめる。
「おまえ、良い表情してる。さっきよりも、15年前よりも、よっぽどいい」

ああ……。どこまで嫌な男なのだろう。

「なあ森下。もう一度キスをしようか。15年間、俺との約束を守ってくれたお礼に」


もう一度キスをしよう。屈辱と涙と自暴自棄の。

黒い魔物は嗤う。 


15年前と同じ冷たい唇。けどあの日とは真逆。

震えているのは 私だった。



- Fin -


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(イラスト)珍しく可愛い系で 

☆イラスト・マンガ・水彩画

ご無沙汰です。
また更新からひと月近く経ってしまいました。

今年は本当に大きな行事が多い上に、町内会の役員まで回って来て、仕事が休みの日も走り回っています(;´Д`)
重なる時は重なる法則、健在です(。-_-。)

イラストもほとんど描く時間が無いのですが、ひと月前、エブの方のお仲間に、表紙絵を依頼されました。
私はエブでは、『絵は未熟なので表紙絵のご依頼は受けていません、ごめんなさい(;_;)』宣言をしてるのですが、それでもたまにこうやって(きっとプロフを読んでないんだなw)依頼をくれる親しいクリエイターさんに、描いてあげることがあります。

今回の依頼は、キュンとくる学園もので、背景に桜を……。
というもので、え、ちょっとまって、前回私が自分の中編の表紙絵に描いたイメージにそっくり( ゚Д゚)……と、ちょっと焦ってしまいました。

前回描いた、自分の作品の表紙絵
千の春表紙

でも、私の主人公は、ちょっと気の強い、意思のはっきりした女の子。
依頼されたのは、とにかく可愛くて好感の持てる女の子。

一瞬で伝わるように描き分けなければ。

可愛くて、なでなでしてあげたくなる様な女の子と、ちょっとクールな男の子。

……ということで、こうなりました↓


タッくん表紙ブログ用


ああ~、私もキュンとなるようなかわいい女の子、小説で書けるようになりたい。
なぜか書いてるうちに、どんどん気が強くなってしまう……。
男の子は、書くうちにどんどんひ弱になっていくのに (*ノд`)・゚・

世の中の読者が求めるのはきっと、強くてカッコいいヒーローと、健気で儚くてかわいいヒロインなんだろうな(;´Д`)
分かってはいるんだけど、気が付けば真逆になっている不思議……。うう(;_;)



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お題掌編 『悪趣味』 

10000文字までのショートショート

久しぶりの、短編小説の更新です。
今回も、以前エブさんの所で書いた、お題掌編を載せてみようと思います。

今回のお題は「誰にもいえない秘密の趣味」 。このお題を見た時から、絶対コミカル路線だな……と思いました。そして、ひねり出したものは、ちょっと軽薄で、ほんの少し不気味な、コメディSSでした(笑)

6千文字以上あるのですが、分割して載せる程の内容ではないので、一気に掲載します。
コメント等気になさらずに、さらっと読み飛ばしてやってください(*ノωノ)

タイトルは『悪趣味』。
私が実際に時々見る“明晰夢”を、題材に盛り込んでみました。

*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.:*・☆・*・゜・*:.。.*.。.:*・☆・゜・*:.。.*.。..


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僕が“明晰夢”を見始めたのは、2年ほど前だろうか。ちょうど中学に入学した頃だった。

もともと、かなりはっきりした夢を見る体質で、色彩も鮮やか、さらに匂い、味、体温まである程度感じてしまうので、朝目覚めても一日中その余韻から抜け出せないことも多かった。

けれど明晰夢というのは、そんなリアルな夢とはまた全く別な、特別な夢なのだ。
この夢の正式な名前を知ったのは、ふと書店で手に取った科学雑誌で、それまでは自分で勝手に“覚醒夢”と名付けていた。
夢の中で覚醒し、自分が今、夢の中にいることをはっきり自覚したうえで、夢を見続ける状態になるから。

この明晰夢を見る人は結構いて、特に珍しくはないらしいけれど、実際に見ている時間はとても短い。

「さあ、ここが夢の世界だ。自分は何にだってなれるし、どんなこともできるぞ」と思っても、5分から10分で目覚めてしまう。
究極に眠りの浅いノンレム睡眠時に見るからだと、科学雑誌には書いてあった。納得だ。


僕も初めの頃はそうだった。
月に一度くらいしか見ないその明晰夢の中で使える時間は、いつも5分ほど。貴重な時間だ。

夢の中で目覚め、自分の周りに広がるファンタジックなパノラマ世界に感動し、そして何をしようか考える。

夢だからどんなことでもできるのに、僕が最初にしようと思うのはなぜかいつも“飛ぶこと”だった。
飛びたい、という想いはきっと、人間の中に本質的にある素直な願望なのだろうと、真剣に思った。

そして僕は飛ぶ。
分かるだろうか。明晰夢の中で飛ぶという事は、本当にリアルに空中を飛ぶことなのだ。

普通の“飛ぶ夢”とは訳が違う。体が重くて飛べない、なんてこともない。
本当に鳥のように軽やかに空中を舞い、そして風や滑空のスピードと恐怖を感じる。まさにバーチャル世界の住人になれるのだ。

最初は本当に5分ほどだった。
けれどその時間はどんどん長くなり、自分の感覚が間違っていなければ、今では1時間くらいは夢の中の空中散歩を楽しむことができた。

更に月一の明晰夢はやがて週一に。そして最近では「見たい」と思った夜に、見ることができるようになった。
そうなると、1時間も空中浮遊だけしてるのは逆にちょっともったいない気がしてくる。この夢の中では何だってできるのだ。どこへでも行けるし、好きなゲストを招くこともできる。

リアルでは手の届かない、アイドルとのデートだってできるし、犯罪めいたことをしたって、誰にも咎められない。
思春期真っ盛りの中2の健全な僕は、思いつく限りの妄想を膨らませてみた。

けれどもダメなのだ。
自分の良心というのは夢にもブレーキを掛けるものなのらしい。
アイドルの少女を呼び寄せ、そしてその手を握り、体温を感じたあたりでスッと意識が現実と混ざり始め、そして、ベッドの上で目覚めてしまう。

自分の気の小ささが悲しいやら情けないやら。
本当に複雑な気持ちで僕は、いつもの朝より元気よく張り詰めたモノをそっと慰めるのだった。

       ***

「宮川君、科学雑誌、読むのね」

学校帰りに立ち寄った書店で急に後ろから声を掛けられ、僕は手に持った雑誌を取り落しそうになった。
振り返った先にいたのは、同じクラスの山咲美鈴だった。

「あ………うん。なんか……ね」

「脳科学の特集? 難しそうね」

「うん………だよね。読んでもよく分かんない」

ドキドキと打つ鼓動を隠しながら、僕は平静を保って答えた。
普段ほとんど接点はないが、実のところずっと気になっていた子なのだ。

クラスでも大人しく、男子とも女子ともあまり絡まずに静かに本を読んでいるイメージの山咲が、向こうから声を掛けて来たことも驚きだったが、このドキドキは明らかに動揺だった。
小心な僕の、良心とやらが活発に作用する。

実はここ数日、僕は明晰夢の中で山咲を求めて浮遊していたのだ。
特に何か悪い事をしようと思ったわけではない。ただ無性に、夢の中で会いたかったのだ。夜中に明晰夢の中で覚醒し、そして星空の中、自分の部屋の窓から飛び立つ。
良く知っている通学路の上空を浮遊し、そしてよく知っている山咲の家のベランダに降り立つのだ。

2階のその部屋は、山咲の部屋。
夢の中で美化された山咲は、ピンクの透けるようなネグリジェを着て、天使のように微笑みながら小さなテディベアを抱いて踊っていた。

流石に夢だけあって、妄想勃発だった。こうあってほしいと思う山咲が、そこにいた。

もしここで、“山咲にこの場で、そのスケスケのネグリジェを脱いでほしい”、と願えばきっと、目の前の彼女はそうするだろう。
もしかしたら、その下に身に着けているものすべてを取り払ってくれるかもしてない。
生まれたままの姿になって、ベランダの僕を振り向き、そっと手を差し出してくれるかもしれない。
そしてにっこりと桜色の唇で微笑み、「宮川君、来て……」と……。

そこまで思った瞬間、目が覚める。
いつもここまでで僕は自分の良心によって覚醒させられる。そしてそのあと、どうしようもない自己嫌悪に、のたうちまくるのだ。

今朝ついに僕は決心した。もうそんな不埒な遊びはやめよう。これは最低で最悪な趣味だ、と。

そして今、僕の前にはその、山咲美鈴がいる。
「宮川君って、面白いね」と、にっこり笑っている。ドキドキしないわけがない。

さすがに夢で美化された姿ではなかったが、清楚で文学的な香りのする三つ編みはとても彼女に似合っていて、更に僕の気持ちをぐっと惹きつけた。
教室内では話すきっかけさえつかめない微妙な距離を感じていたのに、不思議な事に今、目の前で微笑む彼女となら、どんな話もできそうに思えた。

これはチャンスなのかもしれない。僕はもう、後ろめたい妄想の趣味から抜け出せるのかもしれない。
胸の鼓動は、別の意味で激しくなった。

「山咲は……本を買いに来たの?」
僕が棚に戻した雑誌の表紙を眺めていた山咲は、振り返って僕を見た。

「ううん、この本屋さん、かわいいガラス細工とか、ハンドメイドの小瓶を売ってるでしょ? だからちょっと見に来たの」

「へえ、そういうのが好きなの?」

「女の子はみんな好きよ。キラキラしたもの。私だって、いつも本ばかり読んでる訳じゃないよ?」

「あ、いや、ごめん、そう言う訳じゃなくて、あの」

怒らせてしまったのかと冷や汗をかきながら僕が言い淀むと、山咲は教室では見せたことのない、屈託のない笑顔で笑った。

―――かわいい。

僕は眩暈を起こしそうだった。
何だこの展開は。一体どこの天使が僕にイタズラしている? これこそが夢なんじゃないのか?
ムギュッと頬をつねる僕をちょっと不思議そうに見ながら、山咲は言った。

「可愛い小瓶がたくさんあってね、どれにしようか決められなかったの。お小遣い少ないし、一個しか選べないからすごく困ってて。ねえ、時間があったら宮川君、選んでくれる?」

山咲が僕の袖を引っ張って連れて行ったのは、雑貨コーナーの隅の棚だった。
なるほど、コルクや金属のふたのついた小瓶が、たくさんのビーズや板金を施されて、まるで宝石のように煌めいてる。

「みんなきれいだね。山咲が悩むのも分かるよ」

「でしょ?」

「これって、なんの容器なの?」

「決まりはないよ。お姉ちゃんは手作りジャムを入れてよく、友達にプレゼントしてるけど、私はビー玉や、動物のガラス細工を入れて、机の前に飾っておくのが好きなの。朝日が当たるとね、プリズムの様にキラキラして、夢のつづきを見てるようなの」

山咲は本当に夢見るように言った。僕はその穢れなさに泣きそうになった。
ごめん、……本当にごめん。君をダシにして、あんなどうしようもない夢なんか見て。

僕は心の中で謝りながら、ブルー系の精緻な彩色を施した瓶をそっと持ち上げた。

「これがきれいだね。これにしようよ。お詫びに僕が買ってあげる」
思わずそんなことを口走ってしまい、1人で慌てる僕に、山咲はにっこりと笑った。

「お詫びされる理由もないし、これは私が買うよ。選んでくれてありがとうね、宮川君。本当にこれが一番キラキラしてて綺麗。きっとこれ、宮川君自身の色なのね。わたし、分かる」

そう言って僕を見つめる。

「本当にありがとう」

僕はいろんな意味で胸がいっぱいだった。
ああきっと僕はこの子をもっともっと好きになる。夢なんかで妄想しなくてもきっと僕の中学生活はばら色になる。そう確信した。
別れ際の、彼女の言葉を聞くまでは。

「宮川君……あのね。あなたに伝えておきたいことがあるの。まだ先生にしか言ってないんだけど」

「え、なに?」

「あと1週間したら私、転校するの。海外に引っ越して……だからもう、宮川君とも会えなくなる」

晴天の霹靂という言葉がこれほどしっくりくる状況を僕は知らない。あまりのショックに僕の足は石膏のように固まり、動けなくなった。
立ち止まった僕を振り返って、山咲は泣きそうな笑顔で言った。

「この小瓶、宮川君だと思って持って行くね。……いいよね? 気持ち悪いなんて思わないよね?」

僕はただ頷いた。
言葉なんか出てこなかった。呆然自失。国語なんか好きじゃないのに、どんどんそんな単語が脳裏をかすめて砕ける。

小瓶が入った袋を抱いて去っていく山咲の足元で、風が舞った。
フワリと捲られたスカートの下に見えたショーツは、淡い淡い水色だった。

     ***

そして僕はその夜、夢の中で覚醒した。

バラ色の中学生活は、一瞬で泡のように溶けて消えた。僕に残されたのは、再びこの「飛ぶ」妄想だ。

山咲の最後の表情は、もう思い出せない。その代り目に焼き付いて離れないのは、あの悲しい水色の下着のぷっくりとした膨らみ。

もう一度……見たかった。
それが彼女の笑顔なのか、下着なのか、僕色のガラス瓶なのか分からなかったが、もう一度あの部屋を覗いてみたかった。

嫌らしい趣味だという事は分かっていたが、所詮は夢、幻。誰に迷惑を掛けるわけではない。
もう、彼女にふさわしい、純粋な男になる必要もない。

飛ぼう。今日ばかりは妄想全開にしよう。ゆるしてね、山咲。
僕は明晰夢の中、星空に向かって飛び出した。

今日は特別、夜空がきれいだ。銀の三日月も笑っている。
近くの酒屋のおじさんが、レトリバーを散歩させている姿も見えた。
僕の横を名も知らない鳥がよぎる。
スピードを上げる。

そのうち、目指す家が見えて来た。何度も夢で訪ねた山咲の家だ。
まだ電気のついているベランダに降り立つ。

今日の僕の妄想は、どんな山咲の虚像を見せてくれるのだろうか。あのピンクのネグリジェだろうか。それとも、下着だけだろうか。どうせ妄想なんだし、今夜ばかりは無礼講でいいんじゃないだろうか。

そうだ、どうせ僕の妄想の産物だし、この際もっと開放的に、生まれたままの姿になって……。
僕のテンションは上がり続ける。

けれど。


―――僕はそれまでに、気づくべきだったのだ。

あれ? おかしいな……と。


なぜいつも山咲の家に飛ぶときは、夜中なのだろう。
妄想なんだから昼間だっていいし、何ならこの家じゃなくて、お花畑だっていいはず。
なぜ忠実にその時間なのか。この家なのか。
ここは本当に、明晰夢の中なのか?……と。

けれど気づいた時にはもう手遅れだった。

後悔先に立たず。人間最期の瞬間はきっとみんな、そんな風に思うのかもしれない。

ベランダに降り立った僕を、あのピンクのネグリジェの山咲が、優しい笑顔で迎えてくれた。
スッと窓を開け、瑞々しい右手を僕に差し出して来た。

「宮川君……来て」、と。

僕は何もためらうことなくその手に誘われ、部屋に入る。

山咲の左手には、数時間前に僕が選んで買った、あの綺麗な細工のガラス瓶が握られていた。
そっと持ち上げて、僕の鼻先まで持って来る。

「また来てくれて嬉しいよ宮川君。今日こそはと思って、慌てて容器を買いに行ったんだけど、そこで宮川君に会えたのは本当に素敵な偶然だった。あなた自身がこの容器を選んでくれたんだものね。本当に素敵。さあ、ここに入って」

僕の意思で展開するはずの明晰夢なのに、僕の予想もつかないことを山咲は言う。
けれど彼女はとてもきれいで、僕は花に吸い寄せられる蝶のようにその手に舞い降りた。

《コレハ、夢ダヨネ》 僕は問う。

「残念ながら夢じゃないよ、ここにいるのは宮川君の魂。あなたがここに来たのはこれで4回目よね。幽体離脱はあなたの趣味なの? でもとても危険な趣味ね」

山咲がそう言って笑ったあと、僕の体はするんと窮屈な何かにはまり込んだ。

「知らなかったでしょ? 私、見える人なの。そしてそれを集めるのが大好き」

なにかを思う間もなく、上から蓋をきゅっと締められる。

―――僕の妄想飛行は いつの間に幽体離脱飛行になってしまったのだろうか。

思考がまとまらず、ボンヤリ霞む目を手で擦ろうとしたが、その目もないし、その手もない。

「ああやっぱり宮川君は特別きれいで透明なブルー。今までに捕まえた幽体の中で一番きれい。このガラス瓶にぴったりだわ。ずっと大事に飾っておくね。ついでに白状するけど、引越しは嘘なの。ごめんね」

僕は思考がまとまらず、ぼんやりした頭でガラス越しに部屋を見た。
山咲の勉強机の上には、いくつもの小瓶が並んでいる。

オレンジやピンクやイエロー。きっと朝日が当たると、キラキラして綺麗なんだろう。

「宮川君の趣味も、なかなか変わってるけど健全よね。わたしのはダメね。霊魂のコレクションなんて、悪趣味すぎるでしょ? だから誰にも内緒ね」

山咲は小瓶に閉じ込めた僕を覗き込んでふっと笑った。

「もう、誰にも言えないけどね」




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(雑記)南海電鉄小説コンテスト 

☆雑記・四方山話


昨日南海電鉄小説コンテストの発表があり、私の短編、『君にとどけ -Lonely whale-』が大賞をいただきました。
昨年の秋に、エブさんのほうで、このコンテスト用に書き下ろした作品でした。

『南海電鉄沿線を舞台に「愛」をテーマにした小説を募集します。』 ということで、ちょっと難しそうだなあとは思ったんですが、せっかく大阪人なんだから、頑張ってみるか……と、慣れない「愛」を描いてみました。

南海電鉄✖エブリスタ✖マイナビの協賛であり、そして特別審査員に、あのミステリー作家の有栖川有栖先生と、脚本家の今井雅子さんの名もありました。

1000~10000文字の募集だったのですが、オーバーしそうでちょっと焦りました(笑)。なんとかギリギリセーフ。
行った事の無い駅を舞台にしたので、調べ物等、とても大変でしたが、それでも楽しみながら書くことが出来ました。

賞金や副賞も嬉しいのですが、一番うれしかったのは、有栖川有栖先生の選評でした。最後に、『いい小説を読ませていただきました。』と締めくくられていて、書いて良かった……と、しみじみ思いました。今井さんの『映像化するならモノトーンもいいかも』なんて言葉も、すごく嬉しかったです。

作品はブログに移せないんですが、上のリンクのコンテストページから飛ぶことができます。
(私の作品のタイトルや表紙をクリックしていただくと、小説が読めるようになっています)

もしよかったら、先生の講評だけでもチラッと、覗いて見てやってください^^

求められるテーマで物語を書く、という事を今までほとんどやって来なかったのですが、こういう事も一つの鍛錬だな、としみじみ思いました。
これからも、いろんな機会を見つけて地道にコツコツ、書いて行こうと思います。

読んでくださって、ありがとうございました!


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(雑記・イラスト)もうすぐ春 

☆雑記・四方山話

前の更新からもう一か月。本当に時の経つのは早すぎて……( ;∀;)

ここの所、すっかりご無沙汰しています。
別のところで、締め切りのある中編を書いていまして、ようやくなんとか形になりました。

以前大海さんとお会いした時に、「初めて中編の青春ものを書くんです!」って、恥ずかしげもなく(←いや、恥ずかしさを隠しつつ)語ったんですが、何とか出来上がりました。

とある文学賞に出すっていうのに、全くのラノベ青春ファンタジーになっちゃいました。
これは絶対選外だな…と、自覚していますが、けれど今まで書いたことのないタイプのものになり、これはこれでいい経験になった気がします。

実は書いている間、とても楽しかったんです。
訳も分からず楽しくて。
(一行書いては『たのしい!』って叫ぶ始末←危ない奴)

執筆は、多くの人に楽しんでもらおうとするなら本来苦しいものであり、楽しんで書いたものにはどこか甘くて、独りよがりな部分があると、ある小説コラム(?)で読んだことがあります。
確かに、そう思います。
でも、もし、楽しんで書いたものが他の人を楽しませることができたら、それはある意味快挙なんじゃないかな……とも、思うんです。

それにしても、何がこんなに楽しかったのか……。今までにない現象でした(笑)

この作品は文学賞向きではないし、選ばれることは無いと思うので、選考が終わったらここに更新しますね。

とりあえずは、表紙絵だけ置いて行きます。
春が待ち遠しくなる、奇想天外青春ファンタジーです。(そして、がっちりミステリー(笑))



千の春表紙


***

話はガラッと変わるんですが、昨日ほくほくのニュースが^^

私の大好きなヒップホップグループ(BTS)が、4月10日スタートの坂口健太郎主演ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』(毎週火曜 後9:00)の主題歌を歌う事になったんです(*´▽`*)

ドラマはとってもシリアスでスリリングなヒューマンサスペンスだということで、それに合わせて作られたBTSの「Don’t Leave Me」も、繊細でピリつく重厚な楽曲になっているそうです。
ああもう、楽しみでたまりません (゚´Д`゚)゚。←BTSは出ないけどね。

IMG_3492.jpg

今年は私生活でも、いろんなことが重なってとても大変な年なんですが、楽しい事をガシッと拾い集めて、何とか乗り越えて行こうと思っています。(って事で、さらにミーハーな記事が増えるかも・o( ´ ^ `。)o)

ではまた~ ヽ(*´∀`*)ノ




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(イラスト・観劇)NACS本公演と大海さん 

☆雑記・四方山話

すっかりブログの方がご無沙汰になってしまいました。

皆さんの所にもあまりお邪魔できなくてすみません。今、ちょっと裏で締め切りのある中編を書いていて、そちらに時間を取られてしまって。
でも、広告を出したくないので、今日は楽しかった昨日の記事と、そして少し前に書いたイラストを置いて行こうと思います。

昨日、ブログでもおなじみの大海彩洋 さんと一緒に、NACSの舞台を観に行ってきました。
毎回ファンクラブを通してチケットを確保していたんですが、今年はそれでもチケットが取れず、悲しんでいたところ、なんと大海さんが一枚譲ってくださったんです。

ワ~イ(*ノωノ)。
もう、NACSよりも大海さんに会うのが楽しみになってしまいました

駅で待ち合わせして劇場近くのカフェで2時間半もいろんな話をしました。楽しかったです(*´ω`)
創作の話、映画や本や仕事の話。
2時間半はあっという間でした( ;∀;)

興奮して、なんかすごく恥ずかしい話もしちゃったような気がするんだけど(笑)、そこは忘れてくださいね!!(;'∀')←思い返して悶絶。
なかなか創作の話ができるリアル友達がいないので、とても有意義な時間でした。



NACS本公演

一緒に見た今回のNACSの舞台は、史実を元に作られた、とてもシリアスなものでした。
「伝えたいことがあるんです」と、誠実に、熱く、観客に語る森崎さんの声が聞こえるようで。
エンタメとは言えないこの作品を上演するのは勇気がいっただろうな、と思いますが、今のNACSだからこそできる舞台なんじゃないかな、とも感じました。
合間に挟まれる笑いが、ほっとさせてくれて、そして泣かせてくれました。

次の本公演は何年後か分かりませんが、その時はガラッと変わって、また本気のエンタに取り組んでくれるんじゃないかなあと思っています。
次回もまたピロティーしましょう!(←関西人しか分からない(笑))

そして改めまして、大海さん、ありがとうございました。またおしゃべりしたいですね(*´ω`)←もう「見て見て~」って押しの子の写真無理やり見せませんから(;'∀')

           ***

最近はイラストもなかなか描けていないんですが、少し前に依頼されて描いた表紙絵を置いて行きますね。

依頼をくださったのはエブ仲間の朱里コウさんで、角川文庫から何冊もラノベを出しているかわいい作家さんです。
絵の依頼は受けていないんですか、プロフにそう言う表示をしていなかったので、じゃあこれが最初で最後という事で……と、書かせてもらいました。(これはエブの中だけの中編小説)

人様の作品の表紙絵を描くってドキドキしますね。
未熟ではあるのですが、気に入ってもらえてよかったです。


あいの表紙字無しブログ

3月の中旬までブログに顔を出す時間が減ってしまうと思うのですが、また戻ってきますので、その時は遊んでやってください(*´∀`*)ノ


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(scriviamo!2018参加イラスト)リュックにゃんこ☆追記:2月4日 

☆妄想らくがき・企画

scriviamo.png

今年も夕さんのscriviamo!に、イラストで参加してみました!(^^)!

昨年は天使、その前は狐女。
女性がメインに入ってたのですが、今年は青年です (。>д<)
……あ、にゃんこもいますが。

何も考えずに書くと、どうしても男の子になっちゃって。(そしてパーカー多め)
ああ、何の呪縛。

書きにくいなあ~と夕さんを悩ませてはいけないと思い(なんて優しいlime)、イラストの背景を2パターン用意しました。
背景が変わるだけで、ぐっと印象が変わってきますよね♪

どちらを使ってもOKです! 夕さんの紡ぐ物語を、楽しみにしていますね(*´ω`)


リュックにゃんこ・パターン①
3リュックburogu


リュックにゃんこ・パターン②
リュックと猫burogu


※《追記:2月4日》
★八少女 夕さんの『scriviamo! 2018 』企画からの、お返し掌編
さあ、早くもscribo ergo sum の夕さんの、scriviamo!企画のお返し掌編が更新されました。

毎回私が想像していないような設定で楽しませてくださるのですが、今回も、もうその設定とキャラの性格だけでニマニマしちゃいます。男の子と、その背中のリュックの中の白猫の関係性がもうドラマ(笑)
やっぱりSSにとって、その設定は命ですね。改めて思います。
さあ、一体どんな関係性なのか。どうぞ、夕さんのところでじっくり、お楽しみください。
夕さんの掌編はこちら






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(イラスト)2018年戌年♪ 

☆イラスト・マンガ・水彩画

明けましておめでとうございます(*ノωノ)

昨年は、超スロー更新だったにも関わらず、長編にお付き合いくださって、本当にありがとうございました。
思い返せば昨年はほぼ11カ月、ずーーーっと流鬼でした!(@_@)
ああ、なんて重くて寒々しい1年だったんだ(笑) 今年はもう少し、ご機嫌な作品を書きたいぞ。

本当は流鬼をスタートさせると同時に、その続編をいろいろ模索していたのですが、結局思うようなプロットが立たず、諦めモードに入っています。
(あの長い流鬼が、その、本当に書きたい作品の、ただの前章だった……って言ったら、笑われちゃうかなあ(。-_-。))
↑そんなものに1年かけたのか><

長編を書くって、主題や帰結点をどこにするのかが、本当に難しいものだなと、昨年は改めて思いました。
流鬼は、色々課題の残る作品ですが、それでも、今までと違うものにチャレンジしたという点では、書いて無駄では無かったなと思っています。

皆さんのコメントで気づかせてもらったことも沢山あり、そう言う意味でも収穫が多かったです。
意見を寄せてくださった皆様に感謝です^^

2018年は、長編を発進するめどは立っていないのですが、エブで書いた短編をいくつか、分割して更新して行こうと思っています。本数はあまり多くないのですが、入賞した作品や、入賞しなかったけど妙に気に入っている作品も入っているので、ガッカリはさせないレベル……だと思うんです (*'‐'*)

今、拙作『電脳ウサギ――』の大幅改稿も裏でやっているので、更にブログの更新回数は減ると思うのですが、今年もゆるーい感じで、お付き合いくださるとうれしいです(*´ω`)

さて、2018年。今年は戌年。

もう、何でもありの(笑)うちの水色ネコが、ご挨拶。^^


戌年ブログ用


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流鬼 最終話 夜明け前、そしてエピローグ 

流 鬼

「おおー。和貴もあんたも、無事か?」

飛田がうっすらと目を開けると、自分を覗き込んでいた宮野老人と、その横の数人の男たちが安堵の声を漏らした。
手に猟銃を持ったその男たちに揺さぶり起こされるまで、飛田は意識を失っていたのだ。

焦げ臭い匂いにむせ返りながら、鈍く痛む頭を起こして周囲を見回した飛田は、愕然とした。
周囲一帯の木々は葉を焼き尽くされ丸坊主になり、そこにあったはずの祠は石の台座があるのみだ。自分と和貴が無事でいられたことが逆に不自然なほど、辺りは変貌していた。

「飛田さん、一体何があった。煙が上がったのを見て皆で山家事かと思って来てみたが、この周辺だけが何かに囲われたみたいに火柱が立っとって。あんな火の出方は初めて見たよ。こりゃもうそん中に居たもんは助からんだろうって皆で話しとったんだが、あんたらが無事で……」

「秋人!」
飛田は一瞬のうちに先刻のすべてを鮮烈に思い出し、宮野老人の言葉も無視して立ち上がろうとしたが、先に叫んで走り出したのは、同じく飛田の横で意識を取り戻したらしい和貴だった。

男たちを掻き分け、先ほど秋人が倒れていた祠の横に走って行く和貴を、胸がつぶれる思いで飛田は目で追う。
腕時計の時間が正確ならあれから2時間ほどしか経っていないのに、何かに意図的に沈静されたかのように火はすっかり収まっていて、すべてが遙か昔の惨劇のように思われた。

周囲を見渡したが、小菊やキヨの姿がない。健造の姿もだ。

幻。そうだ。夢か幻を見たのに違いない。秋人のあの最後もすべて。
どこか狂気じみた笑いを自分の中に感じたが、秋人の名を呼びながら、祠の土台の傍まで走って行った和貴の仕草が、それを打ち砕いた。
焼け焦げた地面を見下ろし、言葉を失い、体をこわばらせたのだ。

「おい待て。見ん方がいい」
鋭く言ってがたいの大きな男が和貴に近づき、その場から離そうと肩を掴んだが、その手を叩き落として和貴はまた立ち尽くした。

「来た時にゃあ、まだ人の形して燃えてたってぇのに、こんなわずかな時間に、人がそんなふうになっちまうもんなのかね。気味の悪りぃ話だが……。その子はあれか? 小菊んところの子だったのか」
肩に猟銃を担いだままの宮野老人が、和貴になのか、飛田になのか、そう問いかけた。

その言葉を聞きながら飛田は、すべてが終わってしまったのだと、体中の血が抜け落ちてしまうような言い知れぬ脱力感に襲われた。
どこかで痛めた足首を引きずりながら飛田は、呆然と立ち尽くす和貴の元にゆっくり歩み寄る。10メートルほどがやけに遠かった。

宮野老人の声が取り繕うように和貴に再び投げられた。
「和貴、だが安心しろ。お前の親父さんは無事だ。ついさっき若いもんに担がせて山を下ろしたから。火傷は少しあったが、なに、すぐ元気になるさ」

だが宮野老人の言葉は、じっと地面を見つめる和貴を少しも救ったとは思えなかった。
逆に、「なんも悲しむことは無い。損失は最小限だ」とでも言わんばかりの軽い声色が、飛田の中にある、何かとてつもない憤りにつながる導火線を燻らせた。

「和貴」
蒼白になり目を見開く少年の肩にそっと手を置き、飛田も足元に視線を落とした。

黒く焼け焦げた土の上には凄惨な肉体の燃え残りがあるわけでもなく、それでも先刻目にした悲劇は夢でも幻でもないのだと物語る為だけに、その悲しい名残りは、そこに有った。

まるで背を丸めて眠るおさな子のように、あの少年はただ静かに穢れの無い白い灰と化して、焦土に横たわっていた。
実体を残すことも拒絶するかのように、それは白い灰でしかなかった。

宮野老人が言ったように自然発火でこんな風に人がすっかり燃えてしまうなどとは考えられなかった。
飛田は、今すべてを受け入れることに、何の抵抗も無くなった。どんな講釈も必要ない。これが秋人の力なのだ。

ずっと押さえ込み、どんなに迫害されても他人を攻撃することをギリギリまで耐えて来た異能。
その本当の威力を、あの少年は結局、自分自身をすっかり燃やし尽くすことに使ったのだ。

「和貴……。秋人は健造さんを殺さなかったよ」

飛田の言葉で和貴は崩れ落ちるようにその場にへたり込み、まるで糸を切られた操り人形のように肩を垂れた。
けれど眼だけは見開き、その目の前の事実をじっと見つめた。

飛田が見守る先で、その手はやがて何かに導かれるように延ばされ、真っ白な灰の端に落ちていた、赤いものを摘み上げた。
秋人の足首に巻かれていた赤い組みひもだ。
真っ先に燃えてしかるべきその柔らかな紐は、信じられない事に鮮やかな色のまま、ほぼ完全な状態で残っていた。

掌の上でそっと撫でながら、和貴が声を震わせた。
「秋人……、これ……」

「和貴が夏休みにイタズラして、秋人の足に結んだんだろ? 自分がロクに結んでやったのと同じで、なんかその事が嬉しくって、ずっとつけたままにしてるんだって秋人が言ってた。赤い紐は親愛の証なんだよって―――」
言い終らぬうちにその紐を握り締め、うずくまったまま拳を焦土に叩き付け、和貴は体を震わせながら嗚咽を漏らし始めた。

子供のように手放しで悲しみを吐き出すのとは違う、自分の罪を思い知り、悔やむ、もうこれ以上底は無いと思われるほどの慟哭だった。
飛田自身も、もう立っていることさえ叶わず膝から崩れ落ち、和貴の肩を抱きながらいつの間にか自分も同じ嗚咽を漏らしていた。
悲しみを通り越し、取り返しのつかない罪への憤りに、胸がつぶれそうだった。

「じゃあやっぱり燃えちまったのは小菊んところの子供なのか。秋人って言ったな。いったいどうやったらこんな有様になっちまうんだ? 火をつけたのは秋人なのか? 祠を焼いちまったのも。なあ和貴、お前一緒にいたんだろ? いったい何をやらかしたんだ、この鬼の子は」
宮野の急いた質問攻めは飛田を極限まで苛立たせた。
立ち上がって老人の傍まで行き、声を殺しながら威圧するように懇願する。

「今はそっとしておいてやってください。和貴には親友だったんだ。説明は後で私から……。それより小菊さんとキヨさんは? 誰か下山させてくださったんですか?」
「小菊とキヨさんだって? おい、誰か見たもんはいるか?」
他の3人の男も首を横に振ったが、そのうちの一人が気色ばんで言った。

「そうか、やっぱりあの女の仕業か。小菊が全部の元凶なんだ。カラスを狂わせたのだって健造を狂わせたのだってあの女さ。祭りの前に流鬼を封印した祠を燃やして、この山まで全部燃やそうとしたんだろ」
「じゃぁあれか? 勢い余ってうっかり自分の子まで燃やしちまったってのか?」
「秋人が出来損ないだから次の子を孕んだって、うちのババアが噂聞いたらしいが、まさか本当だったのかよ」
「だから俺が言ったろ、13年周期で次の流鬼を生むために戻って来たんだってさ」
「じゃ、次の流鬼生むために喰われたのはだれだ?」
「要らねえ子供は殺して次を生むってか? ひでぇ化けもんだ」

「殺したのはあんたらだ!」

予期していなかった飛田の怒号に、その場は一瞬水を打ったように静まった。
誰もが口を開くよりも先に、ただ飛田を凝視した。

「過去にどんな言い伝えがあったって、祠で拾われただけで小さな餓鬼の戯れ言のように鬼だ何だのって、いったいあんたらは何なんだよ! 小菊さんも秋人も人間だよ。人間だったよ。少なくとも、あんたらが小菊さん達を馬鹿らしい伝説に絡めて追い詰めるまでは! 頭イカレてんのはあんたらの方だ。秋人を撃ったのは健造だが、この上夜千代の人間全部が秋人たちをここまで追い込んだんだ! あんたらが秋人を殺したんだよ!」

「よそもんが知った口きくな。小菊が今までに何人殺したと思ってんだ。ちょっと小菊をからかったってだけで十にもならん子供が頭かち割られてんだぞ。鬼じゃなければ化け物だ。それとも小菊のせいじゃないってぇのか?」

先ほど和貴を止めた浅黒い大男が泡を飛ばし、肩に掛けた猟銃がガチャリと音を立てた。

「小菊さんは確かに普通の人間にはありえない、説明の出来ない力を持っていたんだと思うよ。秋人もキヨさんもそう言ってた。だがそんなもの普通に人間らしく暮らしてりゃ表に出すことなかったろうよ。陰湿なイジメがどんどんそれを制御不能にさせてったんだろうが。まだ幼い小菊さんはそうやって身を守るしかなかったんだよ。他の方法を知らなかった。あんたらの馬鹿げた噂が一人の女性の人生を狂わせ、尊厳を奪い、とうとうその子供を殺しちまったんだ! 鬼みたいな力を持って生まれて来たことと、鬼だって事は全く関係ない!」

矢を放つような飛田の憤りに満ちた言葉にしばし男たちは言い淀んだが、宮野老人の落ち着いた声がその間合いを埋めた。

「じゃあ飛田さん。あんたの友人が昔ここで死んだのはどう見るんだい。遺体の状態から見て俺は小菊の仕業だと思ってる。何の罪もないあんたの友人が殺されたんだぞ? 殺されてカラスに食われたんだぞ。カラスはあの女の使い魔のごとく動く。村のもんがそう思い込んで警戒したって仕方ないだろう。みんな自分がかわいいんだ」

「根岸は……。僕の友人は、制裁を受けても仕方ない卑劣な事をしたんだ。あいつは―――」


その後に飛田が続けた言葉を聞き、男たちは息を呑み、しばし口を閉じた。

《飛田、俺どうしよう。とんでもないことしちまいそうで。鬼が--------》

あのメッセージも写真も、飛田に見せるつもりで用意されたものではなかったのだろう。
12~3で子を産む怪しげな鬼が存在し、自分はその魔力に抗えないのだという自分勝手なストーリーに、あの頃の根岸は酔いしれた。
根岸の撮った小菊の写真には、もうすでに性的に魅了された感が色濃く浮き出ていた。
村中に鬼として虐げられている少女だと知り根岸は都合のいい洗脳に身をゆだねたまま、卑劣な行為に走ってしまった。
確信犯なのだ。

「小菊さんにちゃんと話しをしようと思ってる。根岸のやった事も含めて。そして人として生き直してもらいたいと思ってる。そんな事をしても小菊さんの生きた苦渋の時間も、秋人も、もう帰って来やしないけど」

「そんな話を蒸し返したら、それこそ小菊に殺されるぞ」
宮野がボソリという。

「それでもいい」

飛田がグイッと顔を上げ、宮野を見た時だった。坂の下から上ってきた中年の男が青ざめた顔で告げたのだ。

「下も酷ぇ事になってたよ。由良の家の庭であんまりカラスが騒ぐから覗いてみたら……」
その場にいた誰もがその先を促す様に一斉に男を見た。

「小菊が死んでたんだ。血だらけで。うちの嫁も一緒だったんだが、ありゃぁあの場で子を産んだんだろうって」
みぞおち辺りを殴られたような不快な衝撃が飛田を襲った。

「赤ん坊は? キヨさんは?」
「家ん中も周りも探したがどこにもいやしねえ。カラスが恐ろしいほど騒ぎまくってたし、赤ん坊は食われたかもな。あたりにゃあ血やらはらわたやら散らばって、もう目も当てられん酷いありさまだったし」

「そんな……俺、探しに……」
走りだそうとした飛田の肩をグイと掴んだのは宮野老人と傍にいた別の男たちだった。

「いい。俺らが行くから。……たぶん赤ん坊もダメだろうが。小菊をそのままにしたら狂ったカラスに食われちまうかもしんねえだろ。小菊はカラス使いなんかじゃなかったようだし。……最期くらいちゃんとしてやんなきゃあな。俺ら、夜千代村のもんの手で。
飛田さん、あんたは和坊を頼む。あんたに任せるのが一番いいように思うし。……すまないが」

最後にもう一度だけ秋人の灰の横たわる焦土に無言の視線を投げ、宮野老人や男たちは山を下りて行った。

まだ僅かに煙の立つ、焼けただれた空間に残されたのは、飛田と、まだ肩を震わせてむせび泣く和貴だけだった。
弔いとも取れるその声をかき消さぬように、飛田は自分自身に問うように、小さく言葉をこぼした。

「村の創設時の伝説の鬼も、100年ほど前に居たって言う流鬼ももしかしたら、小菊さんや秋人のように少しだけ特別な力を持って生まれてしまった、普通の人間だったのかもな。人間はなんで、異端を憎んで、排除してしまうんだろう」
「鬼だから」
「……え」
問うと、泣きはらした和貴の目が、まだ涙を滴らせながら飛田を見上げた。

「人間こそが鬼なんだよ。俺も父さんもあんたの友達も村の大人も子供もみんな鬼なんだ。500年前も100年前も、今も鬼ばっかりなんだ。人間が鬼なんだよ。でも秋人は……違うのに。本当に良い奴だったのに。鬼は、俺らの方だったのに。なんで秋人が居なくなっちゃうんだ」

悲痛な嗚咽が和貴の喉の奥から絞り出され、堪え切れずに飛田はただその震える背中をしっかり抱いた。
どんな言葉を掛けることもむなしく、やり場のない憤りと悲しみが飛田を突き上げ、思わず空を見上げた。
そしてゾッとする。

今もなお夥しい数のカラス達が我が物顔で、上空を旋回しながら飛び交っていた。
まるで地上に蠢くちっぽけな人間を高みから監視しでもするように。
否。もしかするとこのカラスこそ、この台地、神の化身であり、地上の者たちの愚行をひっそり傍観し、時には黒い羽根で悪行に誘いながら、嘲笑っていたのかもしれない。

けれどもそれならそれで、カラスどもを恨むのは筋違いだった。人の愚かさが天に暴かれただけの話。

ただ、ここで自分の愚かさを悔いて泣く少年と、愛を得ようとしてもがき、その果てに幼くして消えてしまったもう一人の少年の魂だけは嗤わないでやってほしいと、飛田は願った。

「和貴……。秋人を小菊さんの所へ連れて行ってあげよう」
そう言って、まだ震える和貴の肩をなでてやると、少年は何度かしゃくりあげた後、小さく頷いた。

その手には、秋人の白い燃えがらと、鮮やかな赤い組みひもの切れ端が、慈しむようにそっと乗せられていた。


        
           ― エピローグ


全てきれいに洗い流し、衣服も着替えて来たというのに、生臭い血のにおいが消えない。
けれど単にそれは自分だけの錯覚なのかもしれない、とも思った。

現に電車の中の客は大きな布袋を提げ、髪をふり乱したままのキヨを、気にする様子もない。都会の人間の無関心は、キヨにとって何よりも好都合だった。

もうあの呪われた地には二度と戻らぬつもりでキヨは身支度を整え、とりあえず以前暮らしていた街へ向かった。
けれど、どうしても捨てていくことが出来なかった荷物が大きな布製の手提げ袋の中にまだあり、それがずしりと重い。
足元に置いた布袋をそっと覗くと、つい数時間前に小菊の腹から出てきた嬰児が穏やかな表情で眠っているのだった。

あの時、耳と肩に散弾を受けたうえ、秋人の死を目の当たりにして半分意識を失った小菊を、キヨは負ぶうようにして山を下りた。
街に住む間も、自分を阻害する他人に危害を与えてしまう小菊に、キヨは既に恐れしか無く、親としての愛情は失くしてしまっていた。
けれどあの状態のまま小菊を山に放置して行かなかったのは、破水しながら秋人の名を呼び、血を流す小菊が、ほんのわずかに不憫に思えたからだった。

自分は愛されていないのかもしれないと嘆き、愛欲しさに母の言いなりに身を差し出し抱かれ、そしてそのトチ狂った母親を守って死んだ秋人。
今ならば言ってやれるのに。お前はそれでもちゃんと母親から愛されていたのだと。最後の最後に小菊は、お前のために涙を流したんだと。
その皮肉にキヨは顔をゆがめ、苦しげに笑った。

産婆の経験のあったキヨは、家の手前の藪での出産となった小菊の子は取り上げることは出来たものの、弱り果てすでに大量に出血していた小菊を救う事は出来なかった。
小菊の弔いは集まってきたカラスどもに任せ、嬰児の身を清めて処置した後、嬰児と必要最低限の金品だけ持って、キヨは村を飛び出したのだ。

陽がすっかり沈み、半年前まで住んでいた街の駅で電車を降りたキヨは、まるで季節を飛び越えてしまったかのような寒さに身を縮めた。
半年前、あの村の須雅様の前で、今度こそ本当の強靭な流鬼を生むのだという小菊の願いに渋々賛同し、この街を去った。この街は流鬼の住むところではないと、小菊は嫌っていたのだ。
キヨにしても何の愛着も無い街であったし、もう一度あの村の連中の青ざめる顔を見るのも悪くないと思った。

結局、あの村も小菊達の存在を許さなかった。
すべてを失い、キヨはまたこの猥雑な埃っぽい街に舞い戻ることになってしまった。

少なくともこれからは自由に生きていけるという安堵を抱えて村を出たはずなのに、寒さのせいだろうか、1人で生きていく不安がぐっと胃を軋ませ、思いがけず気を滅入らせた。
住むところを探さねば。仕事もだ。なるべく早く。そう焦る毎に布袋の重みが苦痛になった。

そうだ。自分はなぜこんな厄介な荷物を大事そうにぶら下げて来たのだ。小菊と秋人の血を受け継ぐ、生粋の化け物ではないか。
小菊の力も秋人の力も、結局キヨを脅かし、行く先々で生きにくくしただけで、救ってくれるものではなかった。
全ては誤算だったのだ。化け物の力など無用の長物。
いったい自分は何をやっていたのだろう。どこで人生を間違えてしまったのだろうか。

散々歩き回り、薄着の体が冷え切った頃、頭上でバサリと音がした。
見上げると一羽のハシブトガラスが梁のように渡された鉄柱に止まり、街灯を黒羽に反射しながらキヨをじっと見下ろしている。
ハッとして周囲を見渡すと、いつの間にかそこは見知らぬ駅の高架下であり、キヨのすぐ横には古びだコインロッカーの無機質な扉が並んでいた。

―――そうだ。あの祠の扉からだったのだ。

キヨは心の中で頷き、そして布袋の中から、泣きもせず薄っすらと目を開けてキヨを見つめている嬰児を取り出した。

あの扉の中から小菊を拾ったのがそもそもの始まりだった。
ならば再びその化け物の血を扉の中に還えせばいい。それですべてが終わる。

小菊や秋人によく似た黒々とした眼から、キヨは目を反らし、木綿の生地に包まれた小さな体を、冷たいそのスチールの箱の中にそっと押し込んだ。そしてガチャリと扉を閉める。

「お前が生きたいなら生きればいい。あの時小菊が私を呼び寄せたように、心の声で誰かを呼ぶといい。そうやって生き延びることが出来たなら、それはそれで何か意味のある事なのだろうから。
私にはもう、その濃すぎる化け物の血を手元に置く気力も自信もないんだ。悪いね小菊。すべてをこの赤ん坊の力に託すよ。……恨まないでおくれよね、秋人」

コインロッカーの前から立ち去る前に、聞こえるはずの無い赤ん坊の声が小さく聞こえた気がしたが、キヨはもう二度と振り返ることもなく、街の雑踏の中に消えて行った。


     -了-



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
長い間この物語にお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
最終話は切る場所が見つからず、長くなってしまって申し訳ないです。

そして、きっとこのラストは、皆さんが期待したものではないと思うし、賛否両論あると思うのですが、私が描きたかったテーマは、拙いながらも込めることができたかもしれないと、今は思っています。(説明不足が目立つなあと、読み直して焦ってはいるのですが)

村八分に込められるような、悪しき感情って、いったい何なのか。鬼とはいったい何なのか。そんなものを思ううちに、生まれた物語です。とても地味で、とても単純な物語でした。
もっと壮大な展開に出来てたかもしれないし、それを期待する読者様もいらっしゃったようなので、そこは本当に申し訳ないのですが。

あ、途中で質問をいただいたのですが、自分の体から何度も発火したインドの少女、というのは実在します。
秋人はその記事で得た情報から生まれました。

そして、エピローグ。
私の過去作品を読まれた事のある方は、もしかしたら「あ」、と思われたのではないでしょうか。

この事件のあったのは9月30日。
そして『NOISE』の第1話が、10月1日です。 (*´ω`*) はい。

さてこの物語……、本当に鬼だったのは、誰なのでしょうね。……(゚ω゚:)

最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!

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流鬼 第29話 遅すぎた想い 

流 鬼

母親ほどの歳であるにもかかわらず、飛田は思わずキヨに声を荒げていた。
怒号に似た問いかけになったのは、その、貧相な女の口から出て来るであろう回答に、言い知れぬ恐れを抱いていたからに他ならない。

有ってはならないその推測が杞憂であることを、飛田はどこかでずっと願いながら、この数日を過ごしてきたのだ。
けれどその願いはあっけなくキヨに砕かれることとなった。

「14年前、あの男は12歳の小菊に興味を持ち、写真を撮り、翌日つけまわした揚句、この場所で小菊を襲ったのよ」

キヨはあまりにも平然と、そう言ってのけた。
訊いたのはあんたよ。そうでしょ? 言葉を失くして目を見開いた飛田に、キヨはそう言いたげな視線を投げた。

「まさか……そんな……」
飛田はやっとの思いでそれだけ絞り出したが、それに続く言葉は出て来なかった。
キヨは膝に付いた枯れ葉を払いながら、続けた。

「小菊はこの祠から拾われたってだけで、村の連中から流鬼と呼ばれていたからね。気分次第で人を喰らい、殺し、カラスの供物にする鬼。その根岸って男も流鬼の事を少しは聞きかじってたんだろうよ。小菊が流鬼だって噂を知ってた。その上で小菊に興味を持って、つけまわしてたんだ。そして、喰らった。
自分が犯すのは人間の女なんかじゃない。鬼だ。お前は人を殺めたことがある鬼なんだろう? って。実際そんなことをほざいていたらしいよ。小菊を襲いながら」

キヨの言葉は耳を覆いたくなるものだったが、それを真っ向から否定する言葉は出て来なかった。
飛田の脳裏にあったのはただ、自分の推測が当たってしまったのだという苦い衝撃だ。
思えばそれは、この村に来る前から飛田の中に生まれていた。

飛田の事務所で初めて根岸が残した小菊の写真を見た時、根岸の欲情の視線はその画角の中に鮮明に浮かび上がっていた。
もしかしたらそれは、13年前に飛田自身が撮った、小菊の写真と同じ類のものだったのかもしれない。

飛田も根岸も、同じ理由で小菊の写真を撮ったのだ。
そして根岸は実際の小菊を目の当たりにし、その衝動を抑えられなかったのだ。小菊の魅力に捕り込まれた。

考える事すら卑劣なそんな思考が飛田の中に瞬時に浮かび、慌ててかき消す。
身勝手なのは男の方だ。それなのに一瞬、その非が小菊にあるように思ってしまった自分に寒気がした。

「小菊が根岸に襲われたことを私に打ち明けたのはもう腹の子が簡単には堕ろせないところまで育ったころだったから。気付かない私も私だけど、小菊も忘れようと必死で隠したんだろうね。
その男が死んだのは自分とは関係ない、カラス達が勝手に食ったんだろうって、最初の頃ずっと言い張ってたけど、腹の子の事を打ち明けて来たとき、全部一緒に話してくれたのよ。自分が殺したって。もっと早く殺しておけば良かったって」

「……でも、……殺したって、どうやって」
飛田の問いに、キヨはフッと嘲るような笑みを漏らした。
「小菊が恐ろしい力を持って生まれた子だからに決まってるだろ」
「じゃあ」

「あの子は赤ん坊の時から癇癪を起すと周りのモノを手も使わずに飛び散らせる妙な力があったよ。最初こそ私も手を焼いたし、本当にこの子は鬼なんじゃないかと思ったけど、私が言う事は素直に聞いたし、物心つく頃にはその力も引っ込めて、よそ様に怪我を負わせたりするような事は一切なかった。
けど村の年寄りたちは、須雅神社で拾われ、人形じみた容姿の小菊の事を流鬼だと噂し、毛嫌いしたんだ。そんな噂をガキどもが放っておくわけがない。村八分ってのは知能の低い獣どもの本能だよ。異端を迫害することで自分たちを優位に立たせようとする。鬼なんてものが現代に居るか居ないかなど関係ない。奴らはただそうやって毛色の違う小菊を迫害することで団結し、楽しんだんだ。
でも、相手が悪かったよね。小菊はただのひ弱な捨て子なんかじゃなかった。私が苦労してなだめたあの力は、あっけなく自分を愚弄し攻撃する他人に向けられたよ。
殺すのなんて簡単さ。相手の脳の血管をいくつか引き裂けばいい」

眉間に皺を寄せながらも、口元に奇妙な笑みを浮かべながら喋るキヨを、飛田は今度こそ言葉を失くして凝視した。
喉はヒリヒリと痛むほど乾き、倒木のむこうの小菊や秋人の事を気にしつつも、話に聞き入り、続きを切望した。

「流鬼が復活した、子供が4人も崇り殺された。村の連中は恐れると同時に、そら見た事かって歓喜して村の外までそんなバカげた噂を流してさ。それを聞きつけて、興味本位でこの村に来たのが根岸って男さ。あれが小菊を襲ったのが14年前の今日ってのが、偶然過ぎて馬鹿らしくて反吐がでるよ。
小菊が、初めて泣きながら自分の腹を見せたのが翌年の春先だ。12歳の子に産むか堕ろすかなんて冷静な判断はできっこないよね。ちゃんとした知識もないし。
大丈夫、自分は産婆だし、産み月になったらちゃんと取り上げてやるし、その赤子はすぐに絞めて土に埋めてやるからって、言ってやったんだけどさ。小菊は次第に膨れる腹に怯え、学校にも行けず引きこもるようになった。
そこからだよ。小菊が鬼になる事を決めたのは」

―――鬼に、なる。
その言葉が意味することの残酷さに、飛田は脳天を殴られたような衝撃を覚えた。

キヨはタガが外れたように、そのまま喋りつづけた。

「流鬼って言う化け物は13年ごとに増殖し、自分の力を伝えていくんだって子供の頃に聞きかじってたもんだから、そこに何の矛盾も無くて、むしろこの流れは必然だったのよ。流鬼を封印した祠で生まれ、人を想いのままに殺める力を持ち、そして13で子を産む。あれは辱めを受けたわけではない。神薙ぎなんだ、自分は新たな流鬼を生むために男を利用し、貪り、使用済みの目障りな男は頭をかち割り、カラスに食わせてやった。そう思う事で小菊は自分を保ち、そして生まれて来る秋人を自分の血を受け継ぐ鬼だと受け入れようとした。
小菊の強情っぷりは育ての親の私でも恐ろしいくらいでね。本当に小菊は流鬼なんじゃないかって思いながら、今日まで傍で見守って来たわ。ある種の自己防衛本能何だろうけど、呆れるほど完璧な流鬼だったよ。
だけどやっぱりね。秋人を受け入れるのは難しかったみたいよ。その辺やっぱり人間は脆いね。小菊が子を産み落としてすぐに秋人の首に手を掛けたりして暴れて、なだめるのに大変だった。秋人を殺すのは簡単だったけど、そこで自分を流鬼に仕立てる小菊の欺瞞も終わってしまうでしょ。秋人は、小菊が望んでこの世に生み出した、流鬼の末裔でなけりゃならなかった」

飛田は淀みなく平然としゃべるキヨの言葉を聞きながら、なすすべもなく打ちのめされた。
信じられない話してはあったが、今この女が嘘を語っているとは微塵も思わなかった。ここにすべての真実があるのだ。
そして改めて途方に暮れる。あまりにも多くの感情や疑問や怒りが、自分の中に煮えたぎって来るのをどう処理していいか分からなかった。

数メートルほど横で健造の傍にへたり込んでいた和貴も、キヨの言葉が耳に届いたのだろう。気付くと血走った視線をこちらに向けていた。和貴が睨んだ先にいるのはキヨだったが、怒りをぶつけたい相手は他に居るように飛田には思えた。

倒木の向こうは煙幕で隠され、小菊や秋人の様子は全く分からない。
そしてこちら側は依然として炎の恐怖にさらされていた。

退路を塞ぐ炎はまるで煙のむこうの秋人たちの感情を表す様に、広がりもせず衰えもせず、こちらを伺ようにそこに留まっている。
一発触発の気配を感じたが、身動きが取れない。そして動くつもりもなかった。
まだもう少し余裕があるなら、今この時に、キヨの中にある情報を全て引き出したかった。

「秋人はどう思ってるんだ。本当の事を知ってるのか?」
キヨは話し疲れたのか、少し面倒くさそうに眉根を寄せた。

「秋人を出産したのも12歳まで育てたのもこの村じゃなかったけど、母親が鬼だってすり込まれて育ってるから、自分は神薙によって生まれたんだと信じ込んでる。小菊に恐ろしい力があるのを知ってるから、微塵も疑っちゃいないよ。
小菊自信も、早い段階ですっかり自分を洗脳して流鬼になり切ってるし、秋人にも、なぜお前には私のような能力が無いのかと罵ったこともあるよ。人を殺せるくらいの力がないと出来そこないだってね。人間にない強い力を持ってこそ価値のある流鬼だと小菊は思い込んでるから」
「でも秋人には……」

「そう。秋人には小菊とは違って、炎や熱を放つ力がある。これがいったい何の因果なのか、あるいは本当に小菊が伝説の移民の末裔なのか。その辺は調べようがないんだけどね。とにかく、小菊が流鬼なら、秋人にはまるで須雅神社の主神、カグツチのような力があった。
でも、あの子の性格なのかね。その力を必死で隠し続けて来たから小菊は気づいてもいないよ。秋人を育てた私しか知らない。秋人は鬼にはなりたくないってよく泣いてたよ。普通に人として学校に行き友達を作って大人になって仕事をして。当たり前な、普通の願いだけど、切実だったんだろう、秋人には。

実際新しい土地でも、近所で何人か小菊の仕業かもしれないと思う不審死が幾つかあったし。今までどこに行っても母親の奇行や噂に妨害されて、街の学校でもいじめられ続けてきたからね。
だからこっちに越してきた春、和貴が友達になってくれたんだって言って凄く喜んでたよ。この村を好きになりたいって言ってね。
更に強靭な流鬼を生むべく、腹には秋人の子を孕んでいたし、小菊もしばらくは大人しく引きこもって、秋人が願うように穏やかに過ごせるって思ったんだけど。
そうもいかなかったね。何の因果か、和貴は健造の息子だって言うじゃないの。運の無い子。ほんと、笑うに笑えない」

「何でだよ。何で今更そんなこと言うんだよ!」
和貴の吐き出すような怒号が飛んできた。いつの間にか仁王立ちしてキヨを睨みつけている。

「鬼だって! そう言うから俺だって父さんだって! それに父さんは本当に14年前その男と小菊の一緒にいるところを見ちゃって、それで怯えておかしくなっちゃったんだ。仕方ないじゃないか! 男が殺されて血まみれになるところ見ちゃったんだから! 仕方ないじゃないか! 今更鬼じゃないなんて、襲われた被害者だなんて言われたって!」
和貴が喉が張り裂けんばかりの勢いでキヨに叫ぶ。

けれどやはりキヨは戸惑う素振りもなく、冷笑さえ浮かべて事も無さげに言った。
「健造は全部分かってたわよ。気づかないはず無いでしょ」
「うそだ!」

「小菊は心ん中で必死に健造に助けてって言ったの。けれど健造はその男と一緒に小菊を犯したのよ。ずっと視姦しながらおっ立ててよだれ垂らして。小菊はすべてをまだ覚えてるはずよ。体が解放されて、恐怖心が怒りに代わってようく男だけは始末したけど、もう健造に構うほどの余力も気力も残っていなかったらしい」
「ウソだ!」

「あんたらはみんな都合のいいように見たものや記憶を書き換えるからね。本当の事だからこそ今まで後ろめたくて健造は誰にもこのことを言わなかったんじゃないの? その癖、小菊の恨みを買ってる事だけは認識してて、復讐を馬鹿みたいに恐れてさ。醜いッたらありゃしない。根岸を殺したのは小菊だけど、あの時小菊を鬼に変えたのは、その男と健造なのよ」

その時ゴッという音が響き、カラスが数羽、秋人たちがいるはずの祠の裏手の繁みから湧き立つように飛び立った。
今まで耐えるように佇んでいたご神木のクスノキの一部分が突如、勢いよく火柱を吹きあげたのだ。

「秋人! 小菊さん! ……なんであっち側に火が上がるんだよ。秋人は火を操れるんじゃないのか?」
飛田がキヨに詰め寄った。
「未熟だったね。制御はできなかったか」
キヨが嗤う。気でも違ったのかと爆発寸前の怒りを抱えながら、飛田は無我夢中で先ほど倒れたクヌギの方へ駆け寄った。その向こう側、クスノキの近くに二人は居るはずなのだ。密集した藪と崖に囲まれて、退路があるとは思えない。

「秋人! 小菊さんを連れてこっちへ来い! もう何も心配いらないから!」
叫びながら飛田は進もうとするが、しかし何をトチ狂ったのか、それとも守る気でいるのか、次々襲い掛かるカラスどもに阻まれて一歩も進むことができない。

「秋人! こっちに来い!」
再び叫びながら手でひたすらカラスの攻撃を防御したが、その暴徒の数は更に増えていく。

「くそっ!」そう叫び闇雲に手を振り回したタイミングで、当たった感触もないのにギャアと声を上げてカラスが弾き飛ばされた。
飛田が振り返ると、カラスを太い木の枝でめった打ちに追い払っている和貴が目に飛び込んだ。
顔は先ほどの炎で焙られ赤らんでいたが、少年の目は今初めて正気を取り戻したかのように見開かれ、ギラリと異様な光を宿していた。
そして力の限り叫ぶ。
「秋人! 秋人、大丈夫なのか? 動けないんなら待ってろ。俺、そっちに行くから!」

けれど和貴の声をかき消す勢いでカラス達は鳴きわめき、飛びかかり、祠の近くに行く人間を阻んだ。
「やめろっ、このクソガラス! お前らいったい何がしたいんだよ!」
喚き散らしながら飛田も手でカラスの攻撃を払いのけていく。飛田の手はすでにひっかき傷だらけで、視線を移すと和貴は更に腕からも額からも血を滴らせていた。

「和貴、お前はいい。俺が行くから」
そう言う端から飛びかかってきた一羽の足をひっつかみ、地面にたたき落した。その時だった。
和貴が祠の方を見ながら叫んだ。
「秋人!」

倒れた大木を乗り越え、煙幕のむこうから秋人が姿を見せたのだ。
自分と同じくらいの背格好の、身重の小菊をしっかり支えこちら側にゆっくり歩いて来る。

「ああ……。秋人。良かった」
和貴が心からの安堵の声を漏らした。カラスはまだ行く手を阻んで激しく飛び交うが、もう急ぐことは無い。飛田は全身の筋肉が弛緩し、その場にへたり込みそうになった。この2人を確保できれば、あとは何とかなる。いや、何とかして見せると思った。

カラスを払いのけながら我慢できずに秋人の元に走り出した和貴も叫んだ。
「秋人、秋人ごめん!ほんとにゴメン! 帰ろう、小菊さんも一緒に」
語尾が震えている。心なしかクスノキの炎がスッと勢いを緩めたように飛田には見えた。

小菊を支えながら、秋人がゆっくり顔を上げる。
その表情は蒼白かったが、両の目は真っ直ぐに和貴を見つめ、そして秋人もまた言葉に言い表せない安堵の表情を見せた。

―――もう大丈夫だ。そうだろう、秋人。 きっとすべて修復できる。やり直せる。ここから。
嗚咽に似た熱い塊が喉元まで込み上げ、飛田も鉛のような足をゆっくり2人の元へむけ、踏み出した。

けれどたった一発の乾いた銃声が、それらすべてを一瞬にして掻き消した。

カラスが一斉に狂ったように鳴き、視線の先にあった白い服が瞬間赤い飛沫を噴いた。
小菊を支えていたはずの少年の姿は気づいた時にはもう地にうずくまり、その横で膝を折る小菊の服や頬は鮮血に染まっていた。

和貴も飛田も刹那戦慄し固まった。直後その空間に響いたのは、狂ったように怯えて叫んだ絹を裂くような小菊の声だ。

いったい何が起きたのか瞬時に理解できぬまま動かした飛田の眼が捉えたのは、口から泡を吹きながらも仁王立ちになり、猟銃を構えている健造だった。
すでに常軌を逸していた健造の血走った眼は、狙ったはずの小菊が無傷なのを確認すると手慣れた様子で弾を充填し直し、再び構えた。
小菊は腹を押さえ、数歩その場から退いたが、銃口は小菊を捉えて離さない。

「やめろ!!」
力の限り叫んだ和貴の声は無情にも無視され、発射された散弾の一部が今度は小菊の耳を貫き、弾き飛ばした。
小菊の悲痛なうめき声があたりに響く。
「やめろ!父さん!!」
再び和貴が血を吐きそうな声で叫んだが、動くものは息子でさえ撃ち尽くす勢いの狂人に、その言葉は通じるはずも無かった。
健造はまるで何かに憑りつかれた様に尚も弾を込めていく。

けれど耳から血を流した小菊に再び銃口が向けられる前に、影が動いた。
シャツの肩から腹までを真っ赤に染めながら、信じられない余力で立ち上がった秋人が、泡を吹きながら猟銃を構えようとする男を渾身の力で睨みつけたのだ。

ボッという音と共に健造の上着が火を噴き、うめき声を上げてその屈強ながたいが地面に転がった。
放り出された銃は暴発してカラス一羽を撃ち落とし、健造の火に引火して燃え落ちて行った。

「秋人!」
飛田と和貴が再び地面に倒れ込んだ秋人の元に駆け寄ろうとしたが、今までトロトロと燃えていたかがり火が4台とも突如火柱をあげ、まるで秋人の意思のように他者を拒んだ。
ついにその火柱は龍のようにうねって須雅神社の祠に引火し、その上空を覆うクスノキの葉を燃え上がらせた。けれど、もう秋人はピクリとも動かない。

「あきと」
消え入りそうな声で泣きながら、小菊は秋人に歩み寄ろうとするが、祠からの熱風に吹き付けられ、秋人の体から数歩後退していく。
飛び出した飛田が、火の粉を浴びながらそれでも秋人に近づこうとする小菊を抱き留め、その場から一気に引き離した。飛田の中に小菊への恐怖心などもう微塵も無かった。

「和貴、小菊さんを―――」
そう言って和貴に託そうとしたが、飛田より先に和貴は秋人の元に駆け出していた。

「秋人! 秋人! 一緒に帰ろう、秋人!」
声にならない声で叫ぶが、かがり火台も祠もまるで聖域を守るかのように激しく炎を噴き上げ、そしてやがてもう動かなくなった秋人の体をゆっくりと呑み込んで行った。

「秋人!」
尚も飛び込もうとする和貴の体を飛田は胸の張り裂ける思いで抱き留めた。和貴まで死なせるわけにはいかない。

秋人の体はもう完全に炎に包まれ、どうすることもできなかった。
何度も何度も和貴が秋人の名を呼ぶ。
その声はあまりにも悲痛で、飛田自身、体の震えと怒りと悲しみで気が狂いそうだった。
自分の父親の事はもうその存在を意識から捨て去ることで最悪の制裁を下したように見えた。
その証拠に、燃えてしまっただろう健造の事を和貴は振り返りもしなかった。
あまりにも悲壮で救いの無い現実だった。

けれどただ一つ。目の奥に焼き付いた光があった。
炎に包まれる前に、横たわった秋人の頬が、僅かに微笑んだように見えたのだ。
それは錯乱して気がどこかおかしくなっていた自分の目の錯覚だったのだろうか。けれど確かにそう見えた。
小菊が秋人の名を泣きながら呼んだ、その少し後だったろうか。

この瞬間も、秋人の元へ行こうともがく和貴の体を、飛田は力づくで抑え込む。
目の前のあまりにむごい光景に目を向けることなど出来ず、自分こそこの惨劇と怒りに震えながら、飛田は和貴を組み伏せる腕に、渾身の力を込めた。

目の端で小菊に歩み寄るキヨを確認し、ひとまず安堵はしたが、息もできないほどの熱と煙が押し寄せてくる中、やはり動くことも力を抜くこともできない。
そのうち、狂ったように暴れていた和貴の体がふっと動きを止め、そしてそれは痙攣に代わった。

「ひもが……」
和貴が打ち震えながら、茫然とした声で言った。
「足に、あいつ、まだしてた……」

秋人のいたほうを振り返ったがもうそこに生前の秋人の姿を見ることはできず、飛田は力なく崩れ落ちる和貴をただ抱き留めた。

和貴は目をそらさずに見届けていたのだろう。秋人が燃えていく様を。
そしてその足首に、和貴が友への戯れとして結えた紐を見つけてしまったのだ。
友情の証だとして、秋人が外さずにずっとつけていた、赤い組み紐。

どうして今なのだろう。もっと早く、秋人たちの本当の姿を見つめることができていたら。

けれどもう何を思うのにも遅く、そして飛田の気力も限界に来ていた。
煙を吸い込んだ体は思うように動かず、震え続ける和貴の背を抱いていてやることだけで、精いっぱいだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
長い長い29話にお付き合いくださって、本当にありがとうございます。

あまりにも短い時間に、5人の人間の感情を凝縮したので、取りこぼした説明(表現)があったかもしれません。
(この部分は、今後も修正を重ねると思います(;'∀'))

今回は重要な部分でしたが、とても中途半端なところで終っています。
だから、コメント欄を閉じておこうと思います。
(拍手コメは開けておきますので、もし何か、分かりづらい所とか、疑問がありましたら、教えてください(*´ω`*))

次回が最終話になります。
エピローグと合せて更新しますので、かなり長いと思いますが、お時間のある時に、お立ち寄りくださると嬉しいです。

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